オスティアで反乱が起こったとの知らせを受けたロイ達は、急いで現地へと駆けつける。
だが、オスティアへと急いだのはロイ達だけではなかった。
その話はすでに城を出立していたエリウッドにも伝わり、その足を速めることになる。
結果、少数で動いていたエリウッド達はロイ達とほぼ同時にオスティアへとたどり着き、合流することになったのだ。
「父上! お体は大丈夫なのですか!?」
「私の事は良い。それよりも、現状分かっていることを教えて欲しい」
ここまで文字通り駆けつけたエリウッドの体調を案じるロイであったが、当人はその配慮を斬り捨てる。
ロイは思わず周囲に助けを求めるが、その視線にみんなは肩をすくめるばかりであった。
「……わかりました。現在判明しているのは、反乱の首謀者がレイガンス将軍であり、オスティアに残った兵のほとんどが彼に従っているという事です」
「……っ!」
オスティアの兵のほとんどが裏切ったという事実に、エリウッドは胸を痛める。
このオスティアの地を、リキアの大地を守るために尽力していたヘクトルの思いを汚されたと言っても過言ではないのだ。
だが、エリウッドはわずかに顔をしかめることしかしなかった。
今は怒るよりも、悲しむよりも、やるべきことがあるのだから。
「ですが、悪い知らせだけではありません。イリアの傭兵騎士団から、我が軍に合わせて反乱軍に攻撃を加えるとの申し出がありました」
「イリアの? そうか、彼らは一度交わした契約を決して違えることが無いからな」
傭兵騎士団の参戦は、数が少ない今の同盟軍にとって、これ以上ない朗報と言えるだろう。
だが、騎士団からもたらされた情報は、決して喜ばしいものではなかった。
「ベルンが動くか……」
「はい、竜騎士部隊を従えた竜将が、こちらに向かっているとのことです」
「……」
ロイからの情報を聞き、それらを整理するためにエリウッドは瞳を閉じ、わずかに沈黙する。
そして次に瞳を開けたとき、エリウッドはロイが想像もしていなかった言葉を投げかけたのだ。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「え、父上が合流した以上、ここは僕ではなく父上が指揮をすべきじゃ……」
ロイの言い分はもっともだろう。
もともとエリウッドの名代として同盟軍に参加したロイなのだから、当人が来た以上、その役割を返還することになると思っていたのだ。
だが、その考えにマークが訂正を入れる。
「エリウッドが来たのは、あくまでリキア同盟の盟主代理を任せるためだ。さすがに将として戦場に立たせるつもりはないぞ」
「うむ。それに、今この軍に参加しているものは、お前についてきた者たちだ。ならばお前が、最後まで責任を持って指揮すべきだろう」
マークとエリウッドにそう言われて、ロイはなお一層の気合を入れる。
そして、ロイは今後描いていた方針を語るのであった。
「まずは、エトルリア王国の魔導軍将、セシリア将軍を頼ろうかと」
「へぇ、魔導軍将を?」
なぜかマークたちの視線がある一点に向くが、方針を語るロイに視線の先を確認する余裕は無かった。
「オスティア留学中に何度か教えを受けたこともありますし、あの人なら力になってくれると思います」
「なるほど……では私が盟主代理として書状をしたためよう。マーク、シルバー殿もそれでいいかな?」
エリウッドの確認に頷く二人であったが、エトルリアへの応援要請はすでに準備が整っている。
問題は、エトルリア介入のタイミングだろう。
「さすがに、反乱軍の相手までエトルリアに任せるわけにはいかない」
「そして、ベルンが介入してくる前にエトルリアを招かないと、リキアが滅びる……」
早すぎても、遅すぎても、リキアは大国に飲み込まれてしまう事になる。
つまり、可能な限り早急に反乱を征さなければならないのだ。それに加え、ヘクトルの遺言もあった。
「あと、竜に対抗する武器も用意する様にと、ヘクトル様から指示されています」
「なに、竜だと?」
オスティア攻城戦に意識を向けようとしたエリウッド達であったが、ロイの一言で顔色を変える。
だが、それも当然だろうとロイは思う。
伝説の彼方にしか存在しない竜の存在を口にすれば、誰だってそうなるだろうと。
事実、ロイも竜の話を残したのがヘクトルでなければ、信じることは無かっただろう。
