ファイアーエムブレム 竜の軍師   作:コウチャカ・デン

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大変お待たせいたしました。


第19章「焦燥」

 戦闘竜をも撃破したロイ達であったが、西方三島をエトルリア西方三島総督アルカルドから解放したことに喜ぶ間もなく、新たな凶報がもたらされた。

 

『エトルリア本国にて内乱勃発』

 

 その情報を聞いたマークは、このたびの大戦が新たな局面に突入したことを強く感じるのであった。

 

 

 

「エトルリア本国で反乱だって?! セシリア将軍たちは無事なのか!?」

「はっ! セシリア将軍はギネヴィア姫と共に王都を脱出し、ナバタの古城を目指すとのことでした!」

 

 ロイの確認に伝令兵が即座に応え、それにより今後リキア同盟軍がとるべき道をマーク達は即座に構築していく。

 

(ナバタの古城か……三軍将の一角がそこまで逃げなければならない状況となると、一刻の猶予もないとみるべきかな?)

 

 伝令からもたらされたわずかな情報からいくつかの推測を立てたマークは、兎にも角にも行動を起こすべくロイに命令を求める。

 

「とにかく、ナバタに向かう準備を整えよう」

「……そうだね。全軍、出撃準備を! 目標はナバタの古城! セシリア将軍の援護に向かう!!」

 

 マークの求めに応じ、動揺を即座に隠したロイは全軍に号令を出す。

 兵士たちがこの号令に素早く応えるのを横目に、同盟軍の首脳陣は進軍に当たって必要な計画を立てるべく簡易な会議を開くためロイの下に集おうとしたのだが、それをアルが糾弾する。

 

「おい、よくわかんねーけど仲間のピンチなんだろ!? そんなのんびり話し合いをしている場合じゃないだろ!!」

「ちょっと、アル!!」

 

 アルの物言いを諌めるティーナであったが、ロイはそれを遮って丁寧に説明する。

 

「確かに今から話し合いを始めるのは、悠長に見えるかもしれないね。でも、軍が最速で行動するには話し合いは必要なんだ」

 

 軍に所属する各々が全力で移動してバラバラになってしまえば、それはもはや軍ではなく烏合の衆……いやそれ以下の存在だ。

 それに、戦うのに必要なのは兵士だけでなく、武具はもちろんのこと、休息を取るための天幕から食料まで、さまざまな物資が必要となる。

 この身一つで駆け付けたところで、目的は果たせないのだ。

 だが、それは一軍を任された指揮官からの視点であり、正しくは一兵卒ですらないアルにはまだわからないものであった。

 しかし、アルが納得できるまで説明するには、あいにくと今は時間が足り無い。

 

「アル、悪いが今ここで講義をするような時間は無い。……同時進行で行こうか。パント、編成については副将であるフランとまとめてくれ。ロイ、レジスタンスと西方三島の今後について協議しよう」

「あ、うん。わかった。ごめんねアル君」

「細かい話が聞きたいのなら、行軍中になら時間はいくらでも取る。……こちらとしても、個人的にアルには聞きたいこともあるからな」

 

 アルからの返事を待たずに足早に立ち去るマーク達の背中を見つつ、アルは焦燥にまみれた表情でつぶやいた。

 

「嫌な予感が消えない……それじゃ、きっと間に合わないんだよ」

「そこまで言うのであれば、一人で空でも飛んで先行していろ」

「ッ!!」

 

 半分は冗談だっただろう剣士キルマーの言葉に、アルは天啓を得たかのように駆け出すのであった。

 

 

 

 そのように各々が次の戦場へ向けて準備を始めた中、軍には似つかわしくない少年たちが再会を果たしていた。

 

「……なんでこんなトコにお前がいるんだよ、レイ」

「レイ、無事だったんだね!」

「ルゥ、チャド……そっちこそどうしてこんなところに?」

 

