ーー人間に協力するアラガミだッて!?
人の口に戸口は建てられない。本来なら機密となる話も、どこからかいつのまにか漏れるものだ。
フェンリル極東支部内にその話が出回ったのは、リンドウと霊代アキが帰ってきてから間も無くであった。
誰が喋ったのか、どこから漏れたのか、そんな事は分からないが、極東支部内のゴッドイーター達の間ではもう出回っている。
しかし詳細は不明であり、これだけの情報では半信半疑といった処だ。
しかし常識の通用しないアラガミだからこそ、それもありえるかも……といった具合だ。
「…で、その新種のアラガミは君達と共闘しサイゴードを倒した後に捕食もせず逃げたというわけか。」
「ええそうです支部長。俺達もなぜそのアラガミがそんな行動を取ったかは分かりかねますが、確かにあれは他のアラガミとは行動原理が明らかに違いましたよ。」
「そうか…。撮影はできない分、記憶を頼りにスケッチはできたのかね?」
「はい。自分と零代の記憶通りでしたらこのような風貌でしたよ。」
極東支部支部長内で、リンドウから報告を受けているのは上司であり極東支部トップの男だ。
名を、ヨハネス・フォン・シックザール。
金髪のメッシュと、白のロングスーツ、長身のハンサムな男だ。だが年齢は45歳という支部長としては若いが非常に優秀な男である。
フェンリル創設者の一人でもあり、激戦地域の極東支部を取りまとめる男だ。
ヨハネスは、件の新種のアラガミが通常のアラガミとは異なる行動を取った存在だとリンドウから聞き、考えを巡らしている。
アラガミは適応進化細胞の群集体であるため、急に新種が確認される事はままある話ではあった。
しかし、行動原理は共通しているトコロがある。それは「人を襲う」事だ。
つまり捕食本能に身を任せていることにある。故に友好関係も結べず飼いならす等不可能な存在なのだった。
「どれ…。な…!?」
「どうかしましたか? 支部長殿」
「いや、今まで見たことも無い形だったのでな…。」
「……ああそうですか。」
本来ヨハネスは非常に冷静な男だ。それは生来の性格と、役職と…そして過去の罪から来るものであった。しかしそれでも僅かな驚きを口から漏らしてしまう衝撃を受けた。
その様子を気にしていないような表情で応えるリンドウだが、内心キナ臭さを感じている…。
(このアラガミは、まさか…。偶然か? いや偶然にしては似すぎている。いや、アレはエイジス島の廃棄所の底に捨てていた筈だ…。)
口に手を当てて思案しているヨハネスだが、少々思考が落ち着かない。他人に本心を明かさない性質を現すかのような手袋の内側で、無意識に口を動かしていた。
それは誰にも聞こえない声だが、普段の彼を良く知る者なら、珍しくヨハネス支部長が動揺していると驚くだろう。
(この全体図から、アレの特徴とほとんど合致する。なぜだ、エイジス島に異常事態でも起きたのか? いやそんな報告もセンサー反応も無かった…。いや待て、これは。)
「ご苦労だったリンドウくん。まずは君も新人の霊代くんも、無事に帰ってこれて安堵しているよ。この新種についてはまた捜索及び撮影班を出しておくとしよう。」
「ありがとうございます、それでは失礼致します支部長。」
「ところで、君が見た新種はこれで間違いないかね? しつこい様だが今までのアラガミのどの系統とも剥離している。完全な新種の可能性があるのでね。」
「我々の記憶が間違っていなければそれで合っていますよ。人型で体高は3メートル程ありますが、非常に柔軟な動きをしていましたよ。」
「そうか…。ご苦労だった。……ところで、霊代くんはメディカルチェックを受けているのだったのだね。新人の初任務でいきなり新種が現れ、接触したとは、彼女も数奇な体験をしたものだ。怪我はしていないそうだから、復帰はすぐかな。」
