どぞ
『__問おう、貴方が私のマスターか』
月に輝く金砂の髪、少年の前に凜と佇む一人の騎士。
姿に違いあれど、少年が召喚したそれは間違いなくあの騎士王であった。
そこは、切嗣も知っているアインツベルンの城だった。
『衞宮士郎ッ!』
アーチャーと呼ばれたサーヴァント__衞宮切嗣の召喚したそれに酷似したその男が、少年の名を呼ぶ。
『なんだ、アーチャー!』
『■■■■■■■■ッ__!!』
相対するは鉛の巨人。そして背後に立つその主は雪のような、不適な笑みを浮かべる一人の少女。
『衞宮士郎、これ以上は足手まといだ!今すぐ凜とセイバーを追え!』
『なっ、俺はまだ戦える!』
そう言うと少年は、どこからともなく両手に黒と白の中華剣を出現させた。
『……』
紅い騎士は、その姿を静かに見つめた。
『衞宮士郎…貴様はこれから先、俺と同じ道を歩むだろう』
『__!!』
『正義の味方なんぞという概念に縛られ続け、なお走り続けた。得たものなんぞなにもない。価値のない自己満足だけだ。だが__』
『がぁッ!?』
少年は気が付けば宙を舞っていた。それが紅い騎士によって蹴り飛ばされたものによるのだということは遅れて気づいた。
『…だが今の貴様になら、何かを変えられるかもしれん』
そう言うと紅い騎士は、少年が握っていたものと同じ剣を出現させ、それを放り投げた。剣は天井を破壊し、崩れ落ちたそれは少年と紅い騎士らとの間に壁を成した。
『アーチャーッ!』
『さらばだ、衞宮士郎__お前なら彼女を、救えるかもしれん』
『!!』
少年はそれを聞くと、森へと駆け出した。
そして度重なる激しい戦いの末、聖杯戦争は幕を閉じる。
『__士郎、貴方を愛している』
それから月日は流れた。
今にも崩れそうなその洞窟内にいるのは白髪の一人の青年__衞宮士郎と、彼に抱えられている一人の女。
『桜…すまない、俺は桜を救ってやれなかった…』
『そんなこと…ないです。だって先輩、こうして最期に私を見てくれた…私、それだけで嬉しいんです』
『桜…』
『先輩、あの聖杯戦争が終わってからどっか行っちゃって、どんどん私が知らないところで先輩は変わっていっちゃって……先輩はまだ、セイバーさんを追いかけているんですね』
少年はそれに対し、小さくあぁ、と呟いた。
『ふふ、嫉妬しちゃうなぁ…羨ましいな…でも、それで良いんです。きっとセイバーさんが先輩の…今にも壊れちゃいそうな先輩の心を支えてるんだと思います。それは、私にはできないんですよね…』
『桜…ごめん、本当にごめん』
『謝らないでください先輩、こんな我が儘な私のために泣いてくれるだけで、桜は幸せです。__さよなら先輩、どうか先輩が__』
『桜…!!』
だがすでに彼女は息をしていなかった。彼女の胸に刺さっていた剣を、青年は涙を流しながら消した。
『…なぁ、セイバー。愛した民を国のために殺した時、信じた騎士に裏切られた時、お前はこんな辛い思いをしてきたのか?セイバー、俺には耐えきれないよ…』
青年は足元に横たわる、彼にとっては家族同然であった女の亡骸を見る。
『…いや、この悲しみを…お前はきっと乗り越えてきたんだ。俺もがんばらなきゃ…お前のところに追い付けない…』
青年はそう言うと、目前に禍々しく聳えるこの聖杯戦争の元凶を見、一振りの聖剣を投影した。
『久しぶりだな、遠坂』
『衞宮君、あなた…』
ロングヘアーの深紅のコートを着たその女は、青年の変わり果てた姿を見て驚愕した。
『そう、やっぱりあなただったのね…』
『遠坂、前もって言っておくけど…』
『止まるつもりはない、でしょ?わかってるわよそんなことぐらい。貴方の師匠だったんだから』
それを聞くと青年は困ったような笑みを浮かべた。女はそんな姿が変わり果てた青年の、かつてと変わらない仕草に複雑な表情を浮かべた。
『遠坂、桜のこと…すまなかった』
青年がそう言うと、女は少しうつむいた。
『あの娘だって、きっとわかってた。魔術師ならば覚悟していたはずよ。同情のつもりなら余計なお世話』
それを聞くと青年は少し寂しそうにそうか、と呟いた。
女はそんな青年を見ていて耐えられなくなったのか、声を荒くして言った。
『衞宮君、気付いてるだろうけど私は今日、貴方を止めるために来たの。口で言ってもどうせ聞かないんだから力ずくで貴方を止める。それが師であった私にできることなの』
女はそう言うと、コートの中から大きなルビーの宝石の付いた一つの杖と、一振りの奇怪な剣を取り出した。
『俺のプレゼント、使ってくれてるのか』
青年はその剣を見ると、少し嬉しそうに微笑んだ。
『…えぇ、ありがたく使わせてもらってるわ』
