欲しかったのはその手首だ。
シユウの貫手をオレの右刃が絡めとる。
剛い腕から放たれる一撃を、柔い腕で絡めるのだ。
右腕をいなし、絡めた腕を引き抜く。その2動作で手首を斬る―――。
絡めつつ斬り、引き離しつつ斬る。
この腕だからこそできる技だ。それでもシユウの腕は断てないが、まずは傷をつける事から始める。
「キュォアア!!!」
知らない攻撃方法で己の右腕を傷つけられたシユウが、咆哮をあげる。
なんだ今のは この程度で俺を倒した気になったのかと、言いたげな咆哮だ。
しかしすかさず放ったオレの蹴りを、シユウは咄嗟に右腕で防ぐ。
その翼の生えている腕は盾となろう。
しかし今のは防がせたのだ。追い討ちに、両手の乱撃をシユウに浴びせ、そのまま翼の盾を削る。
こちらのコンボを受けつつ、強引にシユウが鋭い重蹴りを放つ! 鳥獣類の前蹴りだ。
強引に突破してきた粉骨砕身の重量だが、オレは右足を軸に
反射神経と追従動作の噛みあわせから繰り出す技―――!
そこだ! 左のミドルキックを、シユウの肘に叩き込む! 力の入ってない腕なら、太い肘関節も
このアラガミボディから放たれる格闘術は、同じアラガミを屠れるのだ!
たとえ巨人でも殺せる。
逆くの字に折れたシユウの右腕は、その衝撃で先の裂傷跡から、各所亀裂が入り鮮血を噴出させる。
「ギャ!」
そうだ、痛いだろう。例えば指の腹を切った時、もしうっかり指の腹を伸ばしたらどうなるか……。そう、さらに裂ける。
切り傷の恐ろしさは、力の入れる方向を誤ると、文字通り傷口が広がる事よ。
これでシユウの右腕はぼろぼろだ。この機を逃さん!!
折れた右腕に飛びつき抱く。右腕一本もーらった! そのまま後ろ廻り! ゴギョリと蠢く響きと共にシユウの右肩関節が砕けた…。
「ウヲッ!!」
(貰ったぞ右! そこだッ!)
体勢を整えるため離れる。そして怯んだ隙は見逃さない。コイツを殺して喰う。情けはゼロだ、いくぞ……本能全開で突っ切る!!!
「ウヲロロアアァ!」
右のローキック! 左のボディブロウ! そしてジャンプし、シユウの頭部にドロップキック!! 32文ロケット砲の真似事だが、シユウの巨体が後ろへ大きくのけぞる! 効いているぞ! 間違いなく!
シユウの頭部が 「結合崩壊」 しました!
崩れた身体なぞ絶好の的だ。そしてシユウの弱点も覚えている。それは屈強な肉体の上にある「頭部」なのだ。
ゲームでもシユウの頭部を的確に破壊するバレットを作れる。これがネットで造り方を公開され、数多のプレイヤー達が作ったであろう。
通称、シユウかおまっか弾だ。
あれから学んだ技をオレは存分に、このアラガミボディから格闘術へと変換させていた。
マジですげえ……こんなにも強くなれていたとは。それだけではない、覚悟を決めた戦いはこうもパフォーマンスに差が出るのか。
「ぐるるあああ!!」
そんなに崩れた頭で威嚇しても恐怖はない! 更に両腕をシユウの背中、首に絡ませて固定し、追撃の膝蹴り!!
ムエタイの首相撲からのティーカゥだ! 膝! 膝! 膝!
膝の連撃を顔面や顎に叩きこまれたシユウの上半身がビクンと反応する。確実に効いている。どんどん闘争反応が湧き上がってくる…!
どんどん心が、熱い赤色で塗り固められてゆく。
ここで確実に"ヤッて"やる…。おらァ! 今まで散々チョーシくれちゃってよォ…"アラガミ"くんよぉ、なァ…ビキッ ビキッ……ご…あああぁあぁあ!!!
!?
テメーは"ひき肉"だァ! カンベンくれてやった時ねーからよォー! オゥ…“バール"持ってこい……!
更にオレの右ボディブロウが腹にぶッ刺さる。
「ガッハァア!!」
ズガッ! ゴッ! バギャッ!! ゴシャッッ!!
さらにロー! ロー! ロー! アッパー、フック、カチ上げ蹴り!