「ええ…まあ…怪我は、しておりませんね。ハイ、それでは失礼致します支部長殿。」
なぜか歯切れの悪くなったリンドウだが、手早く敬礼を済ませ支部長室を退室した。退室した後で、新人が狂ったかの様な発言をしたとは言えねえだろ…といった苦虫を噛んじゃったかのような顔をしていた。
リンドウは、訳あってこのヨハネス支部長を完全には信用していない。
「新種か…。しかし改めて見るとこのアラガミは、頭部に
報告を済ませたリンドウがラウンジへ向かう。兵士たちの基地は、ラウンジの広いスペースに任務受注のカウンターから、パソコン型アーカイブ装置に日用品から武器まで揃えている謎のよろず屋まである。
多数のゴッドイーターや職員達の交流の場でもある。
そこに置いてあるソファと机は、作戦交流所でもあり憩いの場にもなる。
「あらお疲れ様リンドウ。支部長への報告は問題なく終わったかしら」
「まったく問題なかったぜ。ああ、何も問題はない。」
「そ。それにしても、新種のアラガミの話はもう出回っちゃってるわよ。なんでもそのアラガミに助けられたんですって?」
「あーそれは機密情報だぞサクヤくん。」
「ふふっ、はい、失礼致しました隊長殿。」
リンドウと仲睦まじく談笑するのは、ベテランゴッドイーターの『橘サクヤ』だ。
黒のぱっつんヘアとスラっとしたナイスバディ、そして露出度の高いドレスとヒールの高い黒サンダルを履く彼女は男性にとって、本当はとてもお近づきになりたい大人の女性だ。彼女もリンドウと同じく第一部隊所属である。
そんな彼女に、極東支部の男性は誰もアプローチはしない。
それは、サクヤがリンドウ隊長の幼馴染であり、恋人でもある事が周知の事実だからである。
それでも嫉妬されないのは、リンドウもサクヤも非常に優秀であり、まさにお似合いだからである。
そんな彼らがソファに向き合いながら座り話していたところに、二人の若き神機使いが近づいてきた。
「お疲れ様でっすリンドウさん! いやー何か大変だったみたいですね。俺はサクヤさんと一緒に別の任務行ってたんですけど、なんでも新種のアラガミと運命の出会いしたんですって? おれあまり頭良くないからわかんないんですけど、それってスゲー事なんですよね!?」
「おう、お疲れ……聞いたなぁ? 霊代から。」
「うっす! なんかアキが医務室でチェック受けてるからって聞いて、なんか怪我したんじゃないかって思って駆けつけたんすよ! でもなんかコイツ全然元気だったし、その新種のアラガミと運命の出逢いをした…みたいな話をずーっと聞いてたんすよ。あの、すみません、で…いまいちよくわからないんっすけど…。」
「そのうち上から発表があるからそれまで秘密にしといてくれ。あと霊代の言っている事はずいぶん偏りがあるみたいだ、本気にしなくていいぞー。」
「あ、そっすか…。」
「いえ、間違いありません! あのアラガミと私の出会いはまさに運命でした! でも私はその気持ちには応えられませんし」
「おう分かった。あー、その件についてはお前も黙っていてくれ。一応機密事項なんだからな今は。……異常は無かったか? 精神とか脳波とか、頭とか。」
「問題ありませんでしたよ! バッチリ健康です! でも私の心にはまだ申し訳なさのキズがあります。もし違う出会いをしてたいたらきっと」
「そうかわかった。ああ……問題ないのか……それで。」
片方は本来のゲーム主人公である
藤木コウタは霊代アキとちょうど同じ日にゴッドイーター(神を喰らう者)となった。黄色の毛糸帽子に茶色と灰色の縞模様のマフラーを巻いた少年である。
この二人もリンドウ率いる第一部隊所属となった。リンドウの部隊最大の強みは生還率が90%を超える為、新人を育てるのには最適なのだ。
