『崩壊した巨大空母
オレはそこで目覚めた。
そしてオレは知る。
コンクリートって……
食べられるんだなぁ……。』
……? なんだ……?
ここはどこだ あれ? なんでこんな所にいるんだ さっきまでオレは……。
さっきまで……何していたっけ 思い出せない。家にいたっけ いや、仕事に行っていて、学校に遅刻しそうででも病院にいかなきゃで……。
いやおかしい。何を考えている、何かおかしいぞ。オレは社会人……学生? 病院へ仕事で、あれ? わけが分からない。
自分は小学生……中学生……いや、社会人か? なんだか頭がぐるぐるしているぞ。落ち着け、落ち着くんだ。
まずオレは、社会人だったような……。職業はゲームプログラマ…だったが、退職して今は製本会社で勤務している。でもさっきまで何をしていたかは思い出せない。
今何時だ?時計、時計、そうだケータイは……。
「ウヲッ!!?」
なんだこれ!! 腕!? オ……オレの腕が……なんだこれはぁ!!!
刃! 刃物だッッ、指が無ッ!!! 包丁かこれは!
全身おかしい! 青い! 青いぞ、それに光る筋が体を走っている!しかしこの青い腕は動く! 被り物をしている感触じゃあない! まさか、これは、バカな……オレの体が……オレの体が化け物になっちまってる!!?
ひとしきり驚いても、それでもまだ体の異変に戸惑っている。
腕からは何本ものオレンジ色の短い棒が出ている。注射器を豪快に埋め込みました という具合に。
靴を履いているかと思ったが、これは足そのものだった。
メタリックな銀靴かと持ったら脱げやしない。というか履いていない。つまり自分は裸足という事になるらしい。
しかも髪の毛がすごく伸びている。足元まで伸びているが、これは髪なのだろうか。硬いし板のようにまとまりすぎだ…ていうかこれ板が何枚も生えているんじゃないのか!? 髪が板のように固まる整髪量なんて無い。
当然髪も青かった。世界が嫉妬しない髪だ。
夢だよな。オレは夢を見ているんだ。そうだろう。
「ヲォォォ……。ウヲルッ!!?」
なんだこの声は! オレの声じゃあない むしろ人間の声でもない 工場のダクト音みたいだったぞ。
オレはいったい何があったんだ 夢にしてはリアルすぎるぞ……。
この体の感触! 足元のヒビ割れたコンクリート! 青い空に広い海! 海風が心地いいくらいに感じる
……海!? なんで海がこんなに近いんだ!? 夢だから不思議じゃないけど、この広さと匂いは湖じゃない 海だ!
しかもここは道路かと思ったらそもそも何か違う。周りにある機械に廃材らしき物体……足元の削られ消えかけの白線……大穴に目の前に見える断層……これは……
光景は記憶を呼び起こす……ある名前が、頭に フッと 浮かんだ
まるで欠けたパズルのピースが偶然埋められたかの感覚。
誰かが囁いてくれた感覚。しかし、それは強い確信を与えてくれた。
あ……ああ……そうだ 思い出したぞ……。
オレは何年も前にゲーム総合会社に所属してて……そこで製作していたんだ。
そのゲームのステージマップの製作班で……このステージにも関わっていた……。
名前はそう
『愚者の空母』
そうだ。確かにそうだ。
じゃあまさかここは……ゴッドイーターの……!!!
