重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第29話 勘違い

宛がわれた生活部屋のあまりの酷さに呆れながら、ザンクード達は持ってきた個人用品を室内の隅に置いていく。

 

「ったく、何が楽しくてこんな狭い部屋に住まにゃいけねえんだか・・・」

 

一頻り作業を終えたザンクードが畳にドカリと座り込みながら、愚痴を溢した。

 

「これじゃあ刑務所と変わらんだろう。いや、刑務所の方が数倍マシじゃないのか?」

 

薄っぺらい毛布を摘まみながら顔をしかめ、そんなザンクードの声に木曾が小さな窓を見つめながら口を開く。

 

「だな。オレがいた頃より更に悪くなってやがる」

 

彼女の話によると、部屋は変わらないものの以前は敷き布団くらいは置いてあったそうだ。

どうせ経費削減とか、立場をハッキリさせるとか、そう言った目的あっての事だろう。

 

「当然、ここの戦艦様と司令官殿はスイートルームで生活してるんだろ?」

 

「ああ、昔1度だけ見えたんだが、1人につき1部屋宛がわれてて、中は高級ホテルみたいだったな」

 

「・・・クソッタレ共め。全部証拠として提出してやる」

 

精々儚い天下を楽しんでおけ。

必ず全員海軍刑務所に叩き込んでやる。

 

そう心の中で誓ったザンクードはおもむろに立ち上がり、靴を履き始める。

 

「早速行動開始か?」

 

「ああ、ほんとにちょっとした聴き込み程度だがな」

 

あまり大々的に聴いて回ると直ぐバレそうなので、世間話のような感覚でほんの少し聴く程度に留める。

 

「それならオレもついて行こう」

 

「そいつは助かる。あの戦艦、ほとんどまともな案内もせずに行きやがったからな」

 

そう言いながら、ドアを開けた。

 

 

「おい、ギャリソン。こいつはどう見ても真っ黒を通り越してダークネスだぜ?」

 

工廠に保管してあるザンクード艤装のブリーフィングルームでは、ザンクード艤装妖精代表のギャリソン、同艤装妖精の精鋭であるトゥームストーン隊代表のレッカー、そしてフライング・デビルクルー代表であるツポレフの3人が集まっていた。

 

「ツポレフの言う通りですよギャリソン。ここの戦艦の艤装妖精は性根が腐ってやがる」

 

「そのようだな。それに、戦艦以外の艤装妖精の声が1つも聞こえない。みんな中に籠ってるようだ」

 

室内に静寂が訪れ、カチッカチッという時計の秒針が動く音だけが聞こえる。

 

「・・・取り敢えず今は要観察だ。いずれザンクードさんから何かしらの命令が下るだろう。その時は・・・」

 

ギャリソンがレッカーに視線を送る。

 

「トゥームストーンの出番だ。奴らの証拠を根こそぎ掴んでやれ」

 

「イエッサー。トゥームストーン隊にお任せを・・・!」

 

その言葉にレッカーは、右の拳を左の掌にパシッ!と音を立てて叩き付けながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ハァ、まいったな・・・」

 

廊下を歩くザンクードは、後頭部をガシガシと掻きながら溜め息をつく。

なぜ彼が大きな溜め息をつく必要があるのか。

それは、そもそも艦娘が見つからず、運良く発見して話をしに行こうとしても、近付いた瞬間逃げられるからだ。

 

「話し掛けたら、“ひっ!?”とか言って逃げられた時は流石にショックだったな・・・」

 

「仕方ねえよ。会った事も無い奴にいきなり声を掛けられたんだ。お前を知らない奴らからすれば、三管史(みくだし)の私兵にでも見えたんだろ」

 

「むぅ・・・」

 

腑に落ちない、といった表情で低く唸るザンクード。

 

ドンッ!

 

「おっと・・・」

 

「キャッ!?」

 

T字型の廊下を曲がろうとしたところで、何者かとぶつかってしまった。

ザンクードは難無く踏み留まったが、ドサッと音がしたので、相手方を転ばせてしまったようだ。

 

「ああスマン。君、大丈夫かい?」

 

目の前で尻餅をついて「いたた・・・」と漏らす駆逐艦娘の少女に、ザンクードはしゃがんで目線を合わせながら謝罪する。

━━がしかし。

 

「あ、あ、あっ・・・!」

 

「お、おいおい・・・」

 

よく見たらかなり痩せているように見える少女は、両目に涙を湛えながら後退りを始めた。

 