そんなちょっとお花畑な話をしているアキに、なにか疲れた感じのリンドウが応える。
コウタはあまりお勉強は得意ではないが、それでも人の心の機微には敏感な心優しき少年だ。
それでもアキの話とリンドウの反応がいまいちズレている様な気がして、状況の把握ができていない。
サクヤはそれを聞いていながら、リンドウを労ってあげなきゃと考えている。
「とにかくだ。その新種についてはまた別途偵察隊が出るだろうから、何か分かるのはその後だ。今回は攻撃されなかったが、アラガミはアラガミだ。もし戦場で遭遇したら決して油断せず不用意に近づくなよ。特にアキ。お前にはよーく言っとくわ。」
「もし次会ったらきっと戦う運命になるのでしょうか、でもこれが私達の」
「いややっぱお前は遭遇したらすぐに退避してくれ。」
「今回リンドウ達が遭遇したのは贖罪の街でしょ? ならそのあたりを根城にしているのかしら。広域放浪傾向なら場所の予測も難しそうね。」
「さあな。なにせ急に現れたかと思えば、コイツと仲良くサイゴードを倒してどっかいっちまった。何がしたいヤツかわからん。常識は通用しなさそうで厄介なヤツかもな。」
今までに無いタイプのアラガミ……それに各々がどう思うか。アラガミである以上すぐに仕留めろと思う者、興味深い観察対象だと思う者、コアをゲットし高値で売ろうと画策する者、そしてお花畑な思考をしている者……極東支部…通称:アナグラでは今日も変わらず、ゴッドイーター達が人類の牙として神を喰らうのだ……。
そんな話を第一部隊がしている同時刻、また少し離れた場所で話合う者達がいる……。
「くっそー! 俺達があの時アレを仕留めてりゃあ今頃特別報酬があったってのによー!」
「全くだ、ヴァジュラに邪魔されていなければ逃がさなかった。逃した獲物は高かった。さっさとミッションとして討伐任務が出てくれればありがたい、次は俺が仕留めてやる。」
「ずいぶん自信があるわね。アレはなかなかに素早いわよ…? 一目散に逃げられちゃったけど…でもそれは判断能力が高い事って思わない…?」
「んなもんトラップで動き止めれば問題ねーよ!」
「お前それ誘導係が自分だと忘れてないか? 剣持っているのはお前だけだろうが。」
「あ…じゃあ他の部隊のヤツ借りればいーじゃん! こーいうので報酬欲張んなくて受けてくれそーなやつ…ブレンダンとかどうだ!?」
「アイツはバスターブレードだ。素早いヤツ相手の誘導なんか一番向いてないだろう。少しは頭を使えシュン。」
「なんだとカレル! じゃあ誰にするんだよ!」
「なあに、お前がヤツを引き付けていればいい。そこを俺が撃ちまくってやる。」
「それ俺ごとヤってんじゃねえか!!」
「冗談だ。タツミあたりなら機転も利くし素早い。あいつと協力して遂行する方が現実的だ。報酬はその分減るが、確実な手となるだろう。」
「あ、あの、皆さん! その話なんですけど…。」
ラウンジ内、リンドウ達からまた離れた場所で缶ジュース片手に話していた第三部隊…小川シュンとカレル・シュナイダー、そしてジーナ・ディキンソン達に若い女性神機使いが話しかけに来た。
極東支部第二部隊(防衛班)所属の台場カノンだ。ピンクのボブヘアーに緑のノースリーブワンピース型制服を着る可愛らしい19歳の神機使いである(しかもナイスバディ。)
彼女はブラスト型神機(威力が強くエネルギー消費の激しい砲撃神機)を操る、顔に合わず非常にパワータイプのゴッドイーターである。
「それ私も参加してもよろしいでしょうか…? あ、足を引っ張らないように頑張りますから」
「「ダメだ!!」」
しかしシュンとカレルはNOの意思表示を元気よくハモって示した。
「そ、そんなあ、頑張りますからぁ~……。」
「……いいかしらカノン? あなたのやる気は買ってあげたいけど、あなたはまだ2年目でしょ? そんなに急ぐものじゃないわ。まだ何も情報の無いアラガミと戦うなんて危険よ。」