「ヘクトル様が、ベルンが竜を復活させたと……そして、竜に通用する武器が存在し、その在り処をリリーナには教えてあると」
「まさか……いや、理想郷という例もある。ベルンにも里が存在する可能性も、なくは無いか……!」
「父上?」
エリウッドの反応にわずかに首を傾げるロイであったが、その疑問に答えられるほどの余裕はもはやなかった。
エリウッドはマークたち数人と目配せをすると、今までは感じられなかった焦りを滲ませながらロイへと指示を出す。
「ロイ、オスティアの制圧はお前に任せる。私達はしばし同盟軍を離れ、その武器を回収してくる」
「え、父上はその武器の事を知っているのですか!?」
「詳しい事はマークに聞きなさい。マーク……」
「ああ、こちらは任された。エリウッドも……」
詳細を語ることもなく、エリウッドはわずかな供を引き連れ、同盟軍を離れる。
連れ立ったのは昔の仲間であったというドルカス、ニノ、それにマークが勧誘したクルザードを筆頭とする傭兵たちである。
あっという間に出立したエリウッド達であったが、それを見送るロイ達も余裕があるわけではない。
「ヘクトルの言う竜に通用する武器とは、神将器の事だろう」
「神将器……ひょっとして、人竜戦役で八神将が使っていたという?」
ロイはマークの説明を聞きながら、かつて習った知識を思い起こす。
「その中でもオスティアにゆかりがあるものとなれば……烈火の剣デュランダルか!」
「ああ、勇者ローランが使った大剣だ。……20年ほど前になるが、エリウッドは機会があってデュランダルを手にしたことがあるんだ」
「なるほど……わかった。しかし、そうなると問題は僕たちの方だ。難攻不落と名高いオスティアを攻める。それも、ベルンがここに来るまでという時間制限付きなんだから」
「幸いなのは、急がないといけないのはお互い様というところかな?」
「どういう事ですかな?」
マークの言葉に、マリナスは思わず疑問の声を上げる。
反乱軍はベルンと通じており、それが故に同盟軍としては短期決戦しか勝ち目がないという話だったはずで、反乱軍が急ぐ必要はないのではないかと。
だが、それはあくまで同盟軍から見た条件である。
「反乱軍にとってのベルンは、同盟軍にとってのエトルリアという事だ」
「……おお、なるほど。反乱軍がベルンで立場を得ようと思えば、ベルン軍到着時に我々が残っているのは非常に問題であるという事ですな」
「そういう事だ」
いくらオスティアが難攻不落と言っても、それは専守防衛に徹した場合である。
それに反して敵の殲滅を目指したとき、オスティアに本来の防衛力を求められるものではない。
「それでも、オスティアの攻略が困難であることに変わりはない。みんな、ここが正念場だ! オスティアを取り戻すぞ!!」
「あぁ!」
ロイの鼓舞に仲間たちが応え、それぞれが成すべき事を為すべく動き始める。
そんな中、人知れず軍から少し離れる人影があった。
「……ここなら大丈夫だろう。そろそろ出てこい」
「……さすがお頭ですな。こうも簡単に見つけられちゃ、自信を無くしやすぜ」
「戯言はいい。それより、状況はどうなっている、アストール?」
仲間たちにすら知られることなく合流を果たしたのは、オスティアの密偵であるマシューとアストールである。
「おれもオスティア侯の死を知って慌ててこっちへ戻って来たんで、ほとんど情報を持っておりませんで……」
「そうか……」
アストールの言葉に、マシューも責めることはできない。
マシュー自身も、マークの指示のもと伝令モドキや先駆けばかりを行っていたので、まともな情報を持っていなかったのである。
しかし、そんな言い訳を口にするつもりはない。
「今からオスティア城内と、リリーナ様やフロリーナ様の情報を探る。噂ではリリーナ様は敵の手から逃れたとのことだが、それが本当なら、情報を共有した後アストールはそちらへ合流しろ」
「了解しやした」
そもそも、密偵の仕事は情報を集めることであるのだ。ならば今情報を持っていないという事など、どうでもいい。
確かに情報を集めきれず、レイガンス達に反乱を許してしまったことは悔やまれるが、まだこの一件に関しては挽回の機会があるのだから。
「……ッ!」
そう、挽回の可能性があるのはこの一件、オスティアの反乱だけなのだ。それも所詮は一度犯した失態の挽回……失われた命は、もう二度と還らないのだから。
後悔に身を焼かれつつ、マシューはオスティアの闇を駆け抜ける。せめて一人でも多く、大切な人たちが生き残ることを願って。