「待て待て、何もしない。何もしないから、な?」

 

少女を落ち着かせながら、ザンクードは青い迷彩色をしたズボンのポケットから取り出したチョコ菓子の個包装を剥き、それを差し出す。

 

「ほら、取り敢えずこれでも食って落ち着いてくれ。本当に何もしないから」

 

相手にまだ若干の警戒は残っているものの、差し出したチョコ菓子を恐る恐る受け取った。

チョコレートから漂う甘い匂いに反応し、少女の腹がグゥー・・・と音を立てる。

 

「・・・貰っても良いんですか?」

 

「ああ、構わないよ。転ばせてしまったほんのお詫びだ。美味いから食べてみな」

 

微笑みながら勧めると、少女はチョコ菓子を一口パクついた。

 

「おい、しい・・・!」

 

どうやら口に合ったようで、一口、また一口と、どんどん菓子を食べ進めて行く。

 

・・・ザンクード

 

木曾が小声で話し掛けてきた。

 

ああ、この反応は異常だな。これがここの実態なのか・・・

 

どうやら、食事にまで厳しい制限を設けているようだ。いや、抜かれる日があると言われても不思議では無い。

たかがチョコ菓子を、鼻をすすり、大粒の涙をボロボロと落としながら頬張る姿なんて見せられたら、嫌でもここの現状が想像できてしまう。

 

「・・・ご馳走様でした」

 

そう言って律儀に手を合わせる駆逐艦娘の少女。

 

「悪いな、こんなチョコしか出せなくて」

 

「い、いえ!本当に、ありがとうございます!」

 

「はははっ、たかだかチョコ菓子1つだ。別に━━」

 

「━━てめぇ!!そいつに何してやがるッ!!」

 

ペコペコ頭を下げてくる少女に、ザンクードは苦笑しながら「気にするな」と言う意味を込めて片手を上げると、不意に横合いから怒号が飛んできた。

 

「?」

 

何事かと思いながら、荒々しい怒号を飛ばした人物の方へ首を動かすと、助走をつけて右脚を後ろに引き、キックの態勢を取っている女性が直ぐ正面に映る。

そして━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ!!」

 

ア゜ッ!!?

 

勢い良く振り上げられたその右脚は、ゴスッ!という音と共にザンクードの両脚の付け根にあるバイタルパート(重要防御区画)に直撃し、彼は形容し難い声を上げた。

 

 

場所は大きく変わり、エルメリア連邦共和国、某海軍基地にて

 

 

「む?副長」

 

「どうかしましたか?艦長」

 

「いやなに、昔クルー達と撮ったザンクードとの集合写真を額縁に入れて飾っていたんだがな。ガラスに大きなヒビが入っているんだ」

 

「・・・?あ、確かに。しかも、ザンクードが写っている箇所にピンポイントで亀裂が走ってますね。なんか不吉だなぁ」

 

「スマンが新しい額縁と交換しておいてくれないか?」

 

「分かりました、取り換えておきます」

 

 

同じくエルメリア連邦共和国、市街地の某家庭にて

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「あなた、大声出してどうしたの?」

 

「お、俺の1/600スケール ザンクード級の模型があぁぁぁ!!」

 

「あら、真ん中からポッキリ折れてるわね。さっき子供があなたの部屋に入って行ったから、その時じゃない?」

 

「そ、そんな・・・。パーツ数が多くて作るの苦労したのに・・・」

 

「そんなオモチャぐらい、接着剤でくっ付けときなさいよ。それに、そんな物を無断で買ってきたバチが当たったのよ」

 

「これがオモチャだと!?お前にはロマンが分からないのか?!」

 

「 何 か 文 句 で も ? 」

 

「イエス・マム、接着剤で直させて頂きます」

 

 

「お、おぅぅうぅ・・・!」

 

「お、おい!ザンクード!」

 

ザンクードは呻きを上げながら膝を着き、遅れて反応した木曾が大慌てで駆け寄って来る。

視界が明滅する中、彼はこの末恐ろしい攻撃を繰り出した張本人を見上げた。

 

「大丈━━?!━━されたり━━てないか?!」

 

「━━さん!こ━━は違う━━す!」

 

「何が違う━━?このク━━郎はお前の━━ひっぱたこうとして━━だぞ!」

 

「それは━━さんの勘違いで━━!」

 

「ザンクード!!しっかりしろ!!」

 

駆逐艦娘の少女がもう1人の女性と言い争い、木曾は今にも意識が飛びそうなザンクードに必死に呼び掛ける。

 