「うぅ…」
「大丈夫よ。あなたが頑張っているのは知っているわ。それにあなたは第二部隊で防衛班の任務があるでしょ? 守るべき人がいるから、あなたはゴッドイーターになったんでしょ…?」
「はい……すみませんジーナさん。あれ? でもタツミさんも第二部隊ですし、班長ですよ?」
「……彼は経験を積んでいるし機転も利くから……。あなたもよく知っているでしょう?」
「そ、そうです! タツミさんは本当にすごいんですよ! 私も見習ってます!」
「そうでしょう? さ、戻りなさい。あなたにはあなたの戦場があるわ。」
「すみません! ありがとうございましたジーナさん! 私、なんか焦ってたみたいです。戦果を挙げて一人前に認められなきゃって…。また任務で会ったら皆さんよろしくお願いしますね!」
ひとしきり会話してからカノンは自室へと戻っていった。ラウンジのエレベーターに入っていった彼女は、ふんすふんすと意気込んでおり、今日もまた頑張ろうとう気合が見て取れた。
(そうですよ! わたしにしかできない事だってあるんですから! もし任務中に噂のアラガミが出てきてもドッカーンっとやっちゃいますよお! わたしだってお役に立てるんですから!)
そしてカノンを見送り第三部隊は安堵した表情を見せる。
「ご苦労だったなジーナ。ああいう手合いは苦手だ。説得しようにも変に食い下がってくるからな。」
「ええまあね……。柄にも無く喋りすぎた気がするわ。今のあの子と任務に出たら、アラガミどころじゃないものね……。」
「アイツと出るなんて冗談じゃねーッつの! こっちが死んじまうぜ。」
「悪気が無いから…怖いのよねえ……。」
ジーナが積極的にカノンをフォローしたのは、ひとえに一緒に戦場に出たくないからであった。
けっしてイジメているわけではない。しかしアナグラの神機使いからしたら、一緒に戦いたくない人物でもあるのだ……。
台場カノン:通称『誤射姫』
戦闘時に凶暴な砲撃手になり、敵味方の区別があまり付いていない二重人格者…さらにオラクル細胞の適合率が非常に高い(=素の戦闘力が非常に高いという事)という、背景が何かと裏目にでる女であった。
(第一あの子…誘導とか一番無理じゃないの……発見したら目の色変えて撃ちまくるから、偵察とか全然向いてないのよねぇ…。)
ちなみに、何かと問題児揃いな第三部隊でも、意外にもあまり喋らなさそうなジーナが、フォローにまわってくれるため、なんやかんやで上手くいっていたりする。
その数日後、フェンリル極東支部より全ゴッドイーター達へ通達が流れた。
『新種のアラガミが発見された。知能が高く危険性が未知のため、現在調査中である。
対象の名称を暫定的に ツクヨミ と呼称する。討伐班以外は接触時撤退せよ。』
そして極東支部:アナグラから場面は変わって贖罪の街某所……噂のアラガミはそこに居た……。
この物語の主人公であるアラガミは、自分が噂の的になり、いつのまにか名前が決まったとは露知らず、せっせと働いていた。
「ウヲッホッ」
(よーしよし 机はきれい目なのがまだあったぞ)
オレはあの日、アキとリンドウとの共闘した時から、実はまだこの贖罪の街へいたりする。
別の場所へ移動しようとも考えたが、かつて自分が製作に携わったこの街に住みたくなったのだ。
コンピュータグラフィックではなく、まさに1分の1スケール、等身大の街に住めるって、考えた事も無かったのだ。
ジオラマ造りをしていたら、ある日ソレとそっくりの舞台が用意されていて自由に過ごせるとなったら、住みたくなるかもしれない。まさに今のオレがその気持ちだった。
しっかし、あの教会跡も割れたステンドグラスも本当にそのままだったなあ。よくアラガミが捕食地点として、プレイヤーがアイテムを拾う地点もそのまんまであった。
