重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第9話 演習  VS肥太艦隊 前編

演習当日

 

 

肥太中将に演習を挑まれた俺達は妖精達に演習用の模擬弾を開発してもらい、今指定された会場である『第五鎮守府』に到着した━━のだが・・・。

 

「おお・・・!!これが61cm砲かね!?も、もっとよく見せてくれ!」

 

俺と提督はここで幼い少年のように瞳をキラキラさせているご老体━━もとい、元帥に捕まっていた。

因みに今回は俺と提督の2人だけで来ており、木曾達には第八鎮守府の留守番を頼んである。

 

「ほぉほぉ、大和型よりも巨大な艦でありながら排水量は下回り、快速かつ準戦艦並みの装甲を持っていると?」

 

「は、はい、複合装甲による軽量化を成功させながら、防御面も申し分無く、これらの点や大口径砲を搭載している事から、私は巡洋艦ではなく巡洋戦艦と言われる事もよくありました」

 

埠頭で待機している俺の艤装を興奮した様子でペタペタと触る元帥に戸惑いながらも訊かれた事を説明する。

なぜ彼がここにいるのかというと、ウチの提督が提出した報告書を読み、深海棲艦の大艦隊を沈めた人物に直に会いに行こうと思って提督に連絡を入れたところ、偶然この演習日と重なっていたそうだ。

 

「いや~満足満足!それにしても、まさか男だとは思わなんだ!あっはっはっはっはっ!っと、演習開始まであと少しだな。武運を祈っているよ」

 

元帥はそう言って快活に笑いながら、後ろにいた護衛を引き連れて歩いて行った。

それを見届けたあと、俺も現在時刻を確認してから機器のチェックを行う。

 

「ザンクード、今回の演習艦隊はお前が倒したあの大艦隊を上回る数だぞ」

 

提督から相手の事前情報が記載された書類を手渡された。

 

「うっわぁ・・・俺嫌われ過ぎだろ。こんな数、早速リンチなんてレベルじゃねえぞ?」

 

「まったく大人げない奴だ」と呟きながら、俺は文面に『肥太艦隊:24隻』と書かれた書類を再度確認して溜め息を溢す。

 

「それともう一度言っておくが、今回お前の装備している兵装には制約が掛かっているからな?」

 

「大丈夫だ。分かっているさ」

 

なぜ使用兵装に制限が設けられているのか。

理由は肥太が指定した日時に間に合わせて模擬弾頭を量産する事ができなかったからである。

殺傷性を持たせたままの場合はまだ簡単に生産できるが、今回行うのは戦争ではなく演習なのだ。

つまり非殺傷性にする必要があったのだが、そこで大きく苦戦して時間を食った結果、他の作業も将棋倒しに遅れていき、今のザンクードは対空・対艦ミサイルを合計しても数十発程度しか持っておらず、CIWSも2基が実弾のままという状態である。

そしてEMLだが、こちらは元の威力が高過ぎて単純な徹甲弾では模擬弾でも殺傷性がある事が危ぶまれたのだ。

では、残る2種類の砲弾はどうだ?と言う話もあったが、構造が複雑でミサイルと平行して開発していたら指定された日までには間に合わないという結論に至り、こちらは使用しない方向で決まった。

今後の妖精達の努力に一層期待である。

 

あの中将が俺達の移動時間云々も考えずに無茶を言った中(受けた俺も俺だが・・・)、各種ミサイルや主砲、副砲などの模擬弾を製造してくれた妖精さん達はよくやってくれたよ。4発だけとは言え、ヘリオスまで気合いで作ってくれたんだからな。これは意地でも勝って美味い菓子を手土産に帰らないと呪われそうだ。

 

「実弾の入ったVLSとCIWS、EMLには安全装置を掛けているから、余程の事が無い限りこれらが火を噴く事は無いさ」

 

「悪いな、こんな中途半端な装備で・・・」

 

「これだけあれば十分だ。それに、無茶な日程を飲んだ俺に非があるからな。必ずあの野郎に吠え面をかかせてやる」

 

「そうか。そろそろ演習開始だ、派手に暴れてやれ!!」

 

「任せとけ!ザンクード、抜錨する!」

 

提督の激励にサムズアップを返して、俺は演習海域へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「ギャリソン、もう一度確認する。演習の開始時刻は13:00(ヒトサンマルマル)で違い無いな?」

 

「はい、違いありません。開始まで残り5分です」

 

「分かった。それと、ブッシュマスターは?」

 

「問題ありません。対潜兵装を搭載した1番機、コールサイン“リキッド”が機器のチェックを終えました。2番機、コールサイン“ランナー”は格納庫内にて待機中。指示があれば発艦できます」

 

ここからでは背部の艤装で見えないが、ヘリ甲板からターボシャフトエンジンの音が聞こえるので、準備は万端のようだ。

使用する兵装が全て稼動状態にある事を確認し終えると、提督の声がヘッドセット越しに聞こえてきた。

 

