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Column:
機械義手
『
本来義手というものは目立ち、注目を浴びるのを避けるために出来るだけ本物の腕にそっくりな構造にすることが多いが、この機械義手は骨にあたる黒いフレームと、皮にあたる銀色の金属装甲によって構成されている。
電気信号を処理し、人工神経を接続することで、本物の腕と相違ない稼動領域を誇るが、重量は生身よりも明らかに重く、常に右側が重い状態となるためバランスを取るには慣れが必要。
大きく分けて、機械化した上半身右側に接続する肩パーツと、二の腕から先の腕パーツに分割可能で、後者のパーツについては大量生産した使い捨てのもの。コストはお高い。
『
ただし、無茶をすれば普通に壊れてしまう。
肘関節の軸パーツが構造上の欠陥となっており、修正するために新たな義手の設計図も製作中らしい。
どうでもいい実験の一つを片手を犠牲にしてクリアしたあと、手元の機械義手が少なくなってきたので予備を受け取りにカエルみてぇな面をした医者のもとを訪ねようとしていた道中。
ゴミ溜めの周りにヤケに
手術服か何かが破れたのか、破れたカーテンみてぇなものを巻きつけてるだけなのか。それすらも判断が難しい、服とも形容できないような布切れを体に纏って倒れている少女。
それに群がるゴミ虫。
ああ今日も
気が付きゃそいつらを肉塊に変えていた。
懐から予備の義手を出してまで奴らを粉砕していた。
銀色の無機質な右腕は、構造的に弱い肘の部分が破損して関節が垂れて、神経系の接続が絶たれていた。
実験での破損を含めても、一日に二本も義手をダメにしたのは初めてだった。
それぐらい殴った。
殴って、殴って、殴ったんだろう。
肉塊は息を吸って吐くことも忘れてしまった。
路地裏の
実験のイライラをチンピラにぶつけようとした訳でもねぇ。
無様に這いつくばってるガキに同情した訳でもねぇ。
ただ、
「なんの、つもり?」
ゴミに
期待と、不安と、絶望とが混じったような表情だった。
資料では知っていたし、第一次量産計画が頓挫して、余りモンが第一位の喰い物になっていることも知っていた。
今更こんな死にかけを救ったって、第一位に残らず殺されるだけ。
「……さぁな」
「は、ぁ?」
「別にヒーローが駆けつけて来たって訳じゃねぇ。お前はどうせ、別の誰かに殺されるんだろう」
だというのに、どうして助けたのか。
「はは……。残念だけど、ミサカはもう見捨てられた個体だから」
「見捨てられた?」
「
少女は言った。
「……、」
「
地べたに這いつくばっているくせに、そいつはよく喋った。
聞いてみると、彼女は
捨てられたのだから、ご丁寧に「殺す」という形で処理されることすらない。
それを聞いても心は揺れ動かない。
はずだった。
「……ぇ?」
気がつけば。
唯一動く左手を彼女に差し伸べていた。
少女は一瞬だけ目を見開くも、次には地面に突っ伏したまま自虐的に笑った。
「ははん。ここじゃ汚いから、ホテルにでも連れ込もうって? ミサカ体力ないから楽しめないと思、」
バカみたいなことを言うガキの手を無理矢理引っ張った。
体重は驚くほど軽かった。
手首の骨が外れるんじゃないかというくらいに華奢で細かった。
あとで聞いた話によれば、受信だけ可能なネットワークから最低限の知識を駆使し、公園の水道で水分を補給し、ゴミの中から微量の食料を得て食いつないで、とうとう限界に達し、このゴミ溜めでぶっ倒れたらしい。
痩せ細っていて当然だ。
有無を言わさず家に連れて帰り、シャワーを浴びせ、それからレストランでたらふく飯を食わせた。
「あなた、なんて名前なの?」
「……テュール」
「へんな名前」
「お互い様だ」
「まあいいや。ミサカ、あなたのことは勝手にあなたって呼ぶよ。なんか名前呼びにくいし」
「……
「……えへへ」
路地裏の闇など似合わない彼女は明るく笑った。
思えば。
人の笑顔を見たのは、果たして何年ぶりだったか。
思えば。
いつから、この笑顔を守りたくなったのか。
* * *
生体認証完了。接続を確認。
議論を始めましょう、アレイスター様。
学園都市第六位と
『プラン』の正式稼働を開始します。
『
第六位の行動一致率は現時点で99.2%。介入の必要はありません。
FROM:“UNDER_LINE”
今回の行間は二人の出会いです。
他にも実験ネタとかが幾つかありますが、また話が進んだら書こうと思います。
本作での行間というものはだいたいこんな感じです。