なんて夢だ。オレは、もう退職した会社のゲームの世界を見ているとは。
でも……でもなんだか感慨深いなぁ。もし技術がすすんでゲームの世界に入れるんだったら、こんな感じになっていたのかと考える。
あの折れた電信柱とか思い出すなあ、荒廃した世界観を出すためにけっこう細かく作ったんだよな。
こうやって見ると、崩壊した空母と海……そして空に雲のコントラストがマッチしていて……滅びの文明と変わらない自然が絶妙にせめぎあっていて……美しくて……泣けてきそうだ。
苦労したもんなぁ 皆で作っていて だんだん完成に近づいていってさ
風の音を流して鑑賞したときは思わず没入しちゃったよ、あの時は。
「フォー……。」
そうやってしみじみとしていると、落ち着いてきた。
結局とてもリアルな夢をみているんだと、結論が出たからだ。
この体も、きっとその影響だ。うんうん、明らかに人間じゃあないからこの世界と照らし合わせると
アラガミだ。
そう考えたら分かる。そりゃあ人間の体じゃあないよ。しかし何のアラガミだっけこのフォルムは。
思い出してみよう 確かGODEATERは、人間とアラガミが戦う狩りゲーだったな。
文明がほぼ滅びた世界に闊歩するアラガミは白熊よりもずっとデカく、銃やミサイルもロクに効かない化け物だ。
その化け物に人間も動物も植物も、喰い殺されまくっている世界だ。
しかし喰われてばかりではない。それに対抗するカウンター組織こそが
『フェンリル』
そして兵士たちは、半分アラガミの人間
『神機使い』通称:ゴッドイーター
そうだ、主人公はこの神機を使ってアラガミを倒し、そしてヒトの策略を突破しつつ、世界を救う……という話だったような……気がする。
もうずっと前にテストプレイで参加していた以来だからか、細かいところは覚えちゃいないが、こういうゲームだったはずだ。
夢かぁ、夢なら仕方がない。この世界を観光してみよう。
そのうち目を覚ますだろうし 何もせず目覚めるのも芸の無い話だ。ふふふ、しかしアラガミか いつだって倒されてやられる役目になっちゃうとは
でも面白そうだ。テストプレイ時はよーくボッコボコにされたなあ。アラガミに。
でも倒して報酬を手に入れたりして楽しかったよ。あの時は、コンゴウやらサリエルやら……その辺のアラガミにも苦戦していたっけ。
クリアしたよなオレ。エンディングまで行ったような気がするけど……何せ納期もあって忙しかったからストーリーをゆっくりとはできなかったな。
なんだろう、あの頃を思い出して……良い思い出だけを……。
思い出……思い出……あれ?
オレ……名前……なんだっけ。
おかしい 思い出せない。苗字は……名前は……何だ? ええ? 何だっけオイ。今更ながら名前思い出せないぞこれ。
そういえば夢だとしてもなんでこんなに記憶に穴があるんだ?
そのくせこのゲームの事は少し覚えている。おかしいな。
しかし唐突に逡巡は強制終了となる。
オレは唸り声と嫌な息遣いを聞いてしまった。
「グルルルル……ハァーハァー……!」
犬!? いや、こんな凶悪な唸り声じゃあない。熊か!?
はたしてそれはなんだったのか。
答えは目の前に現れた。いや、落ちてきたのだ! 目の前に! 上から!
「グラララォアアアアアアン!!!」
「ウヲァ!!」
(オウガテイルゥ!?)
驚愕したなんてものじゃあない。心臓がボンと飛び出たかと錯覚した。
デカいっ! 大型犬じゃあない!テレビでみたベンガル虎か!?
この姿はたしかに覚えがある 覚えがあるが 等身大を目の前で見たのは初めてだ! しかも大口開けて威嚇された事なんて無い!
殺ッ!!!この気配は間違いなく殺意というものだ! ガキの頃野良犬に唸られた時の恐怖をもしのぐ!圧倒的に! まったく比べ物にならんッ!
こ……こんな迫力オレは知らない ゴッドイーターの世界ではザコ敵のはずだ しかし人間がライフル銃を持ったくらいでは、なすすべもなく喰い殺される強さを持つ凶獣!!
冷蔵庫みたいにでかい頭と白色! 人間の胴体を噛み千切れる鋭すぎる牙達!尾は幅広の剣だ!丸太ですら断ち切りかねない!
「ァ……ヲ……」
超危険信号発生。オレはさびれた機械みたいな声をだしていた。
喰われる 間違いなく。
オレは猟師でもないしゴッドイーターたちでもない。対抗できない。逃げるか? 逃げ切れるのかこの獣から。一瞬考えるも既に遅かった。
「グワァァン!!!」
白き凶獣 オウガテイルが飛び掛ってきた! 目測三メートルの距離だったがもう目の前に来た!
「ァアアアアアアアアァァアァア!!!!!」
叫びつつもオレはとっさに両手を前に突き出した ただの反射行動だった。だがそれが良かったのだ!
ザクゥっと深く刺さる音がした なんと両手の刃物がオウガテイルの顔面に突き刺さっていた! そうだった いまオレは両手が刃物になっていたんだった。結構深く刺さっているのに全然元気だ。普通の獣なら死にかねないぞ。
それでもオレは必死だ。あわてて右手を引き抜く。左手は刺さったままだ。
「ウヲアアアア!!」
右手の刺突を繰り返す 何度もオウガテイルの頭に刺す。なかなかに切れ味は良い。もうこうなったら逃げられない! やるしかない!
この腕はとても柔軟だ! 力がよく伝わるし関節が無いみたいだ。その時オウガテイルの叫びが響く
「ギャア!!!」
痛ッ!!