《ザンクード、演習開始まで残り10秒を切った。行けるか?》

 

「ああ、いつでも行ける」

 

《オーケーだ。・・・開始まであと5秒、頑張れよ》

 

そう言い残して、プツッと無線が切れた。

 

「よし、現在時刻13:00!総員、対空・対潜・対水上戦闘用意!」

 

「対空・対潜・対水上戦闘用意、アイサー!」

 

けたたましく艦内アラートが鳴ったあと、索敵レーダーが回転を始める。

 

「リキッド、速やかに発艦し、対潜哨戒を開始せよ」

 

《リキッド、ラジャー。発艦後、直ちに対潜哨戒に就きます》

 

ヘリ甲板から大柄なヘリコプターが羽音を起てながら発艦して行った。

 

「レーダーコンタクト。空母が索敵機を発艦させたか・・・。見つかる前に減らせるだけ減らすぞ!ハンマーヘッド、スティングレイ用意!」

 

指定されたミサイルのVLSが機械音を発しながら、ゆっくりとハッチを開放する。

 

「発射準備完了」

 

「・・・ハンマーヘッド、ランチ!次、スティングレイを後続射!」

 

凄まじい轟音と共に噴射煙を濛々(もうもう)と吐きながらミサイルが次々と相手艦隊の艦娘へと飛翔して行った。

 

 

《失敗は許さん。奴が疲弊したところを狙って確実に成功させろ。その為に態々貴様らに入渠までさせてやったんだ。分かったな?》

 

「はい・・・」

 

肥太提督とのプライベート無線で念を押された私はそう返事をしてから無線を切った。

 

「古鷹さん、そんなに気張らないで。私達ならきっと勝てるわ。・・・勝ったら提督にお願いして、その首輪を外してもらいましょう?」

 

装甲空母の大鳳さんがそう言って微笑みながら私を励ましてくれる。でも、素直に笑う事はできなかった。

この演習で、私は相手艦を事故に見せ掛けて手にかけろと言われているのだから。文字通り、身を呈してでも。

そして、肥太提督と私を除いて誰1人としてこの事を知らない。

 

「・・・そう、ですね。勝ったらみんなで何か食べに行きましょう!」

 

成功したらみんなの待遇を改善してやると肥太提督は言っていたが、もし失敗すれば・・・そこからは考えたくもない。

 

絶対に成功させないと。ザンクードさん、ごめんなさい・・・!

 

そんな考えを大鳳さんや他のみんなに悟られないよう、空元気で微笑み返した次の瞬間だった。

 

ズドォォォン!!

 

「「「ッ!?」」」

 

突然、戦艦娘の1人が大きな爆発に呑まれ、被弾した証拠である真っ赤なインクに彩られた。

その被弾を期に、周りにいた艦娘達が次々と赤く染め上げられていく。

 

「そ、そんな・・・!?」

 

まるで、向こうからは全て見えているかのように無力化されていく中、辛くも生き残った空母は攻撃のあった方角へと艦載機を飛ばし、自身の攻撃が届かない者は相手を射程内に収めるべく速度を上げて前進して行く。

無論、古鷹自身も例に漏れず、ザンクードのいるであろう方角へと全力で向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

━━彼を葬る為だけに与えられた、大量の炸薬を内蔵し、推進器が取り外された(・・・・・・・・・・)4連装魚雷を携えて。

 

 

「発射したハンマーヘッドとスティングレイは全弾命中し、相手艦の2/3に撃沈判定が下りました。が、残った空母から艦載機が発艦。それに加えて多数の艦娘もこちらに向かっています」

 

「さっきの先制攻撃で俺達の位置が特定されたか・・・?」

 

「はい、恐らく。それと、飛行中の航空機群の中に一際速い反応を確認。ジェット機かと思われます」

 

ギャリソンの言う通り、レーダーには他のレシプロ戦闘機とは比べ物にならない程高速で飛ぶ機影が映っていた。彼の世界で飛んでいたジェット戦闘機よりは遅いが、それでも脅威である事には変わりない。

 

「ヘリオスを発射する!抜けてきた奴はガーゴイル(長距離対空ミサイル)で撃ち落とせ!こっちの防空能力を見せてやるぞ!」

 

「了解、マーカードローン射出。ヘリオス、ランチ!」

 

後部VLSから広範囲炸裂弾頭を搭載したヘリオスが射出され、その鼻先を航空機群へと向けて飛んで行った。

 

「ヘリオス到達まで残り10秒。8、7、6、5、4、3、2、炸裂、今!!」

 

大きく爆ぜたヘリオスから大量のインクが撒き散らされ、直撃を受けた航空機に撃墜判定が下る。

 

