例えば荒ぶる神になったとしても   作:カトゥーン

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神の見えざる手からは逃れられないので初投稿です

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第三話 化け物には狂人をぶつけよ

あれから2日経った。

 

 

廃材や瓦礫を美食家のように楽しみ、オレは本格的に動く前に回復と体の把握に務めていた。

 

最初にオレはトイレへ入る。目当ては便器で無く鏡だ。まずはこの姿をしっかりと見ておきたくて。

もちろんそこで写った姿はあきらかに人間じゃあなかった。

 

まず顔! 目や鼻、耳も無いのだ。青を基調とした楕円形の輪郭の真ん中に、ぼんやりとした光色のレンズがある。

仮面かと思ったが素顔だ。しかも1個しかないが、視界は普段見ていた視界と同じ。この一個のレンズを隠せば何も見えなくなるため、これが目で間違いなさそうだ。

もとの顔を思い出せないが、きっとハンサム顔だったかと思いたい。

きっとそうだ、そうであってくれ。

 

じゃあどこから匂いを感じて音を聴いているのか。もしかしたら自分でも分からない器官があり、それが役割を果たしているのかと勝手に予想する。

オレは研究者じゃないから、考えても分からない。

 

またこの体は、あまり睡眠を必要としないらしく、人間の時のように一晩ぐっすりとはいかなかった。

傷の治りも人間のときと比較にならないペースであり消毒などもいらない。ゴリゴリと瓦礫を食べているだけで問題なく真水を飲まなくても無問題。

 

いやー、泥水って飲めるもんだなあ意外と。混ざっている砂も小石も、甘くないタピオカや果粒みたいだからまずくはない。美味くもないけど。

 

アラガミって工場廃液を好んで飲む種族も居た気がする。グボロ・グボロとか。廃液かあ……。もしかしたらジュースみたいに美味しいかもしれない。コークみたいに美味かったらいいな。

 

食事の楽しみってすごい。何でも食べられるから何でも試せる。

 

しかし、寝ても覚めないこの夢がいくらなんでも長い気がする。まさかこれは現実では?とも薄々思ったが、正直まだ認めたくない。

 

家族にも逢いたいと……思いたいが、家族の名前も顔もロクに思い出せない。記憶がぼやけているのだ。濃霧がかった記憶だ。

 

どうでもいい事は覚えていても、なんで肝心な事は思い出せないんだ。しかもそのせいか、家族に逢いたい願望が希薄なのだ。

皮肉な話だが想いが希薄だからこそオレはこの世界で前向きに生きている。

 

死ねば目覚めるのか? 現実のオレも一緒に死ぬのか? ……試すにはまだ早いだろう。

 

 

傷を癒しつつ、オレはこの体がどこまでできるかを試していた。スピード、パワー、柔軟性にスタミナ等々……。

 

結論から言うと、全ての結果が人間じゃあねえ……といったところだった。ストップウォッチとメーターがあれば100M走とかもできたのに。

この体ならオリンピックも夢じゃない。

パワーに関して言えば2メートルクラスのコンクリ片を問題なく持てたことから、信じられないくらい良質に筋肉なのは間違いない。

 

体の柔軟性もヨガ修験者も真っ青に柔らかく、腕に関して言えばムチのように曲がる、というか触手といった方が正しい。

 

両手の刃も、鉄に切れ込みを入れられて、石やアスファルトを斬れてしまうほどの超名刀だ。ミヤモトムサシ!

 

しかし初日にオウガテイルを倒した赤い光は発生しなかった……。刃が赤く光り強力な切れ味を発揮したあの光だ。

シャイニングウィザードとか鬼の手とか純白の手(レ・マン・ブランシュ・ジマキュレ)などと技名を考えていてわくわくしたが、どうにも出来ない。

 

発動には条件があるのか修行不足か……とにかく今は両手の刃を突く なぎ払う 斬撃コンボなど考えながら楽しんでいた。

銀足の蹴りも、浮遊できる体の特性から、漫画みたいな蹴り技もバランスを崩さずにできる。

格闘家は軸足と蹴り足のバランスをとる訓練をするが、重力に多少なりとも抵抗ができるこの体ならば威力はともかくとしてなかなか面白い技も使える。

 

「ウヲアッ!」

(ここで回し蹴りッ!! どやッ!)

