重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第8話 挑発

「何ッ?!」

 

ガタッ!と音を立てて提督が椅子から立ち上がる。

 

「まずいな・・・、一応本部に報告はしているが、この状況でお前の事を奴が知ったら・・・」

 

「別に構わないだろ。どうせいつかはバレるんだ。もし訊かれたらその時はその時さ」

 

「だが、お前の能力を知ったら間違いなく寄越せと言ってくるぞ?」

 

「そ、そうですよ!どんな手を仕掛けて来るか分からないんですよ?」

 

「木曾と村雨の言う通りだ。奴はここに来る度に嫌味を撒き散らしたり難癖をつけてくるから、それに関しては対処できるが━━」

 

そう言ってまだ俺を止めようとする提督を手で制した。

 

「俺があんな陰険野郎の鎮守府に黙ってついて行くとでも?全力でお断りだ。件の話になったら俺に振ってくれ。喚くようなら何か条件付きの演習でも何でも好きにして黙らせりゃ良い。お前はいつものように対応すれば良いのさ」

 

そう言い終えると同時に執務室の扉が勢い良く開け放たれ、2人の影が入って来た。

 

「ふんっ!相変わらず何も無い鎮守府だな。それで?この鎮守府の者は貴様も含めて上官に対する出迎えすらできん無能共の集まりなのか?」

 

鼻を鳴らし、こちらに対する敵意を一切隠そうともせずに好き勝手言ってくる男と、その後ろで静かに佇む少女。

 

この顔は前に木曾に教えてもらった肥太とか言う将校で間違い無いな。それにしてもこいつ・・・

 

 

 

 

 

 

━━腹の周りになんつう装甲板(贅肉)を着けてやがるんだよ・・・。いったいどんな生活を送ったらあんな体型になれるんだ?

 

「・・・申し訳ありません。なにぶん突然の事でしたので」

 

提督は目の前の中将の言葉など意に介さず、敬礼をして弁明する。

 

「チッ、まあいい。で?以前この鎮守府に送った深海棲艦の情報は有意義に活用してくれたかね?」

 

「ええ、敵の艦隊を発見・撃破し、その中核であった戦艦棲姫も撃破しました」

 

「は?」

 

その情報が誤ったものである事を知って、態とらしくニヤニヤと嗤いながらそう訊いてくる目の前の贅肉の塊に、提督は嗤い返しながら答えた。

どうやらこう返されるとは思っていなかったらしく、中将が間抜けな声を上げる。

 

「そ、そのような艦隊をこんな弱小鎮守府が退けられる筈が無いだろう!ふざけた事を抜かすな!」

 

「いえいえ、事実ですよ。ただ、報告よりも少しばかり(・・・・・)規模が大きかったのですがね。既に報告書も提出しましたし、証拠もございますがご覧に━━」

 

「ええい、黙れ黙れっ!!仮にそいつらを沈めたとして、どこにそんな火力を持った艦がいる!!」

 

「いますよ、中将殿の目の前に」

 

「何?・・・貴様、何者だ!」

 

成程、ウチの提督は毎回こんなやり取りをしているのか。さてと、ここからは俺の番だな。

 

「はっ!申し遅れました!私はザンクード級重原子力ミサイル巡洋艦1番艦のザンクードであります!」

 

そう名乗り、ビシリと敬礼する。

 

「ほう・・・原子力ミサイル巡洋艦だと?そのような艦種の艦娘は存在しない筈だ。それに貴様はどう見ても男のようだが?」

 

「はっ!私は男ですが、正真正銘の軍艦であります!」

 

「それを示す証拠は?」

 

「私にも提督や他の艦娘同様、妖精が見えております。これでは証拠にならないでしょうか」

 

「ふむ・・・」

 

近くにいた妖精を目で追って、妖精が見えるという事を肥太に示す。

何でも、提督の適性がある人間と艦娘には妖精が見えるらしい。前に木曾に教えてもらった事が役に立った。

肥太も俺の視線の先の妖精に気付いたらしく、俺が妖精を見る事ができるという事を理解したようだ。

 

「・・・新たな提督が配属されたと言うような情報は無い・・・どうやら本当のようだな。貴様、そいつが言っていた事は事実だろうな?」

 

「はっ!全て事実であります!」

 

「そうか。元帥の奴が言っていたのはこいつの事か・・・虚偽の報告ではなかったようだな。貴様、俺の鎮守府に来い。存分に役立たせてやろう。ありがたく思え」

 

早速来ました。陰険野郎の熱烈なラブコール。

こいつ、何様のつもりだよ。もう少しマシな言葉は無かったのか?

