Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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どうも



どぞ


第十三話 主と騎士

「恒久的な世界平和…それがお前の望みだったな」

 

あぁ、と切嗣は答える。そう、それが衛宮切嗣が聖杯に託す望み。万能の願望機たる聖杯にまで頼らなければ叶わない望み。

 

 

「そうだな…誰もが望み、誰もが叶えられない願い。私もかつて似たような理想を()()()()()()()()

 

「何…?」

 

意外だ、と思った。この男が、世界の平和を理想としていたことがあったとは。

 

「たしかにその願いは、万能の願望機ならば叶えることも可能だろう」

 

あぁそうだとも、だからこそ聖杯を手に入れなければ__

 

「__だが、聖杯では叶えられないだろう」

 

「__!!」

 

切嗣はキャスターを睨みつけた。

 

「…どういうことだ、キャスター。聖杯は万能の願望機のはずだ」

 

キャスターはそれを聞くと嘲るようにニヤリと笑う。

 

「…そうだな。ここでひとつ、衛宮切嗣に呪いをかけてやろう。」

 

切嗣はその言葉に悪寒がした。冷たい汗が切嗣の頬を伝う。

 

「衛宮切嗣、お前ならば他のマスターを殺し尽くし、最後まで勝ち残るだろう。そしてお前は聖杯も手にし、こう願う。『恒久的な世界を』とな」

 

「…当然だ。僕は聖杯を必ず手にいれる」

 

切嗣はキャスターを睨みつける。だがキャスターは少しも怯むことはなく、言葉を続けた。

 

「ではここで問題が発生する。万能の願望機である聖杯が、恒久的な世界平和を叶えたならば__なぜ未来には俺が、英霊エミヤが存在する?」

 

「…なん、だって?」

 

切嗣の思考が停止する。そして無意識にその言葉の意味を、キャスターへと聞き返していた。

 

 

 

否、本当は理解していた。

 

 

 

 

「__平和な世界に、英雄なんて存在しない。衛宮切嗣、お前の望みが叶うことがないことを、俺という存在が証明している」

 

「……ぁ」

 

言葉が出ない。抱いていた理想を、エミヤという存在が否定する。あぁ、なんという皮肉だろう。己の望みを叶えるべく召喚した英霊が、己の望みと矛盾する存在だったのだ。

 

だが、それでも__

 

「__それでも、お前は聖杯を手にいれようとするだろう。そうでもしなければ、衛宮切嗣は衛宮切嗣でいられない。いいだろう、止めはせん。己の目で確かめるがいい。己の望みが、叶わないということを…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣がそれを最後まで聞いていたかはわからない。…いや、聞いていたはず。だが、今はそれでいいのだ。キャスターはそう思うと、その場を後にしようとした。

 

「待て」

 

キャスターの話を聞き項垂れていた切嗣が、去ろうとするキャスターを呼び止める。

 

「僕は…まだ…お前の目的を…聞いていない」

 

額に汗を浮かべながら、切嗣は声に力を込める。理想を否定された今の切嗣

には、声を出すことをもままならない。

 

キャスターはそれを聞くとそうだったな、と切嗣へと振り返った。

 

「私には、聖杯に託す望みはない。ただ__」

 

「?」

 

キャスターは俯きがちに言った。

 

 

 

「___を___ければ_____」

 

 

「__!!」

 

 

 

令呪の縛りがなくなったキャスターは、どこかへと去っていった。

 

一人残された切嗣は、煙草の火をつけた。

 

 

 

 

 

「英霊エミヤ…お前は、いったい何者なんだ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい雑種、自慢の戦車は見ての通り我が破壊したが、万事休すか?」

 

アーチャーはどこまでも冷酷なその瞳で、ライダーを睨みつけた。

 

ライダーは立ち上がると、頬をボリボリとかいた。

 

「あっちゃぁ…しくじったかぁ」

 

「おまっ、そんな呑気なこと言ってる場合かよ!?」

 

ウェイバーは焦っていた。ライダーの主力兵器(宝具)であった戦車が、アーチャーによって破壊されてしまった上、そのアーチャーと未だ対峙しているのだ。

 

「どうすんだよぅ、ライダー…」

 

「そうさなぁ、まずはマスターをこそこそと陰から殺そうとしている輩から相手にしてやるか…!」

 

そういうと、ライダーはキュプリオトの剣で何かを弾いた。

 

「え…」

 

弾かれたそれは、短刀の刃。同時に、白い髑髏の仮面が闇夜を背景に姿を現す。

 

「な、なんでだよ!なんでアサシンが…!」

 

そして仮面は、ライダーとそのマスターを囲うように、幾つも姿を現した。

 

「こんなに、たくさん…!?」

 

動揺するウェイバーに対し、ライダーはマスターを守るべく、堂々とアサシンらに対峙する。

 

 

 

「おのれ時臣…余計なことを…!」

 