オウガテイルから太い棘が飛んできた!何本もだ 気がついたときは全身に刺さっていた 突然出てきたぞ どこだ 尻尾か!?
尻尾から棘を飛ばす飛び技 オウガテイルのもつ兵器 そうか しまった やられたのか。
吹き飛ばされてコンクリートに背中を擦り、背後の廃材に頭を打ち止まる。
それでもまだオレは生きていた。しかも立てる 信じられんくらいに丈夫だ。人間なら即死だった。間違いなく。
なんだろうかこの感覚は。
今確かに死にそうな目に逢いながらも、痛みを体前面に感じながらも、まだ助かる気がする。恐怖は先ほどより減った。動く。体はまだ動く。
これなら逃げられるか? いや、間違いなく追いつかれる。すでにオウガテイルは走ってきているからだ!
そのオウガテイルは傷つきながらもまた走ってきた! オレを喰うつもりだ!
棘に刺され吹き飛んだアラガミ、しかもそいつは自分とくらべてそう大きさに違いはない ならば喰える! 餌にしてやる
その気迫を持つオウガテイルはあとわずか2メートルの距離まで迫っていた
だがいける!確信にも近い予感が体を奔り、すかさずオレは左手を前に突き出した!
左の先に力が伝わっていく この感覚を覚えたとき、左手が淡い赤色の光を出した!
その左刃は、オウガテイルの頭を前から突き刺して、グンと伸びていく! 貫く一撃だ
3メートルは伸びただろうか。オウガテイルの動きが段々と静かになってゆく……。
いや待て 伸びたぞ今。
左腕が、しかも先端が光ったしあっさりと頭を貫いたし。
そのまま今起きた事を話すとなるとこんなところだろうか。子供の報告じゃないんだぞコレ。
ズリュリと左腕を引き抜き、光が収まっているのを確認する。オウガテイルの体躯が地面に落ちる……。
確かに殺した。オウガテイルの口内を焼き貫き、頭骨と内部の臓を壊して、また頭骨を割って空中に手が触れる感覚。
夢にしてはリアルすぎる。オレはねずみも殺した事は無かったのに。
なのに罪悪感は……無い……?
無いわけないだろ、いくらなんでも。コイツは確かに凶暴で喰われそうだったけど、でも、こう何か思うべきことはあるだろうに…。大事件だぞ、デカい動物を殺すなんて。
そもそもゲームにはここまでリアルにプログラミングされていなかったはず。しかし……これは……
そこまで考えていたが、その時気気付く。痛い。そういえば体は傷だらけだった。
救急車なんて呼べないし、ゲームなら回復アイテムの「回復錠」というのがある。
しかしここには無い。ほっとくわけにも行かないが治療はできない。
いや待てよ。たしかアラガミは「何でも食べる」が特性だった……。
そして、傷を癒すというヤツらだ。
予感がした。目の前に居るオウガテイル。この死体を見て嫌悪感が出ない。まさかオレは、コレを喰えると思っているのか?
生で!? 馬刺しじゃないんだぞ しかし……痛い 体は痛い。
もし漫画の世界のモンスターを調理したらうまいかもしれないなんて、考えた事はあったが、さすがに生では食べないだろう。美食冒険漫画でも天才料理人が料理して、うんめェぇ〜ってしてたしな。しかしオレがアラガミならば、別に生で食っても美味く感じるのかもしれない。
案外イケたり? しかしこれ……寄生虫とか大丈夫か? 感染症とか 菌とか 野生にも程があるくらい野生だから何か持ってそうなんだよなあ
しかも骨や血や肉も飛び出ているよこれ でも感覚的にはそこまで気持ち悪くない気がする。
だがこれは夢だ。問題ないだろう。いつか読んだサバイバル漫画だと、主人公はミミズを これはうどんだ 俺はうどんを食べるんだ と頑張って食べていた。そうだ、サバイバルするハメになった時の予行演習と思って食べてみようか。
そもそもアラガミなら寄生虫も消化するだろう、なんでも喰うから、だがら、問題ないはずだ いくぞ、いくぞ!!
オウガテイルの腕を刺す。フォークでありナイフだなこの手は。そしてオレは口を開けて……
喰えない いや 口がない。
オレに 口が存在していない! まるで仮面のように口の部分がのっぺりとしている。嘘でしょ。どうやって呼吸してたの? いやでもさっき声……というか鳴き声出してたよな。
以前本で読んだことがあるが一部の生物には口以外の発声器官があるものがいるというが、まさかそういうことか?
