重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する! 作:Su-57 アクーラ機
第五鎮守府の医務室には爆撃機の搭乗員と提督、そして、ザンクードと彼の艤装妖精達が数人集まっていた。
「軽い打ち身以外、特に外傷は見当たりません。全員健康状態は良好です」
爆撃機の搭乗員全員の診断を終えた医務室妖精が、ホッとした顔をしてこちらを振り返る。
しかし、室内の空気は重たく、ザンクード艤装妖精達は全員が緊張した表情で小銃を携えていた。
「・・・あの機首のシャークマウスと尾翼に描かれている、両足で爆弾を掴んだハゲワシのエンブレム。お前達、
「その通り。俺達はデスペラード連邦空軍、第44航空団隷下のヴァルチャー隊だ。・・・待てよ?さっきは事態に追われて気付かなかったが、ザンクードって言ったら、あんたまさかエルメリア海軍の巡洋艦か?まさか、ここに来て会う事になるとはな。俺は機長のツポレフだ」
唐突に口を開いたザンクードの話について行けず、室内の全員が「?」と言った視線を送るが、彼の言葉を理解した妖精━━ツポレフが、フッと笑ってそう告げる。
「『元』だがな。まあそれは今はいい事だ。ツポレフ、1つだけ訊きたい事がある。有志連合ってのはどう言う事だ?」
「・・・そう言えば、あんたは2019年の8月に沈んだもんな。知らないのは当然か」
納得したツポレフはゆっくりと3回頷くと、口を開いた。
「ウチの国内で2つの派閥が存在していたのは知ってるな?」
「ああ、好戦派と終戦派だな?」
「そうだ。そもそもの話、あの戦争も一部の好戦的な将校と政治屋達が始めたのが原因だ。当然、軍内部にも好戦派と終戦派が存在していたんだが、あの事件が完全に別れる切っ掛けになった」
そこで一度言葉を切った彼は、スゥっと息を吸う。
「2019年8月13日の海戦で侵攻艦隊が全滅したあの日だ。“多数の艦艇や航空機、人員、果ては核砲弾を持ち出してまで大和皇国を亡国にしたいのか?”っていう風に切れた終戦派の将校が秘密裏にエルメリア、大和皇国の両政府と結託。そして、デスペラード軍内部でかき集めた、終戦を望む将兵達とエルメリア連邦、大和皇国の3勢力で構成されたのが、有志連合だ」
「成程、俺が沈んだあとにそんな事が起きてたのか。じゃあ、お前達は・・・」
「俺達・・・いや、第44航空団はほとんどが終戦派だ。俺達ヴァルチャー隊は有志連合として作戦行動中に好戦派の航空機の襲撃を受けてな。何機か機銃で叩き落としてやったが結局撃ち落とされ、パイロット達は全員脱出。これで
「これが、今話せる全てだ。せめて、もう少し空を飛んでいたかったがな」と言って締め括ると、彼は静かに口を閉じ、再び室内に静寂が訪れる。
話を聞いていて思ったが、どうやら彼らも俺と同じように撃沈━━いや、撃墜されて、気が付けば別の世界に来ていた。という事のようだ。
「ザンクード、俺は向こうの世界の情勢は詳しく知らないが、彼らから悪意は感じない」
「ああ。こいつら、嘘は言っていないと思う」
先程まで黙って話を聞いていた提督が腕を組み、爆撃機の搭乗員達を静かに見つめながらそう言い、俺もその言葉に同意する。
「お、おいおい。俺が言うのもアレだが、そんな簡単に信じるのか?」
「お前達が嘘をつくのに命を懸けるような物好きじゃなけりゃな」
「嘘なんてつく気は元より無いが・・・」
軽口で言い返すと、どこか腑に落ちない。といった感じでツポレフは黙り込んだ。
「・・・なあ、ザンクード。1つ提案があるんだが」
「奇遇だな。俺もだ」
ザンクードと提督は、フッと笑いながら、ベッドの上で眉をひそめてこちらを見上げる爆撃機の妖精達に━━
「お前達が良ければだが、ここで俺達と一緒に戦わないか?」
そう言って、右手を差し出した。
「戦う?」
「ああ、実はこの世界は━━」
俺はツポレフ達にこの世界の情勢を説明する。聞いた事も無いような話に彼らは終始驚いた表情を浮かべていたが、俺が話し終えた頃、ツポレフ達は視線を下に落としたまま佇んでいた。
「・・・今でこそ有志連合を名乗ってはいるが、俺達は
「デスペラードはデスペラードでも、お前達は
間違っている事を正す為、国に背いてでも仲間と共に行動を起こした勇敢な
「ザンクードの言う通りだ。さっきも言ったように、君達を見ていても悪意は微塵も感じなかった。あとはそっちの意志次第だが、俺達は歓迎するぞ。勿論、どんな答えでも君達の意志は尊重する」