「ゴアッ!」
その時である、シユウの左手のひらが爆発した。爆発したのだ。
不意の衝撃にぶっ飛ばされ体は宙を滑走する。
後ろの壁を砕き、オレの体が止まる。火傷よりも、視界が少し奪われている事のほうが痛い。
な…なんだ? 今……本能が……理性が飛びそうだったぞ…。
というか、今何があった? 爆…発? 爆発したのか? 敵…? どこからか攻撃されたのか…?
そうではなかった、相手はやはりシユウ一体だけだ。…そうか。こいつ自爆覚悟でやりやがったな…!?
シユウは両掌から炎球を出せる。いわゆる波動拳ってやつだ。
インファイトならこの技を封じれるハズだった。しかし、決死の覚悟が砲塔の暴発を選び、オレを引き剥がしたのだ。
その代償は己の左手だ。
オレはすぐに立てなかったが、それは相手もそうだ。何度も斬撃と打撃をくらい、何箇所か穴も開いている。
しかも右腕は折れており左手も無くなっている。極みつけに頭も半分崩れている…。
シユウは……それでもなんとしてもと、逃走を試みる。倒れているオレを背にどこかへ走り去るつもりだ。そして捕食して体を再生させるつもりだろう。
一歩、二歩と踏むこんだ所で、ガクンと片膝を着き前のめりに倒れる…。
「ギャッ…グァ…!?」
困惑している。それもそうだろう、何故今自分は転んだのか、わかっていないのだ。
今までの自然界の戦いでは知らなかっただろう。真の格闘術の恐ろしさを。
両腕の破損は体重バランスを失わせる。その剛脚がアダになったな。強い力が込められるからこそ、間違った方向へ力が一気に加わり、容易に転倒する。
そのスネはローキックによりもうガタが来ている。
ゴッドイーターは、アラガミ相手に格闘技を使わない。意味が無いから。
根性だ、根性で立ち上がるオレは、ここのラストチャンスを逃さない……! 目は見辛くとも、この距離でその巨体は見失う事は無い。
もう逃げられないよキミは。
ガバッと後ろからシユウに飛び掛かり、左刃をうなじへ刺す!
たたらを踏んだシユウの前に着地して、今度は両手刃を胴体の穴に差し込み、一気に斜めに開き真っ二つに斬り千切った‼︎
ザグッ ギシュアッー!!
胴体が断ち斬られたシユウが、最後の声をあげ…動かなくなった。
ようやく、沈黙してくれた。この世界で目覚め、初めて勝利を得た気がする。
そうか、オレも戦えるようになっていたのか。ヒトの知識とアラガミの体は、バンピーだったオレを戦士にしてくれていた。
アラガミの血…ゴッドイーターたちが、教練以外で知る肉体の動かし方は、コレだったんだ。
そして本能が囁く…「喰え 喰え」と。
わかっている、喰いたい、この鳥人を。
口が裂ける…パキパキと、口を造り、シユウの残っている頭部を一口で含み…
齧り…
咀嚼した…!
なんと…なんとなんと…肉 骨 血 腑…それらのコンサートが口の中で凱旋歌を奏でる…!
これよ、この味よ、この味だあ!! たまんねえ! 小型アラガミとは違う広がり…!
まだだ、左の手羽先いただきます! …うっめ。美味いぜこれ! 火を通してなくとも知る新たなる味わい!
ここからは うまいうまい しか言ってないので、そのあとの腹部や鉤爪も、感動を与えてくれた事だけ伝えよう。
そしてあらかた齧り、メインディッシュだ。心臓あたりにある核。
これは、なんだ? 脈打つ球体? 私の美味しい所をギュッとおむすびにしました……て聞こえるような気がする。
ゆっくりとソレを齧る……。奥歯が…ソレを噛みしめる…。
ド ォ ン!!!!
こ、これはぁ! この
突破したぁ‼︎‼︎
アラガミとしての壁を1個突破した!!! 分かる!!! 分かるぞ!!!
歓喜 祝福 快感 感謝 祭 歴史 豊作
なんと言おう。それらの言葉をまとめた感情だ。
信じられない! これが中型種の美味さ!!!
小型種では到達出来ないこの感動は、今食べた瞬間にやっと理解した!
戦闘後のこのグルメパーティー、そして壁を突き抜けた新たな感覚。
天晴れ! これぞ醍醐味よ!
美事! 美事なりアラガミワールド!
ありがとう世紀末! 人からしたら不謹慎だけど、今のオレからしたら、この上なくありがとうー!
「ヲオオォオォン!!」
…オレはこの世界の一員になれた気がした……。
漲るぞ力! 喰って、喰って、強くなれる!
明らかにオレの体積よりも大きい筈のシユウを、喰うて喰うて、喰いつくした。
霧散するよりも前に、夢中で喰った……!
