自身の筋肉に入力されるエネルギーを増幅させるという能力。得られる恩恵は、一言で言うなれば力。
能力的に限界値は存在しないが、一応自身の演算領域内で収まるレベルの出力という最高地点が存在する。ただし、それほどの出力を出したとしても先に体が異常をきたす可能性がある。
信号機を引っこ抜いたり自動車を投げ飛ばしたりするのは序の口で、掴む場所と物の強度さえあれば持てないものは理論上存在しない(ビルなどを持とうとすると先に外壁が崩壊する)。またその腕力を利用して「殴る」ことで、言葉だけでは形容し難い破壊力を直接引き起こすことも可能。
第六位は己の右手に機械義手を使っているため、人体の強度という壁を取り除いているが、合金装甲で表面を覆っても、その力に100%耐えられる訳ではない。よって、使用者が能力の出力を大幅にセーブする必要がある。
第一章 下準備を済ませましょう_Three_days_ago
1
いわゆる『0930事件』から数日が経った。
もうすぐ学園都市の創立記念日ということもあり、学園都市内のみの祝日をいかに過ごすかで街中は賑わっている。
万年休日と言わんばかりに、平日の午前にもかかわらず、第六位の烙印を持つ少年は自宅のソファに転がっていた。
「ミサカそろそろお昼作るね」
「うーい」
気だるそうに返事をしつつ。
彼は医者の言葉を思い返す。
曰く、
9月30日に起きた事件において、
その影響で一時的にネットワークの演算領域がごっそりと減っていて、不調が
異常なしとされた、魔術による攻撃だけが事件の中心ではなかったのだ。
幸い、医者はそちらについても同時に検査していたらしく、彼女の体の調子はすこぶるよかった。
だが、知らないところで彼女が危機にさらされていたというのはいただけない。
思考を巡らしていた彼だが、次の一言でかちりと意識を切り替えた。
切り替えさせられた。
「久々に卵焼きにしようかな。甘いのだったら食べてくれるんだよね?」
「焼き加減も重要だ」
「任せなさいって」
彼は不老不死であるため、生命力が体内を無限に循環している。食事も睡眠も本来は取る必要はなく、極論を言えば酸素を取り入れる必要もない。だが、そうした機能は人間として備わっているし、何かをすれば疲れるし、滅多に無いが「腹が減る」ということもある。
ものを食べると排泄の無駄が生まれるので無視しようと思った彼だが、ある日
「隣に並ぶのが白いご飯じゃなくて相変わらずホットコーヒーなのが気に食わないけど」
「コーヒーで喉を潤し、卵の甘みがコーヒーの苦さを調和する。常温に近く体にも染み渡りやすい。これ以上のモンはねぇよ。有り体に言うならば、これ以外口に入れる気はねぇ」
「褒めてんだかなんだか。ミサカすっごい微妙な心境なんですけど? いいもん、いつか『毎日ご飯を作ってくれ』って言わせてやるんだからね」
「さっさと作れよ腹減って来てんだよ」
「へーへー」
言いながらオール電化のキッチンへ入っていく
彼女が「能力で調整できるようにしたい」と言うのでわざわざ取り付けたのだ。
そんな彼女の背中が見えなくなると、彼はソファに座り直して、一つの携帯端末を取り出した。
「んじゃ……待ってる間にさっさとこっちの準備も終わらせるか」
2
暗部。
総人口230万人の一般市民には知る由もない『闇』。
そんなものが、学園都市には存在する。
例えば、特例能力者多重調整技術研究所、通称『特力研』。
「二つ以上の超能力を持つ人間を生み出せるか」という命題のもと、『
多くの子供達を犠牲に、「多重能力の実現は、脳への負荷が高すぎるため不可能」という結果が下されたのは、この特力研の研究成果によるものだ。
こんなところでも、学園都市の闇の中では生温いと言われている。
例えば、プロデュースと呼ばれる実験。
「
例えば、
例えば。
挙げれば切りが無いほどでてくる学園都市の闇が、表へと出てくることはない。
機密や漏洩、人物・団体から守るための組織が、同時に暗部にも存在するからだ。
