「なんでや。なんで、むさくるしい刑務所に入らなあかんのや!」
牢屋の格子をつかんで、頭を打ち付け、殴り、蹴とばし、ごろごろ転がりまわる男が一人。
他の受刑者が一様にボーダーの服を着ているのに対して、ジージャン、ジーパン、頭には赤いバンダナ。
周囲の凶悪犯であっても、もう彼の奇行には感心を示さない。最初のころ、といっても数度前に彼が刑務所に突っ込まれたときのことだが、その時に脅して虐めてと接触したところ、彼の霊能力で撃退され、誰もかれも駄目な絡み方はNGという認識で一致していた。
「おまえが、ここのトップか?」
ただし、初見の人はそんなことも知らずに、奇行に走る男に声をかけた。
「えーと、おしりあいでしたっけ?」
野郎の顔なんて覚えてる方が少ないからな? 昔の依頼者かな? あれ、でもこの感じは嫌な予感がする。とバンダナの男は思考する。
「いや、お前のようなふざけた男にやられた恨みをはらしたいだけさっ!!」
この男、自称音速のソニックという忍者。サイタマに偶然会って、偶然たまたまに一撃喰らって気絶していたところ、賞金首だったので収容されることになった。
いま、目の前にA級賞金首に囲まれた中で自由にいる変わった人が、無事にここで過ごしているのは、クロマティ高校理論からも異質。
そしてふざけている感じも、サイタマに何となく近似していると感じる。らしい
そんなソニックがとった行動は、真正面から最速のけりをかます。と見せかけての斜め後ろから側頭部を狙う一蹴だった。
「のわっと!! いきなりなんなんじゃー!」
しかし、ソニックの目にも留まらずに回避、常人の4、5歩の距離を取って、まったくの無傷でソニックをにらむ。涙だだ漏れで。
「やはり強者だったか。何者だ?」
「名前も知らんのに蹴りかかるのかおんどれわ!」
まあ、なれてるんだけどと、一息ついて。
「男に名乗る名前なんて無いわい!!」
ドーンッと聞こえそうな、聞こえなさそうな。
という感じでにらみ合って、バンダナの男はどう逃げ出そうかなと考えている中、刑務所に備え付けられているテレビから緊急時速報が流れ始めた。
『J市に怪人が複数現れました。海からの襲撃となり、海水浴場は怪人に占領されました。怪人は市街地に向けて進行を進めており、J市にお住まいの方は避難をしてください。本日は、他市においても怪人の被害があり、現在即応できるS級ヒーローは……え、いないの? 失礼いたしました。できても数十分かかる想定となります。A級ヒーローで対応できれば良いですが、住民の皆さま、大至急避難してください。』
と繰り返すように速報が流れ、進行予測が映し出される。
「J市の海水浴場……美女がワイを待っとるんや~」
急に走り出すバンダナの男。下卑た理由で走り出す。
そして脱獄。どうやったのか……サイキックソーサー(霊能力の一つ)⇒壁爆破⇒二度と来ないからな⇒盗んだバイクで走り出す……という流れだった。
もう姿が見えないが、ちちしりふともも、という言葉がなぜか聞こえる。
「なんなんだ。いったい」
ソニックもこれには困る。刑務所生活の長い人が語りだす。
「S級17位のギャグマン。横島忠夫。数々の霊能事件を解決し、女性の胸を見て、怪人を倒し、美女の太ももを触り、魔人すら倒し、女風呂をのぞき、英雄となった男、そして逮捕されそれでも僕はやっていないというヒーローだ」
「それはヒーローなのか?」
「……ヒーロー協会に所属はしている」
沈黙!!
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ところかわって、怪人が発生したJ市では、A級ヒーローの奮闘により、一般人への被害は最小限に抑えられていた。
しかし、建物は破壊され、A級ヒーローたちにも限界がみえはじめていた。
今回の怪人は、個体ではなく軍団。海底人と名乗る海の幸、いや生き物だった。
雑魚といってもA級ヒーローが、一人5体倒せればという怪人が20体の集団にたいし、遅滞戦闘を続け、S級ヒーローの到着を待っていた。今も立っているヒーローは三人。
「スティンガー、まだやれるか?」
「限界だぜ。イナズマ、スネックは」
「簡単にやられるつもりはないが、正直、ダメだ。刺し違えられたら御の字」
A級の仕込み靴のイナズマックス、たけのこ槍のスティンガー、蛇咬拳のスネック。
顔は腫れ、服は破け、装備も消耗した。汗だくで息が切れ、ひざもがくがくとなっている。
残すはあと3体、ヒーローも3人、にらみ合う両陣営、均衡を崩したのは
「あらあら、まだこんなところまでしか進んでないなんて……人間も以外にやるのね」
怪人側の一体の増援、以外にも人間に近いシルエット。頭には王冠、肩からマントたなびかせ、胸にハートのシール?
現れた瞬間、いままで戦っていた怪人から歓喜の叫び。聞こえるのは、我らが王、海の覇者など。
「やつらの親玉なのか?」
A級ヒーローに絶望がおそう。
「あのね、あなた方不快だから死んで構わないわよ」
一人一撃ずつで終わると脳裏をよぎる。そんなとき、けたましいバイクのエンジン音、そして悲鳴。
「ひょぇー、どいてけれー」
まず、ヒーローの一人、スネックがひかれ、ついで怪人の王様がひかれた。
これが、真のジャスティスクラッシュ。
漫画のような爆発がおき、残りの怪人もろとも、炎につつまれた。
「こ、これは事故や」
「スネックしっかりしろー!」
S級ヒーローはパニック。A級ヒーローもパニック。
敵さんは……
「効いたわ……少しね」
無傷の王っぽいのが、ゆったり歩を進めてくる。
「あんた、S級だろ、なんとかなんないのか?」
「ちちしりふとももを見たいだけや。なぜに、こげな、バケモンと戦わないかんのや?」
「内輪揉め? 私の前で、深海王たる私の前で余裕ね!!」
今回の怪人の王、深海王がS級ヒーローの横島に殴りかかる。A級ヒーローには目にもとまらない速さ。
「あぶな。この魚人おもったより、強いのか?」
手から六角形のサイキックエネルギーの塊を出して、盾のように防ぐ。横島の霊能力のひとつ、サイキックソーサーである。瞬時に今度は右手に霊能力を集め、籠手のように形作る。
「あなた、つよ」
「栄光の手ハンズオブグローリー!!」
深海王が何か言おうとする隙をついて、手から伸びたエネルギー状の刃で深海王を縦に真っ二つにした。
「で、水着の女の子は、何処におるんじゃ!!」
「もう、避難していないっすよ」
「スネーック、しっかりしろー!」
もう、なんとも言えない結末をもって、深海王の進軍は幕を閉じた。
うまく表現できないが、ギャグのようであり、悠々と能書きを垂れる敵を待つことなく仕留めた鮮やかさを誉めるべきなのか。
はては、変身を残しておく方がバカなのか。
なお、サイタマとジェノスは別件でヒーローのノルマをこなしていた。