 

なんか楽しい。この姿を見た人間がいたら、ア…アラガミさんが胴回し回転蹴りかぁ~…! と驚嘆していた事だろう。

大人が本気で子供の遊びをしたら、面白いというのは本当だった。いまオレ本気で楽しんでるもん。

 

オレはそのまま、キャオラッ! とか 轟亜!! とか 噴ッ! とかノリノリで格闘訓練ごっこをしていた。

構えも何もなっちゃいない素人丸出しな動きだが、そこはアラガミの体と微浮遊能力でカバーする。

 

イケるって、これもう雑魚アラガミなら屠れるんじゃないかなって思う。 調子こいて玉砕! にならないようにしなきゃ。

 

あと、空をどこまで飛べるかも試したが、これは1メートル程度は浮けるがそれ以上はできなかった。

ジャンプはできても飛行はできないという事か。

なのでかっこいいダッシュのポーズとか取っていた。こういうのって真剣にやるとマジで楽しい。

 

そして実戦の時は来た。今までオレは巻き込まれてばかりの受身だったが、今回は違う。

 

こちらからアラガミを狩るのだ。

 

そう思い、短いアジトとしていた公民館?に さらばを告げて荷物も無く旅立った……。

 

なんて出てきたのはいいが、しかしながら未だにアラガミに会えていない。

もうけっこう移動したはずだがいないのだ。なんでだよ。しかしホントここはどこなんだろう。

なんかワイルドに齧られた痕のある建物が多くなってきた気がする……もしかしてアラガミのパレードでもあったのか?

だがその心配ももういらなくなった。探せばいるもんだ。

前方数百メートルのところに浮遊物体発見。あれはサイゴードだ。

 

サイゴード:でっかい卵型の頭に、等身大の人間の女体がくっついた見た目の飛行形アラガミだ。

巨大な一つ目はどこまで遠くを見られるのやら。

 

 

相手はまだ気づいていない。運よく背後側から発見できたオレは、そのまま浮遊モードで隠れつつ近づく。

 

いいぞ……ここは枯れた土が多く砂煙もある。崩れた廃墟も多いため、オレの姿は隠れやすい。そしてあと100M…80m…40M…20M…!

 

そして10Mまで近づき、気づくな…気づくな…。ここで右足を踏み込み一気に跳躍!!

 

「へァッ!!」

 

オレの姿に気づいたサイゴードがハッと振り向くもオレのほうが当然素早い! 右腕の袈裟斬りが顔面にめり込み、そのまま肉も骨も断ち斬る!!

 

「ギャオッ!!ギャァ!!」

 

先手をとったオレの連続斬りが次々と当たる。トレーニングの成果もあり距離感は抜群に取れている。もはやサイゴードは態勢も整えられず受けるのみ!

ずたずたに顔を引き裂かれたサイゴードに、トドメの蹴り上げを放つ!

 

人間の足なら骨折不可避の重量球を上空へ蹴り上げた!! 臓腑のつぶれる感触が伝わり、そのまま数メートル上がったサイゴードはゴシャリと地面に墜落していった。

 

「へェアッハァ!」

(討伐数1! っしゃおら!)

 

初めての完全勝利。倫理も道徳もグッバイしてオレは喜んだ。そりゃもう素直に喜んだ。

修行の成果あったなあ……。

じゃあもう喰っちゃおうかな もう動くな卵野郎め。今のオレは食への関心が高い。

 

すぐにサイゴードへ齧りついてみた。最初のオウガテイル以降のアラガミ食だ。高まったテンションに身を任せ食事開始!!

 

美味し!なんだこれは もうプリップリやないですか。その中に確かな歯ごたえと血のスープが味を引き立たせる……!

