クローン&コピー   作:ザラキは尻から出る

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よんわめ

 公園内で高町なのはとフェレットに接触したはいいものの、状況は些か芳しくない方向に傾きつつある。

 というかそもそも始まってすらいないのだが、それは後述するとして。

 

 コミュニケーションとは十人十色、人によって千差万別だ。

 静かな会話を好む者もいれば、おちゃらけることに命を賭ける奇特な者もいる。

 当然、それぞれ違うのだから、その人に合うコミュニケーションの取り方というものが存在するわけだ。

 

 では、一人の人間としかコミュニケーションの取り方を知らない奴が、その他の人間に話しかけようとしたらどうなるか。

 いや、まぁ知ってはいるのだが、それも後述するとして。

 

 答えは、「何を喋ればいいかわからない」だ。

 ある意味ぼっちの法則と言えよう。

 自分との喋り方しかわからないから、うまく喋れない。

 うまく喋れないから爪弾きにされ、孤独感溢れる生活を送り、孤独だからこそ会話が上達しないという悪循環。

 すなわち、真のぼっちとは喋れないのだ。

 

「えっと、あのー、権兵衛さん?」

「…………」

 

 したがって今、俺がこうしてフェレットを手のひらの上に乗せ、ただじっと見つめているだけなのも仕方ないことだろう。

 必然と言い換えてもいい。

 

 俺は試験管から生まれて(?)まだ一年も経っていない。

 つまり赤ん坊みたいなものだ。

 赤ん坊がまともに喋り始めるのなんて、遅い子ならば二年近くかかる場合だってある。

 逆説的に、俺が喋れないのは不思議なことではないのだ。

 

「あの、何か話しがあるんじゃ……?」

「…………」

 

 フェレットは困惑しながらも健気に俺に語りかけてくる。

 なんて律儀な奴だ。

 

 一向に喋り出す気配を見せない俺のせいなのか、ぴゅーっと吹き抜ける風が何故か虚しく感じる。

 電灯に小さな羽虫がぶつかり、ジジっと焼け落ちる音が聞こえた。

 気のせいか、あくびをかます野良猫までもが、まるでこちらを急かすかのごとくニャーと鳴く。

 ちなみに、こういう時に必ずしゃしゃり出てくるレインジングハートは、哀れポケットの中に隠されている。

 

 ふと隣を見ると、何かを話したいかのような目で高町なのはがこちらをちらちらと伺い見ている。

 その左手にはしっかりとお茶缶が握られており、力が足りなかったのかプルタブが半開きにされていた。

 俺は見なかったことにして視線をフェレットに戻し、意を決して口を開く。

 

「ぼきゅはっ、…………」

「えっ?」

 

 噛んだ。

 壮絶なまでに噛んだ。

 緊張に強張っていたまま動かされた前歯が残酷無比に落とされ、その動きについていけずに取り残された柔らかな舌を削り取った。

 度し難い痛みに耐えきれず、俺の瞳に涙が滲み始める。

 

 参考までに俺の会話経験を記しておくと、高町なのはとの数回の会話のみということになる。

 なお、レイジングハートは例外とする。

 

 人類至上稀にみるコミュニケーション不足。

 肉体年齢でランキングを作ったら、間違いなくトップクラスに入るだろう。

 二十四歳サラリーマンとして、会話をした記憶はあるが、それはあくまでも記憶であって経験ではない。

 経験とは脳で覚え、身体で覚え、それを知識として吸収することで初めて成立する。

 

 なにより、今の俺は声が違う。

 口を開いてもサラリーマンとしての重く低い声は出ず、それとは真逆の高く心地よいソプラノボイスが出てくるのだ。

 その時点で、認識に齟齬が生じた。

 サラリーマンとして喋っている認識は薄く、ノインとして喋っている認識が強いのだ。

 

 まるで別人ーー実際に別人なのだがーーになったかのような感覚のせいで、始めは色々と葛藤した。

 いや、マジで。

 もっとも、今はもう考えないようにしているが。

 

 以前、高町なのはと会話をした時は、ありえないほどのマシンガントークに助けられたのもあり、「こちらから話しかけにいく」という意識がなかったのもあり、円滑に会話を成立出来た。

