Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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お久しぶりです






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第二十五話 追憶

「ようやくお出ましか…」

 

キャスターはニヤリと笑うと、己の傷の具合を確認する。

 

「お前が…最後のサーヴァントだ」

 

騎士王は聖剣を地面から抜き払うと、その切っ先 をキャスターへと向けた。

 

「…」

 

ふらりと振り返り、キャスターは騎士王へと視線を移した。

 

「聞おう」

 

騎士王は言った。

 

「…貴様はなんだ?」

 

「…どういう意味かね?」

 

キャスターは答える。

 

「知っての通り、私はしがないサーヴァントの端くれにすぎん」

 

「そういうことではない…!」

 

騎士王は言葉に憎悪を含ませ声を荒くした。

 

「前に貴様は、第五次聖杯戦争について私に聞いたな」

 

「…」

 

「何故サーヴァントの端くれに過ぎぬ貴様が、それについて知っている」

 

キャスターは目を細め、騎士王を見据えた。

 

「答えろ、キャスター…!」

 

「その件については」

 

キャスターが口を開いた。

 

「はぐらかしたのは君のほうだろう?」

 

「……!!」

 

騎士王の殺気が増し、騎士王の体に纏う魔力の濃霧が溢れ出す。

 

「ならば私も一つ、聞かせてもらおうか」

 

騎士王は無言のまま、キャスターを睨み付ける。

 

「君が、聖杯に託す望みはなんだ?」

 

騎士王が目を細める。

 

「…望みだと?」

 

ああ、とキャスターは呟いた。

 

「君も聖杯の呼び掛けに応じた身だろう。ならば君にも、聖杯に託す望みがあるのではないかね?」

 

瞬間、轟、と音をたて、騎士王の周囲に魔力の風が吹き荒れる。

 

「絶望に染まった私に、望みなどあるはずがない」

 

「…っく!」

 

そのあまりの風圧に、キャスターも傷だらけの脚に力を籠める。

 

「かつて私は、国王の選定をやり直し、ブリテンの復興を望んだ」

 

「…!!」

 

「くだらん。愚かな望みだ。そのような甘い考えを持つから国が滅ぶのだ」

 

「…愚かだと?」

 

キャスターの呟きに応じることなく、騎士王は言葉を続ける。

 

「この身がまだそのような望みを抱いているというならば、こんな体などこの世全ての悪(アンリ・マユ)にくれてやる」

 

「…なるほど。それが君の望みか」

 

キャスターはそう言うと、その両手に白と黒の中華剣を投影する。

 

「なら、俺たちが戦う理由はそれだけで十分だ」

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

キャスターの足下を中心に、荒野と剣の世界が姿を現す。

 

「そうだろう、()()()()?」

 

騎士王に聞こえただろうか、キャスターは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

__走って、走って、走り続けた。

 

__そうすれば、いつか俺を待ってくれている彼女に追い付くと思っていたからだ。

 

__根拠なんて必要ない。そんなものが無くったって、俺達はどこかで繋がっている。

 

__そうやって、自分にいつも言い聞かせてきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「固有結界か」

 

騎士王は、己が今立っているその世界の辺りを見渡す。

 

見渡す限り、剣、剣、剣。そして空には巨大な歯車が噛み合うことなく各々で回り続けている。

 

「これが貴様の世界か」

 

騎士王はこの世界の主に問いかけた。

 

「その通りだ。理想を求め、ひたすら走り続けた男が辿り着いた地。無限の剣の世界とでも言うべきか」

 

キャスターはそう言うと足下に突き刺さった剣を抜き払い、手に取った。

 

「どれもこれも贋作に過ぎんが…」

 

そして、キャスターは手に取ったその剣を手放した。しかし、剣は落下することなく、剣先を騎士王へと向けたまま宙に浮かんでいる。

 

「…往け」

 

キャスターがそう言うと、剣は騎士王へと飛び掛かった。

 

「…」

 

しかしそれは騎士王の一閃により敢えなく切り落とされる。

 

「…くだらん」

 

騎士王がそう言った瞬間には、既にキャスターが目前にまで距離を詰めていた。

 

「はぁっ!」

 

キャスターが剣を振り下ろす。しかしそれは騎士王の聖剣によって防がれる。

 

ならばとキャスターはもう片方の剣を振るう。今度はそれを騎士王は剣の柄で弾き落とした。

 

「…っ!」

 

キャスターは左手に再び剣を投影し、騎士王と切り結ぶ。

 

「その傷で…」

 

鍔迫り合いの最中、騎士王はキャスターの脇腹を見た。英雄王が放った宝具により抉られ、血がキャスターの外套にまで滲んでいる。

 

「よく動く…!」

 

騎士王は片手で握った聖剣でキャスターの剣撃を凪ぎ払うと、もう片方の腕から黒い魔力を放出した。

 

「がっ…!!」

 

魔力の牙はキャスターの脇腹へ噛みつき、キャスターの体から血液を奪う。

 

キャスターはそれを剣で切り裂くと、剣群を出現させ騎士王へと放つ。そしてその隙に距離を騎士王からとった。

 

土煙が辺りを覆い、視界が悪くなる。

 

「…!!」

 