それからどのくらい経ったのだろう。1時間かもっとか、オレはこの世界にきて以来、初の大いなる充足感を味わいつつ大の字になっていた。
地面に両手両足を投げ出して、えもいわれぬ満足を知っていた。
ここは野生の蔓延る戦場だろうが関係ない、今のオレは誰にも負ける気がしなかった。
「フシュウー…」
(信じられねえ美味さだった…。何つ星レストランの高級ステーキとかって、こんなにも美味いのか? これに匹敵するのかなぁ)
食べた事は無かった、しかし、これ以上の感激と衝撃を与えてくれるとは思えない。
それほどなのだ。オレはもう、アラガミに夢中になっていた。
死よりも、生と食の欲望の方が勝っている。
それから何日が過ぎただろうか、あれからオレはシユウ種しか喰っていない。
本当に、シユウとの戦いは愉しく緊張感もあり、何より勝った後に極上のメシになるのだ。
虜になっていた。他の小型ザコアラガミは、襲ってきても返り討ちに出来る、それどころかそれをエサにして、シユウを狩っていた。
シユウだって、傷つき倒れたオウガテイルがいれば本能に任せて食いにくる。そこを奇襲する。オレはこれで雷撃の堕天種シユウも狩り、喰らった。
雷堕天種シユウのビリビリ肉:人間が食べると感電死するけど、慣れるとこのビリビリが堪んねえ、美味さとパチパチハーモニーが僕をおかしくするんだ。中毒性があるかもしれないけどやめられない止まらない。
明らかに十体以上は喰っている。シユウが小規模の群れで移動しているのが功を奏した。
この贖罪の街で、それだけいたのを喰ったのだ。
だから、そんなことをしたら、そりゃあ目を付けられるだろう。
あの天才博士達に……。
「今回の任務は聞いているな? この贖罪の街に謎のアラガミが出てからシユウの数が減っている、その間にコンゴウを強襲する。…死にたくねえなら俺から離れておけ。足手まといになるくらいならな」
「そうですか、旧型の方の足を引っ張らないように努力致しますね。それと足手まといにならないように、旧型なりの仕事をしてくだされば結構だと思いますけど」
「おいおい、やめとけってアリサ。これから任務だってのによ…。……ソーマ先輩はあんなんだから気にするなってば」
「協力しようとせず突っ走ろうとする。果たして神機使いの使命をわかっているのか疑問ですね。」
(お前が協力を言うのかよ……。)
「なんですかその顔はコウタ。言いたい事があるのなら、はっきりとどうぞ」
「え!? いやいやいや無いって、何も! ほ、ほら、アキも準備できてるみたいだし、さっさとやっちゃおうぜ」
「あはは、楽しそうだねコウタ。私たちでもコンゴウを倒せるってところ、ソーマ先輩にも見てもらいましょうよ! アリサも、一緒にがんばろうね!」
「はいはい。アキはいつも楽しそうでいいですね、羨ましいぐらいです」
「さっさと行くぞお前ら。どこから敵が襲ってくるか分からねえ。覚悟が無いなら帰るこったな」
「は、はい! 第一部隊! 任務開始します!」
コウタの緊張感と気合のある掛け声があがり、極東支部第一部隊のアキ、コウタ、ソーマ、そして3人目の新入り、アリサが贖罪の街広場へ降り立った。
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。ロシア支部から来た15歳のロシア少女。銀髪のセミロングヘアに茶色と赤を基調にした帽子や服、サイハイブーツを着こなす新型神機使いだ。その上着は豊満な胸のせいでジッパーが最後まで下がらない。下乳を出すことに躊躇いは無い。
この少女は、非常に優秀な新型神機使いだが、訳あって己以外を信用していない。
本日の任務はコンゴウの群れがデカくなる前に強襲する事。これは新人3人の練度及び連携確認の意味合いがある。
リンドウやサクヤがいた方が適任だが、別任務によりソーマが率いる。コンゴウは聴覚に優れ群を呼ぶため、ゴッドイーターの基本の極意である、各個撃破を試される相手だ。
故に、新人達には連携により各個撃破が求められている。
「コンゴウは聴覚に優れている。モタモタしてるとあっという間に集まってきて囲まれるぞ。習ってきたか新入りたち。」
「ご心配なく。アラガミの特性は一通り覚えておりますので。原則は、はぐれから狙う各個撃破ですよね。」