密偵たちが影へと潜ったころ、オスティア攻略の策を練っていたマークの下に一人の重騎士が訪れていた。
「勝手な言い分だという事は、百も承知です。どうか、私をオスティア攻城戦の先陣を切らせてください!」
「そうは言ってもなぁ……」
オスティアの重騎士ボールスの言い分に、マークはどうしたものかとため息を吐く。
それでも一言で切って捨てないのは、ボールスの思いがわからないでもないからだ。
「……オスティアの反乱について、オスティアの騎士として責任を感じているのはわかるんだが、向き不向きというものがな」
「ですが……!」
そう、ボールスは自身の同僚たちがリキアを裏切ったことを恥じ、オスティアの騎士として、彼らを自分の手で討たなければと考えているのだ。
だが彼は重騎士であり、先陣を任せるには機動力に欠ける。
しかし、裏切者をオスティアの騎士の手で討たせるという事も、政治的に重要であるのだから、なかなか難しいところなのだ。
「……わかった」
「感謝します、マーク殿!」
結局折れてしまったマークは、すぐにオスティア攻略の計画を組み直す。
とはいえ、すでにできていた骨子を根本から組み直すほどのものではない。わずか数分でその作業を終えたマークは、指揮官であるロイの下へと急ぐのであった。
「悪い、遅くなった」
「いや、ちょうどいいタイミングだよ。それで、どう攻めるのがベストだと思う?」
「市街地に被害を出すべきではないでしょうから、闘技場あたりを戦場にするのがいいと思うのですが……」
「ふむ……?」
ほぼ完全に操り人形でしかなかったラウス公子フランが、真っ先に意見を言ったことにマークはいくらかの驚きを抱く。
だが、それがシルバーの差し金だとすぐに納得し、マークは自身が考えた策をロイへと告げる。
「ならばボールスを中心に騎士達で闘技場方面を制圧してもらおう。正面からの戦いになれば小細工ができず、ロイの負担は増えるだろうが……」
「問題ないよ。民のために戦うのが、貴族の本分だから」
「よし。とはいえ敵もそう考えることは無いだろうし、市街地方面は比較的身軽なものを送り安全を確保させよう。問題は先行して反乱軍についている竜騎士だが、ウォルトとドロシーに任せるぞ」
「了解です!」
「わ、わかりました!」
空を飛ぶ天馬騎士・竜騎士を討つのは、古来より弓兵の役目である。そのことを知っている二人は、マークの指示に頷くしかない。
だが、大陸最強と称されるベルンの竜騎士を相手に、自分たちがどれほど戦えるかと不安が無かったと言えば嘘になるだろう。
「俺はイリアの傭兵騎士団の下に向かい、早急にこちらの指揮下に入ってもらえるように交渉する。そして総ての行程が終わったら、オスティア城を落としにかかる」
「なるほど……」
闘技場付近で主力を正面からぶつけ合い、そこへマークがイリア傭兵騎士団を連れ挟撃、殲滅する。
市街地に配置された敵は、身軽な者たちが狭い道を利用し迎撃するといった所なのだろう。
一応各方面に対処されているが、正直ロイにとって今回のマークの策は、難攻不落を誇るオスティアを攻めるには心もとないと思え、いつにない不安が襲ってくる。
しかしマークからしてみれば、それはオスティアの名に恐れを抱いているだけにすぎない。
「全力で守りに入られているわけでない以上、大まかな方針としてはこれで十分だ。当然、相手も不意打ちでこちら背中を狙いたがるだろうが、オスティアの地形は把握している。援軍が来る場所も時間も想定済みだ」
「……わかった。では、進軍を開始する!」
ロイの号令と共に、全軍が動き始める。それに呼応するかのように反乱軍も動き出し、オスティアは戦火に飲まれるのであった。
そして戦場になったオスティアの一角では、イリアの傭兵騎士団が参戦の準備を進めていた。
「おいトレック、ノアの奴はどこに行ったんだ?」
「はぁ……闘技場の方に行ってるみたいですよ? なんでも、世間知らずな若い剣士を指導するとか……」
「ほう、珍しいこともあるものだな」
トレックの言葉に、ゼロットは素直に驚きを表し、同時に納得もする。
人嫌いであるノアが、他者に自分から関わるなど滅多にないことだが、本来の彼はとても優しい人物である。
ならばその世間知らずな若い剣士というのは、普段隠れているノアの優しさを自然と引き出すことができるような人物なのだろう。