アーチャーは一方で、この采配をしたであろう時臣に苛立った。

 

「王たる我の裁きに、暗殺者風情が手を出すとはな…!」。

 

 

 

ライダーはその様子を見て、これがアーチャーによる計らいではないと判断する。

 

 

 

 

「__ふん、ならば遠慮はあるまいて」

 

 

 

 

__刹那、灼熱の風が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラウは、その場でただただ泣いていた。

 

そう、彼女は知っていた。この思いが、ランサーの呪いによる他動的なものだということを。

仮にも魔術師である彼女なら、抵抗することだってできた。だが、それでよかった。かつて経験したことのないこの思い。こんな経験は、ソラウにとって初めてのこと。

 

故に、その呪いを甘んじて受け入れた。そして、ランサーを己のものとしようとした。

 

だがその願いも、他のだれでもなく、ランサーによって拒まれた。

 

 

 

 

『私は、貴方を愛さない』

 

 

 

 

( __あぁそうだ、所詮は私一人の勝手な夢に過ぎなかった)

 

 

 

 

「馬鹿…みたい」

 

呟くようなソラウの言葉を、ケイネスは聞いた。

 

「ソラウ…」

 

泣き崩れるソラウに声をかけるも、何と言えばいいのかケイネスには分からない。

 

それでも__

 

「ソラウ…すまなかった」

 

「え…?」

 

それでもケイネスは、ソラウに謝らなければいけない。

 

「ランサー…ディルムッドの、記憶を見たんだ。彼と、グラニアとの物語を…」

 

グラニアは王族の娘であるため、フィン・マックールとの婚約を余儀無くされる。そこにはもちろん、本人の意思はない。ただ、政略結婚という縛りがあっただけ。

 

ソラウは一流の魔術師の家系に生まれたが、後継者に選ばれたのは兄であった。残されたソラウにはもはや魔術師としての価値はなく、さらに優秀な子孫を残すための道具、言ってしまえば商品であった。結果としてケイネス・エルメロイ・アーチボルトの婚約者となったのだが__。

 

ケイネスは思う。__果たして、そこにソラウの意思はあったのか。

 

「私は、愚か者だ。愛した人のことを、何も知らない」

 

すまなかった、とケイネスは言う。

 

「やめてケイネス。謝るのは私の方。それに私は、貴方との結婚に不満なんてなかったわ。」

 

ソラウは涙を拭うと、ケイネスへと近付いた。

 

「…ねぇケイネス、貴方は私をどうするの?」

 

先程とは違う、裏の無い優しい声でソラウはケイネスの耳元で囁く。

 

「私は…」

 

ケイネスはソラウと目を合わせる。

 

 

 

「__私は、それでも君を愛しているんだ。だから、きっと君を振り向かせてみせる。どうか、それまで待ってて欲しい」

 

 

 

ソラウはそれを聞くとくすりと笑った。

 

「そう、ロード・エルメロイも馬鹿なのね」

 

そしてケイネスの手を握る。

 

「いいわ、待っててあげる。だからまずは聖杯を__!!」

 

「__!!」

 

 

 

__瞬間、二人は感じ取った。膨大な魔力の台風が、近付いてくる感覚を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は…!」

 

ランサーは内心、己の運の無さを呪った。

 

ソラウへの告白の後、ランサーはケイネスとソラウを二人きりにせんと外の見張りをしていた。

 

 

 

 

「ランサー、その腕はどうした?フィオナ騎士団が一番槍が、聞いてあきれる」

 

 

 

だがそこ現れたのは、邪悪なほどに黒く染まった鎧を纏った騎士の王。

 

「っ!!」

 

普段のランサーならば、強者との遭遇はこの上ない喜びであり誉れである。

 

だが__

 

(万全ではない今戦えば、俺は間違いなく殺される)

 

それはすなわち、主へと聖杯を捧げることができなくなることを指す。そして最悪な場合この邪悪な騎士王は、主もろとも殺すかもしれない。

 

(時間を稼ぐ…いや、それでもケイネス様達が逃げられるほど稼げないかもしれない…!)

 

ランサーは、己の非力さを憎んだ。自分にもう少し、力があればと。

 

「ランサーッ!」

 

「!?主よ!」

 

気配を察知したのか、ケイネスが車イスに乗って廃倉庫から出てくる。

 

 

 

 

「ッく、よりにもよってあの騎士王が…!」

 

ケイネスは歯噛みする。サーヴァントもマスターも万全ではない今、あの黒き騎士王と戦ってなおかつ勝つのは不可能である。

 

(令呪なら…!いや、無理か…!)

