空は広い 電柱も電線も無くなった空はとても広いのだ。
視界いっぱいに映る空。電線の無い純粋な青色と白色の絶妙な混ざり合いは、都会に住んでいると意外と見られなかったりするものだ。
そして崩れ落ちたビルや剥がれた壁、大きくヒビの入ったコンクリート道路は、滅びかけ大きく後退した人類の悲哀を感じさせる。
それでも空は変わらず美しく、そしてそれが哀しさを感じさせてくれる。
オレは愚者の空母を後にしてあてもなく歩いた。いや、少し浮きながら歩いたのだ。どこに行こうなどとの目的は無かった。
それはそうだ。ゲームの頃は各ステージは選択して勝手に到着するからこそ、道中はどうなっているか知らない。
もっと言うと、どの道をどう行けばどこにたどり着くかは知らないからだ。
そこまでオレ達は作っていない。設定上の地図はあったが、正直それを作ったのはオレではなかったので覚えていない……。というか、本当にそれ通りこの世界は再現されているのだろうか。
つまり早い話が、いきあたりばったりにさまよっている。
迷子か? 迷子だなこれは。現在位置が良く分からない。荒廃した町なのは分かるが、郊外だとは思う。高層物が少ない気がする。
人気の無い民家が多いためおそらくそうだろう。
これといった目印となる建造物が無いが空母からまあ近いのでおそらく軍港地帯かなとは思う。
人間が見当たらないため、もう使われていない町だ。好きなだけ秘密基地やアジトごっこができるが、アウトローな人間も居ないため、きっとアラガミが定期的に出るのだろう。
食料が乏しくても人がいないという事はそういうことだ。
じゃあアラガミ狩れるじゃん! なわけないだろう。
つまりそれは味方がいないわけだ。夢でも体が痛みを感じるなら、戦闘は正直あまりしたくは無い。
死ぬのって怖い。死んだら目が覚めるんだろうか。でもさっきのオウガテイル一匹と相対しただけでも恐怖はあったし下手したら喰われていた。
犬に噛まれるのではなく、齧られて骨も砕かれて死ぬまで感じたことの無い激痛に苛まれる可能性があるなら試したくは無い。正直怖い。
今までそんな目に逢うなんて、日本で暮らしていたらまず大多数の人間は心配しないだろう。
オレもそうだ。飼い犬に手を噛まれるなんてレベルじゃあないはずだ。
そう考えると、いっちょ死んでみっか! なんてチャレンジ精神は起こらない。
なんでこんな事を考えているか。
いきなりコクーンメイデンが地面から生えてきたらそう思う。
ゴヴォッと隆起したコンクリと跳ねた土から人間大のサナギ野郎がコンニチハしたら、まずフリーズする。オレだ。
これは偶然現れたんじゃあない。なぜなら、そいつはオレの方向を向いていて、クチチチ……と濡れた肉骨が擦れる音を静かに発していた。
つまり明らかにオレを狙っている。
喰う気だ!! もう分かる! 言葉はなくとも直感はある! こいつはオレを殺して喰う!
つまり逃げるか戦うしかない!!!
覚悟をしてから相対したのではない! だからこそ先述の考えがとっさによぎったのだ!
「ヲッ!」
(なッ! 何ッ)
その初動の差が致命的だった
槍のようにぶっといトゲを、コクーンメイデンは胸から何本も飛び出しやがった。立体扇状にだ。避けられるか!
速い 人間なら一瞬で死ぬ! まさにアイアンメイデン(処刑鉄処女)を不意打ちでくらったヤツの気分だ。
そんなありえない事象が今起こったのだ。被害者はオレ。
痛!!! これすごく痛い! 死んでないけど気絶したい!
「ア”ッ”!」
(痛ッ!!!!)
予防接種ごときの注射が嫌で保健室から泣いて逃げたんだぞオレは!!!
小学生のときから敵前逃亡野郎のオレが、こんな槍で体を何箇所も削られるなんて想定外だ!!!