 もっとも、感動の再会といった様相を見せているのはルゥ一人だけであったが、それでもチャドやレイの瞳にはまぎれもない安堵が宿っていた。

 本来ならいろいろと聞きたいこと、話したいことが山ほどあった三人であったが、残念なことにこの場で話し込むにはタイミングが悪かった。

 それでもルゥは、リキアでの再会についてだけは伝えなければならないと、簡潔にだが言葉を紡ぐ。

 そう、母親であるニノとの再会について。

 だが、興奮して再会の喜びを語るルゥに対し、レイはどこまでも冷静に……否、冷酷に言い放った。

 

「……ルゥ、俺たちがリキアのどこに居たか覚えているか?」

「アラフェン? 院長先生の孤児院のこと? そんなの忘れるわけないじゃない」

「そうだ。俺たちは孤児院に居たんだ」

 

 それが全てだと言葉を切ったレイであったが、残念なことにルゥにはそれだけでは伝わらなかったようである。

 小首をかしげる頼りなさげな兄に、レイは半ば苛立ちながら、言外に含ませていた想いを、今度こそ口にする。

 

「……孤児院ってのは、親がいない子供がいる場所だ。そこにいた俺らに、今更母親が現れるはずがないだろう?」

 

 それは、聞き分けのない子供に言って聞かせるような、静かな、それでいてこれ以上ない拒絶の言葉だ。

 その拒絶の意志に一瞬怯んでしまったルゥが反論をするより先に、レイはこの話は終わりだと背を向けこの場を去るのであった。

 

 

 

「話は分かったよ。じゃあ、このままナバタに向かうんだね?」

「はい、本来であれば西方三島の治安が落ち着くまで僕らもここに留まるべきなんでしょうが……」

「いやいや、流石にそこまで面倒をかけるつもりはないよ」

 

 アル達と別れたロイとマークは、さっそくレジスタンスのリーダーであるエキドナとの会談を行っていた。

 その内容は、戦うだけ戦って事後処理の一切を行わずにこの地を去ることに対する謝罪である。

 だが、エキドナからしてみれば、感謝こそすれ罪悪感を覚えられることではないのだが……

 しかし、続くロイの言葉に、エキドナは緊張を高めることになる。

 

「いや、僕たちリキア同盟軍はエトルリアの要請によりこの西方三島に来たのだから、本来なら総督の後任が来るまで留まるべきなんだよ」

「……後任?」

「今回の同盟軍の行為は、本国の意向を無視して私腹を肥やした総督の討伐ってことになるだろうから、次はまともな総督を招来してって流れになるはずだったんだが……まあ、レジスタンス達からすれば、また搾取するつもりかと疑うのもわかるがな」

「……いや、アンタ達がそんなことしないってのはわかってるさ」

 

 いささか歯切れが悪く返事をしたエキドナであったが、どちらにしろ実現することが無くなった未来の話であるので、この話はここまでだとマークがぶった切る。

 

「これからは、ある意味前総督の秩序の下にあった賊どもが、それぞれ勝手に動き出すことになるだろう。大変だろうが、力を貸すことはできない。レジスタンスで対処してくれ」

「ああ、そういう意味の謝罪だったのかい」

 

 ようやくロイ達の謝罪の意味を完全に理解したエキドナであったが、それでも二人に言うべき言葉は変わらない。

 だが、それはさておいてどうにも気になることがあった。

 

「なんだか話を聞いていると、ここでお別れみたいな感じがするんだけど?」

「それ以外に何が……って、まさかついてくるつもりだったの?」

「はぁ!? いやいや、アンタ達はこれからこそ戦力が必要なときじゃないのかい?!」

「それは西方三島も同じだろう?」

 

 エトルリア本国で起こった反乱を鎮圧するにも戦力は必要であるし、西方三島解放に尽力してもらったという恩もあり、当然ついて行くつもりであったエキドナだったのだが、マークの言うように西方三島にだって人手は必要なのだ。

 

「総督府に取って代わるだけの組織は、レジスタンス以外ない。もしここでエキドナ達が西方三島を離れることになったら、賊どもがはびこって、それこそエトルリアに搾取されていたころの方がマシと感じるような状況になっても不思議じゃないんだぞ」

