重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第17話 金食い虫

《国防省長官のあなたに質問します。あなたはザンクード級の量産を計画していると申されていましたが、その費用がどれ程のものかをご存知なのですか?》

 

《はい、存じています》

 

これは・・・。

 

《では尚更、なぜそこまでしてあんな費用が掛かるような計画を進めようとされているのですか?!》

 

《それは以前にも申した通り、近年デスペラード連邦が軍拡を推し進めており、それに━━》

 

《その話は以前にも聞きました!私は、1隻でも莫大な費用が掛かるあのザンクード級をまだ増やしたいのはなぜかと訊いているんです!!》

 

ああ、あの時の・・・。

 

《資料によると、ザンクードは1隻で正規空母と高性能駆逐艦を1隻ずつ建造できる程の建造費が掛かるとされています。それに加えて維持費もただではありません。それをあなたはまだ増やしたいのですか?!》

 

《そうだそうだ!》

 

《あんな無駄な物を増やして何になる!》

 

《税金の無駄使いだ!》

 

「チッ、胸糞わりぃ放送だな。キャンキャン吠えやがって・・・。前にしでかした自分達の不祥事はそっちのけかよ」

 

ラジオから流れる問答に、クルーの1人が舌打ちしながらコーヒーを飲む。

 

《いえ、ですから、彼らは今もなお軍拡を進め続けているのです。もし我が国や同盟国が攻撃を受けた場合、対抗するには相応の力が必要になりますし、何より抑止力の意味も込めてザンクード級の量産を打診したのです。なってから(・・・・・)では遅いのです》

 

(やっこ)さん達は自分達に有利に働きそうなら、何だって言うと思うぜ?」

 

タバコを咥えたクルーが忌々しそうに、そう呟く。

 

《にしても、アレをこれ以上増やす必要は無いでしょう!》

 

この先の言葉を、俺は知っている。

 

《あんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━金食い虫を!!

 

金食い虫。

 

 

「・・・・・・クソッ、朝から嫌なもん見ちまった・・・」

 

朝、過去の出来事を夢で見せられ、目が覚めた俺はのそりと起き上がったあと、身支度を整えて、朝食を摂る為に食堂へと向かった。

部屋へと通ずる扉は開け放たれており、中からほのかに食指をくすぐる香りがする。

 

「随分きれいになってるな・・・」

 

その扉をくぐった先の光景を前に、俺は目を丸くした。室内の壁や床に若干残っていた油汚れなどが落ちてきれいになっていたのだ。

真新しいと言う程では無いものの、かなり清潔感のある部屋になっている。

 

「いったいどんな魔法を使えば、たった1晩でこんな風に変わるんだ?」

 

美味しそうに朝食を食べる艦娘達を遠目に見ながら、俺も朝食を取りに間宮の元へと歩いて行った。

 

「おはよう、間宮」

 

「おはようございます、ザンクードさん。今ご飯をよそいますね」

 

手際良く料理を皿に盛りながら、間宮が笑顔で挨拶を返してくる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう。ところで間宮」

 

朝食が載ったトレーを持ちながら、俺はふと疑問に思った事を間宮に訊こうと思った。

 

「はい?」

 

「食堂が一夜にしてきれいになってるんだが、何か知ってるか?」

 

そんな俺の問いに対して間宮は、ビクッと一瞬震えたあと、ひきつった笑顔を浮かべながら「さ、さあ?妖精さん達が詳しく知ってると思いますよ?というか、あの光景を思い出したくないです・・・」と答えた。

後半は聞き取れなかったが・・・。

 

「?そうか。それじゃ、朝食はありがたく頂くよ」

 

そう言って、俺は朝食を片手に近場の席を探して歩き始める。適当に空いてそうな場所を探していると、大量のご馳走をハムスターのように頬張る妖精達を見つけた。

 

あの制服・・・ギャリソン達か。それに、他の妖精達もいるな。

 

「おはよう、ギャリソン」

 

「ムグムグ・・・ムグ?ファンクーホふぁん(ザンクードさん)、ゴクッ。・・・おはようございます!」

 

「「「ふぉはおーございまふ!ザン★±%@※さん!」」」

 

「ああ、みんなもおはよう。て言うか、ちゃんと飲み込んでから話せよ。喉詰まるぞ?」

 

今にも口に含んだ食い物が零れそうな状態で敬礼をする俺の艤装妖精達を見て、思わず苦笑を浮かべる。

 

「ところで、お前らは何で朝っぱらから豪華フルコース三昧なんてしてるんだ?」

 

「それはですね━━」

 

ギャリソン達は昨日の真夜中から今日の日の出前まで。そして、今朝の出来事を順を追って話し始めた。

 

「━━で、後始末の途中で間宮さんが入って来たんですが、悲鳴を上げたあと、立ったまま気絶してしまったんですよ・・・」

 

「マジか・・・」

 

「後始末を終えたあと、間宮さんを起こして経緯を説明したら、お礼にと言う事でフルコースを振る舞ってもらいました」

 

成程、これで間宮のあの反応がなぜなのか合点がいった。まさか、そんなに生き残りがいたとはな・・・。

 

