重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第30話 危機一髪

「ギャリソン、ザンクードさんから通信です」

 

ザンクード艤装当直の妖精がヘッドセットを両耳に押し当てながら、後ろでコーヒーを啜るギャリソンに振り返った。

時刻は、そろそろ21:00になろうかと言った頃である。

 

「分かった。繋いでくれ」

 

「アイサー」

 

そう言って頷く妖精は直ぐ様無線を操作し、「どうぞ」と告げる。

その合図を受けたギャリソンは青白く発光する画面や、赤、緑に光るボタンが並ぶコンソールの横に取り付けられた受話器を手に取り、耳に宛がった。

 

「はい、ギャリソンです」

 

《ああ、ギャリソン。お疲れさん。そっちはどうだ?》

 

「そうですね・・・。一部の艤装妖精(・・・・・・・)から罵詈雑言が飛んで来る以外は特に何もありません」

 

ギャリソンは、「ハァ」と溜め息つきながら苦笑を浮かべる。

 

《やっぱり、そいつらもここの戦艦娘同様に染まってるのか?》

 

「はい、フライング・デビルのクルーが危うく掴み掛かろうとしてました。我々の中にも腹に据えかねている者は少なくないです」

 

《大変そうだな。苦労を掛けるよ・・・》

 

無線越しにザンクードの申し訳無さそうな声が返って来た。

 

「いえ、我々は自分の意志でこの鎮守府に来ましたので」

 

《そうか。っと、話が逸れたな。実は有益な情報が入ったんだが、今回はその件でな》

 

「・・・!了解しました。少々お待ちを」

 

ギャリソンは受話器を宛がったまま、近くにいた妖精に向けて指をパチン!と鳴らしたあと、「代わりにメモをとってくれ」とジェスチャーをする。

 

「っ!!」

 

指名された妖精は大急ぎで鉛筆とメモ用紙を用意し、ギャリソンに「準備完了」と合図した。

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

ボタンを押し、受話器をスピーカーモードに切り替える。

 

《場所は三管史(みくだし)の執務室。向かって左手の棚なんだが、その裏に何かを隠してるかもしれないらしい。そこで、トゥームストーンと、あと1人だけ工作が得意な奴を任務に就かせたいんだ》

 

「分かりました。因みに実行日時は?」

 

《それはもう少しだけあとだ。だが、近い内に必ず行動を起こす》

 

「了解です。メンバーにはそのように伝えておきます」

 

《頼んだ》

 

プツリと音を立ててザンクードとの通信が切れ、ギャリソンは受話器を元に戻す。

 

「艦内放送でトゥームストーン隊と工兵のハーパーをブリーフィングルームに集めてくれ」

 

ザンクードの誇る精鋭に召集命令が下された。

 

 

その翌日、早速出撃に駆り出されたザンクード達は目標の海域で任務に就いていた。

 

「クソッ、あそこまで弱っている艦娘達を駆り出すとは、やっぱりあの野郎はサイコ(イカれ野郎)だなッ」

 

ザンクードはレーダーを確認しながら、三管史(みくだし)に対して悪態をつく。

今回の任務は駆逐と軽巡が先行するらしく、俺と木曾は『念の為』との事らしいが、そんな周りくどい事などせずにミサイルで方をつければ良い筈だ。それに・・・

 

かなり距離を取っているが、俺の更に後ろで戦艦が待機してやがる。督戦のつもりか何かは分からんが、どうも嫌な予感がするな。

 

そう思いながら後方を流し目で睨んでいると、離れた所で艦娘達が戦闘を開始した。

しかし、万全な状態でない上に相手の数が多い為、徐々に翻弄され始める。

 

「そら見ろ!あの野郎、こうなるのは分かってた筈だ!スティングレイ発射用意!」

 

ザンクードが巡航ミサイルが格納されたハッチを開放し、全ての深海棲艦への攻撃準備が完了した刹那、木曾が「ふざけるなッ!!」と怒鳴って無線機を海に投げ捨てたあと、交戦中の艦娘達の元へ全速力で駆けて行った。

 

「木曾、どうした?!おい、木曾!!」

 

彼女のあまりの豹変ぶりを見たザンクードの脳裏に、なぜか(・・・)戦艦娘が異常に距離を取って待機していた事がフラッシュする。

 

「ッ、まさか・・・!」

 

全身から嫌な汗を噴き出しながら、大急ぎで無線機の周波をいじる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《━━今のあなた達の座標を言いなさい。援護(・・)してあげるわ》

 

戦艦娘の声がスピーカーから流れた。

 

機関部!!原子炉の出力を110%に引き上げろッ!!今直ぐにッ!!