「クソッ、何機か運の良い奴が抜けてきた・・・!ガーゴイル発射、サルヴォー!」

 

そして、それらを上手く避けてきた敵機にはガーゴイルの洗礼が待っていた。

 

「敵性航空機70機中、47機を撃墜。残り23機!」

 

敵機の軍勢を退けたザンクードだが、今の彼は先程の攻撃でヘリオスの在庫が切れ、ガーゴイルも片手で事足りる程しか残っていない。

 

「残る航空目標はバゼラード(短距離対空ミサイル)もしくは地対空ミサイル(SAM)とCIWSで対処!ハンマーヘッド、スティングレイ発射用意!次で確実に叩く!」

 

索敵レーダーから得た情報を頼りに照準を定めていると、対潜哨戒に出したヘリコプターから潜水艦発見との連絡が入り、空かさず12連装対潜ロケットを発射する。

数秒か数十秒か、少ししてから遠くで水飛沫が上がり、潜水艦に撃沈判定が出た。

 

「よし、水中からの脅威は排除した。このまま一気に畳み掛けるぞ!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

士気が高い艤装妖精達から、一糸乱れぬ力強い声が返ってくる。

 

「敵戦艦が我々を主砲の射程内に収めました!発砲を確認!」

 

「とうとう来たか。戦艦と空母には残ったミサイルを撃ち込み、それ以外は砲で対処する!」

 

戦艦の主砲弾を持ち前の機動力で回避したザンクードは残り少ないミサイルを全て発射し、砲の射線に入った巡洋艦や駆逐艦には片っ端から砲撃を加えて仕留めていく。

 

「・・・ミサイル命中!敵空母及び戦艦を全て無力化!残り、正面の駆逐艦1と巡洋艦1のみ!」

 

長射程を誇る艦娘は全て倒したが、これで対艦攻撃用のミサイルは実弾を除いて残弾が底をついた。残る使用可能な兵装は戦闘艦の象徴である艦砲のみだ。

 

「いける!この調子なら確実に勝利です!」

 

「ギャリソン、まだ終わった訳じゃないぞ。全員仕留めるまで気を緩めるな。こっちも2発喰らって━━」

 

ヒュンッ、ベショッ

 

「・・・訂正だ。3発目を喰らった」

 

被弾箇所を一瞥したあと、ザンクードは自身に砲弾を命中させた駆逐艦に向けて、お返しだと言わんばかりに130mm両用砲を撃ち返して撃沈判定を叩き出す。

 

「残るはあの娘だけだな」

 

こちらに向けて突撃してくる最後の艦娘に左腕の35.5cm連装砲を発射した。

放たれた砲弾は吸い込まれるように飛んで行き、諸に受けた艦娘は赤いインクに(まみ)れる。

最後の1人に撃沈判定が下り、無線から流れる演習終了の合図を聞いた俺は、ふぅ、と息を吐いて緊張を解いた。

 

「正直、ミサイルがいつもの半分も積めないとなった時は焦ったが、なんとか勝てたな」

 

「そうですね。それでも演習でこれだけを相手に戦えるようにしてくれた工廠妖精達には感謝です」

 

ミサイルばかりに頼っていたツケが今になって回ってきたかなぁ。と反省しながら埠頭に帰ろうと思ったその時、レーダーがこちらに接近する影を見つけた。影の正体は、以前に第八鎮守府で肥太の後ろにいた艦娘であり、つい先程撃沈判定を出した艦娘だ。

 

「あの娘は、さっきの・・・って、あんな速度で来られたらこっちと衝突するぞ?!」

 

「おいおい、止まる気が無いのか・・・?!」

 

「おい、演習は終わった筈だよな?!魚雷発射管を構えてるぞ!」

 

ザンクードと艤装妖精達は目を見開け、口々に驚愕の声を上げる。

無理も無いだろう。演習は既に決着がついた筈なのに、目の前の彼女は魚雷を構えたまま全速力でこちらに突っ込んできていたのだから。

 

「ザンクードさん、演習終了の合図はこちらも確認しています。それと、付近を旋回中のリキッドより通信。こ、これは・・・!?」

 

ギャリソンが血相を変えて、バッ!と顔を上げる。

 

「大変です!!“正面、巡洋艦の持つ魚雷に演習弾の記号無し。実弾の可能性大いにあり。加えて、推進器らしき物の確認はできない”ッ!!」

 

推進器の無い実弾魚雷だと?これじゃあまるで自爆━━まさかっ!肥太の奴、あの娘に特攻させて俺を沈めるつもりなのかっ?!そのあとの言い訳なんて“乱心を起こした艦娘による暴走”とでも言い訳をすれば良い!あの野郎、どこまで腐ってやがる・・・!!

 

「ごめんなさい・・・」

 

そんな声が聞こえた直後、海面に大きな水柱が上がった。

 

 


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