Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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寝落ちしました。本当に申し訳ありません





どうぞ


第二十二話 望み

「何故…ですか…?」

 

片膝をつき、血を吐き出すとセイバーは言った。

 

「…何故、殺さなかったのですか?」

 

セイバーの呼吸は荒く、傷口からは夥しく血が流れ出している。

 

「フン…」

 

一方のキャスターは、黄金の剣を片手にセイバーを見下ろす。

 

「手を抜いたつもりも、情けをかけたつもりも毛頭ない。…だが」

 

キャスターはアイリスフィールと、そして間桐雁夜へと視線を写した。

 

再びセイバーへと目を向けると、キャスターは言う。

 

「こちらにも事情があってね。なにより…」

 

キャスターは手にしていた黄金の剣を、片膝をつくセイバーの前へ突き刺す。

 

「この剣は、彼女のものだ。私には扱いきれん」

 

キャスターがそういうと、役目を終えたその剣は魔力の粒子となり消滅した。

 

「そう、ですか…」

 

「君の方こそ何故だ?なぜあの時剣を止めた?君ほどの腕ならば避けることは愚か、私を殺すことも可能だったと思うんだがね」

 

それを聞くと、セイバーは力なく笑った。

 

「ははは…何を言うかと思えば…」

 

セイバーは己の剣を杖に、ゆっくりと立ち上がった。

 

「私では王を救えない…それなのに貴方までがいなくなってしまったら…誰が、あの御方を救うのですか…?」

 

「…」

 

「感謝、します。この身は、貴殿()によって裁かれた」

 

セイバーはそう言うと、雁夜の方へ向かう。

 

「フン…」

 

しばらくして、キャスターもアイリスフィールの方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたのか、セイバー」

 

答えは分かっていたが、雁夜はそうセイバーへ言った。

 

「申し訳ありません、雁夜…」

 

「いや、いいんだ」

 

満身創痍のセイバーを見、雁夜は言った。

 

「もう、戦えないんだろう?」

 

「…今は、雁夜からの魔力供給で辛うじて現界を保っている状態です」

 

「…そう、か…」

 

雁夜はそういうとはぁ、と一つため息をついた。

 

「俺にはやっぱり、無理な話だったんだ」

 

「雁夜…!それは違います!」

 

セイバーの否定に応じず、雁夜は何か思考する。

 

そしてしばらくの沈黙の後、雁夜は口を開いた。

 

「行くぞ、セイバー」

 

「…雁夜…まさか…!」

 

「あぁ」

 

雁夜はそういうと、右手で己の胸のあたりを掴む。

 

「セイバー、俺の願いを叶えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、アイリスフィール。時間がかかりすぎた」

 

キャスターはそう言うと、アイリへと歩み寄る。

 

「えぇ、大丈夫よキャスター…ただ」

 

「!!」

 

キャスターが近くに来たその瞬間、アイリの体がぐらりと傾く。

 

キャスターがそれを、ギリギリのところで抱き止める。

 

「アイリスフィール!!」

 

「ううん、やっぱり、あまり時間がないみたい」

 

新たにライダーの魂を吸収したアイリは、すでに人間としての昨日の大半が失われつつある。

 

「っ!」

 

キャスターはアイリに負担のかからないように素早く抱き抱えると、先を急いだ。

 

「ねぇ…キャスター?」

 

キャスターの腕の中で、アイリが消え入るような声を出す。

 

「…あまり、喋らない方がいい」

 

キャスターはそう言ったが、アイリは言葉を続ける。

 

「貴方は、やっぱりアーサー王と関係があるの…?」

 

「…あぁ、あるさ。隠していてすまなかった」

 

キャスターがそう言うと、アイリはやっぱり、と言って微笑んだ。

 

「貴方にとって、大切な人だったのね…?」

 

今度は、キャスターは何も答えなかった。

 

それでもアイリは満足したかのように、キャスターに、微笑むのだった。

 

「─!!」

 

境内に入り、キャスターが足を止める。

 

「キャスター…?」

 

「すまない、アイリスフィール」

 

キャスターは言った。

 

「もう少しだけ、私に時間をくれないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは一体…!?」

 

薄暗い洞窟を進んだ先、そこにあるべきのものは無色の万能の願望器。しかしそこにあったのは、人間にすぎない切嗣達でさえ、その気配だけで異常性を理解できるほどの邪悪の塊。

 

あらゆる不の感情が渦巻き、気を抜けば意識を持っていかれそうになる。

 

「これが…大聖杯だというのか…!?」

 

あまりの光景に、時臣の頬を大量の汗が伝う。

 

「っ!」

 

切嗣も、大聖杯のその姿を目の当たりにし、声を失う。

 

「どういうことだ…!?何故、大聖杯がこのような!?」

 

「…大聖杯は、あらゆる悪に汚染されている」

 

「…!?」

 