オレもそこの地面や壁を喰ってみたが、別に特別美味いというわけではなかった。
しかしそこで食事していると、いつ後ろからゴッドイーター達に襲われるとヒヤヒヤしたもんだ。
プレイしていた頃は、何度も後ろから神機で捕食攻撃したからなぁ…。本当に時はまさに世紀末ってなもんだった。
そんなわけで、今は廃ビルの一室を好き勝手に改造している。
このビルの三階に結構広い部屋があって、家具を持ち込めば立派な一室となるのだ。
ここは街だけあって、廃屋にはこと欠かない。探せばあらゆる家具もあったりするものだ。電気やガスは無いから家電製品はただの置物だが、それでも雰囲気つくりの為に大き目の冷蔵庫は部屋にいれてある。
何も冷やせないが、適当な物を入れておく箱としては使える。何でも食べられるからこそ、ガラクタでも入れておけば立派な食料貯蔵箱になるのだ。
ベッドもこの体なら楽に運べてしまう。引越し業者要らずで楽しい。伸びる腕ってホント便利だ。
しかもこれだけではない。なんとこの髪らしき部位は動かせるのだ。柔らかく曲がり丈夫。物を運ぶのに凄く適していて驚きだ。
しゅるしゅるしゅると動く髪型部位がなければ、こうもいかなかったろう。
正直言って、オレはもうこれは夢じゃないのでは、という思いが9割ぐらい占めていた。いくらなんでも長すぎるし感触や意識もハッキリしている。ならこれはどういう事で今オレはこうなっているのか。
考えもしたが答えなんてわかるわけもない。神様のイタズラです、なんて言われたとしても、ああそうですか と返すだろう。
つまり、完全な理解の外の事象なのである。
落ち込みもしたけど私は元気です。だから今は自宅を作りたくて、せっせと家具運びなんてしているのである。
使えそうなものをどんどん運ぶ。廃ビルだからこそ倉庫も造り放題だ。
セキュリティなんてオラクル細胞保有生物以外怖くない。つーか泥棒とかいるのかなこの辺。
さーて、だんだんと部屋が完成してきたぞ。いろいろな家屋から運び出した物も、レイアウト次第でどんどんいい部屋になっていく。
埃やら汚れなんて、箒と雑巾があれば何とでもなる。廃棄された衣服も破けば布。
水は雨水を貯めておいたのでソレを掃除用にする。しかも瓦礫もポイポイ外に出せるし喰えるから、だんだんと部屋がサマになってきた。
布団なんてこの体には必要ではないが、それでも探せば比較的キレイな布団もあったりする。
前の持ち主が持ち出せずに逃げたか死んだかは分からないが、雰囲気造りのためにはこういうのも必要だ。
こうしてソレらしくなった部屋を見ると、この時代の一般人と比べたらとても良い環境だなあと思える。いくらでも女連れ込めるだろう。但し来るのはアラガミか殺気立った女神機使いくらいだろう。
やっぱり来るな カエレ! チェンジで。
この部屋は広く15畳以上はある。もともと会議室か多目的室か分からないが、天井も高い。結構いい部屋だったのではないか。
中にはベッドに布団、そして大型テーブルに洒落た装飾のイスもある。こーゆー調度品ってオレ好きなんだよなあ。格調高い西洋風家具とか、インテリア冊子読んでるとため息でちゃうんだよねぇ。この時代にそういうのを持てるのはごく一部の金持ちくらいだろう。
あと大きめな冷蔵庫には食材代わりのガラクタが入っている。調理いらずのレトルト食品だぜ。結構イケるよこれ。
空き瓶もあり、これは元はウィスキーだったのだろう。中身は空だがラベルも少し破れて汚れているぐらいだ。ワイルドな風貌になっており、これに液体でも詰めておけばまるで酒だ。
今だけは何でも喰えるこの体に感謝する。
更に調度品として大きい収納棚も見つけた。この中に、空き瓶やら置物を入れておけば、まるで外国のそういう部屋のセットの様で雰囲気がある。
