重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第19話 ザンクード、あなた憑かれてるのよ

とある日の朝 食堂

 

 

いつも通りの時間に起床し、朝の身支度を整え終えたザンクードは食堂のテーブル席で朝食の入ったトレーと対面していた。

 

「いただきます」

 

そう言って手を合わせたあと、食事に手をつけ始める。まずはこの納豆からだ。

流石に納豆を作るのは大変なので、こちらは業者から卸しているらしく、小さなカップの最下層に納豆、その上に袋で小分けされたカラシと納豆ダレが付属されている。

 

相変わらず納豆と小袋を隔てるビニールを取るのは面倒な作業だな。納豆がへばり着いてくる事が多くて困る。

 

内心で愚痴りながら第1段階の作業を終えた彼はタレの袋を破って納豆に浴びせ、最後にカラシの袋に手をつけた。

 

「むっ、こいつはハズレか?」

 

ザンクードは眉を寄せて、そう呟く。

袋のカット線に沿って破こうとするのだが、どうやら処理が甘かったようで、中々破けないのだ。

 

もう少し力を込めてみるか。

 

彼は袋に掛けた両指に更に力を込める。

・・・それが、悲惨な結果を生むとも知らずに。

 

「ふっ・・・!」

 

プルプルと指を振るわせながら込める力を強くした次の瞬間、右目にペースト状の何かが付着したような、ヒンヤリとした感覚がした。

 

「うおっ!?な、何だ何だ・・・うん?」

 

慌てて目に付着したナニカを手で拭おうとした刹那、今度はそれが不快な違和感へと変わる。まるで、何か焼けつくような━━

 

「~~~~!?

 

 

 

 

 

 

目がぁッ!目がぁぁぁぁああッ!!

 

サングラスが似合う悪役のような悲鳴を上げながら立ち上がったザンクードは、ドタドタと暴れるように水道を探して部屋を走り去って行った。

彼が袋を強く握りすぎたせいで、穴が開いた際にカラシが勢いよく飛び出たのだが、運悪くその先にあった右目に着弾したのだ。

朝から彼の奇行を目の当たりにした艦娘達は何があったのか分からず、ポカンとした表情で彼が去って行った方角を見つめ、彼の近くで食事をしていた者は「あぁ・・・」と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「ハァ、酷い目にあった・・・」

 

あのあと、ひたすら目を洗い続けたザンクードは右目を真っ赤にしながら、冷めた朝食を食べるハメになった。

因みに今は腕が鈍らないように射撃訓練所で訓練をする為、艤装を取りに工廠へ向かっている途中だ。

 

「あ、ザンクードさん」

 

「ん?明石じゃないか」

 

工廠に入り、ギャリソン達と軽めの挨拶を交わしてから、艤装を装備しようと思ったその時、丁度工廠の奥から出て来た明石と出会(でくわ)した。

 

「その格好だと何か作ってたみたいだが、何か用か?」

 

何か作業をしていたようで、油汚れが付着したツナギを着ている彼女に質問をする。

 

「ええ!丁度ザンクードさんを呼ぼうと思っていたところなんです!」

 

「て事は俺に関する事なんだな?・・・艤装か?」

 

「ご名答!ですが、正確には艤装本体ではなく、あなたの兵装である76mm砲ですね」

 

「マシンキャノンがどうか━━・・・おい、まさかバラしたいなんて言わないだろうな?」

 

「バラしませんよ!確かに機構は気になりますが・・・」

 

「あれは単純なベルト式の給弾機構だ。艦体の頃は砲の真下に76mm弾が200発入った大型のドラム缶が対艦用と対空用に各3つずつ、計6つあってな。中身を撃ちきったり、弾種変更などの必要に応じてドラム缶が回転して、装填用のアームで弾帯を砲の薬室と接続したら撃つって寸法だったんだ」

 

まあ、ベルト式給弾機構の艦砲なんて型破りだろうし、今では装填は手動だけどな。

 

「へぇ、それであの発射速度を・・・って、話が若干逸れましたね。単刀直入に言うと、そのマシンキャノンの発射速度をもっと縮める事はできないか?と思ったんです」

 

「おいおい、発射速度を縮めるって、あれでもかなり速い方だろう。これ以上速くしたらどうなる事か━━」

 

「そこで!私はこの砲にスーパーラピッド機能を付与する装置を発明しました!」

 

「ねぇ、俺の話聴いて?」

 

嬉々とした表情で高々に掲げる彼女の左手の中には、かなり小さいが、随分とメカメカしい装置が電灯の光を反射していた。

 

「さあ!早速実験に移りましょう!」

 