「"この世全ての悪(アンリ・マユ)"。60年前…つまり第三次聖杯戦争において、アインツベルンが召喚したサーヴァントだ。召喚されたのはそれこそゾロアスターの悪神ではなかったが、そのサーヴァントを大聖杯が取り込んだ結果がこれさ」

 

「なんだと…」

 

切嗣はそう言うと、時臣へ振り返った。

 

「君たちがアインツベルンを恨もうが憎もうが構わない。僕には関係ない話だからね…だが、今この状況で最優先すべきことはそんなことじゃない」

 

切嗣はもう一度大聖杯へと目を向けた。

 

「…遠坂時臣。ご覧の通り、聖杯の正体はこんな邪悪なものだ。君がどんな願いを持っていたか知らないが、僕はこいつを破壊する」

 

「待て…何故、そこまでこの聖杯について知っている…?」

 

「そんなことは今はどうだっていい!」

 

切嗣が怒号をあげる。

 

「選べ、遠坂時臣!僕に協力してこいつを破壊するか、"この世全ての悪(アンリ・マユ)"をこのまま誕生させるか!」

 

「…っく!」

 

その時、綺礼が口を開いた。

 

「師よ…!入り口のアサシンの反応が途絶えました…!」

 

 

「「!!」」

 

 

すなわちそれは、何者かがこちらへ迫って来ているということ。

 

 

──否、既に目前にまで来ていた。

 

 

「…探したぞ、時臣」

 

 

切嗣たちの目の前で、その黄金のサーヴァントが姿を現す。

 

 

「王であるこの我に何の断りもなしに、何をしている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカカッ!雁夜、また随分派手にやられたようだのう?」

 

間桐の地下の蟲蔵。間桐臓硯は現れた雁夜に向け言った。

 

「情けないのう!まだ桜のほうが役に立つかもしれんのう!」

 

臓硯の横には、気を失いぐったりとしている間桐桜の姿が。おそらく、今日も魔術の修行という名の臓硯による拷問を受けたのだろう。

 

「…」

 

雁夜は何も言わずに、ただ臓硯を睨み付ける。

 

「ふん、つまらんやつよ…なぁ雁夜よ、儂にそのセイバーを寄越さんか?何やら不穏な空気がしてのう、儂直々に出向いてやらんといかんようでな。心配するな。儂ならまだセイバーをどうにか扱える。

なに、ただとは言わん。儂が聖杯をとったら、桜を解放してやるぞ?ん?どうだ?」

 

「…黙れ、爺」

 

ここでようやく、雁夜が口を開いた。

 

「…セイバー」

 

雁夜の呼び掛けに応じ、セイバーが姿を現す。

 

「フン、頭の固いやつめ。サーヴァントで儂を殺す気か?おぉ、怖いのう!」

 

カカカッ、と雁夜を嘲るように臓硯が笑う。

 

「爺、間桐はもう終わりだ」

 

そう言うと、雁夜は令呪の刻まれた手をかざした。

 

「…?」

 

「令呪をもって、間桐雁夜がセイバーに命ずる」

 

令呪が、光を放つ。

 

 

「俺の心臓ごと、間桐臓硯を殺せ」

 

 

──刹那、鈍い音を響かせて、セイバーの剣が雁夜の体を貫いた。

 

「…おぉ、おぉおおぉぉぉぉお!!」

 

臓硯が叫び声をあげる。

 

「雁夜あぁぁぁぁぁ貴様ぁぁぁぁ!!」

 

「は…気付いて…ないとでも…思ったのかよ…?」

 

雁夜が心臓を貫かれた状態で、目前で苦しむ臓硯を見る。

 

「大方…死んだ後…お…れの…体を使うつもりだった…んだろな」

 

臓硯が雁夜に与えた桜の純潔を奪ったという刻印蟲。あれこそが、雁夜の肉体を奪うために臓硯が仕込んだ、臓硯の本体だったのだ。

 

「上手く…隠れ、ても……腐った、臭いまでは…隠せて…なかったみたい…だな…」

 

息を荒くして、雁夜は言った。

 

「おぉぉぉぉおぉおおお!!」

 

 

ボロボロと、臓硯の体を形成していた蟲たちが崩れてゆく。

 

「雁夜ぁぁぁぁ!!」

 

手を伸ばす臓硯。しかし、その手は雁夜に届くことはなく。

 

「あぁ…あぁ…あぁ…」

 

蟲たちが完全に崩壊し、その500年に及ぶ人生の幕を閉じた。

 

「がはっ…!」

 

がくりと膝をつき、そしてそのまま倒れる雁夜。それと同時に、雁夜の胸を貫いていた剣も消滅する。

 

「雁夜…!」

 

駆け寄るセイバー。雁夜の体からは血液が溢れ出す。

 

「ありが…とうな…セイ、バー…俺は…間桐…勝ったんだ…」

 

