重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第25話 テストフライト

護衛任務から帰還中の海域で起こったいざこざから3日後、執務室。

 

 

「司令部から連絡があった。先の件、第十一鎮守府には厳格な罰則を与えるとの事だ」

 

と、提督は静かな声でそう告げる。

あの戦艦部隊と遭遇したあとの事を順を追って説明するとこうだ。

 

第五鎮守府に帰還後、旗艦を務めていたザンクードは提督にあの出来事を報告し、艤装内に保管してあった記録も提出。

     ↓

報告を受け、記録を確認した提督は即座に司令部に向けて報告。

     ↓

そこから、俺と相手艦隊とのやりとりを念入りに確認し、第十一鎮守府にも確認を取ると相手は大人しくそれを認めた事で、一応の決着は付いた。

 

「だが・・・」

 

「・・・ああ」

 

しかし、俺も提督も重苦しい表情を浮かべていた。

理由は、今回の件がまだ可愛いと思える程の出来事━━木曾が第八鎮守府に流れ着く事になった要因に関してだ。

 

「あの鎮守府の司令官━━三管史 昭信(みくだし てるのぶ)は海軍大将の親父を持つ」

 

「ふん、どうせ親の七光りか何かだろう。戦果はそこそこ上げてるようだが、親が裏から手を回してるんじゃないか?」

 

腕を組んだ姿勢のザンクードは目に見えて不機嫌そうな表情で鼻を鳴らしながら、執務室のパソコンで第十一鎮守府の司令官の情報開示ページを見据える。

 

「その親父ってのがまた曲者でな。肥太と同じ思考の奴なんだが、力がある分余計タチが悪い」

 

「不祥事の隠蔽なんて朝飯前ってか?で、その息子も親父の傘の下で汚仕事(おしごと)って訳だ」

 

勝手な決め付けかも知れないが、木曾の件やその他諸々は三管史(みくだし)の父親が手を回して隠蔽している。と言うのが2人の見解だ。

しかし、現段階で「こんな事があった!」と言っても「証拠は?」と言われれば、こちらに関しては物的証拠がまったく無い。そもそも、見られて困る物を放置してる訳も無いだろう。

それどころか、「難癖をつけられた!」と騒がれたら、面倒な事になる可能性もある。

 

「今の俺達じゃできる事なんてほとんど無い。だが、今回の件で少しは司令部にも動きがある筈だ。ずっと隠し続けるなんてのは無理があるさ」

 

「そうだな。・・・もし俺が奴を捕まえる事になったら、その時は力一杯殴り飛ばしてやる」

 

と、不敵な笑みを浮かべながら、ザンクードは物騒な事を呟く。

 

「ははっ、死なん程度にしてやれよ?」

 

「少し男前にしてやるだけさ。それに、そのお役が回って来ればの話だしな」

 

そんな会話をしていると、執務室のドアがコンコンとノックされ、明石が入ってきた。

 

「明石か。どうかしたか?」

 

「はい!以前に依頼された滑走路が遂に完成しました!」

 

明石が、フンス!と自慢気に胸を張る妖精達を肩に乗せた状態で、埠頭の改修工事が終了した事を告げる。

この時ザンクードが、妖精さん達の作業スピードは尋常じゃないだろ・・・。と心の中で呟いたのは置いておくとしよう。

 

「そうかそうか、ようやくでき上がったか」

 

「それを聞いたらツポレフ達は大喜びだろうな」

 

「それが、もう既にお話ししたんです。そしたら“飛ばせてくれ!”と言い始めまして・・・」

 

更に彼女の話を聴いていくと、ツポレフ達は既にフライトスーツを着込み、フライトヘルメットを脇に抱えた状態で待機しているらしい。

 

「ふむ・・・。ま、どのみちテストフライトは必要だしな。良いぞ、飛ばせてやってくれ」

 

提督は手を顎に宛てて少し考える素振りを見せたあと、あっさりと離陸の許可を出す。

 

「分かりました!早速伝えてきますね!」

 

そう言うと、明石はスキップしながら部屋をあとにした。どうやら、彼女も早く飛ばしたかったようだ。

 

「どうせだし、俺も見に行ってみようかな。ザンクードもどうだ?」

 

「そうだな。このあと特に用事がある訳でも無いし、俺も少し見に行ってみるとするかな」

 

2人は明石のあとを追って執務室を退室し、爆撃機を保管してある工廠へと歩いて行った。

 

 

工廠

 

 

「キャプテン、離陸許可出ますかねぇ?」

 

「さあな。案外あっさりと出るかもしれないぞ?」

 

爆撃機フライング・デビルの主脚付近では、工廠から見える真新しい滑走路を眺めるツポレフ達の姿があった。

彼らは8人全員が深緑色をしたフライトスーツを着用し、灰色のフライトヘルメットを準備している。

あとは「オーケー」の一言を貰うだけだ。

 