今だけは、今だけはアラガミでいる事に謝謝! ああ雑魚アラガミでもこんなにおいしいなんて!

以前読んだ漫画に、捕獲レベルの高い猛獣のほうが美味いのが多い!っていう美食冒険モノがあったが、その理論でいくと上級アラガミや大型アラガミはもっとスゲエ味がするのでは?

 

そう思いつつ、サイゴードの目玉や歯、女体部などを喰らい味の違いを楽しんでいた。

 

サイゴードって、女体部が一番美味いんだ。動物によっては尻尾は一番とか、心臓が一番とか、最高に美味い部位があるのは知っていた。

この記録をメモにとりたい。でも道具がない。どこかにノートとペン落ちてないかなあ。アラガミグルメ紀行ってタイトルで本出したい。

 

その時、何か音が聞こえた。それも一つや二つではない。

 

「ア?」

(何だ? なにか妙だぞ)

 

答えはすぐにわかった。オレを中心に3箇所からサイゴードが飛んできているのだ。狙われているのは間違いない。

そうだ! サイゴードは鳴き声で仲間を呼ぶ習性がある! さっきの悲鳴を聞いて集まってきやがった!

 

「「「キャァー!!! ギュアー!!!」」」

 

多いって多いって多いって!!! 何匹居る!? 10匹はいるじゃん! またこうなるんかい!

 

上等だ! トレーニングの成果を見ろ! この構えは猛虎落地勢という構えだ!そしてそこから繰り出す技は脱兎!!!

四足歩行のゴキブリダッシュ! 平地において最高速度の大技だ!!

 

逃げ足の速さと判断力には自信があるんだ! クズ共め、集団で襲うとか卑怯者だよ本当に! オレはやってもいいけどお前らはダメだ!

 

ジャイアニズム論にのっとり、正義の後方爆進を敢行する!

 

そのまま逃げていくオレだが、この浮遊卵どもは実にしつこい。推しアイドルへストーキングするヤバめファンかってくらい追いかけてくる。

 

いやじゃいやじゃ、こんなやつらにモテとうない。体だけナイスバディだからこそ余計に怖い。

 

そしていつしか、前に地面が無い事に気づく。どうやら何メートルか下にまた地面があるらしい。つまりこれは飛べということか!

 

ゴキブリジャンプ!! 地面が迫ってくるが見事に着地……失敗!

顔と地面の熱烈なキッス!! だがまだだ! こんなの怪我のうちに入らない。

 

立ち上がり、今度は二足で右へ飛び、視界が開けた、どうも先ほど目の前に建造物があったらしく、日光が遮られていたのだ。

そして広くなった視界に、その姿は写った……それは……

 

運命ってあるんだ。

 

「わっ! リンドウさん! なんですかこいつ!」

 

「!? 離れろ新入り!」

 

その姿は紛れも無くゴッドイーターだ。オレの目の前に二人現れた。

 

ひとりは人気の高い、ベテランの神機使い。『雨宮リンドウ』だ。長身の体躯に恵まれ、赤色のチェーンソー型神機を持つ主人公の上司。

26歳の若さでありながら、いつ見ても年上感漂う男だ。

 

だがもうひとりの方だ。こっちの女のをオレはよく知っている。

ふわりとした明るい赤色のパイナップルヘアー…暗めの緑色をしたフェンリル制服の上着とスパッツ。ブーツと太ももの露出割合は黄金比だ。

そして幼さの残る少女の顔と体つき。そして持つ神機はナイフ型とブラスト砲の新型神機だ……。

 

そうか…君だったのか…この世界に居る本来の「主人公」。ゲームでプレイヤーが操作するキャラクター……。

 

『霊代アキ』(たましろあき)

 

覚えているよ、なにせ君は……開発陣のデフォルトキャラだったから。資料や記事には君をモデルに画像を撮影したよ。

そうか……君がこの世界の主人公に選ばれたんだね。本当に……本当にうれしいな。

 