「そりゃそうかもしれないけど……マークさん、アンタは確かにすごい軍師様なんだろうけど、何もわかっちゃいないね」

 

 理屈の上では、エキドナもマークの言う事は理解できる。

 だが、それは理屈の上だけだ。

 西方三島解放に力を貸してくれた恩人が、いや、肩を並べた戦友が今まさに困難に直面しているのだ。

 これを放って置くことができるのなら、そもそもレジスタンスなど結成せずに島を去っていただろう。

 故に、エキドナのとるべき行動は一つしかない。

 

「確かにレジスタンスの連中を全部動員することはできないかもしれないけど、一部だけを動かすって言う手もあるんだろ?」

「……」

「アタシらをただの恩知らずにさせないでくれないかい」

 

 エキドナはどこまでも真っ直ぐに、そして強い意志を持ってマークへと視線を向ける。

 どんな決意を秘めた視線を受け、マークは早々に勝ち目がないことを認めるしかないのであった。

 

 

 

 そのようにマーク達とエキドナの会談がある意味失敗していたその時、フラン達はナバタへの進軍方針について話し合っていた。

 

「足の速い騎兵だけでも先行させられないかしら?」

「彼等だけ先行させてどうするつもりですか? まさか、魔導軍将が王都から逃げ出さなければならないような相手に、騎兵だけで挑めなんて言いませんよね?」

「現地にはセシリアさんがいるのよ? 合流さえできれば本隊が到着するまでの時間稼ぎぐらい……」

 

 その話し合いは、ロイを立てるためか今まであまり口を出さなかったリリーナと元々引っ込み思案であったフランの衝突という、誰もが想像できなかった状況に陥っていた。

 

「合流できなければ? ただでさえナバタは砂漠の多い地であると聞いています。砂に足を取られた騎兵など、各個撃破の格好の的です」

「だからといって、万全を期して慎重に進軍して間に合わなければ何の意味もないでしょう?」

 

 リスクを冒してでもここは急ぐべきだというリリーナに対し、焦らずに堅実な進軍をというフラン。

 どちらの言葉も一定の正しさがあるため、本来調整役に入るべきイサドラもどうすればいいのか決めあぐね、参謀たるエルフィンも私情が入ってしまう事を危惧して意見できないでいた。

 そんな均衡を破ったのは、やはりというべきかパントである。

 

「ふむ、二人の意見はそれぞれ聞くべきところも多いのだけど……そろそろ結論を出そうか。でなければ、わざわざロイ将軍やマークが不在の中話し合いを始めた甲斐が無くなってしまう」

 

 そう、元よりロイやマークが事後処理に走り回っている中話し合いを始めたのは、一刻も早く進軍を開始するためであるのだ。

 故に、パントは同盟軍の外にいるという立場を無視して、自身の意見を結論として発信する。

 

「まず前提として、今回の反乱が親ベルン派によって起こされたというのはわかるね?」

「ええ、もともと反ベルン派の政策が行われていたのだから」

「つまり、この反乱が成ってしまえば、リキアはベルン・エトルリア連合と戦争になるってことだ」

「……」

「もっと正確に言えば、すでにサカとイリアも落ちている以上、リキア単独で大陸と戦うというのに等しい状況と言っても過言ではないかな」

 

 パントの言葉は、この場にいた全員の胃の腑に想像以上の重さを伴って落ちてきた。

 そして、そのあり得るかもしれない未来を共有できたと判断したパントは、今度こそ自身の意見を述べる

 

「無茶だというのはわかるけど、ここは本隊に先んじて最速の部隊を送るべきだと思う」

「……わかり、ました」

 