他にもよく分からない英語の書かれている色あせたポスターやら何やらを壁に貼り飾りも良い。
皿も割れていないものが多く見つかったので、意味は無いが食事の雰囲気が良くなる。ここに透明のクリスタル花瓶と白い花を挿して飾りたい。
あと、白いテーブルクロスとかほしい。端には洒落た刺繍の入っているやつ。どこかにないもんか。
こういうのは大事だ。人間の常識から考えると、本来は薬品やらスコップやら武器やら、必須の物を揃えないといけないがアラガミの体ならそんな物はいらない。
怪我も何か喰えば直るし、地面を掘るのも手(刃)で充分。武器もこの体そのものが武器だ。
つまり戦場でもオレは塹壕などではなく一般家屋に住めるわけだ。
この目は夜でも物がよく見える。電灯もいらないが、ベッドの近くに小さめの机と電気スタンドを置いている。
さらに大型バイクも見つけられた。少し離れた倉庫があって、シャッターを破ると中に入ってあったのだ。
当然パンクしてガソリンも無いが、黒色を中心としたマニュアルタイプのバイクだ。
どこの企業のバイクかは知らないが、雑巾で水拭きしたら、まあまあ様になる。錆び落としは見つからなかったから錆びはあっても飾りとして部屋の隅に置く分にはそれでも良かったのだ。
こうやって好き勝手に他人の家から物が持ち出せるなんて、今まで無かった。
でも、神機使いに見つからないように動く以外は特に制限もないから楽しかったりする。
完成! オレの家! そしてご馳走でひとりパーティー。
ビルの三階から飛び立つオレが見つけた獲物は、なかなかにツイている。
シユウ発見! 中型種です!
前方200メートルぐらい地点に歩いていやがる。この数日、小型アラガミしか喰っていないが、おかげで以前よりこの体は強くなり体力も全快している。
あの日……初めて生でヴァジュラを見た時、敵う相手じゃあないと思った。しかしオレはアラガミだ。喰えば強くなる体質であり、そろそろ上のグレードも食べてみたくなったのだ。
シユウ:中型アラガミ。体長は3~4M付近。鳥のような頭部と人型の二足歩行だ。両腕は翼となっており、たぶん手羽先みたいな味がする気がする。しかしコイツは、戦い方がなんと格闘なのだ。両手の爪は払えば剣、突けば槍の武器という武神カラテカですらここまでいかない。
さらに両手から炎の弾までだせる。構えが波動拳そっくりなので、これの基となったアラガミは、俺より強いやつに会いに行く精神の武道家を捕食したのではと噂だ。
なぜこいつに戦いを挑むのか。それは今後神機使いや大型アラガミと戦うハメになった場合だ。
いい加減オレも実戦を経ないといずれ死ぬ。シユウならゲームでも何度も戦ったからこそ気をつけるべき部位も知っている。
手だ。手さえなんとかすれば勝てる……と思う。
不思議なハナシだ。オレはこんなにも好戦的な奴じゃ無かったのに、今はアラガミの力と、美味い飯を楽しみたい気持ちがあった。オレを守ってくれる法律は無い。しかし今のオレには縛られない自由があるのだ。
今回は不意打ちはしない。周りには他のアラガミも見えないので乱入される前に、この鳥人間とタイマンでケリをつけてやる。そのまま近づき、やっこさんもオレに気づく。威嚇の唸り声も、覚悟を決めた今ならば戦いのゴングになる!
オレがどこまでこの世界で戦えるか……その試金石にしてやる。
今夜はチキン! ビールもね。
「ウワォオォ!!!」
(こいやシユウ! まずは腕1本!)
シユウの片手がオレに迫る! それを迎え撃つは我が両刃! まずはその手首から貰う!
戦闘開始!!!!
自殺志願者が殺されにでもきたか。アラガミエデン。
――ノムリッシュ聖典第1章第4節 黒塗りの馬車から始まるものより抜粋
世界荒廃モノだいすき。