「あっ!おいこら待て!引っ張るな!」

 

「善は急げ、ですよ!さあさあ、さあさあさあ!」

 

「善行では無いだろ!」

 

有無を言う暇すら与えられず、ザンクードはマシンキャノンを片手にズルズルと射撃訓練所へと引きずって行かれた。

 

「よし。ザンクードさん、この台にマシンキャノンをしっかりと固定して下さい」

 

「はいはい・・・」

 

もう、どうにでもなってくれ。今日が休日なのが幸いだな。

 

そう思いながら、頑丈そうな台座にマシンキャノンを固定し、「次はどうすれば良い?」と訊くと、明石は持っていた装置をマシンキャノンの機構の中に手際良く組み込む。

 

「はい、これで準備完了です!では実験を開始するので、一旦距離を置きましょう」

 

「りょーかい」

 

気だるげな返事をしながら明石と共にマシンキャノンから10m程離れた場所に立ち、腕を組んでそれを見守る。

 

「それじゃあ行きますよ~!発射!」

 

明石はノリノリの声で、発射機構から伸びるコードの先のスイッチを、カチッと押した。

 

スーパーラピッドねぇ、あれでも充分スーパーだと思うんだが━━

 

バララララララララララララララララァンン!!

 

「・・・は?」

 

ちょ、ちょっと待て。マシンキャノンの発射速度は毎分240発だから、精々もう60発程度上げるだけだと思ってたが・・・こ、これ、少なくとも1500発以上はあったぞ・・・!?

 

「お、おい明石お前・・・、あの装置って発射速度をどれぐらい上げる計算なんだ?」

 

横で「上出来ですね」と呟くドヤ顔の明石と、演習弾が200発入っていた筈の弾倉を数分足らずで空にしたマシンキャノンを交互に見ながら、震える声で訊いてみる。

 

「あれですか?あれはだいたい1800発程度にまで上げる計算ですね」

 

何事も無さそうに、シレッと答える明石にザンクードは戦慄した。

 

す、スーパーラピッドどころじゃねぇ!あれはどう見てもハイパークラスだろ!いったいどんなカラクリしてんだ?!

 

「さて、発射試験は無事成功しましたので、次は実際にザンクードさんに撃ってもらいます!」

 

「あ、あんなもんを俺に撃てってのか?」

 

「はい。やはり、持ち運んで運用できないと意味がありませんから。っとと、結構重いんですね、これ。どうぞ」

 

「分かったよ・・・」

 

半ば無理矢理マシンキャノンを渡された俺は弾倉を入れ換え、言われるがままに照準を的に向ける。

 

「ささっ!パーッと撃っちゃって下さい!」

 

マシンキャノンを構えた姿勢のまま、スッと目を細めて的を絞り、トリガーを引く。

 

「ぶへぁッ!?」

 

「ザンクードさん?!」

 

━━がしかし、発射速度を上げ過ぎた影響で反動が大きくなり、跳ね上がった砲身がザンクードの顔面を盛大に強打した。

強烈な一撃を受けて2~3歩後退ったあと、ガクッと膝から崩れ落ちた彼は、血相を変えて駆け寄って来る明石にゆっくりと顔を向ける。

 

「あ、明石・・・」

 

「何ですか?!」

 

「あの装置だけは、絶対に着けるな・・・。いいか?絶対に、だ━━」

 

脳震盪を起こした彼はそう言い残し、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「んぁ?ここは・・・」

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

ぼやける視界の中、ザンクードは声がする方へと顔を動かす。

そこには、数人の妖精がベッドの上に立っていた。壁が全て白塗りである事から、恐らく医務室であると予想した彼は、気を失う前の記憶をゆっくりと遡って行く。

 

・・・思い出した。確か俺はマシンキャノンの砲身で顔を打った筈だ。

 

「妖精さん、今は何時だ?」

 

「今は20:47時です」

 

「随分と長く寝てたな・・・。因みに、俺をここに運んだであろう、あのアホ(明石)はどうした?」

 

「彼女なら、あなたをここに運んだあと、“まだまだ改良の余地ありですね!次は反動抑制装置の開発もしないと!”と言って部屋を出て行きましたよ」

 

ほぅ、明石の奴はまだあの実験を続けたいようだ。それなら、喜んで手を貸そうじゃないか。勿論、今度の的はあいつ自身だがなぁ。

 

「その様子ですと、異状はありませんね」

 

「ああ、助かったよ。ありがとう」

 

ポケットから、小腹を満たす為にと保管していたチョコ菓子を取り出して妖精達の足元に置き、部屋をあとにする。

 

「お大事に~」

 

「ありがとう」

 

後ろでフリフリと手を振る妖精に再度礼を言って歩いて行くザンクードのにこやか表情はしかし、ドス黒いオーラを放っていた。

 

あいつには、いつかエルメリアン魂を叩き込んでやろう。徹ッッ底的にな・・・!

