重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第20話 空飛ぶ悪魔

今日も今日とて出撃し、仲間と共に担当海域の深海棲艦を倒した俺は、鎮守府が肉眼でもはっきりと視認できる距離にまで近付いていた。

 

「あ゛ぁ゛~、あっづぅ~。やっとここまで来れた~」

 

「鈴谷、はしたないですわよ?もっとシャキッとなさいな」

 

隣で航行している重巡洋艦の鈴谷が、うへぇ、とした顔をし、それを妹の熊野が注意する。

 

「だって仕方ないじゃん・・・。暑いものは暑いんだもん」

 

「もうっ!あなたにはもう少し乙女としての自覚を持って欲しいものですわ!」

 

「じゃあ熊野は暑くないの?」

 

「むぅ、確かに今日はいつもより気温と湿度が高いですが・・・」

 

腑に落ちないといった顔をしながら、パタパタと手で顔を扇ぐ熊野は辺りに視線を巡らす。

それぞれ個人差はあるものの、皆この暑さにはうんざりしているようだった。

 

「ね?鈴谷だけじゃないんだよ。ほら、目の前のザンクードだって同じだと思うよ~?」

 

そう言って鈴谷が指差す先のザンクードは・・・

 

《リキッドよりザンクード、哨戒任務終了。着艦許可を求める》

 

「ザンクードよりリキッドへ、着艦を許可する。いつも通り、レールガン砲身への接触には注意しろ」

 

《了解》

 

何事も無さそうな顔で艦載ヘリコプターの収容作業を行っていた。

 

「・・・ちょっとザンクード、そんな格好で暑くないの?」

 

「え?ああ、暑くはないな」

 

「うそ!?そんなダッサい長袖着てるのに?!やせ我慢じゃなくて?!」

 

本当に何事も無さそうな顔で答えるザンクードに、鈴谷は目を剥き、驚愕の声を上げる。

 

「むっ、ダサいとは失礼な奴だな。いいか?これは結構高性能な戦闘服なんだ。厳選された素材によって、速乾性・低磨耗性は完璧の一言。軽量でありながら非常に丈夫で長保ちする上、行動も阻害されない。ポケットもあるから小物の収納もできるし━━」

 

十数分後

 

「━━そして、幾つもの厳しいテストを乗り越えたこの服は俺が就役してから7年後に量産が決まった最新型なんだ。分かったか?」

 

「う、うん、分かった。長い・・・

 

「まあ、暑くないのはこの服じゃなくて、エアコンのお陰なんだけどな。電力が実質無尽蔵ってのは良いもんだなぁ」

 

「「「・・・は?」」」

 

何の気無しに言ったザンクードの一言に、鈴谷達の声が重なった。

 

「・・・へぇ、ザンクードってばそんな物使ってたんだぁ。ふぅーん」

 

「あらあらまぁ・・・うふふっ」

 

「す、鈴谷?熊野もどうしたんだ?」

 

顔に影を落とす鈴谷と、口に手を宛がって上品に笑うが、目がまったく笑ってない熊野。

 

「・・・頭にきました」

 

「加賀まで?!」

 

真顔のまま、抑揚の無い静かな声でそう言う加賀。

 

「まあ、そうなるな」

 

「日向、どう言う意味だ?何でこいつらの顔が怖いのか教えてくれ」

 

「その答えは瑞雲のみぞ知る。だから、君も瑞雲を━━」

 

「何度も言うがなぁ、俺は瑞雲を搭載できないんだって!カタパルトが無いんだよ!」

 

「そのレールガンとやらを降ろして、代わりにカタパルトを載せたらどうだ?」

 

「嫌に決まってるだろ!」

 

理由を知っている素振りを見せるものの、相も変わらず瑞雲を俺に搭載する事を勧めてくる日向。

 

「ザンクード、随分とブルジョワだね。抜け駆けかい?」

 

「抜け駆け?・・・あっ、もしかしてエアコン・・・」

 

加賀と同じく静かな声の響が、ジーッとこちらを見つめてくる。

彼女の“抜け駆け”と言う発言を聞いたザンクードは、みんなの顔が怖い理由をここでようやく理解した。

 

「お、お前ら落ち着けよ。俺1人だけエアコン使ってた事は謝るから・・・うん?━━ッ!?」

 

引きつった表情を浮かべながら後退りするザンクードだが、レーダーが遠くに機影を発見したあと、彼の両目が大きく見開かれた。

 

「・・・ザンクード、どうかして?」

 

彼の表情が一気に変わった事を不審に思った加賀が眉をひそめながら問い掛けてくる。

 

「・・・全員陸に上がって頑丈な遮蔽物に身を隠せ。今直ぐにだ」

 

「いったいどうしたと言うの?」

 

「レーダーに航空機影を1つ確認。IFF(敵味方識別装置)に応答無し。このレーダー波に該当する機種は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスペラード連邦空軍の戦略爆撃機だ・・・!ギャリソン、対空戦闘用意ッ!」

 

「アイサー!対空戦闘用意!」

 

「ちょ、ちょっと!デス・・・何ですって?」

 

「デスペラード連邦だ。少なくとも、俺の知っている連中はフレンドリーな奴らじゃない。まだ距離がある内に早く避難するんだ!」

 

反応から見るに妖精達が乗るようなサイズだが、もし向こうに敵意があった場合、いきなり攻撃を仕掛けてくる可能性だってある。

 

「え、ええ。でもあなたは?」

 

