初めての三人称視点(?)
出来ているんでしょうかね? 自分ではわかりません。
むしゃくしゃしてやった、反省はしてない。
後悔は多分明日する。
夜も更け、薄暗い公園内。
そこには一人の少女がいた。
荒い呼吸に肩を上下させ、自身を平常な体温に戻すため、出来るだけ身体の力を抜いてベンチに身を預けている。
子供らしく可愛らしい服を身に包んだその少女、高町なのはの腕の中には一匹のフェレットが丸まっていた。
息を整えながら月を見上げ、なのははこの状態に至るまでの経緯を思い返す。
「《誰か……力を貸して下さい……魔法の力を……》」
なのはが自室で眠りに就こうとしていたそんな時、頭の中に聞き慣れない声が木霊した。
聞き取る相手のことを考えてないかのような大音量、そんな傍迷惑な声は、魔法の力を貸してくれと言う。
魔法の力。
通常の思考をもつ者ならば、誰もいない室内で木霊する声に霊的な恐怖感を覚え、きっと翌日に除霊師の元へでも向かうのだろう。
しかし、なのはは魔法の力を知っていた。
なのはは以前、ある一人の少女と出会っている。
誰もいない不思議な空間で、まるで世界から取り残されているかのように、一人で寂しく佇んでいた。
聖祥大学付属小学校の制服に似た衣服を身に纏い、赤い目をした綺麗な女の子。
なのはに権兵衛と名乗った彼女は、目の前で宙を舞い、忠告を残したあとに空へと消えた。
そんな彼女の言葉が、木霊する助けを求める声を聞いた時にリフレインした。
『魔法のことを言いふらしたらボクが爆発する』
そう、なのはは彼女と約束したのだ。
絶対に言わない、と。
そして現在進行形で、「そんなの知ったことか」とばかりに響き渡る声と彼女の言葉を掛け合わせてみる。
「爆発しちゃう!? 行かないと!」
なのはが家を飛び出すには充分な動機付けとなった。
走る、走る、走る。
フェレットを宝物のように抱き抱えながら、なのはは夜の街をひた走る。
声の主を目指したところ、病院に預けたはずのフェレットが異形の化け物に襲われていた。
すぐさま助け、そのまま踵を返したはいいものの、なのはは体力に自信がない。
「フェレットさん、あんなに大声で魔法のことばらしたらダメ!」
「あなたは、魔法を知っているのですか?」
「もーっ! まずはごめんなさいでしょ!?」
「え? あ、はい。ごめんなさい」
追いつかれてしまうかもしれない。
そんな焦燥感が思考の八割を占める中、残りの二割でしっかりと爆発について注意してるあたり、なのはのお人好しさが滲み出ている。
しかし、いや、やはりと言うべきか。
フェレットとの平和な会話は長くは続かず、化け物はなのはの姿を捉えてしまう。
「マズイッッ!!!! あなたには資質があります、魔法の力を扱う資質が! お願いします、あなたの力を貸して下さい。お礼なら後日必ずします! 僕に出来ることならなんでもします!」
「お礼とか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょーっ!? ど、どうすればいいの!?」
「これを!」
あわや窮地に陥る寸前。
資質があると言ったフェレットは、赤い宝石を差し出した。
その小さな両手に掴まれた宝石は、一見ただの綺麗な石なだけだというのに、なのはの瞳にはとてつもなく魅力的に映る。
ちなみに、化け物の存在を忘れて宝石に手を伸ばしているその間に、黄色い弾丸が飛来していたりするのだが本人は知る由もない。
「目を瞑って、僕の言葉に続いて!」
「う、うん!」
なのはは我に返りつつ言葉に従って目を伏せる。
そして、それを確認したフェレットが言葉を紡ぎ出した。
「我、使命を受けし者なり」
「わ、我、使命を受けし者なり」
