クローン&コピー   作:ザラキは尻から出る

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なんか、めっちゃお気に入りが増えている。
何が起きた。


にわめ

 静まりかえった夜の街。

 日中の賑やかだった喧噪はすっかりと鳴りを潜め、時折聞こえる緊急車両のサイレンだけがBGMとなっている。

 

 その街から見上げた上空、高度は目測でおよそ百メートルくらいだろうか、一抹の不安を感じながらアクセルフィンで飛び出した俺は今、デカデカと輝く満月と一望出来る街並みを眺めずに、全神経を一点だけに集中させていた。

 

 眼下ーーサーチャーが捕捉している彼女、夜道をひた走る高町なのはの腕には一匹のフェレットが抱かれている。

 その首にはレイジングハートにそっくりで色違いの宝石が吊されており、胴体には包帯が巻き付けられていた。

 この宝石が気になって未だに援護していないというのもあるが、集中している要因はそのはるか後方、蠢く黒い物体のせいである。

 

 初めて見るが、おそらく魔法生物。

 逃げる彼女の数倍はあろう大きさの体躯、そして頭部と思われる部分には二つの目と口のような穴が空いている。

 その中身は赤く、肉体があるのかどうかは遠目では今のところわからない。

 胴体と思われる部分からは数本の細い触手が生えていて、それらを合わせた全貌は、ぶっちゃけてしまうとただただ気持ち悪い。

 

 その生命と呼んでいいのか迷ってしまうような物体は、高町なのはの魔力を追いかけている。

 感知能力が低いのか、足取りはあまり速くはないけれど、それはあくまで移動魔法を行使した場合での基準だ。

 小三女子の足ではいずれ追いつかれてしまうだろう。

 

 だからいつ緊急事態が起きてもいいように、セーラー服タイプよりも少々防御力の劣るローブ型のバリアジャケットを身に纏い、偽装スキンだってフードに貼り付けた。

 いつでも発射出来るようにディバインシューターだって形成して維持し続けている。

 それなのにーー

 

「フェレットさん、あんなに大声で魔法のことばらしたらダメ!」

「あなたは、魔法を知っているのですか?」

「もーっ! まずはごめんなさいでしょ!?」

「え? あ、はい。ごめんなさい」

 

 あいつら、走りながらどうでもいい会話しすぎだろ……。

 高町なのはは頬を膨らませてむくれているし、フェレットも助けを求めた割には恐怖を感じていないように思う。

 あれなのか、実は余裕なのか。

 わずかな隙も見逃すまいと気を張っている俺が馬鹿なのか。

 

 あー、もう帰っちゃおっかなぁ、とか考え始めていたそんな時、高町なのはの口から衝撃的な一言が放たれた。

 

「わかってくれたなら、いいよっ! 気をつけてね? 爆発しちゃうんだから!」

 

 脱力していた俺にクリティカル気味に放たれたそのパンチ力ある一撃は、見事に脳髄まで衝撃を浸透させる。

 予期せぬダメージを受けた身体はよろめき、ローブの裾が夜風と共にはためいた。

 

 爆発。

 それは人間そのものである。

 高層ビルの解体などでは職人がダイナマイトの位置や着火するタイミングを正確且つ細かく計算し、有名な会社が行う解体作業は時にショーとして披露出来、金さえ取れるほどの人気を誇る。

 爆発という使い方によっては残酷な結果となる危険現象が人々を魅了するのは、皆が内心では何かを壊したいと思っている証拠だろう。

 自らの内に隠された嗜虐心の現れとも言える。

 普段は理性で抑えているが、人間とは怒りが理性を越えた時、破壊的行動を起こすのだ。

 つまり、人間の本質とは破壊であり、その本質が壊すのは善良な自らの心でもある。

 すべてが壊れた者は、その破壊衝動をぶつける相手を他の生命や物体に移し、そうして犯罪者は増えてゆくのだろう。

 そんな人間にならないように俺、ノインは精進していきたいと真に願う。

 うん、何が言いたいのかというと、以上の暴論みたいに意味がわからないねってことだ。

 

 って、そうじゃない。

 困惑しすぎだろ、落ち着け、俺。

 あれか、自分だけじゃなくて、全く関係がない魔法使いが世間に露呈しても俺は爆発するのか。

 だとしたら、全世界の魔法使いは俺に頭を垂れるべきだと思う。

 

「はい? 爆発、ですか……?」

 

 フェレットの頭に疑問符が大量に浮かんでいるのがありありと見て取れる。

 当然だろう。

 だって、嘘百パーセントで塗り固められた御伽噺よりも嘘が多い作り話なのだから。

 

「そうなの! 爆発しちゃうんだよ!? …………権兵衛ちゃんが」

「権兵衛さん……ですか?」

「うん、次に会ったら友達になる予定の娘なの!」

 