 

 

「くしゅんっ!」

 

「明石さん、どうかしましたか?」

 

「風邪ですか?」

 

「え?ううん、何でも無いわ。ただ、何とな~く寒気がしたような、そうでないような・・・」

 

「「「?」」」

 

「ま、いっか。さあ、反動抑制装置の完成を急ぐわよ!」

 

 

「ハァ、せっかくの休日だってのに、今日は踏んだり蹴ったりな日だ・・・」

 

この時間だと夕食時は過ぎているので、今から行っても間宮に負担を掛けるだけだろうと考え、購買で何か適当に買う為に廊下を歩いて行く。

 

 

「お姉さまーー!待って下さいよーー!」

 

 

「ひょっとして、何かに憑かれてるんじゃないか?」と呟きながら廊下を歩いていると、誰かの声が聞こえた。発生源は俺の正面の曲がり角からだ。

 

 

「比叡、せめて自分で食べてからにするネー!」

 

 

比叡?それに、この特徴的な話し方は金剛か。さては比叡の奴、また妙な物を作って逃げられてるな?

 

「愛するお姉さまには誰よりも先に、この比叡が気合いを入れて作ったカレーを口にしてほしいんです!」

 

「そのままなら美味しいのに、妙なトッピングなんてしたら台無しって事に気付いてヨ!」

 

ドタバタと音を立てながら正面の角を曲がって来たのは、俺の予想通り金剛と比叡だった。

 

「あ!ヘイ、ザンクード!道を空けて下サーイ!」

 

「ザンクードさん!金剛お姉さまを止めてくだ━━あっ」

 

「」

 

比叡が足を滑らせて態勢を崩し、持っていた山盛りの紫色をしたカレーが宙を舞う。

金剛は早めに危険を察知して身を低くし、ギリギリのところでカレーの直撃を避けた。

では、行き場を失い宙を舞う比叡カレーの向かう先はと言うと━━

 

「あぁ・・・ジーザス・・・」

 

重力に従って落下するカレーは、既に諦めた表情をしたザンクードの顔に向けてスピードを増して行き、そして、ベチョッという音と共に彼の顔は鮮やかな紫色に染め上げられた。

 

「ざ、ザンクードの顔が真紫になってるネ・・・」

 

「ひ、ひえ~~!?ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか?!」

 

「き、気にする━━うぷっ!?な、何だこの臭い?!ひ、比叡、次からは気を付けろよ?」

 

そう言って、カレーからはする筈の無い生臭い臭いを消す為、購買への道を引き返したザンクードは自室で替えの服と入浴セットを持って男性用の浴場へと向かう。

 

「ハァ・・・ヘビーだなぁ・・・」

 

本当に何かに憑かれてるんじゃないか?と改めて思うと、無意識に大きな溜め息が零れた。

 

 

しまった・・・。

 

水が抜かれた艦娘用の浴槽を前に、木曾は大きく肩を落とす。

現在時刻21:15。夕食後に軽めの運動をしていた木曾だが、今日は浴槽洗浄の為に水が抜かれる事が頭から抜け落ちていたのだ。

 

「あれ?木曾さん、どうしたんですか?」

 

妖精の1人が木曾に気付く。

 

「妖精さんか。実は風呂に入りそびれてな」

 

「成程・・・。男性用の浴場なら、まだ水を抜いていないので入れる筈ですよ。あそこを使うのは提督さんとザンクードさんだけですし、この時間帯ならもう入り終わってると思います」

 

「そうだな。それじゃ、さっと入ってくるかぁ」

 

妖精の言葉を聞いて、これで汗を流せると安堵した木曾はタオル1枚を体に巻いて男性用の浴場へと歩いて行った。

 

 

「あ゛~。ホント、疲れた身体によく染みるな~」

 

無人の浴場で、肩まで湯に浸かった状態のザンクードは親父臭が漂うセリフを吐きながら、天井から灯る暖色の明かりを、ボーッと見つめる。

 

今日1日、不運の連続で参っていたが、そんな気持ちもどこかに吹っ飛んで行くようだ。こうやって風呂に浸かってると、比叡のカレーを被ったのも、それがどうした?って思えてくるなぁ。

 

心身共に疲れが癒えたザンクードが、「ま、不運が続けば、その内良い事もあるだろうさ」と呟いたその時、背後で戸がスライドする音を耳が捉えた。

彼は反射的に音がした方角を振り返り、目を見開いて凍り付く。

 