そうだ、テストプレイ用のキャラの君は、いつしかオレ達にとって遺しておきたいキャラクターとなったんだ。

だからバーストの女主人公デフォルトアバターは、君に決まったんだっけ。

他の製作グループがそれを決めたが、オレも賛成だった。オレだけじゃ無く、他の社員達も、君を遺していたがってたんだ。

 

それは数秒にも満たないわずかな時間のはずだった。

それでも心に、心地よい風が……息吹が生まれたのだ。

時計の針が動き出した。運命の針が、その出会いが始まりの鐘なのだと。教えてくれた。

 

やっとわかった。

オレはここに迷い込んでいたのか。かつて人類が撤退した町、崩れた教会が慈悲無き神々の襲来を明かす町。

 

贖罪の町……。

 

ゲーム中で何度も来る事になるステージだ。よくよく回りを見渡すと確かに製作した覚えのある障害物や家、岩が見える。

 

感傷に浸る前に目の前の問題を片付けたい。後ろから聞こえるサイゴード共の合唱が緊張感を煽ってくれる。

 

『伝達! リンドウさんの方角へ多数の小型アラガミが向かってきています!』

 

「わかった! だが今それどころじゃない! 見たことの無いアラガミが出現した! コイツまさか噂の新種か!?」

 

『今こちらでも確認取れました! 以前第三部隊が発見した新種と思われます! 相手の戦闘力が未知数なため二人では分が悪いです! 撤退できますか!?』

 

「あぁ! いますぐ撤退する! 撤退地点まで急行するぞ!」

「待ってくださいリンドウさん! 後ろっ!」

 

「!? ヴァジュラテイルだと! 挟まれたか!」

 

ちょっと待て、今オレも敵に数えてないか? 確かにアラガミの体だけど、オレもアラガミに襲われてんだぞ。

というか赤っ! ヴァジュラテイルかよ どこから来やがった。まずい、サイゴード共がもう来るぞ

 

ヴァジュラテイルは、簡単に言うとオウガテイル色違いの強力な種だ。赤いということは炎の属性をもつオウガテイルだ。

1匹だが、この状況だと厄介になる。

 

「新入り! スタングレネード使ったら逃げろ! いいな!」

 

「はいッ!…きゃあっ!」

 

「っち! どけぇ!!」

 

いきなり 火球を吐き出してきたヴァジュラテイルにアキが飛ばされる。神機の剣を盾代わりにするもダメージを負い、オレのほうへ飛んできてしまった。

そこへ到着したサイゴードの1匹がアキに襲い掛かる! 弱った獲物は格好の的だ!

 

「くそッ! 間に合え!!」

 

リンドウが必死の形相で剣を担いで走ってくるも、このままでは間に合わない、だが霊代アキは避けられる状態ではない。

 

獲物を狙う瞬間、その者は無防備となる。それはアラガミも同じだ。

咄嗟だった、オレは考える前にサイゴードへ突きを放つ。

その上空へ放った必殺の刃は、凄まじく鋭い。

 

ジャストの一撃! 刃が目玉を貫通せしめた。素晴らしき一撃はサイゴードをあの世へ送ったのだ!

 

霊代アキはもともとテストプレイ用のデフォルトキャラとして作成し、このアバターで限られた時間の中、必死にプレイし、楽しみ、知らず知らずのうちに愛着が湧いていた。ただのデフォルトキャラは、かつての製作陣(仲間たち)との思い出でもあるのだ。

 

その当の本人は、その光景に理解が全く追いついていない表情を浮かべた。

こんな時にキョトンとしてやがる。早く頭をリンクエイドしてあげなきゃ。

 

「えっ? いま…このアラガミ…。」

 

「なッ!? …いや新入り! 立て! 神機を展開しろ!」

 

「は、はい!」

 

一瞬、不思議なモノを見る目をしたアキだがリンドウの呼びかけに応じなんとか立ち上がれたようだ。

怪我を負うも行動不能ではない。まだ戦えるとばかりに、気丈にナイフ型神機を構え戦闘態勢に入った。

 

そこへ残りのサイゴード群と、ヴァジュラテイルが向かう!