「お・・・」

 

額に脂汗を浮かべるザンクードが、震える唇をゆっくりと開いた。

 

「どうした?!」

 

「俺、何か悪い事、した、か・・・?」

 

その言葉を最後に、ザンクードはとうとう意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「う、ん・・・?ここは・・・」

 

ムクリと体を起こすと、無機質な色をした壁が目に映り込む。

どうやら、ここは自分と木曾に宛がわれている部屋のようだ。

 

「よう、起きたか」

 

「・・・?ああ、木曾か。お前がここに運んでくれたのか?」

 

「いや、オレだけじゃない」

 

そう短く返す木曾は、クイッと顎を動かした。

彼女の仕草が「後ろを向いてみろ」と言う意味である事を理解したザンクードは、上体と首を捻って背後を振り返る。

 

「」

 

そこには、先程彼を一撃でK.O.した女性がいた。

 

はっはっはっ。いや、そんなまさか。

 

目頭を指でギュッと抑え、2~3回まばたきをしたあと、もう1度視線を戻す。

 

「ッ!!木曾、下がってろ!」

 

バッ!と立ち上がったザンクードは木曾を庇うようにして目の前の女性と対峙し、臨戦態勢をとった。

 

「ま、待て待て!ザンクード、そいつは敵じゃない!」

 

「敵じゃない?!あの娘にチョコ菓子やっただけで、いきなり手を出して来たんだぞ?!」

 

「そこで勘違いしてんだよ!」

 

「勘違い?」

 

ザンクードは目の前の女性から目を離さないまま、木曾の次の言葉を待つ。

 

「そいつは勘違いから、お前を蹴ったんだ。だろ?」

 

木曾は、目の前でバツが悪そうに頬をポリポリと掻く女性に話を投げ掛けた。

 

「その・・・さっきは悪かったな。アタシは高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶だ。木曾の言う通り、さっきのはアタシの完全な早とちりだ。実は━━」

 

摩耶は廊下で起きていた裏の出来事を話し始める。

彼女の話を纏めるとこうだ。

あのT字角で俺が駆逐艦娘にチョコあげたあと、礼を言われた時に「気にするな」と言う意味を込めて行っていたジェスチャーが、摩耶には俺が今にも手を振り下ろそうとしているかのように見えたらしい。

しかも、木曾は角に隠れて見えなかった為に俺を三管史(みくだし)の私兵だと思ったそうだ。

因みに彼女は木曾がここを離れたあとに着任したそうで、今日が初対面らしい。

 

「成程な・・・」

 

腕を組んで頷くザンクードだが、内心で軽く身震いをする。

 

今は自室に帰っているそうだが、もしもあの駆逐艦の娘が摩耶の誤解を解いてくれなかったら・・・。いや、その先を想像するのは止めておこう。

 

「事情は分かった。態とじゃないなら怒る事でも無いさ。あの娘を心配しての事だろ?」

 

「あいつだけじゃない。あの戦艦共とクソ司令官の理不尽さに苦しめられてる奴らを見てられねぇんだ・・・!」

 

摩耶がグググッと拳を握り締め、それを見た俺と木曾は互いに頷き合った。

 

「摩耶。実はな、俺達はここの鎮守府を叩き潰しに来たんだ。いや、正確に言うとここの腐った戦艦と司令官の鼻っ柱をへし折りに、だな」

 

「つまり、お前達は・・・」

 

ポカンとする摩耶に、俺はニヤッと笑いながら、「まあ、言うなればスパイだな」と答える。

 

「今は少しでも形のある証拠(・・・・・・)が欲しいんだ。何か知っている事があれば教えてくれ」

 

「・・・分かった。それならアタシも手を貸す。証拠を探してるんだったよな?それなら、前に執務室で変なもんを見た覚えがある」

 

「変なもん?」

 

「ああ、ここの執務室は向かって左側に趣味の悪い棚があるんだけどよ。なんか不自然なんだよ。その棚の脚下だけ何度も擦った跡って言うか、埃が無くてな」

 

三管史(みくだし)はよく家具の配置転換とかをするのか?」

 

「いや、配置が変わった所は見た事ねぇな。もしかしたら、なんか裏に隠してると思うんだよ」

 

「ふむ・・」

 

それって、まさか隠し扉か?それを仮定として話を進めれば・・・態々隠し扉の先に置くものは見られたくないナニカで辻褄が合うな!

 

そう結論付けたザンクードは、心の中でほくそ笑んだ。

 

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