本当にいらん事は覚えてるなオレは!なんでそんな嫌な黒色の歴史を思い出したんだよ 体の傷に合わせて心の傷で追い討ちかけるな。流石にキツイぞ。
しかし不意打ち騙し討ち当たり前なこの世界はそれが正解なのだった。のんきすぎるなとマジに反省した。
逃げるか!?戦略的撤退してみるか!? 否!!! 無理だ!!
後ろにもいやがる 二匹目のコクーンメイデンが!!!
挟まれた!! だがしかし、まだ運命はオレを見捨ててはいなかった。
刺されて飛ばされたオレがとっさにとった不恰好な受身は、両手足を地面にたたきつけた。そのまま立ち上がるつもりだったが、それだけではすまなかった。
飛んだのだ。グンと体を強靭なバネで弾かれたかの如く上空へ!
全力の立ち上がりはオレを空へと押し上げてくれた。このアラガミの体の恩恵か……人間のときとは違う身体能力だ。コクーンメイデンどもの上を取った俺は、とっさに右手(刃)を地面へと伸ばした!
グンと伸びた右手は、後ろにいたコクーンメイデンの顔面に直撃し斬り裂いた!!
当たった! 当たったぞ!! 痛いかコラ オレは痛かったぞ
「ウヲアッ!!」
そのまま体を廻し華麗に着地!!
という名前のおぼつかない着地! 競技なら減点!
かっこよく決めたいが無理 だが一匹に致命的なダメージを与えたぞ。 この距離なら最初トゲをご馳走してくれたコクーンメイデンに伸ばした手が届く。
少しの自信が、次の先手をオレに許してくれた。先手必勝ならぬ次手必勝!
今度は、野球の投球フォームみたいに背中から腕へ、腕から手首へ力が伝わるのを感じさせてくれた。踏み込んだ銀の足が地面を噛み体重をコンクリートへと乗せてくれた!踏み込んだ足の股関節部に力が張る感覚があった。良い踏み込みだと自画自賛する。
右腕がグンと伸びる!筋肉が、弾力の強いゴムみたいに漲る!
力が、力が腕中に巡っていくのを感じる。
でも体は痛い! 動くほどに傷が疼くが、もう止まらない
そしてコクーンメイデンの二撃目は間に合わなかった。間に合ったのは俺の攻撃だ。ズバリ心臓に直撃!
ゴジャッッ!! 有機的な鎧を割り、軟らかくも重量のある臓腑を貫いた。感じるぞ、内臓を潰す感触! それは命を潰す触感だ。
そのまま胸部を破壊されたコクーンメイデンはうつむき沈黙した……。死亡確認!!
まさに怒涛の時間だった。
今まさに、二匹のアラガミを殺したんだなオレは。なんだろうか、オレもアラガミなったからこそ勝てた相手だったが、現実では会いたくないな。人間の状態のオレじゃあなんとしても逃げ切るしかできないヤツらだから。
無我夢中で戦いを選択できたのは……いったいなぜだろうか。自分でも不思議だ。オレはそんなに喧嘩っぱやいタチでもないはずだ。軍人でも傭兵でもないのに、何で戦えた?
アラガミになったからか。親からはぐれた野生動物でも噛み付くなどの攻撃手段は知っている。DNAが、本能が戦う術を教えてくれるからだ。鳥が羽ばたき方をしているように、オレもアラガミになったからこそ戦い方を知っているのかもしれないな……。
ああ……それにしても、こいつらコクーンメイデンは、ゲームではハッキリってザコで片手間でも倒せる敵だったが、実際に相対するとそうではない。
そもそもあのトゲ攻撃もゲームで何回も見たはずなのに、いざ等身大で戦ってみると避けられなかった。なにせ扇状に目の前で広がるのだ。上下左右にも追ってくる。バックステップしようにもそれなりの距離まで届く。
そういえば予備操作をみて事前に避けたりガードするのが定石の相手だった。
もしくは遠距離から銃で撃つとか、何かされる前に斬り殺すとか。
実際に戦うと、そんなにうまくいくものじゃあないな。そもそもガード用の盾なんて持ってない。今になって神機使いたちのそういうところがうらやましくなってくる。
しかし…痛い。オウガテイルの棘攻撃一発でも正直ウンザリしたのにまたオレは刺されたのか。
光弾が直撃するよりかはマシなのかな。コクーンメイデンは光弾という遠距離攻撃を持っている。
ゲームだと当たったキャラは後ろに吹っ飛ぶ表現だったが、実際当たるとどうなるんだろう。焼けるのか、肉体が吹っ飛んで肉は焼けて血が意外と出ないのか。
想像したくない。とりあえずは食らわなくてよかった。熱したヤカンに誤って触れた時でも、もう熱いのはコリゴリだってのに。
なんて思うも、そんなんより回復だ。このコクーンメイデンを喰うしかない。
サナギみたいな見た目だから、、動物よりも昆虫に近い味なのかな。
ウゲェー……さすがに昆虫は…たしかに虫食用料理も日本にはあるが…
しかしここはプラスに考えてみよう。
オウガテイルは美味かったのだ。つまりコクーンメイデンも意外と…イケるんじゃあないか?