「そいつは大変だったな、お疲れさん。ところで、ヘリコプターや艦爆まで使ったと言ってたが、燃料とかは・・・?」

 

「「「・・・・・」」」

 

「おい」

 

フイッと、全員がシンクロしたかのように一斉に顔を逸らした。

 

「ハァ、まあ、大した量じゃ無いだろうし、理由を説明すれば大丈夫だろ。それより、怪我人が無くて良かったよ。それじゃあしっかり楽しめよ」

 

そう言い残して、俺は空いている席に座って朝食に手をつけ始める。

 

やっぱり、日本料理ってのはどれもこれも本当に美味いな。何かに似ていると思ったら、俺の艦長が「食った事がある」って言って自慢していた、大和皇国の飯にそっくりだ。

 

「よぉ、ザンクード。隣良いか?」

 

そんな事を思いながら飯を食べていると、真横から誰かに声を掛けられた。

 

「うん?ああ、木曾か。どうぞ」

 

「よっと、失礼するぜ」

 

そう言って、木曾はドカリと隣の椅子に座って朝食を食べ始めた。

 

「何か考え事でもしてたのか?」

 

「ああ。世界が違っても、似てるものはあるんだなぁってな」

 

鮭の塩焼きを箸で器用に(ほぐ)して口に運んだあと、白米を頬張り、味噌汁をズズズッと啜る。

 

「特にこの味噌汁なんて、俺のクルーがミソスープ、ミソスープってよく騒いでてなぁ」

 

「ミソスープって・・・何かあまり美味そうな響きじゃねぇな・・・」

 

木曾が椀に入った味噌汁を見て苦笑しながら、そう呟く。

 

「言い方はあれだが、一瞬で鍋がスッカラカンになる程には人気があったんだぜ?」

 

椀の中の味噌汁を飲み干した俺は「ほぅ」と一息ついて、また茶碗に盛られた白米に箸をつける。

 

食が進むし、健康にも良いらしいし、良い事尽くめだよなぁ。まさか、俺自身が飲める機会が来るとは思いにもよらなかったがな。

 

「━━そこの席、失礼するクマー」

 

「失礼するニャー」

 

唐突に、何とも変わった語尾と共に2人の艦娘が俺の目の前にトレーを置いて、席に座った。

 

「ん?球磨姉さんと多摩姉さんか。やっと起きたのか?」

 

「クマー、朝は苦手だクマ・・・」

 

今俺の目の前で眠そうに眼を擦っている、大きなアホ毛が特徴的な彼女は、球磨型軽巡洋艦1番艦の球磨だ。

 

「ニャー・・・zzz」

 

そして、木曾の前で今にもテーブルに突っ伏しそうなピンク髪の彼女は同じく球磨型軽巡洋艦2番艦の多摩。

先ほど木曾が「姉さん」と言っていたように、2人は木曾の姉妹艦らしい。因みに、ここには在籍していないが、大井と北上と言う姉妹もいるそうだ。

 

「まったく。どうせ夜更かししてたんだろ?」

 

「「ギクッ」」

 

「図星かよ・・・」

 

呆れたようにかぶりを振る木曾と、バツが悪そうに目を逸らす2人の姉。

 

これじゃあ、どっちが姉と妹か分かったもんじゃないな。いや、姉妹と言うより母子か?

 

兄弟姉妹がいない俺には目の前の光景がとても微笑ましく見えて、思わず顔を綻ばせる。しかし、それとは真逆に心の奥底では、口では説明できないような痛みが走っていた。

 

「・・・?何笑ってるんだ?」

 

「いや、ちょっとな。それじゃ、あとは姉妹水入らずで楽しんでくれ」

 

食事を食べ終えたザンクードは食器の上に箸を置き、そのままトレーを返しに行く。

 

・・・金食い虫、か・・・

 

去り際に小さく呟いた彼は、暗い表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

ダンッダンッダンッダンッダンッ!!と、テンポの良い小刻みな発砲音が射撃訓練所を支配する。

 

「ふぅ・・・」

 

音の主はザンクードが的に向けて構えている76mmマシンキャノンだ。

丸い的の内側は赤いインクがビッシリと付着していた。

 

「もう少しだけ下だな。少し腕が落ちてるのか・・・?」

 

そう呟きながら、新たな弾倉をマシンキャノンに装填する。

 

「・・・木曾、そんな所で何してるんだ?」

 

弾倉の装填が終わり、再度射撃を開始しようと思った矢先、誰かの気配を感じて振り向くと、木曾が腕を組んで壁に寄り掛かっていた。

 

「話がある」

 

いつになく真剣な声音の彼女を疑問に思いながら、俺は「何だ?」と言って、マシンキャノンに安全装置を掛ける。

 

「さっきの食堂での事だ」

 

「・・・?勿体振らずに早く言ってくれよ」

 

木曾の口からどんな言葉が出てくるかは予想がつかないが、俺は妙な好奇心から彼女に続きを促した。

 

「お前が席を発つ時に言っていた、『金食い虫』ってのはいったいどう言う意味だ?」

 

「ッ!?」

 