ゼロットがそんなことを考えている中、ようやく当の本人が帰還してきた。
「すみません、遅くなりました!」
「いや、間に合ったのなら問題ない」
リキア同盟が動き出し、こちらも動こうかというまさにその時に帰ってきたのだ。
正直、別に合流できなくても独自に動くだろうと思っていた部分もあるので、特に問題視はしていなかった。
それよりも気になるのは、ノアの後ろについてきた少女の事である。
「あ、彼女はフィルさんです。なんでもご両親が以前フェレ侯爵に雇われていたことがあるらしく、俺達が同盟軍と共に戦うことを話したら、一緒に戦わせてほしいと……」
「よろしくお願いします!」
「ふむ……わかった」
ゼロットとしても、戦力が増えるのならそれに越したことはない。
快くフィルの同行を許可し、今後の方針を告げようとしたのだが、そんな彼らの下に天馬騎士を従えた一人の男が現れる。
「貴方たちがイリアの傭兵騎士団か?」
「……貴方は?」
「失礼。俺はリキア同盟軍の軍師マークだ」
ゼロットに促され名乗ったマークに、ゼロットは居住まいを正し名乗りかえす。
「イリア傭兵騎士団のゼロットだ。しかし驚いたな、まさかこんな若者が一軍の軍師だなんて……」
「ああ、よく言われるよ」
思わず漏らしてしまった驚嘆の声に、懐かしい記憶を思い出しながらマークが応える。
しかし、昔を懐かしんでるような暇があるはずもなく、マークは即座に意識を切り替え、ゼロットたちへと指示を飛ばす。
「同盟の将であるロイが、中央で戦闘を開始する手はずになっている。貴方方にはそこへ増援として赴き、合流してほしい」
「了解した」
指示に従い即座に動き出そうとするゼロットたちであったが、そこに参加する少女へとマークは待ったをかける。
「君はシャニーと共に市街地へと向かってくれ」
「え、なぜ……」
「その軽装で中央の戦いに参加するのは、危険すぎる。適材適所だ」
「……わかりました」
ノアと行動を共にする気であったフィルが名残惜しそうにするが、マークは有無を言わさずに別行動を指示する。
この間にシャニーとゼロットたちが視線を交わし、お互いの無事を喜び合うが、あいにくと話をするほどの余裕は無かった。
というのも、中央の戦いが激化し始めていたからである。
「オルド、大丈夫か!」
「うるさい! この程度問題ない!」
エリウッドと共に同盟に合流し、そのままロイの指揮下に着いたオルドはランスの心配をよそに、若手で唯一フェレに残されたのも納得の活躍を見せていた。
馬上から繰り出される力強さと繊細さを兼ね揃えた剣の一撃は、いくつもの戦場を越えたランスやアレンに勝るとも劣らない。
「相変わらず、素晴らしい剣の冴えだな!」
「やかましい! 俺の事を気にしている余裕があるなら、一人でも多くの敵を倒さんか!」
「ああ、そうだったな!」
ランスの賛辞に怒鳴り返すオルドであったが、ランスの返答は慣れたものだ。まぁ、2人は昨日今日に初めて会ったわけでもないし、それも当然なのだろう。
敵増援を警戒し比較的温存されているアレンの分までとでも思っているのか、2人の奮闘はとどまることを知らなかった。
そんな中央の戦いの劣勢を見かね、ついにベルンの竜騎士たちが飛来する。
「ウォルト、ドロシー……今だ!」
「はい!」
「い、行きます!」
だが、ロイの号令のもと迎撃に入った弓兵たちにより、竜騎士たちの容易な参戦は許されない。
いかに強力な竜騎士とて、翼を裂かれてしまえば地上に墜ちるしかないのだから。
そして、飛来する矢を恐れて勢いを殺せば、せっかくの竜騎士の強みも半減してしまう。
「おおぉっ!」
「ぐはっ!?」
そんな動きを止めた竜騎士の鎧を一撃で貫いたのは、マーカスによる銀の槍の一閃だ。
これまで参戦しても、援護以上の事を任されなかった鬱憤を晴らすかのような豪快な一撃は、歴戦の騎士にふさわしいものであった。
「ふんっ、わしを殺したくば竜将か竜牙将軍でも連れてくるんじゃな!」
歳老い、衰えたと言えども、マーカスは20年前の戦いを生き抜いた猛者なのだ。
いかに大陸最強と呼ばれるベルンの竜騎士とはいえその末端では、相手が悪かったとしか言いようがないだろう。
更に、竜騎士たちが呆気なく敗れたことにより浮足立った反乱軍に追い打ちをかけるように、マーク率いるイリア傭兵騎士団が到着し、攻撃を開始する。
「中央は完全に制圧した!」