 

「申し訳ありません。そのお誘いは誠に魅力的ではありますが、ご遠慮させて頂きます」

 

「なぜだ?こんな辺境の鎮守府で弱小艦隊の旗艦やその司令官のような無能共に囲まれて朽ち果てるより、俺の鎮守府に来た方が幸せに決まっているだろう?」

 

この時、肥太を除く全員が、ザンクードの周りの温度が少しだけ下がったような錯覚にとらわれた。

 

・・・今、こいつは俺の仲間や提督を無能と言ったか?面白い冗談をどーもありがとー。お礼に、ここはガツンと言ってやろう。お前の頭でもよぉーく解るようにな。

 

「そうですね。1つ目の理由としましては、毎度毎度、誤った情報ばかり送ってくるそちらの鎮守府がまったく信用できるに値しない事ですね」

 

「なっ!?」

 

「そして、2つ目ですが、あなたの後ろに控えている彼女・・・そう、君だ」

 

俯いていた少女が俺の言葉に、ハッとして顔を上げる。

見た目は茶色いボブヘアーに胸元の赤いリボンと丈の短いセーラー服。そして、金色に輝く左目が特徴的な女の子だ。

だが、1つだけ気がかりな点がある。

彼女の首に着いている妙な首輪だ。ファッションにしては窮屈そうなそれは、金属の光沢を放っていた。

 

「彼女が見るからにボロボロなのが気になりますね。なぜこんな状態で放置されているのかを、きっちりと説明して頂きたい」

 

目の前で中将の階級章をきらつかせるクズを相手に、俺は堂々とした態度で問う。

 

「ふんっ!ただの道具を誰がどのように使おうと勝手だろう?」

 

「っ!?」

 

そう言いながら、このクズは偶然近くに立っていた木曾の方を向くと、「例えばこんな風にな」と言って突然彼女の胸を鷲掴みした。

 

野郎・・・!!

 

それを見た提督が肥太を殴りそうになったのを、彼の前に出るようにして制止した俺は肥太の腕を万力のように掴んで引き剥がし、

 

「なら、尚更ですね。道具の整備や管理、使い方がまったくなっていない鎮守府というのはいったいどのような環境なのでしょうか?そちらの元で働くよりもここの方が何万倍も良い環境かと。ご自身の鎮守府すらまともに運営できないとなりますと・・・ふむ、無能はどちらの方でしょう?」

 

と、肥太の発言を逆手に取って、完全に喧嘩腰の態度で言い返す。

すると、肥太は歯軋りをしながらこう言い放った。

 

「く、クソ生意気な船がぁ・・・!俺が誰か分かっての態度か!?」

 

「ええ、存じ上げておりますよ。肥太海軍中将殿」

 

「ッ!!くぅぅううっ!たかが船1隻風情が艦隊司令官に歯向かったらどうなるかを思い知らせてやる!!演習だッ!!」

 

別段、レールを引いた訳でもないのにこのアホときたら面白いくらいにノッてくれるな。いや、もとよりここに演習を申し込む予定もあったんだろう。

 

「俺の力を見せてやる!!2日後に俺の鎮守府に来いっ!!演習への参加は貴様1隻だけだ!!全ての艦隊で貴様を叩き潰してやる!!もし負けたら貴様は俺の鎮守府で死ぬまで使い潰してやる!!

・・・まさか、深海棲艦を艦隊規模で倒した貴様が、無理とは言わんよなぁ?」

 

なぁにが俺の力だ。そんなに怒って汗かいて、これで少しはその脂肪が落ちると良いな。て言うか寄るな、唾飛ばすな、そして少しは運動しろ。

 

「ええ、構いませんよ?何なら、そちらが勝った暁には俺の艤装をバラしてブラックマーケットにでも売りに出せば良い。きっと良い値で買い取ってもえますよ。それで?こちらが勝てばどうなりますか?」

 

「~~~!!貴様の好きな望みを叶えてやる!!勝てる事ができればなぁ!!」

 