キャスターは左へ跳躍した。その瞬間、キャスターが先程まで立っていた場所から魔力の塊が噴き出した。

 

騎士王は地面に突き刺した聖剣を抜くと、キャスターへと詰め寄った。

 

「ふん…!!」

 

圧倒的なまでの暴力。負傷しているとは言えども、固有結界の中でさえキャスターは防御に徹っさなくては騎士王と渡り合えない。

 

騎士王の一撃を受け止めながら、キャスターは言った。

 

「…なぜ君ほどの人間が、この世全ての悪(アンリ・マユ)に身を委ねた?」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__全ては、己の油断が招いた結果。

 

__己のマスターである少年を守るため。

 

__ただ、私は思うのだ。

 

__あの時、すぐに状況を判断し少年を連れて逃げていれば__

 

__私は、悪に身を委ねずに済んだのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ…!!」

 

横凪ぎの一閃は、キャスターを強く弾き飛ばした。

 

「…っ!」

 

キャスターは直ぐ様体勢を立て直す。

 

「これは、私が選んだ道の結果だ」

 

「…」

 

キャスターは弓を投影し、矢を幾つか騎士王へと放った。

 

「吼えろ…!!」

 

騎士王が剣を振り上げると、同時に魔力の塊が壁のように地面から噴き出した。キャスターの矢は騎士王の魔力に呑み込まれ霧散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__再開した彼女は、変わり果てていた。

 

__嘗ての理想を捨て、絶望に染まりきっていた。

 

__彼女の理想は、間違っていたが正しかった。

 

__だからそれを愚かだとか、くだらないと言うのは許せない。

 

__それは、傷つきながらも戦い続けた彼女の誇りを侮辱することだから。

 

__だから俺は、許さない。

 

__例えそれが、彼女自身であっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターの放つ矢を避けることなく、騎士王は切り落としながら突き進む。

 

「失せるがいい…!!」

 

騎士王は自身の間合いまで突き進み、その黒き刃をキャスターへと降り下ろした。

 

「おぉぉっ!」

 

キャスターはそれを左手に投影した剣で器用に軌道をずらし、そして間合いをとる。

 

I am the bone of my sword (体は剣でできている)

 

キャスターはその手に黄金の剣を投影する。

 

「……!!」

 

騎士王は中腰に構え、そしてキャスターとの距離を跳躍により縮める。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

キャスターは黄金の剣を大きく振りかざし、そして騎士王へと降り下ろした。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

轟々と音をたて、振り下ろされた黄金の剣と、それを受け止める騎士王の黒き聖剣とがぶつかり合い唸りをあげる。

 

「ふんっ!」

 

「…っ!」

 

激しい鍔迫り合いの末、騎士王は大きく弾き飛ばされる。空中で体勢を整え、くるりと一回転し着地する。

 

黄金の剣は騎士王との鍔迫り合いに勝利したものの、その衝撃に耐えることができなかったのか、パリン、と音をたてて消滅した。

 

「どうした騎士王」

 

キャスターが肩で呼吸をしながらニヤリと笑う。

 

「剣に迷いが生じたぞ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__私は絶望に染まった。

 

__故に、この身には既に望みはない。

 

__あるのは憎悪と絶望のみだ。

 

__では、どうして?

 

__どうして、永久に失われた黄金の剣を振るったこの男の姿が__

 

__かつてのマスターである少年の姿と重なって見えたのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…迷うな」

 

騎士王は己に言い聞かせるようにそう呟くと、その身に纏う魔力を増加させる。

 

「…!!」

 

キャスターは騎士王からさらに距離をとる。

 

騎士王の聖剣を握る手に力が籠る。今までの構えとは違う特徴的な構えに、キャスターは見覚えがある。

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)…!! 』

 

騎士王の増幅した魔力が、聖剣へと流れ込む。おぞましいほどの憎悪が、魔力が、聖剣に纏う。黒い魔力が聖剣を覆うと、それはまるで巨大化したかのようだった。

 

「失せるがいい…我が幻想…!!」

 

大剣となった聖剣を支えるために脚に力がこもる。そしてついに、騎士王が必殺の一撃を解放する。

 

約束された(エクス)__』

 

__だが、その時騎士王は見た。

 

熾天覆う(ロー)__』

 

__キャスターを覆い尽くす

 

勝利の剣(カリバー)__!!』

 

七つの円環(アイアス)__!!』

 

 

__七枚の花弁(最強の盾)

 

 

__そう、それはかつて己の聖剣を破った

 

 

__あの、少年の使用したのと同じもの

 

__そして再び、男に少年の姿が重なる

 

「…っ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

騎士王が吠える。増幅する魔力。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

一枚、二枚と、キャスターを覆う花弁が消滅する。

 

 

 

 

 

そして最後の一枚となり、膨大な魔力の奔流が二人を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一ヶ月以上お待たせてさせてしまい申し訳ありません。
お久しぶりです。

今回はエミヤのオリジナル要素が濃くでている?と思います。

時間があまりなかったので平日更新になりましたが、そこは御愛嬌。

そろそろ物語もクライマックスに近づいております。

それでもまだ完結には時間がかかりそうですが汗



それでは、また

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