重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第23話 大規模改装

翌日 工廠

 

 

コンテナ船護衛任務の当日。

05:00時には出港する為、普段よりも幾時間か前に起床し、身支度を整え、朝食を終えたザンクードは艤装のチェックをしに工廠を訪れていた。

 

「おはようギャリソン。準備は万全か?」

 

「おはようございます。全クルー万全の状態です。定期点検も昨日の内に完了しており、問題箇所は見当たりません。ただ、補助ボイラーの定期点火試験は洋上で行った方がよろしいかと」

 

「フィルターで処理しているとは言え、排煙を出すのには変わり無いからな・・・。分かった、出港後に試験を実施しよう」

 

「イエッサー」

 

ザンクードには原子炉が2基搭載されているのだが、設計の段階で『やむを得ず原子炉停止に陥った際』の補助機関として、タンカー用の重油ボイラーも2缶搭載されている。

その為、ザンクードの上部構造は不自然な程巨大な煙突を持つ事になり、他の艦艇には見ない独特のシルエットとなった。

向こうの世界では使う事は特に無かったが、定期点火試験は月に1度の周期で行われており、今日がその日なのだ。

 

「それとなんだが・・・」

 

彼は、床に倒れ伏すピンク髪の誰かさんと妖精達をチラリと横目で見る。

 

「あいつらは何でここでぶっ倒れてるんだ?」

 

「あぁ・・・彼女達ですか。スーパーラピッド装置と反動抑制装置を1つに纏めてコンパクトにするとか何とかで悪戦苦闘した成れの果てです」

 

あの話まだ続いてたのかよ。て言うか、本気でやる気なのか?

 

「ハァ、進展は?」

 

「あと一息らしいです」

 

「マジかよ・・・」

 

などと会話を交えていると、工廠に2人の人影が入って来た。提督と木曾だ。

 

「おはようザンクード。随分と早いな」

 

「うん?ザンクードじゃねえか。おはよう」

 

提督、木曾の順に挨拶をしてくる。

 

「ああ、おはよう。そっちも随分と早いじゃないか」

 

「実は明石に呼ばれていてな。なんでも、艦娘の大規模改装の件らしい。で、その対象が・・・」

 

「オレって訳だ」

 

そう言って、木曾が1歩前に出てきた。

大規模改装。ある一定の基準まで力を付けた艦娘に施す事ができるらしく、艦娘によっては容姿や艦種が変わる者もいるそうだ。

第八の前の鎮守府から戦い続けてきた彼女なら、その基準を満たしているのも十分納得ができる。

 

「成程、それでこんな早い時間に工廠に来たのか。だが、生憎明石はそこで沈没(・・)してるぞ?」

 

後ろで「むにゃむにゃ」などと寝言を言う明石達を親指で指すザンクード。

 

「ったく、明石の奴め。参ったな、この状態の明石を起こすのは骨が折れるぞ」

 

「起こせば良いんだよな?」

 

「・・・?そうだが、さっき言ったようにこいつを起こすのは一筋縄じゃいかないんだよ」

 

「それなら良い方法があるぞ」

 

提督と木曾が怪訝そうな表情で見つめる中、ザンクードは「あの部屋は防音か?」と質問をする。

 

「その通りだが、それがどうした?」

 

「なに、こいつに清々しい朝をくれてやるのさ」

 

ニヤリと笑う彼は防音が施された部屋に明石を運び込み、そのあと空砲に入れ換えたマシンキャノンを持って部屋の内鍵を閉めた。

恐らく、ここでほとんどの方には察しが付いたことだろう。

 

「準備よしっと」

 

明石に、あまり役に立たない耳当てを宛てたザンクードは片手に持ったマシンキャノンを上に向け、そして━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きる時間だぞ、明石」

 

容赦無くトリガーを引いた。

 

ドッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!