 

叫ぶように命令するや否や、機関が唸りを上げる。

原子炉に負荷を掛けてまで彼が急ぐ理由。

それは今まさに、木曾が体験した惨劇が目前で繰り返されようとしていたからだ。

 

「ザンクードさん!あいつ、主砲を発射しました!」

 

「やりやがったッ!対空戦闘!索敵レーダーは最低限のものを残して全て最重要目標に回せ!」

 

 

「ああぁぁぁ!!」

 

ザンクードを置いて一足先に駆逐艦娘達の元へ到着した木曾は、大腿部の発射管から魚雷を射出。

直撃した重巡リ級を撃沈し、直ぐ側にいた駆逐イ級も巻き添えにする。

 

「グオォォォ!!」

 

「ぐっ!」

 

仲間を沈められて激昂したもう1頭のイ級と軽巡ハ級が砲門を木曾に向けて発砲し、その内の1発によって背部左舷の魚雷発射管が2基ともゴッソリと持っていかれた。

 

「邪魔だッ!!」

 

しかし、木曾がお返しと言わんばかりに放った単装砲の砲弾がイ級の口内に直撃し、魚雷などを含む弾薬に引火。

イ級は空気を入れ過ぎた風船のように破裂し、最後にハ級を軍刀で斬り捨てる。

 

「お前達、早く逃げろ!もう直ぐここは砲撃━━」

 

「あ・・・!?う、後ろッ!」

 

駆逐艦娘の1人が指を指す方角には深海棲艦の艦載機とそれを運用する軽母ヌ級の姿があり、既に攻撃のコースに入っていた。

 

「しまっ━━」

 

あと少しで爆撃されると思った次の瞬間。

 

ブォォォォォォォ!!

 

耳元で大型の昆虫が飛び回るような音と共に横合いから飛んで来た、無数のオレンジ色をした火の玉によって深海棲艦の艦載機は瞬く間にズタズタにされ、空中に大輪の花を咲かせた。

遅れて、ズドォンッ!という爆発音が轟き、遠くでヌ級が海中に没して行く姿と、それに向かって伸びる二筋の白煙を発見する。

彼女は、この攻撃と、それを行える者を知っていた。これは(・・・)・・・。

 

「おい!大丈夫か?!」

 

血相を変えたザンクードが、とても大型艦とは思えぬ速度でこちらに近付いて来ていた。

 

 

「スマン、助かった・・・」

 

「本当なら“危ないだろ!”って言ってやりたいが、話はあとだ」

 

ザンクードは空を睨み付けながら、ガーゴイル(長距離対空ミサイル)のVLSハッチを開放する。

 

「ガーゴイル、ランチ!」

 

艤装前部のVLSから勢い良く射出された対空ミサイルは、ザンクードに搭載されたレーダーの誘導に従って飛翔して行った。

 

「いいか?全員俺の後ろで頭を抱え、姿勢を低くしているんだ。確実に成功するとは言いきれない」

 

本職のイージス艦には敵わない。だが、正面から迎撃すれば俺でもギリギリ防げると信じたい。砲弾の迎撃なんざ可能か知らんが、頼むぞ・・・!

 

「ガーゴイル、目標到達まで5秒!3、2、1・・・」

 

遠くで一瞬だけ爆発閃光を放ったあと、レーダーから光点がパタリと消える。

 

「全目標撃墜!全目標撃墜!」

 

「っしゃあ!」

 

「はっはぁっ!ザマァ見さらせクソッタレめ!」

 

「やりましたねぇ!ザンクードさん!」

 

艤装妖精達が歓声を上げ、その声を横に、レーダー上の光点が確実に全て消え去った事を確認した俺は、ふぅぅぅ・・・と深く息をついた。

 

「まさに危機一髪だったな。状態は?」

 

「ああ、全員無事だ」

 

目の前で起きた事に理解が追い付かず、ポカンと口を開けて立ち竦む艦娘達には傷が散見されるものの、致命傷は負っていないようで、ザンクードはホッと胸を撫で下ろす。

「何があったの?」と訊いてくる者もいたが、ただでさえ虐げられている彼女達に「君達は仲間に沈められかけた」など、口が裂けても言えない。

「デカイ爆弾を持った艦爆を落とした」と嘘をついて隠すザンクードは、話を逸らす為にポケットから取り出したチョコ菓子を手渡し、帰路に着いた。

━━がしかし、それを面白くないと思ったのが戦艦娘だ。

 

「ちょっと、今のはどういうつもりかしら?」

 

不機嫌さMAXと言った声で問い掛けてくる戦艦B。

 

「どういうつもりも何も、ただの援護だ。それ以外に何が?」

 

顔も合わせず淡々と答えていると、駆逐艦娘の1人が小さな悲鳴を上げた。

その見開かれた瞳はザンクードの後ろ、戦艦Bに向けられており、それに気付いた他の艦娘達も怯えた表情を浮かべる。

 

「・・・おいおい、主砲が向いちゃいけない方を向いてるぞ。安全装置は掛けてるんだろうな?」

 

ザンクードの態度が気に食わなかった戦艦Bが、顔を歪めながら彼に主砲を向けていたのだ。

 

こいつの主砲、新型に換装してやがる・・・。

どうせ、新しいオモチャ(主砲)を試したくてこんなバカげた事をしでかしたんだろう。

 

「あんたはあの時から気に食わなかったのよ。たかだか巡洋艦風情が私達の道を塞ぎ、今度は作戦(・・)の邪魔までする。あまり調子に乗っていると、沈めるわよ?」

 