いくつか存在する組織は、それぞれ学園都市の統括理事会の傘下であり、それぞれに思惑や指向性があり、だからこそ牽制と衝突がある。
端末とは別に携帯電話を耳に当てる第六位は、その先から流れる声に耳を傾けていた。
『そんで? 私達「アイテム」に何の用なの?いつもの電話の女は?』
「俺は情報を渡すだけだ」
『はあ、何?「情報は渡してやるから無償で働け」ってこと?』
「心配しなくても報酬は出るし、理事会傘下のお前らに、『上』とは違う思惑をぶつけるつもりもねぇ。……暗部組織の一つ、『スクール』の暗殺用スナイパー。コイツをさっくり殺害してほしい」
抑揚も感情も込めずに彼は言った。電話相手の女は「ふぅん?」と興味ありげなトーンで呟く。
「指示役がいつもと違って混乱するかもしれないが、仕事の成否はいつもの、その電話の女から聞いてくるはずだ。スナイパーの居場所については追ってメールする。今はまだ行動に出ていないが、どうやら狙いは統括理事会らしい。仕事は今日中には終わらせておけよ」
それだけを言って通話を切る。携帯電話をソファに適当に投げ、膝に置いていた端末で、用意していたメールを送信する。
(…………さて)
彼は端末の電源を落とすと同じくソファの上に放り捨て、天を仰ぐように背もたれに体重を預け。
(理事会傘下の暗部組織に『干渉』できることはわかった。重要機密だかなんだかちやほやされている影響が、ここでプラスに働くとはな)
彼は適当に選んだチャンネルのテレビを、ただ絵を見るように眺めつつ思考を続ける。
(あとは、三日後に『スクール』が動くのを待つだけ)
そして、唐突にテレビのチャンネルが切り替わった。
「うーんこの時間帯は勤勉な学生さんは学校だし、かといって教師も学校だし、やっぱろくな番組やってないね」
卵焼きとお味噌汁、白ご飯に缶コーヒーをトレイに乗せて持ってきた
別段特に見たい番組を見ていたわけでもないので、彼もテレビから意識を切り替える。
「早かったな」
「特に凝ったものでもないしね。はい」
テーブルに置いたトレイから小皿に分けた卵焼きとコーヒーを渡しつつ、
基本的に、彼の家には食事用のテーブルや椅子がないのだ。
「ン」
「午後からどうすんの?」
ソファの上から食べにくいだろうに箸を伸ばす彼は、特に考えずに即答する。
「家でゴロゴロ」
「まあそう言うと思ってたけど。かれこれ一週間近くこもりっきりじゃない?ニートになりたいの?」
「資産はあんだろ。少なくとも一般市民がこの街で人生をざっと10周するくらいはな。俺は俺で、家でしかできねぇことをやってんだよ」
「まあ確かにゴロゴロは家でしか出来ないよね」
そうじゃねぇよ……と突っ込みながら、彼は箸を皿と口に往復させていく。
学園都市の創立記念日まで、あと三日。
3
仕事を終えた暗部組織『アイテム』の面々は、いつものファミレスで今日も駄弁っていた。
平日であるためにファミレスの客は少ない。にも関わらずわざわざドリンクバーからやや遠めの席を陣取っているのはどういう意図があるか。
「浜面、私コーラね」
「超メロンソーダで」
「結局、う〜ん」
「南南西から……ミルクティー」
「全員バラバラにすんのやめてくれません? てかフレンダは決まってから言えよ!」
後輩イジメに他ならない。
(どうしてこうなっちまった……ッ!!)
浜面仕上は午後の二時ごろという微妙な時間に呼び出された。
どうやら彼の知らないところで仕事を終えてきたらしく、『アイテム』のリーダーらしい麦野に「とりあえずドリンクバー係ね」と言われたのだ。よって彼は6人がけのテーブルの廊下側で、十数分毎に席を立つことを余儀無くされていた。
「結局、下っ端の浜面に拒否権なんてないわけよ」
「一度行ってきてフレンダが決まったら、また超往復すればいいじゃないですか」
(くそっ、こいつらに俺の効率性なんて気にかける心遣いがあるはずが無かった!!)
浜面仕上の受難は続く!
冴えた頭で通勤時間中にすらすらと3000文字程度。
例によって暗躍派ですね