「左様ですか。良いでしょう、その演習受けさせて頂きます。

楽しみにしていますよ。肥太 ブタ(・・)オ━━おっと失礼、口が上手く回らないものでして。肥太 フタオ中・将・殿」

 

うっかり名前を言い間違えた(・・・・・・・・・・・・・)あと、中将殿の部分を強調しながら言い直してから、薄ら笑いを浮かべた。

 

「グギギギッ!!!・・・気が変わった。貴様は即解体処分だ!!覚悟しておけッ!!」

 

そう言って中将は執務室のドアを強引に開けてズカズカと出て行き、後ろで待機していた少女も俺達に一礼してから出て行った。

 

「「「・・・・・」」」

 

嵐が去った執務室に静寂が訪れる。

 

「ぷっくくくく・・・」

 

最初に提督が吹き出し、それに釣られて木曾と村雨も肩を震わせ始めた。

 

「ざ、ザンクード、お前っ、実は加虐趣味でも持ち合わせてるんじゃないのか?ふっふふ」

 

「失礼な奴だな。今のは『クソ野郎の正しい対処法その2』だ」

 

「・・・その1は?」

 

「『相手よりも下手(したて)に接して穏便に帰って頂く』だ。因みにこの対処法は10分程前に考えついた」

 

ドヤ顔でそんな事を言い張る俺にとうとう我慢の限界を迎えた3人が笑いだし、一頻り笑ったあと、村雨が目元の涙を指で拭いながら口を開いた。

 

「でも、ザンクードさんが中将相手にあんな事を言うなんて、村雨ちょっと驚きました」

 

「驚くような要素なんてあったか?」

 

「だって・・・工廠での出来事、忘れてませんよね?何かこう、残念なキャラと言うか何と言うか」

 

村雨からの悪意の無い口撃がグサグサと容赦無く俺に突き刺さった。

 

「うぐっ!?あ、あれはだな・・・」

 

「村雨、あまりザンクードを弄ってやるな。こいつは俺達が馬鹿にされた時、怒ってくれたんだ」

 

「ああ、その通りだ。・・・にしてもスカッとしたなぁ!まさかあの野郎のあんな顔が見れる日が来るとは。ザンクード、ありがとな」

 

木曾が村雨の肩に手を置いて諭し、提督が実に良い笑顔で礼を言ってくる。

 

「礼を言われるような事はしてないさ。自分の仲間を馬鹿にされたから徹底交戦したまでだ。俺も散々言ってやったからスカッとしたよ」

 

案外、俺もイイ性格(・・・・)をしているのかもしれないな。

 

「そうか。まあ、その気持ちは嬉しいが、自分の命を賭け事に使うのはいただけないな。もう少し自分の事を大切にしてくれよ?」

 

「それもそうだな、あの時は頭に血が昇ってた。善処するよ」

 

「おう。それじゃあ早速演習に向けてザンクード用の模擬弾頭の開発を妖精達にお願いしに行くか!」

 

「そうだな、相手が出せるだけの艦隊を出してくるとなると、それなりの装備をしっかりしておかないと俺でもヤバい。ミサイルは必須品だぜ」

 

「なら、妖精達にお礼用の菓子を用意してから行くぞ!善は急げだ!」

 

「勿論、村雨も手伝うからね!」

 

そう言いながら提督と村雨は執務室から出て行き、俺もあとに続こうとするところで木曾に呼び止められた。

 

「どうした?」

 

「ああ、・・・その、さっきはありがとな」

 

少し赤くなりながらそう言ってくる木曾に、俺は不覚にもドキッとなりながら、「なんて事は無い。気にしないでくれ」と言って部屋をあとにした。

 

 

「クソッ!あの忌々しい巡洋艦がっ!!」

 

豪奢な執務室の中で、肥太は悔しそうに机に拳をぶつけながら、ザンクードをどう痛め付けるかを考える。

このまま彼に第八鎮守府で存在し続けられると、自分の手柄を奪われるかもしれない。

本当ならば、役に立ちそうな彼は喉から手が出る程に欲しかったが、邪魔になりそうならば消すまでだ。

そして何より、たかが船1隻風情が自分に歯向かった事が肥太は気に食わなかった。

 

「・・・ああそうだ、良い方法があるじゃないかぁ」

 

気色の悪い笑みを浮かべながら、肥太は机に取り付けられた放送機のマイクを手に取る。

 

「今すぐに執務室へ来い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━古鷹」

 

 


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