 

「ッ!?なな、何ですか何ですか?!敵襲ですか?!」

 

冷たい水を掛けられたように、文字通り飛び起きた明石は辺りをグルングルンと見渡し、ザンクードを発見する。

 

「ざ、ザンクードさん・・・?まさか、今のって・・・」

 

「よう、明石。おはようさん。目が覚めたか?」

 

「び、ビックリするじゃないですか!もっとマシな起こし方して下さいよ!」

 

「でも1発で起きたじゃないか。木曾の改装を控えてるんだろ?」

 

「あっ。そ、そうでした!スーパーラピッドと反動抑制装置の複合化に手間取って━━ハッ!?」

 

「もうとっくにバレてるから隠しても意味無いぞ。それより、早く行ってやったらどうだ?」

 

そう言って、ドアの鍵を開けた。

 

「わ、分かりました!」

 

明石は、タタタッと木曾の元へと走って行き、彼女と共に改装用の部屋へと向かう。

 

「お前、随分とエグい起こし方するなぁ」

 

提督が苦笑いを浮かべながら歩み寄ってきた。

 

「あれぐらいの仕返しは良いだろ?こっちは前に休日を潰されたんだ。それに、耳当てはちゃんと着けてやったしな」

 

マシンキャノンから空砲の入った弾倉を取り外しながら、そう言い返す。

 

改装した木曾がいったいどんな風になってるのか、楽しみだな。

 

と思いながら、明石と木曾の後ろ姿を見つめるザンクードだった。

 

 

 

 

 

 

「よう、待たせたな。改装完了だ」

 

改装を終えた木曾が明石と共に戻って来る。

彼女は改装前と改装後とで容姿が変わっていた。何と言うか・・・こう、『キャプテン』と言う言葉が似合いそうな姿だ。

衣装はあのセーラー服の上から羽織った黒いマント、折り返しの付いたグローブとブーツ。

艤装には白黒の虎柄迷彩が施され、単装砲が背面右舷からその姿を覗かせており、加えて背面左舷に2基と両大腿に1基ずつ5連装魚雷発射管を装備。

右大腿の艤装には金文字で『弐』の文字が刻まれ、腰には弾帯を巻いている。

そして、以前は黒色だった眼帯は金の格子状の装飾が追加され、右手には軍刀を携えていた。

 

何か、かっこいいな・・・。

 

今の彼女に何か言われれば、無意識に「イエス・マム!」と言って敬礼をしてしまいそうだ。

 

「木曾さんは大規模改装を行い、軽巡洋艦から重雷装巡洋艦と言う艦種に変わりました」

 

と、明石が説明を始める。

なんでも、今の木曾は魚雷を山のように積めるらしく、それに加えて甲標的なる潜水艇を載せれば、敵に気付かれる前に雷撃を行えるらしい。

ただ、残念な事に甲標的は現在の第五鎮守府には無く、今後の開発に頼るしか無さそうだ。

 

まあ、提督の運があれば出せん事も無いだろう。

俺?・・・いやぁ、開発はちょっとなぁ・・・。

━━おいそこ。クレバーフィッシュ(ポンコツ魚雷)が真っ先に頭に浮かんだ奴は大人しく出て来い。

今なら重対艦ミサイル4発で済ませてやる。

 

などと、誰に向かってのものか分からない言葉を内心で呟いていると、今度は4人の人影が工廠に入って来る。

今回の護衛任務のメンバーだ。

因みにメンバーはザンクード、木曾、球磨、多摩、川内、古鷹の6名である。

 

「全員揃ったな。もうそろそろ時間だ。艤装を装備して埠頭に向かってくれ」

 

腕時計と工廠の壁の時計を交互に見る提督がそう告げ、俺達は各自の艤装を装備して埠頭に出る。

 

「よし、現在時刻05:00時。全員、気を付けて行ってこいよ!」

 

「「「了解!」」」

 

提督の声を背に、俺達は第五鎮守府を出港した。

 

 

 

 

 

 

鎮守府を出港してから数時間。

 

「ザンクードさん、そろそろ」

 

ギャリソンが肩に登って、そう告げる。

 

「そうだな。機関部、これより補助機関の定期点火試験を開始する」

 

《アイサー、これより補助機関を始動します》

 

機関室からの応答があったあと、重油ボイラーが唸りを上げ、しばらくしてから背部の煙突が薄灰色の煙を吐き始めた。

 

《こちら機関部、補助機関は順調に作動中。異常ありません》

 

「分かった。このまま慣らしの為、しばらくの間はつけっ放しにしておいてくれ」

 

《アイサー》

 

ヘッドセットのスピーカーから、プツッという音がしたあと、内線が切れた。

 

「ザンクードさんは機関を2種類も載せてるんですか?」

 

古鷹が並走しながら、そんな質問をしてくる。

 