 さっきお茶を渡した時だって、奸計への好奇心が勝っていたからこそ出来たことだ。

 

 つまり、長々と何が言いたいかというと、ちょくちょく小出しにしていた通り、俺は今、半端なく緊張しているということだ。

 大丈夫だ、落ち着け。

 出来る俺出来る出来る大丈夫大丈夫。

 

 少し心を落ち着かせ、フェレットの目をしっかりと見ると、俺が舌を噛んだせいなのか、眉らしきものを吊り下げて「どうしよう、喋ってもいいのかな?」みたいな顔をしていた。

 いや、ほんとすみませんね。

 俺は息をゆっくりと吸い込み、吐き出すと共に改めて口を開いた。

 

「あんなに大きな声で念話して! 迷惑だとか考えなかったの!? ボク、寝てたんだよ!?」

「えっ!? ご、ごめんなさい!」

 

 死にたい。

 あれですか、俺はツンで始まってデレで終わる部類の人間ですか。

 不特定多数の他人がいると、素直になるのが恥ずかしくてついついトゲトゲしい言葉を吐いてしまうあれですか。

 いや、別に恥ずかしいから飛び出た言葉じゃないけども。

 

 涙目と震え声のコンボで怒鳴られたフェレットは反射的に謝罪し、こちらをちらちらと伺い見ている。

 お前もか、隣からも同じ視線を感じるぞ。

 

 って、違う違う。

 怒鳴ってどうすんだよ。

 今すぐ逃げ出したいところではあるが、流石にそんな臆病を通り越して、いっそ面の皮が厚いようなことは出来ない。

 

「違う。待って。謝らないで。ゴメン。ボクが悪かった。やり直させて?」

 

 よし、カタコト気味だけどまともに話せた。

 これで勝つる、もう大船に乗ったも同然だーー

 

「ですが、念話の件は僕が悪いですし……。言い訳をさせてもらえるなら、緊急事態だったからなのですが……」

 

 ーー全然勝ってなかった。

 完全に畏縮しちゃってるじゃん。

 上目使いでちらちら見てくるし、腫れ物を扱うみたいに話してくるし、あぁでも、小動物特有のつぶらな瞳がかわいーーって、そうじゃなくて!

 

 敵意がないことを伝えたいのに、これでは勝ちどころかむしろ負けである。

 大船は大船でもタイタニック号だった、沈没船である。

 このままではいけない、俺は慎重に舵取りを開始する。

 

「それはいいんだ。あのね、ボクが言いたかったのはボクが魔導師で、君に敵意はないよってことなんだ」

 

 そう、これだ。

 これが言いたかった。

 よしよし、いいぞ俺。

 

 魔導師は必ずしも高町なのはみたいなお人好しばかりではない。

 邪なことに魔法を使う奴だっているわけだ。

 管理外世界で未確認であり、なおかつ敵か味方かもわからない魔導師がいると知れば、必ずこのフェレットは警戒するだろう。

 余計ないざこざを避けるために、こちらの意思くらい伝えておいて損はない。

 

「あぁ、なるほど。そうだったんですね。管理世界の方ですか? 渡航許可とかはーーあ、爆発ってなんですか?」

「ぐっ、ゲホッ、ゴホッ」

 

 高町なのはと違って啜るべきお茶がないというのに、思わずむせってしまった。

 友好的に捉えてくれたと思ったら、一気にピンチとかどういうことなの。

 上げて落とすとか、なかなか心得てるなこのフェレット。

 気のせいかその顔が凛々しく見えてきた。

 

「ごほんっ。レアスキルだから詳細は教えられないな」

 

 俺は内心の動揺をひた隠し、佇まいを正してから苦し紛れに言葉を返した。

 もちろん咳払いをすることも忘れない。

 

「レアスキルですか……、なんて不憫な……」

「そ、そうなんだよ。とにかく、敵意がないのはわかってくれたかな? あ、それと君の名前は? ボクの名前は知ってるみたいだからいいよね?」

「はい、一応はわかりました。僕の名前はユーノ・スクライアといいます。よろしくお願いします」

 