 

この距離では恐らく、令呪を使おうとした瞬間にランサーを差し置いてケイネスが殺される。

 

今のランサーとケイネスでは、時間を稼ぐことも逃げることもできない。

 

その時だった。

 

「騎士王よ、頼みがある。俺の命はくれてやる。だから、我が主たちには手を出さないで頂きたい…!」

 

「ランサー…」

 

ケイネスは、そこに英雄の、騎士の姿をみた。己の命を、プライドを棄ててまで、主の命を守ろうとする騎士の姿を。

 

だが__

 

「それは約束できない。必要とあらば殺すだろう、そして必要でなければ殺さないだろう」

 

騎士王はそれでも冷酷に、残酷な言葉を返した。

 

「くッ、おのれッ、それでも騎士か!?」

 

「黙れディルムッド・オディナ。生前主を裏切った貴様に、騎士道を語る資格など無い」

 

「……ッ!!」

 

ランサーは騎士王を睨み付けると、ケイネスへと声をかけた。

 

 

「ケイネス様、どうかお逃げください。このディルムッド・オディナ、必ずやケイネス様達が逃げる時間を稼ぎます。ですが申し訳ありません。どうやら、私はここまでのようです。主に聖杯を捧げることができなく…」

 

「いいんだ、ランサー」

 

「え…」

 

その時、ケイネスの令呪が光を放つ。

 

「令呪をもって命ずる。ランサー、己の忠義を全うしろ…!」

 

「!!」

 

さらに令呪が輝きを増す。

 

「重ねて命ずる。ランサー、その忠義を主である私に見せろ…!」

 

二画の令呪は、ランサーの魔力を増幅させた。

 

「主よ…なぜ…」

 

ランサーはケイネスへと振り返った。確率はほぼ0に等しいが、あるいは逃げることもできたかもしれない。

だからこそ疑問なのだ、なぜ、逃げないのかと。

 

「愚問だな、ランサー。私は聖杯に選ばれたマスターだ。最後まで戦う義務がある。そうだろう?」

 

ケイネスはフン、と笑うと傍らにいたソラウに声をかけた。

 

「ソラウ、今のうちに逃げるんだ。君だけなら、逃げきることができる」

 

だがその言葉をソラウは拒否する。

 

「なにを言っているのケイネス、ランサーに魔力を供給しているのは私よ?なら私だってマスターだわ」

 

「ソラウ…」

 

それでも、ソラウの足は恐怖故に震えていた。

 

ケイネスはそんなソラウの手を、少ししか自由のきかない手で握りしめた。

 

 

 

「主よ…本当に申し訳ありません。ですが…」

 

ランサーはゲイ・ボウを出現させながら、ケイネスに言った。

 

 

 

 

 

「私の(マスター)が、貴方で良かった……!!」

 

 

 

 

 

黒き騎士王と対峙するランサーの頬には、涙が流れていた。

 

「待たせたな騎士王よ!もう迷いなど無い!貴様の首級は、このディルムッド・オディナが頂く!」

 

対する騎士王も地に突き立てたその黒き聖剣を抜き放ち構えた。

 

「良い闘志だ…舌が踊る」

 

ランサーはそれを聞くと腰を低く構えた。

 

「いざ…!」

 

ランサーは、とても片腕とは思えないような覇気で、さながら豹の如く駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、他愛もない」

 

果たしてランサーは、何度騎士王と切り結ぶことができただろうか。それは恐らく、数えきれるほどの剣戟だっただろう。それでもランサーは十分に戦った。

 

心臓を貫いた聖剣をランサーから引き抜くと、騎士王はその血を振り払った。

 

地に倒れるランサー。だがその表情は、穏やかでとても満足そうなものだった。

 

魔力の粒子となり、ランサーは消滅した。

 

「ランサー…」

 

ケイネスは、ソラウを握る手を強くする。

 

騎士王が近付いてくる。

 

「所詮は片腕の槍兵。まったく、手応えのない」

 

ケイネスは殺られる、と思った。

 

しかし__

 

ふと、騎士王が足を止める。そして視線の先をケイネスとは別の方向へと向けて、不敵に微笑む。

 

「ほう…まさか貴様から私を呼ぶとはな…」

 

そう呟くと騎士王は、ケイネスなど興味が無くなったかのように、どこかへと去っていった。

 

 

 

 

 

 

「生き残った…のか…?」

 

ケイネスは呆けたように呟いた。

 

ソラウは膝の力が抜けたのか、そのまま地面へと座り込んだ。

 

「生き残ったのね…私たち」

 

ケイネスは一度深呼吸をすると、ソラウに言った。

 

「帰ろう…倫敦へ…」

 




どうも、久しぶりの一週間更新です

なんかソラウとケイネスが…ねぇ?

いや、これは私の二次創作ですから、お気になさらずに。

さて、久しぶりの主人公登場です。

ここからが後半?です。前半より短いと思いますけど汗

原作で言えば4巻あたりだったはずです。




ここから先は本作とは関係ないのですが

Apocrypha新刊…

大変面白かったのですが







えっと、ノロケ?
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