まさか、口に出てたのか?・・・まあ、隠した所でか・・・。

 

思いにもよらぬ質問に俺はほんの一瞬だけ動揺したが、直ぐに観念したように「ふぅ・・・」と溜め息を吐いてから口を開いた。

 

「・・・そのまんまの意味さ」

 

「・・・・・」

 

木曾が無言で、俺に次を話すよう催促してくる。

 

「俺が戦闘で沈んでここに来たのは言っただろ?その戦争は俺が進水してから約11年後に開戦したんだが、それまでの間、俺は野党や一部の国民から何て言われてたか知ってるか?」

 

答えなど知る(よし)も無い木曾に意味の無い質問を投げ掛けたあと、小さく息を吸った俺は自嘲気味な顔でこう言い放った。

 

「存在する意味も無く、税金ばかりをかっ食らう『金食い虫』だ。他にも『金と兵器を無駄に詰め込んだ張り子の虎』、『国民の敵』等々、散々袋叩きにされたよ」

 

ザンクードの言葉を聞いて、木曾の目が大きく見開かれる。

 

「俺のあとに建造される筈の2番艦以降はみんな建造中止さ。本当はあと3隻建造予定だったらしいが、結局俺だけになっちまった・・・」

 

1度言い始めたら、もう止まらなかった。

 

「そのあともやる事と言ったら、遠洋の警備や海賊の対処。ただ自分が任された責務を果たしていただけなのに、やれ、『警備と言う名の挑発行為』だの、『金をどぶ川に捨ててる』だの、終いには誰が流したデマかは知らんが、『原子炉の爆発事故による核汚染』まであったなぁ・・・。まったくネタが尽きないものだったよ。ただ、連中は与党をどう叩くかで俺をダシにして、それを支持する人間に発破を掛けたんだろう」

 

「俺の原子炉は信頼性の高い型だってのに。失礼な話だよな?」と、取り繕うように彼は冗談を口にするが、木曾の耳にはほとんど届いておらず、彼に対するあまりの仕打ちに「酷過ぎる・・・」と、無意識に呟くだけだった。

 

「別にお前が悪い訳じゃない。ただ、今朝に夢で見ちまって気落ちしててな。姉妹の話になってつい思い出してしまったんだ。・・・悪かったな」

 

帽子を目深に被り直したザンクードはそのまま訓練所を出ようとしたところで木曾に呼び止められた。

 

「・・・まだ何か話が?」

 

「オレ達はお前をそんな風には見ない」

 

「・・・ここのみんなはお前や提督を含めて良い奴ばかりだからな。それに、俺の事を詳しく知らないのがほとんどだ」

 

「そうじゃねぇ!費用云々だとか、核がどうとか、誰もお前の事をそんな風には見ちゃいねぇって意味だ!」

 

「━━ッ!!ああ、今はな!!だが、この国はどうだ?!今でこそ核動力艦を少数保有しているらしいが、核に反対の人間なんざわんさといるだろう!!俺は核動力艦だ!!その内にまた、『原子炉爆発事故騒ぎ』が起き、それに連鎖して費用や何やらで難癖つけられて向こうと同じ事に━━」

 

「確かに、探せばお前を勝手に毛嫌いする奴もいるだろうさ!!それなら、ぐうの音も出ない程の戦果を出せば良い!!お前がいなけりゃ、深海棲艦にやられてたかもしれないって教えてやれば良い!!お前は大和皇国って国を護りきったんだろ!!その国の奴らには必要とされていなかったのか?!お前のクルーだって、お前を毛嫌いしてたのか?!」

 

「・・・っ!!」

 

その言葉を聞いた俺は、ハッと過去の出来事を思い出した。

戦争が始まってから少し経った2013年の半ば。

荒み気味だった俺はある日、出港の際に近くの埠頭で横断幕を広げて並ぶ数人の皇国人を見て、「どうせ反戦派か反核派が“帰って来るな”とでも叫んでいるんだろう」と思っていたが、よく目を凝らしてそれを見ると、その横断幕にはただ一言【ありがとう】と描かれていたのだ。

俺のクルーだって、散々叩かれている俺なんかに嫌な顔1つせず、誇らしげに乗り込んでくれていた。

 

「それに、オレ達がお前を汚いもんでも扱うように接すると、本気で思ってるのか?・・・見くびるな」

 

「そう、だよな・・・」

 

あぁ・・・俺は何でこんなに大切な事を忘れていたんだ?

 

「確かに、木曾の言う通りだな・・・。スマン、変な面倒掛けたな」

 

こんな風に俺を見てくれている奴がいたじゃないか・・・。向こうでも、ここでも。

 

「気にするな。オレとお前の仲じゃないか」

 

「・・・ありがとな」

 

「おう」

 

微笑みながら手を差し出すと、木曾は照れくさそうにその手を握り返してきた。

 

「さて、気が楽になったら何か食いたくなってきたな。間宮羊羮でもどうだ?奢るぞ?」

 

「お、そいつは良い。ご馳走になるとするか!」

 

そんな会話をしながら、2人は軽い足取りで訓練所を出て行った。

 

 

 

 

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