そうかもしれない ていうかいまコクーンメイデンを喰わないと、次襲われたときヤバイかもしれない。なにせたった今、いきなり襲われる洗礼を受けたのだから。
これで中型アラガミに会ったらたぶん死ぬ。逃げられるかなあ。
よーし……喰うぞぉ……喰うぞぉ……男は度胸、何でも試して……いややっぱ限度あるわ。……だがサナギくらい…。
早く喰えばよかった。なせそう思ったか。オレはまだ死んでないが、かといって運がいいわけではないようだ。
「なー、こんなパトロール任務なんてとっとと終わらせちまおうぜ。どうせ居るのってザコばっかだし大したモンいねーよ」
「まったく同感だ。居たとしても小型ばかり…稼げないな。」
「いいじゃない……私はそれでも撃ちたいわ……。シュン? あなたも危ない橋渡らなくてもいいからイイ事なんじゃない?……フフッ。」
「あー! バカにすんなよジーナ! 俺だってヴァジュラが出てもズバッズバッてやってやるよ!」
「お前はコンゴウ相手にも危なっかしいだろう。それにヴァジュラがでたら俺がやってやる。儲けは俺が取るからな。」
「いや俺だ!俺がやってやんよ!」
声!? 初めて人の声を聴いたぞ。それも遠くない。崩れた建物が多くて場所が分からないがそう遠くない。歩いているのか?
しかもこの感じだと間違いない。神機使い…ゴッドイーターたちだ。
じゃあここはどこなんだ? 俺はこの辺をプログラミングした覚えはないし……ゲームでも見覚えは無い。
しかし当たり前か…オレたちが作った部分以外にも、世界は存在するんだ。それはそうだ……誰も彼も、生きて人生を歩んでいるのだから
じゃあこの場所はどこなんだろうか。あの大きく喰われた都市でも無い……と思うが。いったいオレはどこに居るのだろうか。あいつらに聞いてみようか。
しっかし……あいつらの声マジでゲームで聴いたとおりだな。声優さん方があてた声そのまんまじゃあないか。
なーんか不思議な感じだな…。こっそり近くで見てみようかなまずは。
アイツらが誰かなんとなく分かる。第3部隊所属の神機使い
シュン、カレル、そしてジーナ。
「まあ確かにシュンの言うとおりだな。この当たりにはオウガテイルやコクーンメイデンぐらいのザコしか居ない。堕天種もいないしな。住人もいないから価値も無いところだ……金目の物なんかなさそうだ。ハズレだな。」
「ホントだぜー。サカキのおっさんがパトロールがてら怪しいのがあったら報告してくれなんて言ったけど、そんなもんいやしないぜ。つまんねーの。おいジーナ、なんか面白いのいたか?」
「いないわ……。そろそろ出てきてほしいのだけれどねえ? サカキ博士が怪しいもの……なんて言ったからきっと特別種か普通より強靭なアラガミが居る可能性があると思ったけれど……残念、これといっていないわね」
「何も無ければ帰って報酬をもらうだけだ。楽といえば楽だが、大して儲けられないな。特別報酬がもらえるチャンスだと思ったがな。」
やっぱりだ。オレはいま物陰から頭だけひょっこり出して見ている。近寄って話しかけたい。まさかゲームのキャラが本当に居るなんて。街中で推しの芸能人を発見した人ってこんな感じかな?