 悔しそうに顔を伏せるフランの胸中にあるのは、言い負かされたことに対する反感ではなく、未だ視野が狭い自身に対する嫌悪であった。

 目先の損害を恐れて、大局を見ていなかったと自覚したのだ。

 だが、それは自身の意見を採用されたリリーナも同じであった。

 師であり、個人的な交友もあったセシリアの危機に、感情でもって援軍を送らなければと考えてしまっていたことに、パントの考えを聞いて気付いたのだ。

 そうして、リキア同盟軍は騎兵を中心とした先遣隊を組織し、ナバタへと出発する。

 トップはセシリアと対等な立場で交渉を行うためにロイが立ち、その補佐としてマーク、またナバタは大賢者の領域という事でパントも同行することになった。

 さらに案内役として西方三島の地理に詳しいエキドナも加わり、先遣隊は最低限の物資をもって最速でナバタへと進軍を開始した。

 しかし、その先遣隊すらも置き去りにする一つの影があった。

 

「なっ、アル君!?」

「馬鹿っ! たった一人で何ができると思ってるんだ!?」

 

 飛竜を駆り、空を翔ける少年は、驚愕に目を見開くロイとマークをよそに、呑気に手を振っている始末だ。

 マークはその様子に顔を顰めつつ、一つの決断を下す。

 

「ロイッ! 悪いが俺も先行する!!」

「マーク!?」

「ファリナ、頼む!」

「あいよっ!」

 

 たった一言ですべてを察したのか、歴戦の天馬騎士は地上を駆けていたマークを拾い上げて一人先行するアルを追いはじめる。

 

「一人が三人に増えたとして、誤差の範囲だろうにっ!?」

 

 珍しく短絡的な行為に出たマークを補うかのように、ロイは残った天馬騎士達にマークを追うように指示を出す。

 そう、彼らは知る由もない。

 この選択が、彼らの運命にどれほどの影響を与えることになるのかなど。

 

 

 

 リキア同盟軍が海を越え、ナバタの古城を目指して進軍を続けるまさにその時、魔導軍将であるセシリアはギリギリまで追い詰められていた。

 

「予想をはるかに超える損害ね……」

 

 王都を追われ、その追手に騎士軍将と三竜将の一角が付くまでは予想の範疇であった。

 だが、古城にたどり着くまでにでた損害については、完全に予想を上回ってしまっていた。

 

「パーシバルの戦術は十分予想できたし、その実力もよく知っていた。こちらは、想定の範疇ね」

 

 お互いの手の内は知り尽くしているといっても過言ではない騎士軍将と魔導軍将の戦いは、予定調和の内に終わったといっても過言ではないぐらいには順調であった。

 では何が問題であったかというと、もう選択肢は一つしか残っていない。

 

「三竜将ナーシェン……正直見縊っていたわ」

 

 リキアの状況を見る限り、裏で陰謀を巡らす事には長けていても、実際の指揮や戦闘は他の竜将に一歩どころか、二歩も三歩も劣ると考えていた。

 それが実際蓋を開けてみれば……セシリアの率いる部隊を的確に、じわじわと削り取って行ったのだ。

 

「まったく、これでは先生に顔向けできないわね」

 

 思わず自嘲の笑みをこぼすセシリアであったが、そのことに気付いて慌てて気を引き締める。

 確かに想定外の被害をこうむったが、まだ負けたわけではないのだから。

 そう彼女が気を張り直すのと同時に、まるで待っていたかのように勢いよくドアが開かれた。

 

「セシリア将軍!」

「エリシア……気が急くのはわかるけど、ノックぐらいしなさい?」

「あ、失礼しました!」

 

 駆け込んできた赤毛の少女に将軍として注意をしたセシリアであったが、そこに込められたものは部下に対するそれではなく、明らかに身内に対するものであった。

 それもそのはず、今でこそ部下である少女エリシアは、セシリアの魔導の師である『先生』の娘であり、指導を受け始めた時期の差から姉弟子にあたる人なのだから。

 もちろん、魔道の探求にかけた時間はセシリアの方が上だし、当の本人も私生活ではセシリアの事を姉さまと慕っていたりする。かと思えば姉弟子としてセシリアの面倒を見ようとしたりとなかなか愉快な関係だったりする。

 とはいえ、今は上官と部下であることに変わりはない。

 エリシアはきっちりと部下として礼を取り、セシリアに報告を行う。

 