 

迎え撃つはゴッドイーター二人と新種のアラガミだ。

しかしオレからしたら完全に四面楚歌のため、危機的状況は全く変わっていない。

 

(スタングレネードで何とか新入りを連れて撒けねえか 最悪俺が足止めをしてコイツだけでも…!)

 

リンドウはスタングレネードを出そうとしたが、すぐに仕舞いヴァジュラテイルへ斬りかかる。

右後ろ足を胴から削り、堕天種はリンドウの方へ向く、それはリンドウの作戦でありターゲットを己に切り替えさせたのだ!

 

「新入り! このままだと完全に囲まれる!おれがコイツを相手するから、撤退地点へ逃げろ!」

 

「くっ! ダメですリンドウさん! すでにサイゴードも…!」

 

大きく口を開けて飛び掛ってきた二匹のサイゴードへ対し左へ回避しつつ、腕を右方向へなぎ払った。

 

刃が二匹の女体部へ当たり血が舞う。この程度ではくたばらないため、すかさずもう一撃を大上段から振り下ろし、1匹を真っ二つに裂いた。

 

だがもう一匹へは間にあわない。そいつが体を、くの字に曲げ何かを発射する構えに入った。

 

「ヲッ!?」

(やばッ! あれは飛び技か!)

 

脳裏に浮かぶサイゴードの空気砲…こいつの持つ飛び道具を忘れていた。うかつだった。コレは避けられない…。

両腕をクロスさせてのガード態勢を取るも、衝撃が襲ってこない。しかし轟音はした、どういう…。

たった今オレに攻撃を行おうとした卵野郎は、壁にめり込みオブジェと化していたのだ。

 

視界の端に、ブラスト砲の銃口をサイゴードへ向けていたアキの姿が映る。その目には闘志が漲っていた。

 

「よし二匹目! まだだっ!」

 

まさか今、助けたのか? 助けられたのかオレは。だが考えている暇はない。

 

残り8匹のサイゴードが続々とかかってくる。アキの爆発弾がサイゴードたちの飛行をわずかに止めた。

その隙を見逃さず、左腕を逆袈裟へ思いっきり振るう! その勢いで腕は伸び、先端の重量に任せ刃物が振るわれた。

 

1匹を大目玉から斜めに分け断ち、もう一匹へ右腕の貫通攻撃を当てる。

アキの砲撃で動きは止まった為うまくいったが、そこで砲撃が止んだ。弾切れか!?

すかさず右腕を引き戻し、刺されていたサイゴードまで自分の方へ来てしまうが、カウンターの前蹴りを放つ!

 

サッカーボールとなったアラガミが他のアラガミにぶつかり更に隙が生まれる。

 

なんでオレはこんな大勢を相手にしているんだろうか。改めて考えると変な話だ。オレはそんな正義の味方ができるツワモノではない。

それでもだ、それでもこの霊代アキを、今は見捨てたくは無かった。

コイツは思い出なんだ。今はあまり思い出せないかつての仲間たち……仲の良し悪し問わず、忘れてはいけない思い出がある。

少しずつ思い出しそうになった社員達がいる…デバッガのMさん、フリーライターのKさんにミュージックトライナーのWくん……その思い出を蘇らせてくれたのが、この霊代アキだ。

 

充分だ。オレが柄にも無く人助けをするのには充分な理由なんだ。

 

だから今はこの刃を振ろう。このゴッドイーターとの不可思議な共闘は、このピンチを切り抜ける刃だ。

オレが三連突きにてもう一匹を攻撃する! 見よこの華麗なジャブを! テレビで見たマイク・タイソン直伝の黄金の左よ!

鋭い刻み突きが命中し、怯んだところをアキが空中斬りにて仕留めた。

そしてアキがブラスト砲をサイゴードの口へ突っ込み、爆破! 飛び散る血と骨!