「もし、ダメだと言われたらどうします?」

 

「・・・その時はやるしかないだろう」

 

「何を?」

 

「捨てられた仔犬みたいな目を向けてやるんだ」

 

「キャプテン、俺達は泣く子も黙るヴァルチャー(ハゲワシ)ですよ?それが仔犬(パピー)の真似事だなんて・・・」

 

「冗談に決まってるだろ。そんな真に受けるなよ・・・」

 

先程からツポレフと会話をしていた副操縦士の妖精━━ラミウスによる真顔のツッコミに、彼は思わず苦笑してしまう。

こんな時間がもうしばらく続くのかと思い、無意識に大きなあくびをした時だった。

 

「みんなーー!許可が出たわよーー!」

 

「「「!!」」」

 

工廠の入り口から小走りでやって来る明石の口から、確かに“許可が出た”と言う言葉が放たれ、それを爆撃機の搭乗員8名全員の耳が捉えた。

 

「性能テストを行うから、早速滑走路に出て頂戴」

 

「っしゃあ!全員マッハでコックピットに上がれ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

ヘルメットを装着した妖精達が機首の下側から伸びるハシゴを次々に昇って行き、コックピットの各席に座る。

 

「昇降ハッチの閉鎖を確認。エンジンを始動する」

 

コックピットの左席に座るツポレフは手際良く補助動力装置を起動し、8基のジェットエンジンが独特の甲高い音を奏で始めた。

 

「第1から第8までの全エンジンの始動を確認。異常ありません。明石さんと工廠妖精達の腕には感服ものですよ」

 

「ああ、あれだけ損傷していたのが全て嘘みたいだ。キャノピーもピカピカに磨きあげられてる。よし、滑走路にタキシングするぞ」

 

ラミウスが機器の操作を行いながら嬉しそうな声を上げ、それに答えるツポレフも口元を綻ばせたまま滑走路に向けて機体をゆっくりと動かして行く。

 

《ツポレフさん、聞こえる?》

 

離陸位置に着いたツポレフが方向舵などの動作チェックを行っていると、ヘルメットに内蔵された無線機から明石の声が響いた。

 

「明石さんか。感度良好だ。俺達の機体を修理してくれた事、感謝するぜ」

 

《気にしないで。こんな面白い機体をいじれたんだもの》

 

「はははっ!そうかい。そいつは良かった」

 

《まだ調べていない箇所もあるから、今度ゆっくりと見させてね。っと、ごめんなさい。話が逸れたわね。それじゃあ早速離陸して頂戴。そのあとに零戦が続いて離陸するから、そしたらテスト開始よ》

 

「ヴァルチャー了解。離陸する」

 

そう言ってヘルメットのバイザーを下ろし、酸素供給マスクを装着した彼は、8本もあるスラストレバーを纏めて奥に倒す。

滑走路の脇から明石や工廠妖精、提督、ザンクードや数人の艦娘達が見守る中、エンジンから耳障りな唸りを上げる巨大な爆撃機は、排熱によって後方に陽炎を作りながら滑走路を疾走して行き、飛翔して行った。

 

「Yeah!離陸成功!待ちに待った俺達の空だ!」

 

「ナイス離陸です、キャプテン!」

 

「空が青いぜ・・・!」

 

「やっぱり空飛ぶ悪魔は空にいないとなぁ!」

 

離陸に成功したフライング・デビルの機内は歓喜に満ちた搭乗員の声に包まれる。

ツポレフが操舵輪を微調整しながら巨大な機体を操縦していると、レーダーが2つの機影を捉えた。

 

「お?来たか。全員、ゼロファイターのお出ましだ!」

 

蜂の羽音のような音を立てながら横を飛ぶレシプロ戦闘機はフライング・デビルからすると小魚のような大きさであり、そのあまりに巨大な機影を2機の零戦のパイロット妖精達はただただ唖然としながら見つめる。

 

《無事に離陸できたようね。滑走路はどうだった?》

 

「完璧だったよ。今まで離着陸してきた、そのどれよりも良い」

 

《それなら頑張った甲斐があったわ。さてと、零戦も離陸した事だし、テストに入りましょ。まずは機体の運動性能からね》

 

「了解した」

 

ツポレフは操舵輪を右に回しながらゆっくり手前に引き、手始めに右旋回を開始した。

 

 

「ふむふむ・・・。運動能力は大きさに見合った程度っと」

 

上空で旋回や上昇下降を行うフライング・デビルの評価を、明石はメモ帳に鉛筆で書き記していく。

その横ではザンクードが何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「ザンクード、どうした?」

 

そんな彼に気付いた提督が声を掛ける。

 

「ああ、いや、向こうの世界で1度だけあれと同じ機種に酷い目に遭わされたのを思い出してな」

 