その剣はかつて青年が、師であった女の元を無断で去った時に残したものだった。
『でも悪いけど遠坂、俺はやっぱり進まなくちゃ…』
『もしかして、貴方まだセイバーのことを…?』
青年は頷いた。
『…そう、そういうこと』
刹那、青年と女を囲むように、炎の渦が舞い上がる。
『だったら私も、本気で貴方を止める…!!』
『待ちなさい!衞宮くん!』
あらゆる
先ほどまで女の手にあった剣は、檻の外にいる青年の足元に転がっていた。
『ごめんな、遠坂』
青年は、ボロボロだった。身体のいたる部位からは血が流れ、それでも青年はすまなさそうな表情を浮かべた。
対する女の方は剣の檻に囲われてはいるものの、身体には傷の一つもなかった
『本当にごめん。じゃあな、遠坂。今までありがとう』
青年は最後にそういうと、その場を立ち去ろうと歩き始めた。
『待てって、言ってるでしょ!!』
女は叫んだが、それでも青年の歩みは止まらない。
『邪魔よ、この!』
女は自身を囲う剣にガントを打ち込んだ。だが、贋作ではありながらも宝具である剣らには傷ひとつつかない。
『どけっ!このっ!このぉっ!』
女は涙を流しながら、剣を殴りつけた。女の綺麗な手からは血が流れ出た。
『お願いだから止まってよ!衞宮くん!魔術協会が!聖堂教会が!貴方を今に殺しに来る!だから止まってよ!死んじゃうのよ!?衞宮くん!』
すると青年はそれを聞いて、立ち止まって振り返った。
『あぁ、やっばり遠坂は優しいんだな…』
そう言って微笑むと青年は再び歩きだした。
その最後の微笑みは、涙で赤く腫れ上がった女の瞳に深く焼き付いた。
『どうして…』
女はそれ以上、何も言えなくなった。そしてその青年の微笑んだその顔が、女が見た青年の最後の姿であった。
__そこは戦場。
__辺りには幾つもの亡骸と、数々の剣。
__そして中央に立つ男は、満足げな笑みを浮かべた。
__身体中を、無数の剣に貫かれて。
『__待っててくれ、セイバー。すぐに追い付いてみせるさ』
目を覚ますと目の前にあるのは妻のアイリスフィールの顔だった。
「目が覚めた?切嗣」
「あぁ…」
「泣いているわ、切嗣」
「あぁ…」
切嗣は妻の身体を抱き締めた。
「アイリ…ごめん。本当にごめん」
「大丈夫よ切嗣。私はいつだって貴方の味方よ?だからどうしたのか、話して
?」
「ここに今、葵さんはいるんだ」
間桐雁夜は、禅城の屋敷を前にしてそう呟いた。
『…雁夜が愛したという女性が、ここに…?』
霊体化したセイバーが、そう言った。
「あぁ、そうだ。すぐ、近くに葵さんがいるんだ…でも」
雁夜は嗜虐気な笑みを浮かべた。
「俺はもう、葵さんに会う資格はないんだ」
『雁夜…』
「気付いたんだ。桜ちゃん助けるっていう俺の願いって、結局は俺が葵さんを好きだからっていう理由なんだよな。時臣を倒して、葵さんを自分のものになんて考えたことだって何回もあるんだ。でもさ…」
雁夜は葵と桜と、そして凛の姿を思い浮かべる。
「…やっぱり、俺には無理だ」
雁夜はそう言うと、禅城の屋敷を去っていった。
『いいのですか、雁夜…』
「あぁ、これでいいんだよ。でもまだ、聖杯戦争が終わった訳じゃない。作戦を考えるぞ、セイバー」
『…わかりました』
「話す…話すけど、少し待ってほしい」
切嗣はそう言うと立ち上がり、何やらでかける仕度を始めたを
「この目で、確かめなきゃいけないんだ…」
「切嗣…?」
切嗣はコートを羽織りながら言った。
「だから、待っていてくれアイリ。全てがわかったら、全て君に話すから」
「私は行っちゃ、ダメなのね…?」
「あぁ、ごめん…アイリ…」
アイリは少し考え、それからしょうがない、といった表情を浮かべた。
「必ず君に話すから…」
そう言うと、切嗣は屋敷を後にした。
(確かめなくちゃいけない…)
切嗣は思った。もしも、あの記憶が全て真実ならば…
(柳洞寺…円蔵山…)
こんにちはお久しぶりです
エミヤさん、オリ設定満載です
HFとか、UBWとか色々期待していただいていた皆様には申し訳ないです
Fateルートの改変モノでした
さて、原作のエミヤと違う点というのは、士郎(エミヤ)がセイバーの過ちを正した後にエミヤとなった?ところですね。なんか日本語おかしいですね
UBWからの士郎やエミヤの台詞から、生前のエミヤはセイバーを救うことができなかったようなんです。
そこが本作との違いでしょうか。
なんかうまく説明できなくて申し訳ないです
本作のエミヤの説明はまた別話でもある(はず)のでお待ちを
オリジナルが入ったので、多少辻褄が合わなくなるのも覚悟しております
でも更新は続けますので
それでは
__すみませんでした