重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する! 作:Su-57 アクーラ機
明石と間宮の着任から2日後。
「ふぅ~、やっと帰って来れた。ザンクード、2日間の提督代行お疲れさん」
「ああ・・・当分の間はデスクワークなんてごめん被りたいよ。木曾と古鷹がいなかったら書類の海で沈むところだった・・・」
うげぇ、っと顔をしかめながら、まだ机に積まれている書類に目線を移す。別に書類作業がまったくできないと言う訳では無いのだが、期日が近かった為に文字通り機械のようにひたすら処理をするハメになったのだ。
「ははは・・・悪かったな、書類仕事を頼んじまって。そんなザンクードにプレゼントだ」
「プレゼント?」
「ああ、元帥直々にお前の入籍証を手渡された」
「ほら、これだ」と言いながら、提督は制服の裏ポケットから丁寧に畳まれた上質な紙を広げて見せてくる。
そこには、俺を正式に迎え入れてくれる事と激励の言葉が綴られており、最後に赤い判子が押されていた。
「演習をしたあとに正式加入とは順番がおかしいような気もするが、これで俺も晴れて国防海軍か」
「おう、正規として入籍したから、これからは出撃も可能になるし、給金も出るぞ」
「そいつは楽しみだ。ヘリオスやEMLを雨霰のようにぶっ放してやる」
「待て待て、そんな事したら資材が溶けるどころか蒸発しちまう。有事の際以外の乱用は止してくれよ?」
ふふふ・・・と不敵な笑みを浮かべる俺に、提督は顔を引きつらせながら制止の声を掛ける。
以前に行った射撃試験での資材消費量が彼には軽いトラウマとなっているようだ。
「冗談だよ冗談。本当に必要な時に撃てなかったら洒落にならないからな」
「お前が言うと本気にしか聞こえないぜ・・・。っと、明石と間宮は無事着任したか?」
「ああ、間宮は食堂に就いてくれてはいるんだが、如何せん他の場所も改装中なんで食堂はまだまだボロッちい状態だ」
「そうだよなぁ・・・手を着けないといけない場所が多すぎる。食堂は急いだ方が良いな」
「艦娘達が集まる場所だからな。で、明石の方なんだが、あいつは工廠で鼻息を荒くしながら俺の艤装にベッタリだ」
「流石工作艦。三度の飯より機械いじり、ってか?」
「ああ、工廠に2日間籠りっきりでな」
「えぇ・・・」
▽
「これが深海棲艦の集団を瞬時に撃沈したミサイルとレールガンね・・・。レールガンに関してはほとんどコンデンサと冷却装置で埋め尽くされているようね」
「ええ、この砲であの戦艦棲姫を2発で仕留めたらしいです。射撃試験の時に見ましたが、こんなものを喰らえば一溜まりも無いでしょうね」
「成程。確かにそれだけの威力の砲弾を飛ばすには膨大な電力を蓄積する必要がありそうね。スペックは見たけど、ここまで過剰な兵装を持った艦は初めて見たわ。まさにバケモノ(誉め言葉)ねぇ。気が付いたら2徹よ。う、ウヘヘヘヘ・・・」
「我々もここまでじっくり見るのは初めてですよ。グフフヘヘ・・・」
工廠の艤装置き場では明石と妖精達が目を爛々とさせながらザンクードの艤装を囲んでおり、その光景を彼の艤装妖精であり、見張りを受け持っている2人の妖精が引いた目付きで見ていた。
「なあ、あれ放っておいて大丈夫なのか?」
「変な事はしないだろ。それに、一応俺達が交代で見張ってるんだし」
「そうじゃなくて、明石さんと第八から馴染みのある妖精達の目が完全にイッてるように見えるんだが?」
「・・・大丈夫だろ。多分、恐らく、メイビー」
「そこら中に転がってる大量のコーヒー缶を見てもそう言えるのか?ありゃあ、眠気を通り越して完全にハイになってる目だぜ」
そう言われ、ふと視線を下に移すと、高く積まれたり無造作に転がされたままの空き缶が放置されており、更には眠気に負けた妖精達が雑魚寝していた。
あまり見ないようにしていたのだが、ついつい目に入ってしまった彼は思わず顔をしかめる。
「ちゃんと飯食って風呂も入ってるけど一睡もしてないもんな。このままじゃ身体を壊しちまう。いっそ、雷さんを呼んで全員寝かし付けてもらうか?」
「そいつは名案だが、あまり頼り過ぎるのも彼女に悪いし━━」
「「「フヒ~ヒヒヒヒ・・・」」」
「━━やっぱり頼らせてもらおう。呼んできてくれるか?」
