足元に、闇が拡がっていた。
いや、もしくは光なのかもしれない。
昼も夜もない、光も闇もない。
天も地もない。ただの空間。
空気もない、温度もない。
だけど、俺はここに存在している。
俺がここにやってきたのは、全知全能の存在……いわば、神というやつに送られて来たからだ。
平凡な高校生として、日本でそれなりに楽しい生活を送っていた俺だったが、どうしてこうなったのやら。
神によると、線路に飛び出した子どもを救って自分は轢かれちまったんだとか。
そこで、天界に送られた俺の霊魂は神に言われたんだ。
「君、異世界で冒険者やってみない?」
まあ、そんなファンタジー全開な展開を目の当たりにして、断る男子高校生なんていないわけで。
例に漏れず、俺も首を縦に振ったんだ。
それから神がなんとかいう呪文を唱えると、俺の霊魂は眩い光に包まれて。
気がついたら、こんな何もない世界に存在していた……というわけだ。
「いや、世界無いじゃん」
突っ込まざるを得なかった。
こういうのって普通あれだろ? 異世界で魔王が悪の限りを尽くしてて、そこを勇者となった俺が現代日本の知恵で救っていくっていう……。
なのにこれ、救うべき世界がない。
冒険者もなにも、冒険する場所がない。
右も左もない。
テレビもない。ラジオもない。
そうやってどうしようもないこの状況に途方に暮れて、東京への憧れを歌に込めようとしていたときだった。
『お主、聴こえるー?』
どこからともなく、声がする。
「だ、誰だ!」
『わしじゃ』
「だから誰だ!」
反射的に突っ込んでしまった。
うん、わかってるよ?
このしゃがれた低音ボイスといい、唐突に聞こえた声といい、あんまり使わない一人称といい。
『ほっほっほ、すまんな。神じゃ』
だろうな。
「おい爺さん、ここ、世界ないんだけど」
ならば、この神と喋れるチャンスを無駄にするわけにはいかない。
文句たれてやる。
『あー、それなんだけどぉ』
なんだか腹の立つ口調で神が答える。
『お主違うとこ送っちゃったわ! てへっ』
「おいふざけんな出てこいシバく」
『待って待ってお主はやまらないでお主』
この状態の俺にシバけるはずもないのに焦る神。なんだこのおっさん。
俺がそんな適当な神に驚き呆れていると。
『で、悪いことしちゃったから、お主をその世界の神にするわ!』
「……はい?」
なんて、神が咳払いをしてから適当に俺を神に任命してきた。
「いやいやいや」
それを聞いた俺、すかさず首を横に振る。
「そういうのいいから、神とかそういうの。ほら、神とかいいからさ、俺をもと送るはずだった異世界に飛ばしてくれよ!」
そうだ。俺は神なんかになりたいんじゃない。
剣を握って、杖を握って。
仲間たちと切磋琢磨しながら、魔王の暴政に震える民を救いたいんだ!
拳を握るような気持ちで熱弁する俺。
実体がないから実際には拳を握ることなんて出来ないが、その熱意だけは伝わったはず。
それなのに。
『あー、その……だから、ごめんね?』
「ごめんって思うならもとの異世界に……」
『えーっと、あの……だから……。ごめんね、わし、お主移せない』
……は?
今、なんて?
『わし、お主移せない』
「……はぁっ!? なんで!」
意味が分からない。
それじゃ、俺はこのまま……。
『いやぁ、今お主がいるそこってさぁー、神も手つけてなかったとこなのよ。わしそこに対して何もしてないから、どうしたらいいかわかんねっ』
「おいふざけんな出てこいシバく。絶対にシバく」
『……ってことでー、よろしくっ!』
それじゃあ、このまま俺は……この世界の、神になるってこと!?