キャップを横に被りオレンジ髪の少年らしさが残るシュン。
金髪癖っ毛の金を愛する目つきの悪いカレル。
そして眼帯をしているミステリアスで、とてもスレンダー体型なジーナだ。ビューティフォー……。
しかしそんなオレがなぜ近寄らないか。
それはこの三人が武装しており、オレはアラガミ。しかも言葉を話せないからだ。
もしノコノコと近づいてコミュニケーションを図る前に攻撃されてみろ。
構える前に殺されかねん。
近距離だとシュンの剣に斬られ、中距離だとカレルのガトリングに撃ち抜かれる。かといって遠距離はジーナのスナイプで死。
あまりにも接触のリスクがデカイ。まだこの世界を見て回りたいし、訓練されたゴッドイーター……つまりは知性ある強敵を相手にしたくない。
というより、間違いなく攻撃されるだろう。
あの会話振りからして、信じられんが、オレが居る事をなぜか察知して偵察隊をもう出したという事だ。
しかもその首謀者はおそらくサカキだ。人類の中でも上位の天才博士様だ。
まさかここまで優秀だとは……。
ゲーム中だとせいぜいアラガミの足止め役くらいにしか考えていなかったNPC達だ。そもそもNPCは、プレイヤーがアラガミを倒す様にする為、意図的に攻撃力が低くなってしまう。
しかしプレイヤーがいないミッションだとその裏ルールは無くなる、つまりこの状況だと、こいつらは正に接触禁忌種だ。オレにとってな!
そして、あの口ぶりからして、こいつら戦闘する気満々だ。まず勝てんだろう。オウガテイル一匹に苦戦したオレでは。
今からコクーンメイデン喰っても、その音で見つかったらヤバイ。一度見つかったら間違いなく追ってくるぞこいつら。
「もしサカキのおっさんが狙いそうなアラガミがいたら俺がやってやる。逃がしはせんぞ」
ほーらカレルがこんな調子だからな。しかしなんでもうオレがいる事がバレたんだ? もしかして狙いはオレじゃなくて他に追っているアラガミがあるのかよ。だったら都合がいい。その間に逃げちまえばいいからな。
さて、このままこいつらが帰るまで隠れようかな。
だが、こんな状況でも、正直感動している。
だってこの三人が実際に動いて会話して……たぶんシナリオのテキスターさんが入れていない言葉をしゃべっているんだ。セリフじゃない。生きている人間としての何気ない会話! 俺たちの知らない会話!
生きているんだ。本当に、生きていてくれた。
だが、ここは隠れるしかないだろう。本当は、逢って会話して語り合いたい。
本編では語られず、設定もそこまで作られていないであろう彼らの過去の話とか。でも武器を持っている状態で近づかないほうがよさそうだ。
いま距離は遠すぎず近すぎず……このまま尾行ごっこしてみたくもあるが、たぶん気づかれる。狩人だものねこの人達。
たぶんジーナあたりに最初にバレるんじゃあないかな。勘よさそうだしかわいいし。
名残惜しくもあるが、抜き足差し足忍び足で去ろう。
なんでまたオウガテイルがこっちへ走ってきてるの?
しかも5匹!!
冗談だろう!? まだ傷も癒していないんだぞ! 今のオレではさすがに勝てん!今度こそ逃げるぞ!
「なんだアイツ!? 見たことねぇぞ!?」
シュンだったかぁ 最初にオレを見つけちゃったのは ちくしょうが なんでオレはこうも見つかりやすいんだ
てかもう構えてるぞカレル! 待て撃つな! オレは味方だ!
「ヲォ!!」
(ストップ!ストップだ!)
「先手は俺がとる…! そらぁ!」
ガトリング型神機から砲撃が飛んでくる! 避けッッ……!
当たった 右腰と髪部に直撃 オレはとっさに瓦礫の影に転がり込んだがそれでも当たった
全身に広がる嫌な衝撃だ。しかも肉体が一部崩れた感覚がある。痛みがあるがここでゴロゴロ転がるわけにはいかない。
とにかく他の瓦礫に隠れなくては ヤバイヤバイヤバイ!!
