重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する! 作:Su-57 アクーラ機
ウチには着任してませんが・・・ ●| ̄|_
「ぐっ・・・!!なんて事を・・・!?」
古鷹の4連装魚雷が全て爆発し、俺は艤装の一部が変形する程のダメージを受けてしまった。
「ザンクードさん!大丈夫ですか?!」
「ああ、何とかな・・・。それよりギャリソン、損傷状態は?」
「直撃を受けた
咄嗟に体を右に捻って防御したので、多少抑える事はできたものの、それでもかなりの被害を被っているようだ。
「手痛い一撃だな・・・そうだ!あの娘は━━いた!」
突撃してきた艦娘は、俺から少し離れた所で海面に倒れていた。幸い、まだ沈んではいないようだ。
「おい!おい、しっかりしろ!」
ぼやける視界の中、ザンクードの声によって意識が戻った古鷹は声がする方向へゆっくりと首を動かす。
「良かった、意識はあるな!まったく、無茶苦茶な事をするな・・・」
そこには、装甲の一部が見るも無惨にひしゃげ、艤装の右舷側から火花を散らしたザンクードが血相を変えて
恐らく、大破寄りの中破と言ったところだ。
「見たところ轟沈寸前だが、当たり所が良かったようだな。待ってろ、直ぐにダメコンを送る」
そう言って、ザンクードはダメコン妖精や手の空いた妖精達に古鷹の応急処置を命じ、妖精達は敬礼をして作業に取り掛かる。
「どう、して・・・?」
私はあなたを殺そうとしたのに。
そう言いたそうな顔をして、古鷹はか細い声でそう訊いてきた。
「・・・・・・大方、奴に命令されてやったんだろ?言う通りにしないと君の仲間がどうなるか解ってるな?とか言われて」
図星だ。ザンクードが言う『奴』とは肥太提督の事だろうと理解した古鷹はゆっくりと弱々しく頷く。
あのクソ野郎、どうしてやろうか・・・!!ん?待てよ?・・・そうだ!この手があった!
「ザンクードさん、少しお話が・・・」
名案が頭に浮かぶと同時に、ダメコン妖精の1人が俺の肩に登って話し掛けてきた。
「どうした?」
「現在、古鷹さんの処置は順調に進行中です」
処置の具合を報告し終えると、ダメコン妖精は一区切りつけてから険しい顔をして「それと」と続ける。
「彼女の首輪から爆薬と信号受信機が発見されました」
「爆薬と受信機だって・・・?」
「はい、あれはリモート式の首輪型爆弾です。爆薬は起爆装置からの信号が無いと反応しませんが、首を吹き飛ばすには充分な威力の量でした。まったくふざけた話ですよっ・・・!」
「外せるのか?」
「勿論です。あんな首輪、お子さまランチに付いてくるショボい玩具みたいなもんですよ。ただ、解除中に信号を送られるとまずいですね」
「分かった、信号の妨害は俺がやる。直ぐ解除に当たってくれ」
「イエッサー」
ダメコン妖精が敬礼して去って行ったあと、俺は無線機と電子妨害装置を起動させ、旋回中のヘリコプターを全速で元帥達の元へ向かわせた。
「古鷹、今から肥太がしてきた事を全て白日の下に晒したい。そうなれば奴への刑罰は確実だ。だから奴の事を詳しく話してくれないか?勿論、その首輪は爆破されないようにこっちで妨害しているからそこは安心してくれ」
「助けて、くれるんですか・・・?」
「ああ、必ず」
古鷹の肩に手を置いて力強く頷くと、彼女は「分かりました」と言ってゆっくりと頷き返してきた。
丁度ヘリが着いたようだな。さあクソ野郎、今から公開処刑の時間だ。
「ありがとう。・・・まず、その首輪は爆弾で間違い無いんだな?」
「・・・はい、この首輪は私や他の艦娘が逆らわないようにする為の保険だと言われました。着けられているのは私だけです」
「そうか・・・それじゃあ━━」
1つずつ、肥太が巧みに隠し続けていた第五鎮守府の実態を聞き取っていく。
どれもこれも聞いてるだけで、はらわたが煮え繰り返りそうな内容ばかりだった。