「そうだ。わかっているならいいが、俺が合図を出したらすぐに撤退地点まで逃げろ。なんだったら今から引っ込んでてもいいぞ。力無いものは邪魔だからな。」
「……あぁ〜、なんでアリサとソーマ先輩が同じ班なのに、リンドウさんもサクヤさんもいないんだよ……。この二人協力とか無理な性格じゃん…。」
コウタの悲しげな呟きは風に消える。
引率役のソーマ・シックザールは、ヨハネス支部長の息子であり、特別なゴッドイーターだ。剛力で操るバスターブレードで、多くのアラガミを屠ってきた実力者である。
青いフードを被る18歳の青年は、他者を寄せつけようとしない。
だがそれは、不器用な彼の優しさと哀しみでもある。
そんな3人と対照的な、どこか楽しげで明るい少女がいる。
本来の主人公である霊代アキ(タマシロアキ)だ。
この班において、唯一ニコニコしている彼女は、ある意味では大物かもしれない。
「…待てお前ら。近いぞ。」
ソーマの言葉に3人は武器を構える。贖罪の街、西地点の道にはぐれコンゴウが一匹いる。周りにアラガミ反応のビーコンはない。ここで強襲をかけ、新人3人の練度を確かめるつもりだ。
コンゴウは、ゴリラ型アラガミだ。空気砲を撃つわ、ローリングアタックはしてくるわ、まぁ厄介な中型アラガミである。
(おれ まえ でる。 合図したら おまえたち 撃て )
(コウタ 後方 アリサとアキ 両翼へ分かれ )
ソーマのハンドサインに頷き、3人は編隊を組む。臨戦態勢を取り、新人たちの鼓動が少し高まる。
(撃て!)
合図とともに三人の砲撃が一気にコンゴウへ叩きこまれる!
不意の乱撃に、コンゴウが怯む。ガトリング二台。ブラスト一台は、非常に強力な砲撃だ。
「今だ! 斬り込めぇー!!」
バスターブレードをひっさげ、ソーマが駆ける。オラクル弾を消費したアリサとアキも、剣形態へ変えて後に続く。
土を踏み締め、重く恐ろしいバスターの一撃が、コンゴウの左腕へ振り下ろされる!
太く重い豪腕ですら、その一撃に耐えられず砕かれる!!
後から二人の剣が、コンゴウの両足へ斬り込まれる。
「ウホォオン!」
いきなり致命傷を負ったコンゴウが、抵抗のために背中の空気砲頭へ、周囲の空気を吸い込む。
しかし既にソーマは大剣を振りかぶっており、そのまま、コンゴウの背中へと振り下ろした!!
ゴガシャァ!!
背中の空気砲頭が砕かれ、コンゴウの動きが止まった。その早技と剛力に、コウタもアリサも、アキでさえ、目を見開く。
明らかに自分たちとは違う強さであった。
「何してやがるお前ら! 捕食してコアを抜け!」
ソーマの檄に、ハッとして、急ぎ剣を捕食形態へ変える。
ゴッドイーターの剣は、捕食形態の時のみ、化物の口が剣から出てくる。そう、アラガミを喰らう化物だ。
ゴゴゴ……アリサとアキ、ソーマの剣から大きな怪物の口が出てくる。
茶褐色のそれは、コンゴウの体へ、三箇所同時に齧り付いた!
「コア摘出……成功だ。これでコイツは終わりだな」
「ふわぁ〜…やっぱり凄いですねソーマ先輩。私達より重い剣なのに、あんなに速く攻撃できるなんて。」
「できなければ死ぬだけだ。お前らもとっとと強くなれ」
「……確かに、素早い一撃でした。」
「へ? もう終わり? すげぇ〜…前、アキと二人でコンゴウ一匹倒した時なんて、もっと手間取ったっていうのに。つーかなんでバスターブレードなのにナイフより早いんだよ……。」
「それはまだお前らが神機の扱いが甘いからだ。他、さがすぞ。」
ソーマは、この三人は新人としては及第点と判断した。油断さえしなければ、コンゴウ一匹くらいなら任せてもいいかと。
『お疲れ様です。皆さん。特にバイタルに異常はありませんね。そこから北東方向へ、コンゴウの反応があります。』
「分かった。おいお前ら、もう一匹いるぞ。コイツらが群れを作る前に仕留める」
「はい! りょーかいです! いこみんな」
四人は慎重に街を駆け、次の標的を探す。
生と死が入り乱れる世紀末……狩人もまた狩られる存在である。
(たまには他のアラガミとか喰ってみようかな。なんかゴリラをこの辺で見かけるし。)
剣を収めてみてはいかがかな?
ノムリッシュ聖典 第六章 魔剣双堕夜 より抜粋。
ゴッドイーターVR出ないかな。