「えぇ…えぇ…!貴方は勝ったのです…!」

 

「はは…そう、か…」

 

雁夜がそう言うと、腕にあった最後の令呪が光を放つ。

 

「…」

 

雁夜は何か言おうとしたが、言葉にはならず、しかし令呪はセイバーに魔力を与えた。

 

「…雁夜!」

 

セイバーは雁夜の名を呼んだ。しかし雁夜は既に息絶えていた。

 

「貴方は…強かった…」

 

開いていた雁夜の目を閉じ、セイバーは立ち上がる。

 

「この手で主を殺めたなんて…私はつくづく騎士として失格ですね…」

 

雁夜から令呪によって与えられた僅かな魔力。

 

「私の望みは…もうありません。ならば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──、──────。』

 

誰かの声がする。

 

『───、────────。』

 

その声に、覚えがある。絶望に染まった今の私でも、忘れることはなかった。

 

『───。』

 

立ち去る気配。それと同時に、私の中で眠っていた意識が目を覚まそうとする。

 

「し、ろう……?」

 

目を覚ますと、そこには誰もいなかった。

 

「ぐっ…!」

 

体が動かない。回復はしつつあるものも、英雄王から受けた一撃は騎士王の体をズタズタに引き裂いたのだ。

 

「私は…何を…」

 

聞こえてきた声。それがこの時代にはいるはずのない、かつてのマスターの声に思えたのだ。

 

「……」

 

まだ、体は動けそうにない。しかし、騎士王は体の感覚に妙な違和感を覚える。

 

「…これは、どういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ…これは!」

 

「聖杯が何であれ、これは我のものだ。勝手な真似は許さん…!」

 

ギルガメッシュがそう言うと、ギルガメッシュの周りの空間が歪み宝具の原典が顔を覗かした。

 

「時臣…貴様は目障りだ」

 

そしてそれらは、時臣へと襲いかかった。

 

「…アサシン!」

 

しかし、突如として現れたアサシンが剣群から時臣を庇った。

 

「…」

 

綺礼の令呪によって呼び出された最後のアサシンは、そうして消滅した。

 

「ふん…綺礼か。余計なことを…」

 

ギルガメッシュが、綺礼へと視線を写す。

 

「綺礼…お前はいつまでそいつらの肩を持つ?」

 

「なに…?」

 

「口元が歪んでいるぞ…?」

 

「…!!」

 

ギルガメッシュはそう言って不敵な笑みを浮かべると、再び時臣へと殺気を移した。

 

「悪いな、時臣。貴様の態度は嫌いではなかったんだがな」

 

新たな宝具の原典たちが出現し、時臣たちへ向けられた。

 

「お待ちください、王よ!」

 

「黙れ」

 

時臣の必死の懇願も虚しく、ギルガメッシュが剣群を放とうとした。

 

──その時

 

「がっ…!」

 

時臣の腕に、何かが突き刺さる。

 

「"破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)"」

 

「──!?」

 

その言葉と同時に、剣とも矢とも言い難いそれは消滅した。

 

「令呪が…!?」

 

時臣は、自分から令呪の感覚が無くなったことに気付く。

 

「なぜ…!?」

 

「──令呪は無くなった。君を縛る者は無くなったんだ。それでも、その男を殺す必要はもう無いのではないかね?」

 

その声と同時に、アイリを腕に抱き抱えたキャスターが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ただいま」

 

呼びベルの音が鳴り、遠坂葵は玄関の扉を開いた。

 

「どちらさま……え…」

 

そこにいたのは、間桐雁夜だった。

 

「雁夜君…?どうして……!!」

 

そしてその腕に抱かれていたのは、髪が変色し、やつれきった桜だった。

 

「桜っ!!」

 

時臣から、桜に関わらないようにと言われそれを守ってきた。しかし、変わり果てた娘の姿を見て、葵は耐えられなくなった。

 

「桜…!桜…!」

 

雁夜から桜を受けとると、葵は涙を流しながら桜を抱き締めた。

 

「お母…さま…?」

 

眠っていた桜は目を覚まし、自分が抱き締められていることに気が付く。

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

 

「お母さま…!」

 

状況を飲み込めないまま、しかし母の温もりを感じ、桜も涙を流した。

 

「もう、離さないから…!」

 

葵はそう言うと、再び強く桜を抱き締めた。

 

しばらくしてふと、顔を上げた。

 

「雁夜君…?」

 

そこにいたはずの雁夜の姿は無かった。

 

「雁夜君…!」

 

──名前を呼んでも、反応はない。

 

──ただ、魔力の粒子の輝きが、風に漂い流されていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




おひさしぶりです。

やっと一段落ついたので更新ということです。

臓硯にハッピーエンドは訪れませんでした。期待していた人がいたら申し訳ないです。

アニメFate全然が3週間分くらい見れていないので、今日こそ見ます。

それでは、また

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