Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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どうもお待たせいたしました



どうぞ


第六話 因縁

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…っぐ!!」

 

 

倉庫街から少し離れた路地裏に、間桐雁夜は壁に背を預け座り込んでいた。

 

 

「雁夜…!」

 

その横で彼のサーヴァントであるセイバーが、主の身を案じ霊体化を解き体を支えようとする。

雁夜の体は、刻印虫によって蝕まわれている。セイバーに魔力を供給する度、その体は蟲によって貪り尽くす感覚に陥るのだ。

 

「セイバー…なぜあの時、俺の指示に従わずアーチャーを攻撃しなかった…!」

 

雁夜はそう言って、まだ視力を失っていない右目でセイバーを睨み付けた。

 

「雁夜…あの時私は既にランサーとの戦いで魔力を消耗していました。また、いざという時の為にも魔力は温存しておくべきだと考えたのです。実力が未知数のアーチャー相手に、わざわざ戦いを挑むというのは得策とは言いがたいでしょう。それに…」

 

「…」

 

「雁夜の魔力供給は、決して充分とは言えません。長期戦になればなるほど、私は不利になるでしょう。なによりも、貴方の体のことを考えてはやはり…」

 

「っ…!!」

 

雁夜はそれを聞くと、悔しげに顔を歪めた。己の未熟さ故に、マスターとして行動することはおろか、サーヴァントに全力で戦わせることもままならない。

 

「お前に全力で戦わせてやれないということについては謝る。だが俺の体のことは…いい。どうせ長くなんてないんだからな。…でも、俺はなんとしてでも聖杯を獲らなきゃならないんだ。じゃなきゃ、桜ちゃんを救えない…。魔術師だなんて馬鹿げたことに、あの娘をこれ以上巻き込むわけにはいかないんだ…!」

 

「雁夜…ですが」

 

「うるさい!サーヴァントならマスターの命令に従え!…っぐぁ!」

 

声を荒くした瞬間、彼の体内にいる刻印虫が暴れだした。

 

「わかりました。ですから雁夜、これ以上は体に響きます。ひとまずどこか体を休めるところへ行きましょう。」

 

そう言うとセイバーは雁夜に肩を貸し、路地裏を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターは切嗣が拠点とするビジネスホテルの屋上で一人佇んでいた。幸いここは廃れたホテルだ、人気はないので実体化しても問題ない。

 

「アルトリア…」

 

先程の戦いにて、最後に現れた黒き騎士王。

 

__例え彼女がどのような姿になろうとも、どんなに時が経ち記憶が磨耗しようとも、その姿だけは鮮明に思い返すことができるだろう。だからこそ…

 

「なぜ君があんな姿に…あれではまるで…」

 

「キャスター」

 

ふと気が付くと、後ろには彼のマスター衛宮切嗣がいた。

 

「なんだねマスター」

 

キャスターは切嗣へと振り返った。

 

「先の戦い、ご苦労だった。初戦だったが多くの敵サーヴァントの情報が入手できた。」

 

「…それで、本当に聞きたいことはなんだね?」

 

そう言われ、切嗣は先程と打って変わって極めて冷酷な声で答えた。

 

「…キャスター、お前は一体何者なんだ?」

 

切嗣は確かにキャスターの戦果を評価していた。白状すれば、それは期待以上の物だったと言うべきだろう。だからこそ、その一方で疑念が深まる。

 

「お前はセイバーとランサーに向けて、一つの矢を放った。そのときお前は確かに"赤原猟犬"とその矢を呼んでいた。あれは北欧の英雄ベーオウルフの物だ。ならばお前の真名はベーオウルフか?…いや違う、"赤原猟犬"は剣だ。それをお前は剣としてではなく矢として使用した。なにより、ベーオウルフが魔術師のサーヴァントになるわけない。」

 

そう言って切嗣はキャスターを睨み付けた。

 

「__答えろキャスター!」

 

キャスターはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「マスターが察するように、私はベーオウルフではない。確かに私はベーオウルフの剣"赤原猟犬"を使用した。だがあれは本物ではない。私はねマスター、生前見た刀剣の類いならばそれを贋作として使用することができる。それが私の、魔術師《キャスター》のサーヴァントとしての能力だ。」

 

それでもなお、切嗣はキャスターを睨み続けている。まだ、答えるべきことがあるだろうと。

 

「すまないマスター、私はまだ自分の真名を思い出せない。」

 

「…そうか」

 

嘘だ、と切嗣は心の中で呟いた。こいつはまだ何か隠している。

 

__あの黒き騎士王、アーサー・ペンドラゴンが姿を見たとき、こいつは明らかに動揺していた。ならこいつは、セイバー__ランスロットと同じ円卓縁の英雄なのか?だからこそ解らない。円卓の騎士とベーオウルフの伝説とではあまりにも接点が無さすぎるのだ。

 

(キャスター、お前は一体何者なんだ…?)