「アレンは敵増援の迎撃準備を! ボールスは城門へ向かい、敵将を討て!」
「お任せください!」
「了解です!」
ゼロットたちの到着後すぐに中央の制圧を完了させ、ロイは作戦を次の段階に移行させる。
それとほぼ同時にディーク達が向かった市街地の方から歓声が上がり、ロイ達はそちらの方でも目的が完遂されたことを知るのであった。
「これで……」
「最後まで気を抜くな。将であるお前に何かあれば、どれだけ優位に立っていても意味が無いんだから」
「わ、わかりました」
いつになく厳しいマークの指摘に、ロイは改めて気を引き締める。
そのおかげかはわかりかねるが、その後も想定外の事態が起こることもなく、同盟軍はボールスの手により反乱軍の指揮官であるデビアスを撃破し、オスティア市街を手中に収めるのであった。
「……今度こそ、一息つけるかな?」
「ああ、そうだな。むしろ、次はオスティア城内が残っているし、今のうちに出来るだけ休んでおくべきだろう」
とはいえ、ロイは同盟軍の将であり、城門を破るまでのわずかな時間にもやらねばならない事はそれなりにある。
その筆頭が、イリア傭兵騎士団団長との打ち合わせであった。
他にもマリナスが消耗した武器や薬を支給したり、マーカスが損害の大きかった部隊を再編成したりと忙しく立ち回るため、マークも軍師として新たに仲間となった者の能力の把握に努めるべく動くのであった。
「あ、軍師殿!」
「ここにいたのか……えっと、フィルでいいか? 俺もマークでいい」
「はい、構いません。マーク殿」
マークはある程度の事情をあらかじめイリア傭兵騎士のノアに聞いての接触したのだが、どうやらフィルも同じようにシャニーあたりからマークの情報を聞いていたようである。
そして今回のマークの目的は、フィルの語ったことが事実であるかの確認である。
「ご両親がフェレに雇われていたことがあるって?」
「はい、私が生まれる前のことになるので……そうですね、20年ほど昔になりますが」
「ほう、ちょうどフェレが代替わりしたころだな」
もっとも、エリウッドが傭兵を雇ったのはその時期しかないわけだが……
「そうらしいですね。まぁ、父はそこら辺のことをよく理解していなかったようで、そのことを聞いたのは今回オスティアに来てからなんですが……」
「……」
「その、何と言いますか……父は独特の感性を持った人でして、いろいろ話を聞いたのですが、今一つ理解できない話も多くって……」
それだけでなんとなくフィルの父が誰なのか想像がついたが、マークはとりあえず最後まで話を聞いてみることにした。
「エリウッド様に雇われていたころの話で辛うじて理解できたのが、リキアやベルンで悪者を成敗して回ったとか。それと……その、信じがたい話なんですが……」
「……聞かせてくれ」
「その……竜と戦ったと……私は正直あまり信じていないというわけではないですがちょっと大げさな表現というか実は大きな飛竜だったとかそう思っていたり……!」
「いや、わかったから、そんなに慌てなくてもいい」
「し、失礼しました……」
突拍子の無いことを言っている自覚があるのだろう。
誤魔化すかのように言葉を連ねたフィルは要するに、父の話が真実か確かめたかったのだろうとマークは考える。
そう思うが、そこで一つ疑問を覚える。
「母親はなんて?」
「えっと、父と話を合わせているのか判別がつかなくて……」
「なるほど」
確かに、両親そろって子どもをからかっているのではと思っても無理のない話と言えるだろう。
だが、これで確信ができた。
この少女は間違いなくかつての仲間たちの子であり、信頼できる仲間になると。
だから、マークは真実を告げる。
「お前の父バアトルと、母カアラの言葉は事実だよ、フィル。当時、エリウッドの軍師であったこのマークが保証しよう」
「え? え? ええぇ!?」
あまりの事に硬直するフィルであったが、マークはあえて硬直を解かず、この場を後にする。
その直後に城門が破れる音が辺りに響き渡り、つかの間の休息が終わったことを全軍に教えるのだった。
「……頼む、無事でいてくれ」
轟音と共に次の戦いへと意識を向けたマークは、目の前の城のどこかに捕まっているだろう戦友を想い、その願いを口にするのであった。
シルバーさんは市街地の方でおとなしくしていました。
あと、活動報告でアンケートをしています。
ルート選択になりますので、よろしければ一言お願いします。