 なんか今度は同情された気がするが、きっと気のせいだろう。

 流石にすべてを鵜呑みにしたわけではないようだけれど、早口でまくし立てたおかげか、有耶無耶に出来たからよしとする。

 

 それにしてもこのフェレットーーユーノ君はやたらと感情表現豊かだなぁ。

 今だってペコリと可愛くお辞儀してたし、慣れてきたせいなのかお持ち帰りしたい衝動に駆られる。

 まぁ、よろしくするつもりは欠片もないけども。

 

「それじゃあユーノ君、わかってくれたところでーー」

「あーっ!!!!」

「うわっ!?」

 

 そろそろボクは失礼するよ、という言葉は続かなかった、他ならぬ高町なのはの横槍によって。

 隣を見ると、彼女は片方の頬を膨らませ、むーっと唸り声をあげていた。

 ちなみに、突然の大声に驚いたユーノ君は俺の手のひらから転げ落ちそうになっていた。

 

「わたし、高町なのは! なのはだよ!」

「え? あぁ、うん。それじゃあボクはそろそろーー」

「なのはだよ!」

 

 俺の言葉を遮り、アグレッシブに自分の名前を主張する高町なのは。

 その双眸はどこか期待に満ち満ちており、視線は俺に固定されていた。

 

 いや、知ってるけど?

 言う相手を間違えているんじゃなかろうか。

 

「はい、返すね」

「あ、うん。ありがとう」

 

 俺は手のひらのユーノ君を彼女に差し出した。

 手持ち無沙汰になった手はズボンのポケットに突っ込んでおく。

 

「よろしくお願いします。なのはさん」

「よろしくね! なのはでいいよ……じゃなくて、権兵衛ちゃん!」

「……なに?」

 

 俺が差し出したユーノ君を高町なのはが受け取り、二人はお互いに挨拶を交わす。

 微笑ましくそのまま終わればいいのに、やはり彼女は俺に何かを言いたいらしい。

 受け取った時にユーノ君を見たものの、外した視線はすぐに戻された。

 

 なんだろう、と首を傾げていると、彼女は優しく微笑んだ。

 

「なのはって呼んで」

 

 彼女の言葉は、喧噪なく静まり返った公園内によく響いた。

 風はピタリと止み、猫は気ままに散歩に出かけた。

 電灯に群がっていたはずの羽虫さえもいつの間にか消えている。

 まるで、世界がこの言葉を聞き逃すことは許さないと言っているかのようにーー

 

「え? ごめん、聞こえなかった。あ、あぁーーーーっ!!!! もうこんな時間! ゴメン、ボク帰るね! お母さんに怒られーーあっ」

「あ」

「……え?」

 

 俺の直感、もとい悪寒が、的確に背筋を刺激し、「名前を呼ぶな」と警告してきた。

 よって、三十六計逃げるに如かずとばかりに踵を返し、ポケットから手を抜いたまではよかったーーいや、それがいけなかった。

 

 抜くと同時に転がり落ちる物体。

 黄色くて、まあるくて、飴玉みたいな、というかレインジングハート。

 俺の姿勢は振り返った状態のまま固まり、全身に滝のような汗が流れ出す。

「予想外なものを見た」といった反応をした二人を見やるのが怖い。

 

「色違いの……レインジングハート……?」

『By no means, such a reason cannot be found...(まさか、そんなはずは……)』

「どうしてそんなものが……」

 

 純粋に疑問に包まれている高町なのはと、その首にかけられている驚愕するレインジングハート。

 警戒心二割増し、現在急上昇でさらにマシマシ中と思われるユーノ君の声。

 作戦は失敗に終わった、戦略的撤退を開始する!

 

「レインジングハート!」

『All right My Master Accel fin』

「あっ、待って! 今度はちゃんと名前で呼んでもらうんだから! レインジングハートッ、お願いっ!」

『All right Accel fin』

 

 マジかよ、追いかけてくんのっ!?




書いてて気づいた、知識が足りてないと。
レインジングハート喋らせようとしたけど、そもそも最初あんまり喋らないですよね。
原作のお勉強と共に全部書き直します。
詳細(?)は活動報告にあります。
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