「無線勧告を行い、向こうの反応次第であれを落とす。提督には俺から伝えておく」

 

「分かったわ。みんな、彼の言う通りにしましょう」

 

加賀が残りの艦娘達を連れて陸に上がって行くのを見届け、俺は無線機を司令室にある無線に繋げた。

 

《ザンクード、どうした?》

 

「提督、緊急事態だ。レーダーがこっちに向かってくる機影を発見した」

 

《深海棲艦の艦載機か?》

 

「いや、もっとデカイ。腹の中に火薬をたらふく呑み込んだバケモノだ」

 

《爆撃機か!何機だ?!》

 

「1機のみだが、これが厄介だ。着任した日に俺の事を話しただろ?」

 

《敵の艦艇に沈められて・・・まさか!?》

 

「ああ、恐らく俺を沈めた方の国の機体だ。とにかく無線勧告のあと、敵対的な素振りを見せたら即撃墜で良いな?」

 

長距離対空ミサイル━━ガーゴイルの発射準備を行いながら、提督に確認を取る。

 

《そうだな。向こうに明確な攻撃の意志があるか分からない今は、まず無線で探りを入れた方が賢明だろう。偶然似ていた、という可能性もあり得る》

 

「了解。そちらでも会話内容が聞こえるように、無線は開けっ放しにしておく」

 

そう言い終えると、今度はこちらに接近しつつある航空機に対して無線を開いた。

 

「接近中の不明機に告ぐ。こちらは日本国国防海軍、第五鎮守府所属ザンクード。貴機の所属と目的を答えよ。応じなければ撃墜もやむ無し」

 

《━━デーメーデーメーデー!こち━━デ━━ラード連━━軍、有━━所属━━ヴァ━━ャー1!》

 

無線越しに、酷いノイズ音が混じった声が返って来た。

 

「不明機、ノイズが激しい。もう1度頼む」

 

《こちらはデスペラード連邦空軍、有志連合所属ヴァルチャー1!》

 

ザンクードの予想通り、不明機の正体はデスペラード連邦の軍用機だった。だが、彼は相手から発せられた『有志連合』と言うワードに引っ掛かりを覚える。

 

「ヴァルチャー1、貴機は現在日本国上空への進路を取っている。目的は何だ?」

 

《当機は現在被弾損傷によって推力が低下中!緊急着陸の為、着陸許可を求む!》

 

「何?被弾しているのか?」

 

《そうだ!あまり長くは保ちそうに━━》

 

ボンッ!!

 

「うっ!?」

 

《クソッ、とうとう第2エンジンまで死にやがった!パワーコントロール!第3エンジン噴かせ!》

 

無線から聞こえた大きな爆発音が鼓膜を殴り、一瞬だけ耳鳴りが生じる。

ここからでも目視できる距離にまで近付いて来ているその機体は、翼下のエンジンから黒煙を濛々(もうもう)と吐きながら飛行していた。

 

「提督、聞こえたか?この基地に滑走路なんて無いぞ!?」

 

《ああ、先よりの空港でもここからそこそこ離れている・・・!》

 

クソッ、どうする・・・!?あんな不安定な機体じゃ不時着水は困難。だが、ベイルアウト(緊急脱出)するには高度が低すぎる!

 

良い解決案が浮かばず歯を食い縛っていたザンクードだが、チラリと横目に見えた埠頭に隣接された倉庫を見た瞬間、1つだけ策を閃いた。

 

「そうだ!まだ望みはあるぞ!」

 

《何か思い付いたのか?!》

 

「ああ!あの機体サイズは妖精達の規格だ!ここの埠頭ならなんとか着陸できる!」

 

《それだ!!》

 

約1ヶ月前に行った演習での、地対艦ミサイル攻撃を思い出す。

ミサイルトラックを何台も並べれた程の埠頭なら、例え戦略爆撃機と言えど妖精サイズの機体を着陸させるには充分だと考えたザンクードはヴァルチャー1との通話を再開した。

 

「ヴァルチャー1、聞こえるか?!滑走路じゃないが、着陸におあつらえ向けの埠頭がある!見えるか?!」

 

《目視で確認した!あそこに着陸して良いんだな?!》

 

「ああ!ただ、表面が少し粗いから注意しろ!」

 

《ソフトに降りてやるさ!》

 

黒い尾を引きながら大きく旋回した爆撃機は、フラフラとしながらも埠頭への着陸コースを取り、

4基の降着装置を展開する。

 

《よし、良いぞ。距離100・・・50・・・タッチダウン(着陸)!逆噴射!》

 

独特なエンジン音を響かせ、タイヤと地面との接点から白煙を上げながら進んで行く爆撃機は尾部から着陸制動用のドラッグシュートを展開して一気に速度を落としていき、やがてその巨体を完全に停止させた。

 

「・・・やっぱりこの機体だったか」

 

陸に上がった俺は、埠頭で停止する巨大な機体を見つめながら静かにそう呟く。

彼自身、何度か襲われた事もあり、嬉しくない意味で馴染みのあるこの戦略爆撃機の名は━━

 

 

 

 

 

 

「B-56D フライング・デビル・・・」

 

2基で1セットのジェットエンジンを4セット。

計8発ものジェットエンジンを搭載。凄まじい兵器搭載量と長大な航続距離を誇り、空中給油を駆使すればどこへでも、どんな場所でも火の海に変える事ができる、まさに『空飛ぶ悪魔』だった。

 

 


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