 

これ以上聞いても、こいつはおそらく答えないだろう。深まる疑念を胸に仕舞いつつ、切嗣はもう一つの用件をキャスターに話始めた。

 

「まぁいいだろう。話は変わるがキャスター、今からランサーのマスターの拠点を叩くことにする。」

 

そうして切嗣はその概要をキャスターに話した。

 

「ほう、それは実にシンプルでスマートな作戦だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木の町を一望できるこの高級ハイアットホテルの一室に、ケイネス達はいた。

 

「ランサー、出てこい」

 

「は、お側に」

 

ケイネスは苛立ちを明らかにした声で続けた。

 

「ランサー、今夜貴様は一体何をした?誇るべき戦果を上げたか?マスターである私にその実力を見せつけるのではなかったか?」

 

「…」

 

「宝具を開帳してもなお、敵サーヴァントの首級はおろか有利な立場にいながらセイバーにただの一撃も当てられやしなかったではないか。違うかランサー?」

 

「…その通りでございます、我が主よ。」

 

「ふん、フィオナ騎士団が聞いて呆れるというものだ」

 

「っ!主よ!」

 

「黙れランサー!貴様は私に誓ったはずだ!聖杯をこの私に捧げると!それがどうだ、令呪一つ費やしても何もできやしなかったではないか!ふざけるのも大概にしろ!」

 

「いいえケイネス、ランサーは何も悪くないわ」

 

その声の主はケイネスの許嫁、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだった。

 

「むしろ間違えていたのはケイネス、あなたのほうじゃなくて?」

 

「ど、どういうことだねソラウ」

 

はぁ、とソラウは溜め息をもらし言葉を続けた。

 

「敵サーヴァントの情報も何も無いのに、いきなり倒すなんていくらランサーが強くてもそんなの無茶だわ。仮にセイバーを倒しても、消耗仕切ったところを他のサーヴァントに狙われたら一体どうするつもりだったの?令呪に関してもそう。セイバーを襲ったサーヴァントは、セイバーだけでなくランサーをも標的としていた。あなたがもう少し判断力に長けていれば、令呪だって消費することはなかったはずよ。そうよねケイネス?」

 

「…っ!」

 

先程はランサーに怒鳴り散らしていたケイネスだが、ソラウだけは例外だった。彼女はケイネス・エルメロイ・アーチボルトが唯一愛した女性だったからだ。

 

「確かに、今宵の戦いでは私にも落ち度があった…」

 

「それに、まだランサーは真名も"必滅の黄薔薇"の能力も明かしていない。これなら次の戦いで敵の意表を突くことも可能よ。それを貴方は…」

 

「ソラウ様、どうかそこまでにしていただきたい。騎士として主へのこれ以上の侮辱は見過ごせません。」

 

今までただ黙っていたランサーはここにきて口を開いた。

 

「そ、そうね…御免なさいケイネス。少し言い過ぎたわ」

 

ケイネスはソラウの態度の急変に気付いていた。そしてふと、ランサーの右目の下の黒子を見やる。乙女を惑わすディルムッド・オディナの『魅惑の黒子』。名家の血を継ぐソラウならば、この程度の呪いなら抵抗できるはずだが…

 

ふと部屋の中に防災ベルの音が鳴り響く。

 

「どうやら、敵襲のようだな。ランサー、下の階に降りて敵を迎え撃て。」

 

「は」

 

「お客人にはケイネス・エルメロイの魔術師工房をとっくり堪能してもらおうではないか。ソラウ、魔術師の私の力を今こそ見せてあげるよ」

 

「えぇ期待しているわ。神童とまで呼ばれた貴方の実力、私にみせてちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣はケイネスが拠点としているホテルの爆破の準備を終え、キャスターに念話で呼び掛けた。キャスターはケイネスがいるホテルの向かいにあるビルにいる。そこはケイネスのいるホテル32階を見張るには絶好の位置である。作戦としては、切嗣がホテルを爆破し、それでもなお、何らかの手段をとってケイネス達が生きていたらキャスターが狙撃をして仕留めるというものだ。予定では舞弥にこれを担当してもらうのだったが、キャスターがあれほど正確な射撃を可能とするならば、万が一を考え彼にこの役を代わってもらうことにした。そして舞弥は今、明日の朝日本に到着するアイリを迎いに行っている。

 

「準備完了だ。そちらは?」

『問題ないとも。いつでも構わない』

 

それを聞き、切嗣は迷いなく起爆スイッチを押した。

 

瞬間、冬木で一番の高さを誇るそのホテルは成す術もなく崩壊した。辺りが一層騒がしくなり、避難者や野次馬達はパニックに陥る。しばらく時間が経ち、ようやく騒ぎにも一段落ついた頃、切嗣はキャスターに確認をとった。

 

「キャスター、何か動きは?」

 

『ないな。おそらく瓦礫の下敷きにでもなったんだろう』

 

 

 

 

 

 

ホテルの爆破を見届け、キャスターは32階の様子を見る。

 

『キャスター、何か動きは?』

 

「ないな。おそらく瓦礫の下敷きにでもなったんだろう」

 

言葉ではそう口にするが、念のためだ、もうしばらく様子を見ることにしよう。

 

__その瞬間だった。

 

「っ!?」

 

キャスターは咄嗟に干将を投影し、振り向く前ににそれを弾く。キャスターの頭部を狙って飛来してきたそれは、一振りの短剣だった。

 

「ほう、アサシンの投擲を防ぐとはな」

 

__その声に、覚えがある。キャスターはゆっくりと振り返り、その声の主を見やる。

 

「察するにキャスターのサーヴァントのようだが、弓だけではなく剣をも使いこなすか」

 

「貴様は…」

 

__そこにいたのは数体のアサシンを引き連れた…

 

「言峰…綺礼…!!」

 

__一人の、迷える神父であった。




お待たせいたしました。今回も長めになっております。

黒セイバーがもうすぐ夜明けだとか言ってたくせに、バリバリ切嗣たち行動しちゃってます。そこはあえて突っ込まないでください。

さて次回も更新がいつになるかわかりません。申し訳ありません。

2月は少し忙しいんです。3月から書き始めれば良かったとか思ったり思わなかったりします。

こんな感じですが次回もよろしくお願いします。

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