追撃とばかりに、オレは両手をクロスさせ、バッテン印に振るう! バツ印を大きく刻み付けられたサイゴードに、ブラスト弾が叩き込まれ、対象は沈黙した。これであと残りは三匹。 生存の道が見えてきた…!

この共闘により、当初は逃げの一辺倒が形成有利となっていた。

しかし、そううまくいくわけでも無く、最後の三匹の浮遊卵が牙を剥き突進した時、オレ達は避けられる態勢では無かった!

あわや頭部を喰いちぎられるか! といった瞬間、赤い剣閃が疾る。

 

「うらあっ!」

 

リンドウの剣が三匹を仕留める。間違いなくアラガミ殺しに慣れた男の剣筋だ。信じられん……こんなにも強かったのか…!

初めて、リンドウの動きを見たが、瞬時に理解できた。確かに極東支部のエースだ。

そこらの大型アラガミですらものともしないだろう。正直、ブルった。

オレ達がサイゴードを相手にしていた間に、ヴァジュラテイルを瞬殺していたみたいだ。絶対に敵対したくない。

 

そしてオレに対し、警戒態勢を解かないのは正しいがやめてくれ。殺意を向けてくるリンドウさんとか体験したくなかった。オレの中でエマージェンシーコールが鳴り響く。

 

「お前……何なんだ? まさかコイツを助けたワケじゃないよな?」

 

「あの、リンドウさん。こんなアラガミもいるんですか? なんか成り行きで共闘しちゃいましたけど」

 

「こんなアラガミはいない。油断するな新入り! アラガミにも行動習性はあるが常識なんざ役にたたねえ!」

 

「ヲォ……」

(そうだけど、ちょっと待ってくれ。頼む。)

 

剣呑な雰囲気だ。確かに言っていることは正しいが、何とかして敵意がない事を示さなければ。しかし下手に動くと瞬時に攻撃されそうだ。土下座してみるか……ヤバイな…リンドウはオレのわずかな動きも感知して動ける雰囲気を醸し出してきている。このまま逃げてみるか? オレのスピードならゴッドイーターと言えど撒けるか? リンドウは銃を持っていない。新人のアキの銃撃なら当たらない可能性もあるが…。

 

『ご無事ですか!? バイタルの乱れはありませんが、そのアラガミから離れられますか!?』

 

「ヒバリ、こいつは妙なアラガミだ。いま新入りと一緒にサイゴードを殺った。」

 

『まさか…アラガミがですか!? 油断しないで下さい!』

 

「ああ、なんとかコアを入手してみる」

 

おいやっぱそう来たか! もうダメだなんとしても逃げなければ

その時だった。アキがリンドウの方を向き、何か言いたそうにしている。ちょっとお待ち下さいといった具合だ。

 

「あの待ってくださいリンドウさん。このアラガミはまるで私を助けてくれたみたいなんです。もしかして…」

 

「真意は分からんがこいつはサイゴードを蹴散らせる強さがある、今は助かったかもしれんがどんな武装を持っているか不明だ! 下がっていろ!」

 

「いえそうではなく…もしかしたらこのアラガミは。」

 

「何だ、いいから下がっていろ」

 

「私のことが……好きなんじゃないでしょうか」

 

「…は?」

 

…は? いまなんて言ったのこの子。

 

「さっき私が襲われたとき、私をかばう様にサイゴードへ攻撃したんです。まるで私を守るみたいに。」

 

「そうかも知れんが、まて、お前いま何て言った?」

 

「私を守るってことは、もしかしたら私の事が好きになってしまったかも知れないんです。」

 

「ちょっと待て新入り。自分が何を言っているのか分かってるのか?」

 

「はい…しかしありえなくはないかも…しれませんよ。」

 

本当にワケが分からないことをアキが口走っている。隣の女がトチ狂ったんじゃないかと思ってそうな表情を浮かべるリンドウは初めて見たが、正直オレもそう思う。

おかしいな、頭を打ったのかさっき。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。あなたとは初めましてだよね。あなたがいなかったら私はやられてたと思う。でも私を好きになっても、私はゴッドイーターだし、あなたはアラガミだし…その…。」

 

「ォ、ォヲ?」

(いや、こいつ、マジか? おい 嘘だろ?)