「なッ!?」

 

「ざ、ザンクード・・・?!」

 

浴槽から立ち上る濃霧のような湯気の中、彼の目の前にいたのは一糸纏わぬ姿の木曾だった。

特段大きな起伏がある訳では無いものの、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる、よく鍛えられていると分かる体。スラリと伸びた四肢。

幸か不幸か、この濃い湯気のお蔭で見えたらマズイ場所は隠れているが、1つだけ彼の視線を釘付けにする箇所があった。

 

「お前、その右目・・・」

 

彼女の右目は、緑色の左目とは違ってオレンジがかった金色をしているがしかし、ザンクードが言ったのはその瞳に対してでは無く・・・

 

「ああ、この右目の傷(・・・・)か?」

 

彼女の金色の右目を縦に走る一筋の切り傷だった。所謂、『スカーフェイス』と言うやつだろう。

 

恥ずかしさよりも、木曾の右目の傷痕を見て逆に頭が冷静になって来た事をその身に感じるザンクード。

だからだろうか。彼女が一瞬だけ憂いを帯びた表情を浮かべた事を見逃さなかった。

 

「・・・こんな所に突っ立ってたら風邪ひいちまうから失礼するぜ」

 

そう言って木曾は浴槽に入り、ザンクードから少し離れた場所に座る。

 

「訊かないのか?」

 

「本音を言うと気になるが、いきなり根掘り葉掘り訊くのもアレだしな」

 

「おいおい、そりゃあ前の射撃訓練所での嫌味かぁ?」

 

「え?いやいや、そう言うつもりじゃなかったんだ。あれには逆に感謝してるぐらいだよ」

 

ククク、と笑いを噛み殺すように冗談を言ってくる木曾に、彼は少し慌てるように否定を入れる。

 

「訊かれなかったら、あのまま溜め込んでたかも知れない。それに、お前のお蔭で大事な事も思い出せたしな」

 

「そうか」

 

しばしの間、浴場に沈黙が走る。

 

「っと、そろそろ逆上せそうだから先に上がらせてもらうぞ。・・・それと、溜め込み過ぎるのはあまり良くない。差し出がましいとは思うが、もし何か吐き出したい事があれば部屋にでも来てくれ」

 

「・・・・・」

 

そう言い残し、ザンクードは浴場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

30分後 ザンクード自室

 

 

コンコン、と小気味の良い音を立ててドアが叩かれ、「邪魔するぜ」と言って木曾が入ってきた。

 

「来たか。まあ、そこの椅子にでも座ってくれ。コーヒーは?」

 

「頼む。ミルクと砂糖は多めで」

 

「はいよ。結構な甘党だな」

 

「別に良いだろ?」

 

ジト目を送ってくる木曾に、プッと小さく吹き出しながら、2人分のコーヒーを作る。

 

「お待ちどうさん」

 

「お、わりぃな。頂くぜ」

 

室内に、ズズズッと熱いコーヒーを啜る音が響き渡る。

 

「・・・・・・オレは、もともと第八鎮守府所属じゃなかったんだ」

 

コーヒーを飲んで一息ついた木曾が、ゆっくり重々しく口を開いた。

 

第八鎮守府所属じゃなかった?つまり、別の鎮守府から異動して来たって事か?

 

「第八の前の場所は最悪だった。そこの司令官は戦艦ばかりを並べりゃ良いって思考の奴でな。おまけに戦艦の連中も“戦艦様に対して()が高いぞ”って言う横暴ぶりときた。それでも毎日仲間と一緒にやって来たんだ」

 

俺は無言で次の言葉を待つ。

 

「そんなある日の事だった。オレと駆逐艦娘5人では絶対に突破できない海域に行けと言われた。勿論、無謀だと言い返したが、“援護がある”の一点張りだ。結局、オレが旗艦になってそいつらを連れてその海域まで行く事になった」

 

 

 

『おい、提督!聞こえねぇのかッ?!こいつらはもう大破してる!撤退するぞ!』

 

《今の場所はどこだ?》

 

『ああ?!んなもん聞いてどうすんだッ?!援護はどうしたんだよッ!!』

 

《場所は?》

 

『チッ!D-7、方位1-5-0だッ!早くこいつらを安全な所へ━━』

 

《分かった》

 

 

 

「そう言って通信が切れたあと、少ししてから辺りが吹っ飛んだ。始めは何があったか分からなかったが、あとで理解したよ。オレ達は味方が撃った砲弾の着弾目標にされたってな。その時に飛んで来た何かの破片で切ったのがこれだ。これでも治った方だが、傷が深かった事に加えて長時間放置してたのも相まって、これが治癒の限界らしい」