じゃあ……どうやって喰うんだ……? 飢えるぞこのままじゃ……。
なんて深刻に考えていると、口の部分から頬に逆への字とひび割れていった。
ピシピシピシ……バギャッと鳴り 口が出来た。
えぇ……? こうやって口を開くのかよ なんなんだこのアラガミは。 でも顎は動くし、うん、噛めそうだ。
よし喰おう。もう。なんだか悩むのが馬鹿らしくなってきた。もう喰っちゃおう。
オウガテイルの左上腕部に噛み付き、かじってみた。
バリュという肉のちぎれる音のあと、咀嚼してみる
美味い……。
美味いぞ! なんだこの味は。思い出しそうだ。昔何かでたべた動物の肉に近いかもしれない! イケるじゃあないか!
顎も強化されているから問題ない! 骨も食える! 血と絡み合ってジューシーってヤツだ!トレビアンだ!グレートだよ!
よし他の部位も喰ってみよう! もうこうなったら楽しむぞ! こんな経験どうせ無いんだから!
そうしていろいろと齧っていると気づく。オウガテイルの首後ろ辺りに「玉」のようなものがある事に。それは心臓以上に生命の源といった張りがあった。 これだ。これこそがコイツのいちばん美味いところだ
オレはその気配を疑わず口に入れた。
……美味し……オウガテイル美味し。
命をそのまま食べるってきっとこういうことだろう。他に何も言う事がない。これだ これこそが食べるということなんだ。
祝福の余韻にひたっている中、オウガテイルの体が朽ちていった。尋常じゃない速度で
なんだと!? 崩れていったぞコイツ! しかしハッと思い出す。
そういえばゲームでも倒した敵はしばらくしたら消えていったなと。
なぜか。
オラクル細胞
アラガミの体を作る細胞である。この細胞は驚異的な速度で進化してアラガミという化け物を構成した。つまりアラガミとはオラクル細胞の塊なのである。その超進化細胞の群体はアラガミになる際、「コア」を形成する。
このコアこそがアラガミを動かすもとであり生命維持器官なのだ。
つまりアラガミを殺す事は、コアを破壊、摘出するという事なのだ。
冷静に思い出すと、確かそうだった。
そしてコアを失ったアラガミは体を維持できず崩れて朽ちるのみ。
内容をもっとしっかり覚えておくんだったなぁ。
食事も終わり口は元の、のっぺりへと戻る。すごい。
体も治っていた。そういえば喰ってる時から傷が癒されていて、軽い快感があったなぁ。美味い飯を喰って感動で服が弾けて空に昇る感覚ってあんなのなんかな。
じゃあ食事もしたし、散策でもしようかな。アラガミに出会わないようにコッソリとね。
ああそうだ。どうせゴッドイーターの世界なら他のキャラとかに会わないかなぁ アリサとか会ってみたいしリンドウさんともハナシしたいなあ……。
さて、とりあえずこの断層も……あらよっと!
ガシャンと銀色の金属足が地面を掴む。ほらジャンプできた。2メートルは軽く超えているなこの断層。でもアラガミの体なら問題ナシ。便利。
そして目の前に広がる崩壊した道や崩れた車。そして広い。とても広いのだ。道も、海も、空も、遠くに見えるビルも!風も!邪魔するものがなく気持ちよく吹いている!
全てが新しい感動を与えてくれる!
なんだかワクワクしてきたぞ……そして少し前に進んだ時、気付いた。
あれ? ちょっと浮いてない? ふよふよと浮いてないかオレ。すっげ浮けるんだなこの体。すげえなぁ……。なんか楽しくなってきたなこの夢。
ははは……そうだな! どうせそのうち覚めるんだし、こうなったら楽しもう この夢を!
『この時はまだそう思っていた。のんきにも。
しかし後にオレは知る事になる。これが夢じゃないという事を。
そしてオレは……オレのアラガミとしての名は……。
第一種接触禁忌種:ツクヨミ
という事を。
ただし……まだまだ初心者マーク、レベル1程度の生まれたばかりだったが……。』
「なんでしょうか今のビーコンの反応は。愚者の空母から未知の反応がありましたがまた消えましたね。……サカキ博士に確認してもらいましょうか。……もしかして、新種ですかね……?
だとしたら……。」
自分が読みたいシチュエーションの小説が無い? ならば我が手で作るのみよ!
ーーノムリッシュ聖典 第四章第二節
飢えた野獣は眠らない より抜粋
ちなみにツクヨミは、バースト時代にダウンロードコンテンツで配信されました。すっげえかっこよかった(小学生並みの感想)