「まあな。原子炉だって無敵で万能って訳じゃない。いざって時でも対処できるよう、補助機関として1万8500馬力のボイラーを計2缶用意してるのさ」

 

「2缶・・・意外と少ないんですね」

 

「その分デカイんだよ。この姿じゃ縮小されてるが、元はビル3階くらいの高さがあったんだぞ?」

 

「随分と大きいですね・・・!?重巡なら4缶以上積んでいるのが普通だったので」

 

「まあ、古鷹達は主機関として搭載してたからな。俺のはあくまで行動不能になるのを防ぐ為の予備動力だよ」

 

ザンクードが自身の煙突から出る煙を横目で見つめていると、不意に横から誰かが躍り出てきた。

 

「ねえねえ!ザンクードは夜戦って得意なの?」

 

先程から夜戦夜戦と騒ぎ立てていた川内だ。

何を隠そう彼女は大の夜戦好きであり、鎮守府でも夜になったら騒ぎ始める程である。

因みに初めて会った時、開口一番に「夜戦好き?」と訊かれて戸惑ったのはここだけの話だ。

 

「うーん・・・。ハッキリ言って、昼も夜も大して変わらなかったな。俺にはお高いレーダーやら光学装備やらが満載されてるから、それを使えば夜でも昼のように見渡せたんだよ」

 

マシンキャノンや35.5cm連装砲などの上に装備されている光学照準器を指差しながら川内に説明をすると、彼女の目が更に輝きを増した。

無論、明石のように精密機器を前に興奮した訳では無い。

 

「実際、こいつを使って夜中に━━」

 

「見せて見せて!」

 

ちょっと得意気に語り始めようとした刹那、川内がキラキラとした目でザンクードを見つめながら、暗視装置搭載の光学照準器を指差した。

 

「・・・壊すなよ?」

 

ショボンとしたザンクードはマシンキャノンに取り付けられた光学照準器を取り外し、川内に手渡す。

 

「ありがとう!おぉ~、これがあれば夜戦で大暴れできるじゃん!」

 

照準器を手渡された彼女はそれを覗き込みながら、子供のようなはしゃぎ声を上げる。

これでしばらくは静かだろうと思い、「ふぅ」と息をついたザンクードが再び前に向き直ったところで、目の前で会話する球磨型姉妹が視界に入り込んだ。

クマやニャーの語尾と共に末っ子の改二を祝う声が聞こえる。

 

にしても、本当に変わった話し方をするな。

姉2人がクマだのニャーだの言ってるとすると、木曾の場合は・・・

 

そこで、ふと一瞬だけ脳を(よぎ)った言葉が、無意識に口から漏れた。

 

「・・・木曾だキソー」

 

ボソリと呟く。

 

「っ!」

 

すると、ザンクードの小さな呟きを捉えた球磨がゆっくりとこちらを振り返り、そして目が合った。

 

あっ、しまった。

 

あの日━━木曾の過去を聴かされた日の翌日に、ちょっとした誤解から球磨に締め上げられた時の光景が思い起こされる。

 

「・・・ザンクード」

 

「は、はひっ!?」

 

顔を俯かせたままの球磨の呼び掛けに、ビクリと肩を震わせながら返事をするザンクードのなんと情けない事か。

だが、その反応をするのも仕方が無いだろう。

あの時の球磨はマジの表情(戦艦クラスの眼光以上)だったのだから。

敵の空母打撃群を前にゴムボートで向かわされた兵士のような表情を浮かべるザンクードの直ぐ目の前までやって来た球磨は━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりザンクードもそう思うクマ?」

 

そう言って、彼の肩に右手をポンッと置いた。

 

「・・・はっ?」

 

「いやぁ、まさかここに同志がいるとは思わなかったクマ!」

 

理解が追い付かず、呆けた表情を浮かべるザンクードの肩を球磨はバシバシと叩く。

 

「ほら、ザンクードもそう言ってるクマ!木曾もこれからは語尾に『キソー』を付けるクマ!」

 

「木曾も多摩達とお揃いニャ」

 

「嫌に決まってるだろ!ぜってぇ言わねぇからなっ!」

 

羞恥から顔を真っ赤にして叫ぶ木曾を見た艦隊は笑いの渦に包まれ、ザンクードは「?」の表情のまま固まっていた。

 

 


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