『その質問に対するいくつかの解答は、制作者により情報制限がかけられています。そして、伝えられることもあまり多くはありません。それでもよろしいですか?』
叩けば埃が出ると判断した俺の考えは間違っていなかったようで、レイジングハートはやはり何かを知っているらしかった。
もっとも、埃の大半は制限という名の金庫の中に保管されてしまっているみたいだが。
制作者……まぁ、違法研究所の連中だろう。
何が目的でそんなことをして、発言に制限まで敷いておいて何故、研究所に置き去りにしたのか、甚だ不思議でならない。
その辺も掘り下げれるようなら聞き出してみようと思う。
おのれ、プロジェクトF,A,T,Eめ。
いつだってあいつは俺を苦しめやがる。
「いいよ、聞かせて」
俺は軽く頷いて肯定する。
その際に高町なのはを一瞥したが、問題は何も起こっていなかった。
問題どころかむしろ、アクセルフィンやフラッシュムーヴを早くも使いこなしている。
デバイスを起動してから僅か一分の出来事である、やはり理想象は格が違った。
俺が一週間もかけたことをたったの一分でやってのけているのを見ると、あの苦労がただの徒労だったかのように錯覚してしまう。
弱めのアクセルシューター一発で怯んでしまうような相手だし、彼女がレイジングハートを起動した時点であまり心配はしていなかったが、ここまでとは……。
それにしてもあのフェレット、まさか落下型ヒロインーーもとい一人で動こうとしていた少年なのだろうか。
人間の姿は仮の姿で、本体はフェレットだったとか……?
すごい精度の変身魔法があるんだなぁ……俺も使ってみたい。
閑話休題。
俺のレイジングハートーーレイハは、頷きに催されてチカチカと点滅を開始する。
『私は、その制作者により祈祷型ロストロギアと併せて作成されたデバイスです。つまり、ロストロギアに片足を入れているということですね』
俺の顔は今ポカンとしていることだろう。
開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだ。
普通じゃないとは思っていたけれど、誰が憑依してから肌身離さず所持していたものが危険物だと予想出来るのか。
少なくとも、今知ったこの事実で俺のいくつかの未来は消失した。
憑依の謎を解き明かした上で、それでもこの身体で生きなければならなかった場合、管理局に保護、ないしは仕事の斡旋をしてもらうーーなんて将来もつい最近からは見据えていたのだ。
なぜ最初からそう考えなかったかは知識不足に他ならないが、こうして地球にこれたのだから結果オーライだろう。
いやまぁ、無意識に高町なのはを求めている可能性を思慮に入れると、結局は考えついていても同じ末路を辿るのかもしれないが。
レイハがロストロギアだと言うのなら、明らかにロストロギア不法所持に該当する。
発覚してしまったら取り上げられてしまう上に犯罪者である。
違法研究の被害者から一気に犯罪者へと祭り上げられてしまうのである。
俺は憑依してから今、この時までの期間で、レイハには愛着をもってしまっている。
どれくらいの愛着なのかというと、管理局にいくという将来の選択肢を捨ててしまうくらいには。
冬から春までの間にずっと一緒だったという事柄は、その程度の感情を募らせるには充分だったということだ。
もっとも、レイハが俺をこの身体に憑依させたとかだったならその限りではなかったが、どうやらそうではないようであるし。
『それくらいしか言えることはありません。制限さえ突破出来たなら、お役にたてたかもしれないのですが……。申し訳ありません』
「いいよ。よくわからないけど、レイジングハートも被害者みたいなものなんでしょ?」
『そうとも言えるかもしれません』
「ならさーー」
いくつか質疑応答をしてみたが、レイジングハートが返せたのはほとんどが制限がかかっているという「応え」だけで、俺の求めた「答え」を知ることはあまり出来なかった。
つまるところ、一連の加害者は制作者とやらの線が濃厚ってことだ。
そしてロストロギア。
レイハが片足を突っ込んでいるというそれは、現在は機能を完全に停止しており、扱いについては危惧する必要はないとのこと。
詳細は不明だが、祈祷型という言葉から察するに、崇める存在に何かを願ったり祈ったりするものだろう。
崇める、というと、ベルカだと聖王とかか。
ミッドチルダだと……なんだろう。
管理局?
それで、なんらかの因果を通ってレイジングハートになった……?