「あいよ。偵察用のバイクが2台だけあったよな?1台借りてくぞ」
ハァ、と溜め息をつきながら下へ降りて行き、格納庫からバイクを押し出した妖精は、雷を呼びに工廠を出て行った。
▽
「━━って事があってな。結局俺が押し負けて今に至るという訳だ」
「マジか。同じ艦娘でもそれぞれ違いがあるらしいが、ウチには随分と凄いのが来たみたいだな」
「ああ。何せ、会って数分もしない俺に向かって、“艤装を分解して隅々まで調べさせて下さいっ!!”だからな」
ザンクードと提督は2日前の執務室での出来事を話しながら、食堂へ続く廊下を歩いていた。
今は丁度昼時なので、食堂はさぞ賑わっている事だろう。
そうだ、艤装妖精達に食堂の改装工事を手伝ってもらうように掛け合ってみるか。あいつらも間宮の料理を気に入ってたから快諾してくれるだろ。
唐突にそんな事を思った時だった。
「「「キャアアアァァァ!!」」」
突然、食堂の方から悲鳴が上がった。
「な、何だ何だっ!?」
「声は食堂からしたぞ!急ごう!」
俺達は一目散に食堂へと向かい、両開きのドアを力一杯に開ける。
ドアの先に広がる広い室内には、間宮を含む複数人の艦娘の震える姿が。そして、彼女達の視線の先には━━
「マジかよ・・・」
「早めに手を打つべきだったかっ・・・!」
━━その視線の先には、昆虫網 節足動物門、最凶最悪の生命体『
「いやぁぁぁ!!来ないで!来ないでぇぇぇ!!」
「ちょっ、マジキモいんだけど!!」
「」
「た、多摩!こいつらを追い払うクマ!」
「多摩は猫じゃないニャッ!」
阿鼻叫喚。この言葉が似合う程、食堂は騒然となっていた。
「あ、ザンクードさん!悲鳴が聞こえましたが、どうしたんですか?!」
声のした方を見ると、バイクに跨がった妖精が慌てた様子でこちらを見上げていた。
「ん?ああ、実は食堂内にゴキブリが出たみたいでな」
「やっぱり食堂の方にも早いこと手を回さないとなぁ・・・」
「「「見てないで助けてぇぇぇ!!」」」
他人事のように話す俺と提督に気付いた艦娘達の何人かが涙目になりながら訴え掛けてくる。
「ザンクード、話はあとだ。殺虫剤とビニール袋はそこにあるから、さっさと片付けちまおう」
「そうだな。と言う訳で、説明はまたあとでな」
そう言って殺虫剤とビニール袋を手に取った俺達はゴキブリ達の前に立ち、直ぐ様殲滅を開始した。
「くそっ、逃がしたか!ザンクード、そっち行ったぞ!」
「目標捕捉、距離良し!ファイアァっ!」
「あいつ、どこに隠れやがった!?」
「いたぞぉぉ!いたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「まったく、チョコチョコ動きやがって。海賊のボートみたいな奴らだな!」
「うわっ!?畜生、テーブルからジャンプしやがった」
あれから十数分間ゴキブリと格闘し続け、床を這い回っていた連中は1匹残らず駆除が完了した。
「よし、こっちは片付いた。ザンクード、そっちはどうだ?」
「周囲に残敵無し。こっちも今しがた狩り終わった」
彼らが入った袋をキツく結んでゴミ箱に捨て、這った所を消毒し、そのあとに手を念入りに洗う。これでようやくゴキブリ退治は終了だ。
「さて、お仕事も終わったし、改めて飯を━━」
「テートクー!怖かったデース!」
「ぐほぁっ!?」
手をパンパンと払う仕草をした提督目掛けて、1人の艦娘が強烈なタックルと抱擁をかました。
「ちょっ!止めろ金剛!お前のカチューシャの突起がゴリゴリと━━いだだだだ!?」
金剛。彼女は第五鎮守府に所属する、戦艦娘の1人だ。大型の戦艦でありながら速力にも優れ、高速戦艦と言われるらしい。因みに金剛には比叡、榛名、霧島と3人の妹がいる。
つまるところ、彼女はネームシップなのだ。
「やっぱりテートクは最高ネ!」
「はわわわ!金剛さん、司令官さんが困ってるのです!」
「バーニングラァァァヴ!!」
「痛い痛い!マジで頭に穴が開くって!」
「 金 剛 さ ん ? 」
「」
見てない!俺は何も見てないぞ!
提督に態と胸を押し付けるようにして抱き付く金剛を、電が黒い笑みを浮かべながら威嚇する光景なんて!
駆逐艦の表情を見て情け無く震える、重原子力ミサイル巡洋艦であった。
「・・・あっ、雷さんを呼んでくるの忘れてた」