 

今日一番の衝撃だった。アラガミを喰った事より、こいつらとファーストコンタクトした時より、リンドウが一瞬でアラガミを屠った時よりも。

 

「私たちは戦い合う存在だから、あなたの気持ちには応えられない…。ごめんなさい。」

 

「ヒバリ、救護班を至急用意させてくれ、新入りが重症だ」

 

『あ、ハイ。そうみたいですね』

 

「でも助けてくれた事は本当にありがとう、感謝してます…。」

 

なんか知らんがフラれるオレ。チョイ待てマジで、落ち着け。オレもお前も。

好きって、その好きはライクのほうだ。

LOVEじゃない、LIKEの方。なんだこれ。

 

知らなかった……。コイツこんな感じだったのかよ…なんかさっきまで思い出がどうのこうの考えてたけど、知らなかったよホントに。

 

コイツ…恋愛脳だったのかよ、それもダメな方向に…。

 

いとしさも切なさもあったけどたった今、心強さが音も無く散っていく。

誰だよ…こんなキャラ付けしたヤツは。オレたちのイメージの主人公じゃないぞ…もうここから離れるか。今ならリンドウからも逃げられそうだ。

 

じゃあなリンドウさんよ。そいつの面倒頼むわ。…まあ別にキャラクター設定班はオレじゃなかったからその子がそうなったのはオレのせいじゃない、管轄外です。

キミつい今まで殺し合いしてたからかな、混乱してるのかな。オレはちょっとしてるよ。

 

なんだか難しそうな表情のリンドウと、狂ったとしか思えないアキに、軽く手を振り振りしてサラバの意思を示す。

その動作に、ハッとした顔のリンドウだが、それに構わずオレは触手状の腕を伸ばして倒壊した建物を掴み体を引っ張り上げる。

なぜだか切ない顔をしているアキを尻目に、切ないのはオレの方だよと唸りをあげた。

 

「さようなら…名前もしらないアラガミさん、もし別の出会いがあったら」

 

「…あー、帰るぞ新入り。すぐにバイタルチェックを受けるんだ。ヴェノム(毒)状態になってないか頭とか」

 

『アキさん、まずは帰還してからサカキ博士のチェックを受けてください。こちらも各種抗体薬の用意をしておきます』

 

「それとサカキ博士と…あー、一応支部長にも報告しといてくれ、いまアラガミが手を振って離脱した。」

 

『はい。手を振り、手を?』

 

「ああ。まるでさようならって言ったみたいだ」

 

『なるほど…まさか意思を伝える明確な手段をもっていると?』

 

「そうかもしれん。シユウの挑発動作みたいに、人間の動きを真似ているだけかもしれんが」

 

「いえ、きっとあれは私への別れだと思います…。でも私は人間で」

 

「わかった。もうわかったから帰るぞ。今日はいろいろあったもんな、家に帰るまでが任務だぞー。」

 

なんか頭の整理が追いつかないから、誰も居ない廃ビルの空き部屋を適当な宿にして休む事にしようとした。

あ、さっきのアラガミ喰ってねえ。

でもなんかそれどころじゃなかったなあとぼくはおもいました。

 

今日も空は綺麗だな。




人は皆、己が正しいと言う。なら何故こんな世の中ができたのだ。お前が―――しゃぶれ。

――ノムリッシュ聖典第二章第三節:観測者もまた観測される者 より抜粋。


※霊代アキ(たましろあき)は、一応初代女主人公のデフォルトネームらしいです。容姿はデフォの女主人公1番。気になる人は検索してみましょう。本来はロングブレードですが今回はナイフです。
名前はパチンコ版で出たのが初出なためそれまで公式の名前が出てなかったみたいでした。
あんなにかわいいのに。
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