 フェレットの問いかけに食い気味に答える彼女にはたいへん申し訳ないが、こちらには友達になる予定なんてスケジュールに入っていない。

 

 というか、そうか。

 俺が爆発しちゃうんだもんな。

 彼女にとっては命が懸かった話しなわけで、友達うんぬんの下り以外はどうでもいい話しじゃなかったわけだ。

 

 それで自分が危険な目にあっているのだから、本末転倒だとは思うのだけれども、彼女は他人を優先出来るいい子ってことなのだろう。

 今時こんなにいい……、あ。

 

「マズいッッ!! あなたには資質があります、魔法の力を扱う資質が! お願いします、あなたの力を貸して下さい。お礼なら後日必ずします! 僕に出来ることならなんでもします!」

「お礼とか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょーっ!? ど、どうすればいいの!?」

 

 物体がその姿を現した途端に、俺の視点からだとシリアル気味だった会話と雰囲気は粉々に砕け、空気がピンと張り詰めた。

 きっと、本人たちは大真面目なのだろう。

 しかし、どうにも俺は肩の力が抜けてしまう。

 

 そんな気分でいながらも、俺はアクセルシューターを一発放つ。

 軽く撃ち出された黄色い弾丸は、ゆっくりと放物線を描き、吸い込まれるように物体の背に命中した。

 木琴を鳴らしたかのような心地よい命中音とは裏腹に、アンブッシュをお見舞いされた物体は警戒する仕草を見せ、その大きな身体を縮こめる。

 

 その間、約十五秒。

 

 どうなったかな、と高町なのはの方を見やってみると、逃げる隙を作ってあげたというのに、彼女は桃色の宝石を握りしめていた。

 十中八九デバイスなのだろうけど、もしかして……。

 

 

 

 

 起動させる気なのか、という予想は的中したようで、彼女は目を伏せ、フェレットと同時に言葉を紡ぎ出す。

 

「「我、使命を受けし者なり」」

 

 その言葉は力強く、はっきりとした意思が宿っている。

 

「「契約の元、その力を解き放て」」

 

 そして、彼女の魔力が生まれるのを待ち望んでるかのように荒ぶりだした。

 

「「風は空に、星は天に、そして」」

 

 以前感じた既視感。

 彼女と出会った時に感じた既視感が、頭に訴えかけてきた。

 俺は、この光景を、知っている…?

 

「「不屈の心はこの胸に! この手に魔法を! レイジングハートッ、セーット・アーップ!」」

『All right!! Stand by ready set up』

 

 聞き覚えのある名前を彼女が呼び、聞き覚えのある声ーー先程から一言も喋っていない俺の相棒と同じ声でデバイスが起動し、桃色の光の柱が夜空を突き抜けた。

 

 オイオイ……俺と同じくらい魔力あるんじゃないのかこれ。

 

「すごい……なんて魔力だ……」

 

 と、思っていると、フェレットも俺と似たような感想を囁いた。

 

「ど、どうすればいいの!?」

「防護服と杖の作成を! 自分が考える姿を思い浮かべて!」

「そんなこと言われたって! えーっと……とりあえず、これで!」

『Barrier jacket set up』

「成功だ!」

 

 彼女がバリアジャケットを作成して、半ば解けかけていたいくつかの問題に解答が導き出された。

 

 「ほぇ? ほぇーっ!?」

 

 間抜けな表情で首をぶんぶんと振る高町なのはのバリアジャケットは、俺の作成したものと同じで、さらにその手が握る杖まで同じ形状だったのだ。

 俺は彼女にバリアジャケットを見られたことはあっても、杖は一回も出していない。

 そんな彼女が寸分違わぬ杖を偶然作り出した?

 ありえない。

 

 つまり、彼女こそが俺の理想の魔法少女であり、あの杖こそが本物のレイジングハートであり、俺は無意識下で彼女を真似していた偽造品だったというわけだ。

 なら、知り得るはずのない情報を知っている俺はなんだ?

 ここが過去で、未来からタイムリープしてきたのか?

 地球に住んでたサラリーマンが?

 冗談だろう。

 たとえ地球にタイムマシンの類があったとしても、どうして収入の少ない会社員が使えるというんだ。

 

 そして、何よりも不可解なのはーー

 

「ねぇ、レイジングハート」

『はい、どうしましたか?』

 

 本物のレイジングハートと同じ性能、同じ姿。

 違うのは色だけだ。

 今までは何も疑問に感じたことはなかったけれど……。

 

「君さ、何者?」

 

 こいつは絶対に普通のデバイスじゃない。




レイジングハート(本物)の起動時のセリフが抜けてたので追加しました。
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