「その・・・、無理にとは言わんが、何が遭ったか訊いても?」

 

「・・・フライング・デビル4機編隊による、空対艦ミサイルの一斉攻撃だ。因みにフライング・デビルは空対艦ミサイルなら機内に14発、外付けも合わせたら18発まで積み込める」

 

「」

 

ザンクードの口から放たれた、想像以上の攻撃の規模に提督は絶句した。

 

「仲間と一緒に死に物狂いで迎撃したお蔭で、抜けて来た1発が非重要区画に命中した程度で済んだが、あの時は肝を冷やしたよ・・・」

 

と、ザンクードは遠い目をしながら、そう語る。

一方、ザンクードが青い顔をしながら自分達を見上げている事など露程も知らないツポレフ達は次の試験に移ろうとしていた。

 

「オッケー!次は搭載機銃の射撃テストに移りましょ。訓練用の標的機を飛ばすから、合図で全て撃ち落として頂戴」

 

明石が左手に持つ無線機を口元に宛がい、上空を飛行するフライング・デビルへ向けて次の指示を出す。

 

《ヴァルチャー了解》

 

酸素供給マスクによって少しくぐもったツポレフの声が無線越しに返って来たあと、滑走路から3機の標的機が離陸して行った。

 

 

「ガンナー、仕事だ!射撃準備!」

 

コックピット正面の計器板に埋め込まれた画面に映る3つの光点を確認したツポレフが、機銃手の妖精達に声を掛ける。

 

「こちら1番機銃座(機首下部機銃)。給弾装置の稼働を確認!射撃準備よし!」

 

2番機銃座(機体上面機銃)、問題無し!射撃準備完了!」

 

3番機銃(後方機銃)の安全装置解除!キャプテン、いつでも撃てます!」

 

各機銃を担当している妖精から次々に射撃準備完了の声が上がった。

どうやら、彼らの気合いは十二分にあるようだ。

 

《━━撃ち方始めっ!》

 

「よし、ゴーサインが出たぞ!撃ち落とせ!」

 

ドドドドドドッ!という発砲音と共に標的機に対して機関砲弾が吐き出され、直撃を受けた標的機は瞬く間に粉々に砕かれた。

 

「な、なんて威力なの・・・!?」

 

零戦のパイロット━━クウは、孔が空くどころか瞬時に鉄片に変えられた標的機だった物が海に墜ちて行くのを呆然と見つめながら、そう呟く。

そもそも、彼女達の中で常識の範囲に当てはまる本格的な爆撃機と言えばB-29がその代表格であり、搭載機銃は12.7mmの口径だ。

だと言うのに、このフライング・デビルときたらその約2倍の巨体で空を悠々と飛び、加えて機首下部と機体上面に35mm連装機関砲、尾部に20mmガトリング砲を搭載。

これは爆撃機と呼ぶには早速無理がある、まさに『空の戦艦』とも言えるような怪物だったのだ。

 

《クウちゃん、どう?確認できた?》

 

零戦のコックピット内で軽いショックを受けていると、連絡用として機内に持ち込んだ無線機から明石が問い掛けてくる。

 

「え、ええ、全機撃墜を確認しました。特に、35mm機関砲で狙われた標的機は比喩も誇張も無く、完全に粉々です」

 

《やっぱりとんでもない威力ね。20mmならまだしも、35mmなんてのを撃ち込まれたら、そりゃあ粉々にもなるわよ・・・。あれを載せようなんて言った人は相当な脳筋(のうきん)ね》

 

「ですね。あんな口径の機銃で狙われたら、1発かすっただけでも即墜落、なんて事になりますよ」

 

《ツポレフさんの話によると、あの機銃なら装甲車を地面ごと(たがや)す事もできるそうよ》

 

「あれって本当に爆撃機なんですか?私は軍艦にしか見えなくなってきました・・・」

 

《私もクウちゃんと同意見ね。っと、テストはこれで終了よ。ツポレフさん達と一緒に鎮守府に戻って来て頂戴》

 

「了解です。それでは」

 

そう言ってクウは1度無線を切り、横で飛んでいる爆撃機のパイロットに繋げ直した。

 

「ヴァルチャー、聞こえる?」

 

《こちらヴァルチャー。感度良好だ》

 

「明石さんから、鎮守府に戻るよう言われたわ。帰りましょう」

 

《了解した。先に着陸してくれ》

 

「分かったわ」

 

ツポレフから先に着陸するよう言われたクウは無線機を切り、操縦桿を両手で握って旋回の準備に入る。

 

「・・・空飛ぶ悪魔、ね・・・」

 

クウはフライング・デビルの機首に描かれているシャークマウスを一瞥したあと、ゆっくりと左に舵を切った。

 

 




三管史なんて、もう完全に当て字ですね・・・(笑)


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