「リグレ公爵閣下のおっしゃっておられた通り古城の地下より、遺跡へとつながる通路を発見しました」

「そう、では早速城の防備を放棄して、遺跡へと乗り込みましょうか」

「はい!」

 

 そう、セシリアたちもただ追われるがままに、ナバタにまで逃げ込んだわけではない。

 有事の際には自身の領域であるナバタの砂漠へと逃げ込むようにと、以前よりパントから言い含められていたのだ。

 正直なところ、遺跡に逃げ込まなければならないほど追いつめられたのは想定外であったのだが、ここで四の五の言っても状況は変わらない。

 セシリアは引き際を誤ることなく、騎士軍将パーシバルと三竜将ナーシェンの2人を相手に戦う事を諦め、全力で時間稼ぎに徹したのであった。

 

 

 

 その一方で、三竜将のナーシェンも重なる予想外の事態に苛立ちを募らせていた。

 

「くそっ、まさか魔導軍将がここまで粘るとは……!」

 

 魔導軍将の座は、先代であるリグレ公爵が引退してから長きにわたり空位になっていたと聞く。

 そして今代の魔導軍将は、その長き空白を良しとしなかったがために、仕方が無く実力に見合わぬ小娘が据えられたのだと、ナーシェンはそう協力者に聞いていたのだ。

 だがその実態は、ヴァイダに鍛えられたナーシェンをもってしても攻めきれぬ巧みな用兵術を使い、魔道の腕も三竜将であるブルーニャに勝るとも劣らない、魔導軍将を名乗るにふさわしい猛者であった。

 自身が格上だと思っていた戦いで、全力で潰しにかかったにもかかわらず潰しきれなかった事実は、ナーシェンに多大なストレスを与えていた。

 しかし、そんな屈辱の時間も終わりだと、ナーシェンは一人ほくそ笑む。

 

「いくら砦に立てこもろうとも、援軍の見込みが無ければ無駄に苦しみを長引かせるだけだというのに」

 

 そう、エトルリアにセシリアの味方する者は無く、リキア同盟軍も西方三島で戦闘竜と対峙しているのだ。

 相手にもはや逆転の目は無く、この戦いはもはや消化試合と言っても過言ではなかった。

 

「ナ、ナーシェン様ッ!」

「なんだ、騒々しい……」

 

 だが、リキアとエトルリアには、そんな常識を覆す化け物がそろっていた。

 

「と、砦からセシリア将軍らを見失いました!」

「な、なんだとぉ~!?」

 

 包囲は完璧であり、相手は疲労困憊で、あとは適度に波状攻撃を加えるだけで十分だと思っていたナーシェンは、あまりに唐突な報告に絶叫する。

 さらにタイミングの悪いことに、この報告が最も聞かれたくない人物の耳にも届いてしまう。

 

「へぇ……目標を見失ったって一体どういう事だい、ナーシェン?」

「ヴァ、ヴァイダ殿……ッ!」

 

 なぜここに、などと聞くことすらできなかったナーシェンの目の前に現れた竜牙将軍の額には青筋が浮かび、その言葉に含まれた怒気は新米兵士程度なら失神してもおかしくない程であった。

 そうして現れた絶望であったが、次に現れた存在はそれがただの前座であったとナーシェンに錯覚させるものであった。

 

「へ、陛下……」

 

 そう、本来なら本国の玉座にいるはずの人物が、このような僻地に現れたのだから。

 

 

 

「…………」

 

 リキアが、エトルリアが、そしてベルンがそれぞれの戦いにある中、その少女は一人とある城の地下にて暇を持て余していた。

 その少女の名はジェミー。

 リキア同盟軍の密偵に捕縛され、こうして地下牢に転がされていたのだが……いつまでたっても誰ひとり訪れないどころか、牢番すらいない状況にあった。

 そう、エトルリアでの反乱という一大事の前に彼女は完全に忘れ去られてしまっていたのだ。

 この状況は後ほど彼女の兄がリキア同盟軍の去った後、わずかな希望にすがってこの場所に来るまで続くのであった。

 

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