だが危機はそれだけではない! オウガテイルたちもこちらへ走ってきている!
三人のほうへ行け! オレは美味しくないから ヘドロキャンディーみたいな味するぞ!
「まずはあれを全部片付けなきゃいけないわね。シュン、ヒバリへ通信してちょうだい 新種よ」
「お、おう! ヒバリ聞こえるか!? 見たことねえヤツが居た!」
『こちらでもビーコン反応を確認しました! たしかに未知の反応です! そちらは大丈夫ですか!?』
「カレルが撃ったが掠った程度だ! 影に隠れてでてこねえぞ! ザコどもヤッてから捜すよ!」
『ま、待ってください! いまそちらへ大型アラガミが向かっています! これは……ヴァジュラです!!』
「なんだと…? ヴァジュラだと?」
「おいカレル、ジーナ! こいつら片付けて迎え撃つぞ! ここで退いたら新種を見失っちまう! ヴァジュラも新種もやっちまうぞ!」
「ふん、分かっている。報酬はでかいぞ」
「素敵ね……。きっと綺麗な花が咲くわ……」
いまヒバリの通信が聞こえたがヴァジュラだと?
ああパッケージを飾ったアイツか。じゃあこのオウガテイルどもはまさか、ヴァジュラに追われていたのか!?
どうりで必死に走ってきているワケだな。
しかも前からはヴァジュラが来て、後ろには第三部隊たちかよ……逃げるのも難しいし戦いに巻き込まれても狙われてもアウトって状況ね。
詰みかな? 助けて。
走れ!走れ!本当に死ぬぞ! 死んだら……どうなる?
まさか目を覚まさずにひっそりと息を引き取るのか!?
なんでこんな時にそんな事を考えちまったんだ!確かにそういう死因があるのは知っている!
普段通りに寝た人が、いつまでも起きなくて家族が起こしに行ったら息をしておらず死んでいたという話……!
医学的な原因は忘れたが、実際にある話だし、ホラー話でもそうして死んだ話はままある。
さっきまで死ねば起きるだけかなぁとか思っていたが、本当にそうなのか? ダメだ!その可能性を思いついちまったらもう死ぬなんてできない!!
マジで死ぬかもしれない こ…怖っ……!
うおおおおおお!! 走れ走れ走れ走れ!!! どこでもいい! いまこの場から離れなければ!!!
二足で走っていた俺が、足元が悪いため転んでしまった!コンクリートで盛大に転んだがはやく立ち上がって行け! 早く!
無我夢中の動きが、手足をバタつかせて進むオレの動きが……四速歩行に変わった!
はやッ! これは、このほうが早い!犬のような走りではなく、アメンボのような、ゴキブリのような虫の動きになっている。
シャカシャカシャカ!!! いい音だ!
何か分からんがいまは離れなければ! すこし後ろを振り向いてみたら、そこは修羅場だ。重低音の咆哮が大気を爆発させる!!!
「ウオオオオオオオオンンン!!!」
ヴァジュラが戦場に到着した! それは最後のオウガテイルの首をシュンが切断したのとほぼ同時だった!
鉄骨が露出したコンクリ片が舞う 朽ちた標識が折れてぐるぐると空を舞う!
これは超巨大な虎か!虎に鎧とマントを生やしたのかと思わせる強固な外骨格は攻防一体の武器!いや兵器だ!
顔だけで1メートル超はある!大口から覗く牙はもはや一本一本が斧だ!
人間どころか、アラガミを噛み千切れるデカさと凶悪さ。少し生で見ただけでそれがわかってしまう。
更に雷を操る凶悪な能力をコイツは持っている。
近くに居るといつ感電死して炭になるか分かったもんじゃあない。しかし全長何メートルあるんだコイツは!6?7?
ダメだ考えてる場合じゃない! こいつ虎だけあって巨体なのに速い!直線の追いかけっこなら車でも不利!逃げろ!
ただ登場して咆哮をあげただけなのに、まるで嵐だ。 これがヴァジュラか……!