妖精達は一瞬呆けた顔をして固まるが、ハッと我に返って互いに頷き合ったあと、決心した表情で俺達に向き直り━━
「全員同じ思いだ。
俺達ヴァルチャーも一緒に戦わせてくれ。あんな無念を抱いたままで終わるのはごめんだ。俺達はまだまだ空を飛んでいたい!」
確固たる意志を持って、そう言い切った。
「おう。よろしく頼むぜ、ヴァルチャー」
「鎮守府の建物内から見ていたが、あの損傷状態での着陸は見事だった。これからよろしくな」
ザンクード、提督の順番でツポレフ達と握手を交わして行く。
「そうだ。ウチには滑走路が無いから、あの埠頭の一部を改造するように妖精達に頼まないとな」
提督が、ポンッと手で相槌を打つ。
「それなら、フライング・デビルの離陸距離とかの詳細も必要だな。説明書がコックピットにあった筈だ」
「それなら、1度機体の元に向かうか。弾薬の件も頼まないといけないしな。提督はどうするんだ?」
「俺はこの事を書類に纏めて上に報告しないといけないから、その件はお前達に任せても良いか?」
「分かった。よし、行くぞみんな」
「「「了解!」」」
そう言って、提督と別れたザンクードは艤装妖精達とツポレフ達を頭や肩に乗せた状態で医務室を退室し、爆撃機を保管してある工廠へ歩いて行った。
▽
工廠
「はぇ~、デッカイですねぇ・・・」
「こんな巨体で空を飛べるなんてなぁ。二式大艇の倍はあるぞ」
「エンジンを8基も搭載した航空機なんて、初めて見ましたよ」
「この機首の厳ついノーズアート、俺達の飛行機にも描けないか?」
「かっこいいッスよね~!」
「今にも私達に食い付いて来そうね・・・。あとでこの機体のパイロットに描き方訊いてみようかしら」
工廠の床上では、妖精達が爆撃機を見上げて感嘆の声を上げたり、機首のシャークマウスを興味津々な表情で眺めたりしていた。
そして、ここの主のような存在である明石はと言うと・・・
「お、おお・・・!何ですかこのジェットエンジンは!?旧式ジェット機とは比べ物にならない代物ですよ!」
「しかも整備が意外と楽!」
「この機体後方から延びてるのってガトリング砲じゃないか?!」
「機首下部や機体上面にも機銃搭がありますよ!」
工廠妖精達と共に、損傷していた機体本体やジェットエンジンを嬉々とした表情で修理していた。
「な、なあ、ザンクード。あいつらに修理任せても大丈夫なのか?」
工廠に到着して早々、ツポレフが口角の片方をヒクヒクとさせながら引いた目付きで明石達を見つめる。
無理も無いだろう。彼女達は機体の修理をしながら、時折機銃やジェットエンジンに頬擦りをしていたのだから。
・・・キラキラとしながら。
「ああ、うん。あれを除けば良い奴らだぞ」
「そ、そうか。取り敢えず、滑走路の件を伝えないと」
「分かった。お~い!明石、妖精さん達!」
ザンクードが両手を口元に宛がって明石達を呼ぶと、声に気付いた彼女達は集まって来た。
「はいはい、何ですか?ザンクードさん」
「いやなに。新しく爆撃機のパイロットが仲間に加わったんだが、飛ばす為の滑走路がウチには無いから埠頭の改修工事と、弾薬の量産も依頼したくてな」
「ふむ。滑走路に関しては、その爆撃機のスペックデータがあれば可能ですよ」
「それなら問題無い」
俺の頭の上に乗っているツポレフが口を開いた。
こいつ、中々渋い声してるよな。と思いながら、彼を掌に乗せて明石の方へ近付ける。
「あら、あなたがあの爆撃機のパイロット?」
「ああ、俺はツポレフ。あのフライング・デビルの機長を務めている。コックピット内に説明書を保管しているから、そこにデータは記載されている筈だ」
明石達に軽い自己紹介をしたツポレフが、クイッと顎で爆撃機を指した。
「成程、『空飛ぶ悪魔』と言う意味ね。オッケー!機体の修理と平行になるけど、元々大きいあの埠頭なら少し手を加えるだけだから楽勝よ!弾薬は1発ずつ取り出させてもらうわね」
こうして、鎮守府埠頭の改装工事と弾薬の量産は明石に快く了承された。
なお、余談ではあるが、爆撃機機首のノーズアートに興味津々だったパイロット妖精達がツポレフ達に「描き方を教えて!」と迫り、翌日、半数以上の艦戦、艦攻、艦爆、果てはジェット機にまでシャークマウスが塗られていた事に空母艦娘達は絶句。
その光景を見たツポレフ達は「ワーオ・・・」と呟いたそうだ。