なのはも続いて紡ぎ出すと、胸の辺りに熱が宿る。
「契約のもと、その力を解き放て」
「契約のもと、その力を解き放て」
ぽかぽかとした温かなその熱は、言葉を零すごとになのはの身体に同化してゆく。
「「風は空に、星は天に、そして」」
そして、最後のキーワードを解き放つ。
「「不屈の心はこの胸に! この手に魔法を!」」
「レイジングハート、セーット・アーップ!」
『All right!! Stand by ready set up』
レイジングハートと呼び掛けられた宝石が機械音声で応えると、なのはに宿っていた熱は形を作り、魔力となって唸りをあげた。
その膨大な魔力は桃色の柱となって空を突き抜け、天を崩さんとばかりにどこまでも駆け上る。
それをポカンと見上げながら、フェレットは感慨深い息を漏らす。
「すごい……なんて魔力だ」
圧倒的な魔力量。
助けを求めた末に現れた少女の予想外な能力に、フェレットの身体は強張り、息と共に自然と感想が囁かれた。
「ど、どうすればいいの!?」
唖然としていたフェレットの意識は、なのはの慌てた声で現世へと引き戻される。
「防護服と杖の作成を! 自分が考える姿を思い 浮かべて!」
「そんなこと言われたって! えーっと……とりあ えず、これで!」
『Barrier jacket set up』
思い出したかのように叫ばれたフェレットの返答に、なのはは一瞬、困惑の意を示した。
しかし、そこでなのはの脳裏に一人の少女の姿が浮かぶ。
魔法使いの女の子。
彼女の服装、聖祥大学付属小学校の制服に似たあの格好。
どこか勇ましく、それでいてかわいらしかった。
潔白としていて、清廉としていた。
そんな印象を意識したら、あとは簡単だった。
見合った杖を想像し、服装と共に記憶に無理矢理刷り込んだ。
「成功だ!」
「ほぇ? ほぇーっ!?」
想像通りの姿となってしまったなのはは思わず素っ頓狂に叫び、首を激しく左右に振った。
ワンテンポ遅れて揺れるツーテールの根元には、白く、大きなリボンが結ばれている。
本来ならそこで状況確認などをしたいところだろうが、そうはいくかと邪魔者が現れた。
「グガーーーーッ!」
それまで畏縮していた化け物が動き出したのだ。
化け物は触手を一本操り、なのは目掛けて鞭のようにしならせた。
「わ、わっ」
『Protection Accel Fin』
「にゃぁーっ!?」
自動防御。
唐突に始まった実戦に反応出来なかったなのはに替わり、レイジングハートが身体の前方に魔力障壁を展開する。
障壁に弾かれた触手は勢いをやや落としながらもアスファルトに不時着し、その破壊力の証拠を地割れとして刻みつけた。
「わっ、空飛んでる!?」
障壁に続いて運用された飛行魔法になのはは目を剥くが、それでもその浮力を失うことはない。
無意識に操っている才能と、レイジングハートとの親和性の高さが成せる業だろう。
屋根の上から屋根の上へとピョンピョンと飛行し、迫り来る触手をなんなく回避する。
狙うべき目標を見失った触手の行き先は迷走し、次々と屋根瓦をめくりあげていた。
そして、なのはは杖を構えーー
「はい、お茶」
「うにゃあ!?」
なのはの数十分前の濃厚な思い出漁りは、介入者の奸計により唐突に終わりを告げた。
完全な不意打ちで頬に充てられた冷たい感触に奇っ怪な悲鳴をあげ、それと共に反射的にポップコーンのように弾け立つ。
何事かと振り返ったなのはは、本日何度目かの驚きの声を発した。
「あれ、権兵衛ちゃん!?」
「こんばんわ」
そこにはなのはがバリアジャケットを作成する時に思い浮かべた少女が、印象とは違う男物の服装で、お茶缶を片手に立っていた。
翻訳……高校中退の学力では厳しいかもしれない。