上層部が査察に来た時や召集をかけられた時だけは、至って普通な風を装ったり、艦娘達を脅したりして隠していたらしい。
「━━以上、でずっ・・・」
「そうか、辛かったな・・・。話してくれてありがとう」
嗚咽を漏らしながら全てを話してくれた古鷹の頭をそっと撫でる。
「ごめんっ、なざい・・・。わだじは、あなだを・・・!」
「今はこうしてお互いに浮いているし、君と同じ立場なら俺だって何をしたか分からないよ」
「爆弾の解除・・・成功しました!」
ダメコン妖精の弾む声と共に、カチャッと音を立てて古鷹の首から首輪が外れる。
「今までよく頑張って耐えたな。もう大丈夫だ」
「う、ううっ・・・、うあああぁぁ!!」
長い間、自身の首を締め付けていた首輪が外れた事とザンクードの言葉を引き金に、古鷹はとうとう堪えきれず声を上げて泣き出してしまった。
▽
「クソッ!クソックソックソォォォ!!!」
司令室の中で、肥太は叫びながら手当たり次第の物にあたって暴れ回っていた。
「何でまだ浮いてるんだっ!?何でくたばってないんだッ!!?」
海面に大きな水柱を確認した彼は確実に勝利を確信していた。あとは適当に“何の前触れも無く気が触れた艦娘が起こした悲劇”とでも涙混じりに言うつもりだった。
それなのにザンクードの暗殺は失敗し、突如飛来したヘリコプターが空中でホバリングを始めたかと思ったら、スピーカーから今まで巧く隠し通してきた様々な秘密を暴露し始めたのだ。
これ以上、余計な事を言われる前に古鷹の首輪を爆破しようと起爆スイッチを押したのだが反応せず、結局全てを話されてしまった。
「こ、殺してやる・・・!!おい!今すぐ地対艦ミサイルを展開しろ!!」
自棄を起こした肥太は目を血走らせながら、自身が飼い慣らした私兵にそう命じる。
それなりの規模を持つこの第五鎮守府は一応の戦力として、移動式の地対艦ミサイルを保有している。万全状態で、艤装を装備した深海棲艦相手には効き目が薄いが、体力を削りに削った状態なら話は別だ。そして、それは艦娘も然り。
「地対艦ミサイルの燃料充填が完了しました」
「死ね、鉄屑共ッ!発射ぁ!!」
肥太の憎悪の籠った声と共に、埠頭に展開されたミサイルトラックから、2人を沈めんとする悪意が放たれた。
▽
「ッ!!方位2-1-0より接近する飛翔体を確認。数8つ!レーダーの一部が破損した影響で発見がかなり遅れました!」
しばらく古鷹を慰めていると、艤装妖精がレーダーに移る8つの光点を発見した。
「ザンクードさん、この方角は・・・」
「ああ、第五鎮守府からで間違い無い」
レーダーがイカれているとは言え、こんなに距離を詰められるまで気付けなかったという事は、相手は超低空による飛行。そして、態々そんな接近方法を取る飛翔体の正体は・・・
「対艦ミサイル・・・!」
古鷹が顔を青くして固まり、その絶望に染まった顔を見た俺は肥太に対して更に怒りが込み上がってくるのを感じる。
そうかそうか。肥太、お前はどうやっても俺達を沈めたいようだな。
・・・よし、いいだろう。
「そっちがその気ならこちらも
沸点の限界を迎えた俺は第五鎮守府の方角をギロリと睨み付けたあと、無線の周波数を提督の無線機に合わせた。
「提督、聞こえるか?俺だ」
《ザンクード!大丈夫なのか?!》
俺の呼び掛けに、提督は即座に反応を返してきた。
「ああ、ちゃんと浮いてるよ。それより、鎮守府の本棟には絶対に近付かず、誰も近付かせないでくれ。良いな?」
《は?お、おい、ザンク━━》
提督がまだ何か言おうとしていたが、「悪い」と言ってこちらから一方的に無線機を切る。
「ミサイルの進路が判明しました!重巡古鷹へ4発!本艦へ4発!」
ガーゴイルは・・・ダメだ、既にこちらの
バゼラードでは相手の高度が低すぎて誘導装置が役に立たないし、SAMも先程ギャリソンが言ったように機能が停止している。おまけに電子妨害も意味を成していないと来たか・・・。