「作戦、ねぇ・・・。まあ、あの方法(・・・・)なら、どんなに下手くそな奴でも確実に砲弾を当てれるもんな」

 

今回の作戦の本当の主役は戦艦であり、駆逐艦や巡洋艦は敵を集め、そして主砲の着弾目標にすると言うものだったのだ。

そして、ザンクードと木曾は『何か遭った時、戦艦を守る為(念の為)』に駆り出された。と言うのが真相である。

 

「言わせておけば・・・!何が深海棲艦を艦隊規模で沈めた巨大戦闘艦よ!こんなのが来たところで、鬱陶しいだけじゃないッ!」

 

戦艦Bはワナワナと震えながらヒステリーを起こし始めた。

 

「何でウチの司令はこんな奴を欲しがったのかしら!しかも、今まで散々っぱら楯突(たてつ)いてきた、そこの死に損ないも一緒にだなんて!」

 

ピクリと、ザンクードの片眉が僅かに持ち上がる。

 

「雷巡が珍しいからか何なのか知らないけど、こんなのさっさと解体処分にでも━━」

 

ドズンッッ!!!

 

突如、ザンクードに搭載された61cmレールガン(EML)が発砲された。

戦艦Bの極至近を通過した砲弾は少ししてから後方で炸裂し、空中に巨大な火球を造る。

EMLに3種存在する砲弾の内の1種である、燃料気化弾によるものだ。

 

「・・・へ?・・・は?」

 

ギギギッとぎこちない動きで振り返る戦艦Bは、今まさに空が燃えている(・・・・・・・)光景を目にし、間抜けな声を上げた。

 

「な、なに、を・・・?」

 

うるさいハエを黙らせた(・・・・・・・・・・・)

 

そう短く返すザンクードは、火球から海面へとボチャボチャ落ちて行く何かの破片を指差す。

 

「さっきのヌ級が沈む前に発艦を敢行した奴らだろう。喚き散らす暇があるなら、空も警戒したらどうだ?」

 

スッと目を細めるザンクードと、低い動作音を上げながら元の位置へ戻っていくEMLが醸し出す物々しい雰囲気に気圧された戦艦Bは完全に黙り込んでしまった。

 

「さ、早く帰ろう。ここにいても時間と燃料の無駄だろ?」

 

さっきの雰囲気とは打って変わったザンクードは、他の艦娘達に優しく促す。

 

「・・・ほら、任務は達成したんだ。みんな、行くぞ」

 

木曾のフォローでようやく我に返った艦娘達は、静かに第十一鎮守府へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

帰投後、ザンクード、木曾、そして戦艦Bは執務室に集められた。

 

「ほぉう、独断による攻撃及び妨害行為、ねぇ。何か申し開きはあるか?」

 

報告書片手の三管史(みくだし)の言葉に、ザンクードは背筋を伸ばしながら口を開いた。

 

「はい、あの状況では彼女の砲撃より確実に、迅速に、そして低い損害で対応できると確信したので、独断による攻撃を行いました。砲弾に関しては、ただ単純に巻き込まれそうになったので、咄嗟の判断で撃墜したまでです」

 

「ハッ、成程。けどなぁ、損害っつったって、駆逐と巡洋艦が少し沈む程度だろ?」

 

鼻で嗤う三管史(みくだし)は続ける。

 

「お前だって、マーカードローンとか言う使い捨てのやつで誘導する兵器を持ってるじゃねえか。それと何が違うんだ?」

 

あれは誰も乗っていないから使い捨てにできるんだよ・・・ッ!

 

「アレらも同じく使い捨てなんだよ。デカイ砲は積めない、装甲は薄い。貧弱でまったく役に立たない連中が唯一役に立つ方法さ。それに、そろそろ数を少し減らしたいと思ってたところだったんだ」

 

木曾が握り締めている拳をプルプルと震わせる。

三管史(みくだし)は報告書を机に放り投げたあと、頭の後ろで手を組みながら、椅子にもたれ掛かった。

 

「ま、今回は飯抜きぐらいで見逃してやる」

 

「ちょ、ちょっと!こんな奴をそんな罰だけで見逃すって言うの?!」

 

戦艦Bが抗議の声を上げる。

 

「まあ待てよ。その代わり、これからしっかり役に立ってもらうからな」

 

三管史(みくだし)は、大多数の人間が「容姿が整っている」と言うであろう顔を歪めて嗤う。

今回の一件を見逃すと言う彼の判断は、新しく買って貰った玩具を大事にする子供と同じ思考だ。

事実、絶大な戦力を持ち、なおかつ保有しているだけでも一目置かれるような存在を2つも手に入れた三管史(みくだし)は有頂天になり、視野が狭まっていた。

 

「期待してるぞ?深海棲艦を艦隊規模で沈めた戦闘艦さんよ」

 

「イエッサー!」

 

近い内、そのツラを殴り飛ばしてやる。

とにかく、執務室内部の状況も把握できたし、レッカー達に頼む任務の実行日時は決まったな。

 

三管史(みくだし)がニヤニヤと嗤う中、ザンクードは内心で、どちらが悪役か分からなくなってくるような表情を浮かべてほくそ笑んでいた。

 

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