クローン&コピー   作:ザラキは尻から出る

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初投稿れす。


無印前
プロローグ


 目覚めると、知らない場所にいた。

 眼前には割れている巨大な試験管があり、その中を満たしていたと思われる緑色の液体が盛大に漏水している。

 試験管の上方にはプレートが貼り付けられていて、そこには『Neun』とだけ書き記されていた。

 人の気配はしない。

 それどころか、部屋はどこか寂れていて、埃が積もっている箇所もちらほらと見受けられる。

 

 ここはどこだ……?

 俺はたしか、重い身体を引きずりながら自宅へと帰宅中だったはずだ。

 睡眠不足の目を血走らせながら、必死に道中で倒れまいと歩みを進めていた。

 その場所は歩道と車道の区別さえつかないアスファルトの上であって、断じてこんな禍々しく、さらに怪しさ全快な一室ではなかった。

 

 なら、夢か。

 噂に聞く白昼夢というやつを実体験しているのだろう、なるほどたしかに、これは夢とは思えないほどに現実感が溢れている。

 映画などでよく見る、エイリアンなどが入っていそうな試験管が目の前にある非現実的な環境の中で、現実感を噛みしめてしまうのは、少々おかしな話しではあるが。

 

 で、あるならば。

 

「……いふぁい」

 

 王子様のキスの次くらいには夢から覚めるためのお約束ーー頬を抓るというのをやってみたのだが、痛いだけだった。

 判断ミスをしたのかもしれない。

 夢か現実かを確認するために頬を抓った挙げ句、夢ではなく現実だった、なんてこともまたお約束なのを忘れていた。

 

「え、ホントに? 夢じゃないの? ……あれ?」

 

 はっきりと言葉を発して、違和感に気づく。

 シンと静まり返った室内に、鈴を転がしたかのようなソプラノボイスが響き渡った。

 一瞬思考が停止して、ふと試験管に反射した自分と視線が交差した。

 そこには二十四歳のしがないサラリーマンであった俺の姿はおらず、腰まで流れる金髪を携えて、赤い目をした美少女が佇んでいた。

 全裸で。

 

「…………ほぁ?」

 

 身長の低さや身体の小ささを見たところ、小学生くらいだろうか。

 さらに言うと、低学年くらいの幼さだ。

 俺はいつから幼女になった?

 いや、なってねーよ。

 

 間違いなく俺はれっきとした成人男性であったはずだ。

 結婚相手こそいなかったが、好意を抱いていた女性だっていたし、名前だって……、名前だって、

 

 あれ、どういうことだ?

 

 自分の名前が思い出せない。

 それどころか、記憶を掘り返してみても、優しそうな微笑みを浮かべながらこちらを見る妙齢の女性ばかりが脳裏を過ぎる。

 

 誰だよこれは!

 俺は、俺はどこで生まれた……?

 母親は、どんな顔をしていた……?

 違う、こいつは母親じゃない。

 俺はこんな女性を知らない。

 俺は……!!

 

「っ!! ぐぅっ!?」

 

 記憶にないはずの思い出が記憶にあるという理解不能な自分に恐怖を覚え、そのすべてを拒絶しようとした刹那、鋭い痛みが俺に襲いかかってきた。

 

 頭が割れるように痛い。

 血管が沸騰しているんじゃないだろうか。

 全身を刺す痛みに、くぐもった呻き声をあげることしかできない。

 

 なんだよこれ。

 理不尽にも程があるだろう。

 明らかに人間の許容範囲を越えた痛みに現在進行形で苦しんでいるのに、思考だけはクリアなこともわけがわからない。

 俺はどうしたらいいんだ。

 誰か助けてくれよ。

 どうしたら、この『Master!!』……誰だ?

 

『Please call me』

 

 呼べ……?

 何をだよ、助けなら心の中で何度も呼んでるよ。

 

『Please call me my name』

 

 私の名前を呼べ……?

 誰だよ。

 というか、わかりやすくゆっくり喋ってくれてるのはありがたいが、どうせなら日本語で喋ってくれよ。

 

『私の名前を呼んで下さい、マイマスター。あなたなら知っているはずです』

 

 はは、日本語対応可能なのかよ。

 やたらと悠長に喋りやがるし、お前は通訳さんかなにかなのか?

 

『私の名前を呼んで下さい』

 

 そんなこと言われたって、知らないものはどうしようもないだろう。

 自己紹介から始めようぜ、な?

 俺は見た目は幼女、中身は成人男性な名無しの権兵衛さんだ。

 お前は?

 

『奇遇ですね、私にも名前がありません。ですが、マスターの心の中で私の名前は決まっているはずです。さぁ、呼んで下さい』

 

 心の中ねぇ……ようは思いついた言葉をそのまま言えばいいわけだな?

 よし、呼んでやろうじゃないか。

 

「レイジングハート」

『Ok! Mymaster! set.up!』

「……へ?」

 

 驚いた。

 名前をつけてやった瞬間に、襲っていた痛みが消えたのだ。

 それと同時にいつの間にか握っていた黄色の宝石が輝きだし、その輝きが俺の全身を包みーー

 

「え、なにこれ」

 

 ーーセーラー服をカスタマイズしたかのような、メカメカしい白い服に変化した。

 並びに、宝石を握っていたはずの手のひらには、これまたメカメカしい白い杖がなぜか握られている。

 そして、杖の先端がチカチカと発光していた。

 

『契約は成立しました。これからよろしくお願いします、マイマスター』

 

 お前、杖だったのかよ。

 

「……説明を要求する」

『はい、あなたはこの違法研究所でーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイジングハートからざっと説明されて、少しだけ一連の不可解な謎が解けた。

 どうやら、俺は転生、ないしは憑依というものをしてしまったようだ。

 二十四歳の俺は死んでしまったのかとか、なぜ憑依したのかとかの謎は残っているが、ここは完全に俺の知る世界とは別物で、異世界……なのだと思う。

 

『マスターはまだ身体が癒えていません。情報を整理するよりも先に、まずは休息を取りましょう』

「………………わかった」

 

 これから、俺はどうなるのだろうか……。

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