あのミサイルは慣性誘導方式で、命中の数秒前でレーダー誘導に切り替えて突入するタイプだ。とすると━━
「・・・私はもう航行できません。ザンクードさんは早く逃げて下さい!」
「ノーだ。君を置いて逃げる気は無い」
仮に古鷹を置いて逃げる事にしたとしても、さっきの攻撃で右の推進器がやられてまともに動くのは難しい。
そんな選択肢は端から考えていないが、どちらにせよこの状況下において、時速860kmで突っ込んで来るミサイルを回避する手段は無いのだ。
・・・そう、
「で、でも、このままじゃあなたも━━」
「着弾まで、あと15秒!」
カウントダウンを開始する艤装妖精の声を横に、俺はある兵装を起動させる。それは順調に起動し、システムにも障害は見られない。
「5秒!」
チャンスは一瞬。あとはミサイルがこちらの射程に入るのを待つだけだ。
「3秒・・・!」
キラリと太陽光を反射させながら、8基のミサイルが水面上を恐ろしい速度で飛んで来る。
「着弾しますッ!」
古鷹が涙を流しながら、静かに両目を閉じた。
次の瞬間。
「CIWS、全弾叩き落とせ!!」
そんなザンクードの声のあと、ヴォオオオオ!!という凄まじい速度の発砲音と、耳鳴りが生じる程の爆発音が轟いた。
体の芯に響くような轟音は立て続けに鳴り響き、古鷹の鼓膜を震わせる。
そして、8回目の爆音を彼女の耳が捉えたその直後、焦げ臭い熱風が頬を撫でた。
「・・・?」
いつまで経ってもミサイルが自分に当たらず、辺りが静まり返った事を不思議に思った古鷹は恐る恐る瞼を開く。
開かれた両目の先には、自分の物より何倍も巨大な艤装を背負った巡洋艦が佇んでおり、その艤装に多数搭載されている機銃の内の2基が、砲口から薄く硝煙を上げながら静止していた。
「大丈夫か?ミサイルの破片とかで怪我はしてないか?」
「・・・え?は、はい」
「それなら良かった。悪いが、もう1回だけ大きな音が鳴るから気を付けてくれ」
ザンクードの声で我に返った古鷹だが、その直後に彼女は更なる光景を目の当たりにする。
「実弾ハンマーヘッド24番、25番ランチ!」
突如、ザンクードの艤装の甲板が火山の如く煙を吐き出したあと、2基の大型ミサイルが第五鎮守府へ向けて飛翔して行った。
▽
「発射したミサイルはどうなった?」
「確認中ですが、流石に奴らも海の藻屑・・・でしょ・・・う・・・ぁッ!?」
コンピューターの画面と睨めっこしながら答える私兵がこちらに顔を向けた瞬間、表情が一気に凍り付いた。肥太は何事かと思ってその私兵が見つめる先に首を動かす。
「な、なぁ・・・!?」
司令室の大きな窓から見えるのは鎮守府正面の海と蒼い空。
しかし、その空には2つのオレンジ色をした光が太く白い筋を描きながら超音速で接近してくるのが見えた。
・・・いや、見えてしまった。
ヴヴー!ヴヴー!という警報が鳴り響くと同時に室内は大混乱に陥り、我先にと押し寄せる人集りが出口を詰まらせる。
「クソッ、退け!うわっ!?」
肥太は私兵達を押し退けて出口を目指そうとするが、逆に押し飛ばされて尻餅をついてしまった。
その時、飛翔体の接近警報が更に激しく鳴り響き、ミサイルが直ぐそこまで迫っている事をその場の全員に報せる。
「き、貴様らぁ・・・!━━ハッ!?」
背筋が凍るようなナニカを感じた肥太は本能的に窓の外へと視線を移し、両目を目一杯に開いた。
「や・・・、や・・・!ヤメロォォォォォォォ!!!」
そんな悲鳴を上げる肥太を嘲笑うかのように、本来大型艦艇に向けて放たれる筈のミサイルはピンポイントで窓を突き破って侵入し、室内で炸裂。肥太やその私兵達を見る影も無く粉々に吹き飛ばし、司令室を瓦礫の山に変えた。
室内の電灯を鈍く反射する白い円錐と、ほんの一瞬だけ目に映った『HAMMER HEAD』という英文字。
それが、肥太が最後に見た光景だった。