 

そう言って木曾は、元は(・・)片方で色が違う瞳を隠す目的で着けていた眼帯を外し、あの傷痕を晒す。この話を聞いたあとにもう一度それを見ると、自分のものでも無いのに痛みを感じた。

 

「深海棲艦は全員沈んだが、限界だった駆逐艦達は1人残らず轟沈。運良く沈みかけ(・・・・)で済んだオレは海を漂流し続け、偶然第八鎮守府の電に発見されたって訳だ」

 

「そう、だったのか・・・」

 

「沈んだあいつらはいつもオレの事を慕ってくれてた。なのにオレはあいつらを護ってやれなかったッ・・・!こんな傷なんざどうでも良い!オレはあいつらを殺した奴の片棒を担いだも同じなんだ!オレのせいでッ・・・!」

 

彼女は、血が出るのでは?と、心配になる程強く握り締めた拳を自身の膝に振り下ろす。

 

「なあ、木曾」

 

「・・・何だ?」

 

「俺がお前と初めて会った日の事を覚えてるよな?」

 

「ああ、覚えてる。それがどうしたんだ?」

 

木曾が俺の言葉に「?」と怪訝そうな表情をする。

 

「あの日、俺は深海棲艦に囲まれているお前達をドローンを通して見ていたが、確か戦艦棲姫とか言ったな?かなり強い奴らしいが、お前はそいつと電達の間を遮るように立っていた。もしあの時、お前がボロボロになってでもあの場所に立ってなかったら、あいつらはどうなってたと思う?」

 

一息ついてから、俺は再度口を開いた。

 

「俺が見つける前に全員沈められて、あいつらの笑い話の(さかな)にされてたかも知れない。あいつをどう沈めてやったとか、何発で仕留めた、とかってな。だが、お前はあいつらを護りきった。

その娘達が沈んだという過去を消す事はできないが、もう沈ませないっていう未来は作れるんじゃないか?何もお前1人で背負えって話じゃない。これは俺のクルーが言った言葉なんだがな。

『人も(ふね)も、誰かがいないと直ぐダメになる』だ。キツい時はみんなや俺を頼ってくれ。お前は1人じゃないんだからな。・・・ほら、ハンカチ・・・は無いから、タオルで我慢してくれ」

 

目の前で、何かを堪えるように小さく震える木曾に手頃なタオルを見繕うと、彼女は「ははは、締まらねぇ奴だな」と言って受け取り、顔を拭う。

 

「それなら、早速頼らせてもらって良いか?」

 

「ああ、言ってみな」

 

「なに、簡単だ。少し胸を貸してくれるだけで・・・良い」

 

「・・・こんな包容力の欠片も無い胸なんかで良ければ幾らでも」

 

「助かる」

 

冗談めかしながら両腕を広げると、その中に、ポスッと木曾の頭が収まり、少ししてから小さな嗚咽が聞こえてきた。

普段は勇ましい木曾も、やはり1人の女の子なんだよな。と思いながら、彼女の嗚咽が止むまで頭を撫でる。

 

「わりぃ、見苦しいもん見せた」

 

「誰だってそういう時はある。それを見苦しいなんて言うバカは俺が黙らせてやるさ」

 

ニッと笑って見せると、目元や鼻が少し赤くなっている木曾の顔がほんの少しだけ赤みを増したような気がした。

 

「さてと、もうこんな時間だ。そろそろ部屋に戻って寝た方が良い」

 

「そうだな。ザンクード、今日はありがとな」

 

「おう、気にするな。お休み」

 

「お休み」

 

バタンと部屋のドアが閉まり、それを見届けた俺はベッドに寝転がる。

 

グゥ~・・・

 

「しまった、購買で食い物買ってくるの忘れた・・・」

 

ザンクードは空腹に耐えながら眠るハメになったのだが、それだけでは終わらない。

 

「・・・・・」

 

目元を赤くした木曾が彼の部屋から出てきたのを偶然目にした人物が1人いたのだ。

 

「クマぁぁ・・・」

 

その人物とは球磨型1番艦の球磨だ。

翌日、完全に語尾の『クマ』が消え去った球磨に呼び出されたザンクードは

 

「妹に何をしたぁ?あ゛ぁ゛ん゛?」

 

「く、球磨、話を聞いてくれっ・・・。絞まってる、首絞まってるぅぅ・・・!!」

 

「ね、姉さん?!ストップ!ストップだ!」

 

といったやり取りをする事になるのだが、これは余談として置いておこう。

 

 




今回、木曾に独自設定を入れさせてもらいました。

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