三人に加勢すべきかと一瞬考えたが、無謀だ。そもそもあの三人は極東支部のゴッドイーターだ。世界最強クラスの支部の兵士たちだ。
おそらくあの化け物ですら……!
この戦いを本当はゆっくり観察してみたいが今は無理だ!最後に少し見えた三人の戦いが、プロの戦闘人であると雄弁に語る。
「邪魔だデカブツが!」
「しゃあッ!」
「さあ、素敵な花を咲かしてあげるわ……。」
カレルの砲撃がヴァジュラの顔面をたたき視界を奪う。すかさずシュンが右前足を横薙ぎに斬り、ジーナの狙撃がヴァジュラの片目に命中
息のあった連携攻撃だ。もし先ほど戦いを選択したら、こちらが一手出す前に相手は三手繰り出してきたわけだ。
もうこうなったらとにかく走れ! この場からすぐに! アメンボダッシュは伊達じゃない!
「オラァ! 毒でも食ってろ! 今はお前にかまってる場合じゃねえんだよ!」
「チッ、新種を逃してたまるか。……ッ! 避けろシュン!!」
「うわァ! いっちっち…! また電撃出したな!」
「突っ込みすぎよシュン。」
オレは疾走った。いや這いつくばってとにかく走り抜いた。
それから10分は経っただろうか。いやもっとか? なにせ時計が無い上に太陽の位置で時間を計るなんて余裕は無かった。だがその甲斐もあってか、オレは寂れた廃墟に避難できた。
ここは家ではなさそうだ。広めのロビーらしき空間と、誰もいない受付部屋……変色して破れた掲示物などから、おそらく公民館のような建物だったと思う。
なんでもいい。まずは休めるチャンスだ。
ここはどこなんだろうか。あいつらは追ってこないか。息を潜めてみても音もしないから、アラガミは居ないだろう。
またコクーンメイデンに会っても嫌なので、とりあえず二階へ行ってみる。階段も瓦礫だらけだが、この体なら問題無。埃っぽいな。とりあえず廊下らしきところで横になる。
「フォー……コフォー……。」
(ハァー……疲れた……結局傷も増えたし痛え。何か食べて回復しないとな)
だが回りにアラガミもいなければ食料もありはしなさそうだ。
ながらく人もいないだろうし、缶詰でもあれば、なんて思っていたが、一つ思いたったことがある。
石って……喰えるのかな。
なんでも食べるアラガミなら、それも食べられる。だからこそ多くの文明の痕跡が喰われたのだ。この世界は。
オレは何気なく、顔の横にあった瓦礫を手にとり、口を発生させた。
ゴリョ……ガギム! 咀嚼して、味わう。なんだろうこの味。美味くもまずくもない、いつもどおりっていうような味。野戦糧食というか、味のないポップコーンというか
なんだ?節分の豆から塩を抜いたような。
だが喰えるのでオレはそこらの破片やイス、手すりなどを齧り咀嚼し飲み込んだ。
無機物だからかな、多少味に違いはあるけどアラガミほど美味くはないな。
この公民館?で一番美味かった(マシだった)部位は、会議室の掃除ロッカーだった。ヘンゼルとグレーテルになった気分だったよ。お菓子じゃないけど。ああ、チョコ食べたい。
傷を少しずつ癒しながら、オレはぼんやりと考えていた。次はどこ行こうかな。その前にトレーニングでもしようかな なんて。
『ヴァジュラの討伐お疲れ様でした。……新種は残念でしたね。でもみなさんが無事でよかったです。迎えのヘリが向かっています。無事のご帰還をお待ちしていますね』
「へぇー新種か。なんでもすぐに逃げたらしいけどどんなヤツなんだかな。そろそろ噂の新型適合者ってのが配属されるし、また忙しくなるな。サクヤ、俺達第一部隊の出番が近いかもしれんぞ。」
「ええリンドウ。どんな相手かわからないから、慎重にね?いきなり突っ込んじゃダメよソーマ?」
「フン……。」
血では無く心で繋がった主人公。
ーーノムリッシュ聖典第三章第五節
見えざる神の章より抜粋