意味わからんな、どんな因果だよ。
さらに、高町なのはをなぜか知っている俺の元に置いてあったとか。
何か、何者かに操られているかのような、そんな悪意を感じる。
気のせいか、バリアジャケットに身を包んでいるというのに風が肌寒い。
『マスター』
「うん? なぁに?」
『私はどんなことがあっても、マスターの味方です。たとえ世界中のすべてが敵になっても、私だけはマスターの味方です。それだけは、覚えておいて下さい』
「うん、ありがとう。頼りにしてるよ」
レイハにそう言われ、不気味な薄ら寒さはどこかに吹き飛んだ。
替わりに、なんだか嬉しくて頬が少し緩む。
どんなことがあっても味方だ、と宣言されるのは、例え嘘でも心が軽くなる。
レイジングハートを疑ったりするのはお門違いだ。
作られて、自由を奪われて、置いていかれて、レイハだって被害者なのだ。
疑わしきは罰せよというが、俺は今のところ唯一の味方を信じてみようと思う。
さて、ほっこりしたところで、高町なのははどうなっただろうか。
俺はサーチャーに目を向け、耳を傾けた。
「レイジングハートッ!」
『Sealing mode. set up』
「リリカルマジカル、ジュエルシード、シリアル21。封印!」
『Sealing Receipt number XXI.』
どうやら終わったようである。
フルドライブで放たれた封印魔法に捕獲された青く、菱形の宝石が、物体から高町なのはの杖まで引き寄せられた。
あれが飛来したロストロギアかな?
正直迷惑極まりない。
『あれは……』
「知っているのかレイデン」
『誰がレイデンですか。知りませんよ、言ってみただけです。あっ、もしかして期待しちゃいました? しちゃったんですか? 残念、知りませんでした!』
「う、うぜぇ…………」
レイハもいつもの調子を取り戻してきたし、怪我人もなし、事態は概ね良好に収束したといえるだろう。
少しの謎に解答が出たと思ったら、それ以上に積み重なって来たのは良好とはいえないが。
それにしても、俺の実戦経験は誘導弾一発か、陳腐だなぁ。
経験値的にいえば、スライム一匹よりも少ない。
端的にいえば、まるで意味がない。
まぁ、いいさ。
逃げ足には自信があるし。
ほ、ほんとだし。
あとさ、高町なのはさん。
君は一つ重大なミスを犯している。
「わたし、ここにいたらたいへんあれなのでは?」
「あ、あはは……」
頬をひきつらせる高町なのはと苦笑いするフェレット。
「ば、爆発しちゃう! とりあえず、ごめんなさーいっ!」
爆発はしないけど、結界くらい張ろうぜ。
☆☆☆
ところ変わって公園上空。
高町なのはは息を切らし、ベンチにだらしなくもたれかかっている。
正体が露見することを恐れている俺だが、ここはお茶でも差し入れるべきだろう。
だって彼女、フェレットに権兵衛って言っちゃったし……。
一般人には露見しないかもしれないが、少なくとも彼にはバレる。
これは間違いない。
今でこそ慌ただしくしていて忘れているようだけれど、「魔法をバラしたら爆発」なんていう衝撃的なファクターは、冷静になれば自然と思い出すだろう。
そして、彼は彼女に聞くのだ。
「爆発とはなんぞや」、と。
それに対して爆発と人間の関係性について説明する、なんて機転は利かせてくれないだろう。
つまり、先述した通りどう足掻いてもいずれ俺の存在はバレる。
なら、最低限敵意がないことくらいは伝えておこうと思う。
と、いうわけで。
俺はバリアジャケットを解除して、厚手のトレーナーとコールテンのズボンという、防寒重視の私服姿に戻っている。
もちろん男物だ。
そして、せっかくお茶を渡すのならば、俺には一度やってみたいことがあるのだ。
彼女の背後にそっと近づき、右手にもったお茶缶をそろりと頬に近づける。
「はい、お茶」
「うにゃあ!?」
頬に冷たいお茶缶をピタリと触れさすと、高町なのはは猫みたいな鳴き声で叫び、これまた驚いた猫みたいに跳ね上がった。
計 画 通 り !
いやー、これ一度やってみたかったんだよねぇ。
見事な反応をしてくれて我が輩は満足である。
さてさて、
「あれ、権兵衛ちゃん!?」
「こんばんわ」
どう説明するべきか。
次は遅れるかもしれません。
主にレイジングハートの会話の翻訳的な意味で。