重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第36話 怒りの拳

ヘリオスが炸裂した事による凄まじい爆風で舞い上がった土埃が徐々に晴れてくる。

 

「ぐっ・・・う・・・」

 

空中を舞う土埃がまだ若干残ってはいるものの、着弾地点の中心では戦艦Aが片膝をついて呻きを上げているのが確認できた。

艤装はボロボロ。増加装甲のお蔭で辛うじて原型を留めている箇所が数点見られるものの、もう先程のような撃ち合いをするのは不可能だろう。

俺はマシンキャノンを構えた状態でゆっくりと歩み寄る。

 

「その状態では、もう満足には戦えないだろう。大人しく降参するんだ」

 

「ま、だだ・・・!貴様などに━━」

 

「いいや、もう終わりだ。かなり前にだが、救難信号を発信させてもらった。ここの汚職の証拠もしっかり押さえたし、そのコピーもある」

 

戦艦Aが、やってくれたな。とでも言いたそうな表情でこちらを睨んできた。

 

「仮にここで俺を殺れたとして、そのあとにやって来る艦隊を相手にお前は戦えるか?その状態で。無理だろう?」

 

マシンキャノンの照準を合わせた状態で、淡々と諭すように事実を突きつけていく。

 

「どん詰まりだ。諦めて降参しろ」

 

「ぐぅ・・・!クソッ!・・・分かった、降参するっ・・・!」

 

そう言って悔しそうな表情のまま両手を上げて降参の姿勢を行う戦艦Aを見て、俺はマシンキャノンの照準は相変わらず向けた状態だが、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

━━だが、マシンキャノンの照準先だけ(・・)を見ていた事が仇となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ・・・

 

突然、腹部に衝撃が走った。

 

「・・・?」

 

俺は何が起きたのか分からず、その衝撃があった腹へとゆっくり視線を這わす。

 

・・・ナ、イフ・・・?

 

胴を守る装甲の隙間を狙って刃渡り20cm近いナイフが深々と刺さっており、迷彩服はじんわりと湿り気を帯びていた。

次にそのナイフの刃先とは真逆の柄の先を見る。

 

「くっ、ふふふ・・・!」

 

企み事が上手くいったように口角を吊り上げて笑う戦艦Aがいた。

 

畜生。ドジ踏んだか・・・!

 

マシンキャノンの引き金を引こうとしたところで、彼女は俺の右腕を掴んで射線をズラし、腹部に刺しているナイフを思い切り捻る。

 

「ぐっ、あああ・・・!?」

 

グチャリと音を立てて傷口を抉られ、凄まじい激痛が走った。

痛みによって視界がチカチカと明滅する中、なんとか反撃しようと思って130mm連装両用砲を駆動させようとすると、今度は地面に叩きつけられる。

 

「ああ、降参はしてやろう。ただし、貴様を殺してから、なぁ!」

 

横腹に強い衝撃。

足蹴りを喰らった。

 

「貴様のような屑鉄風情がッ!」

 

バギンッ!と背中で金属の破砕音。

見えないが、どうやらEMLを思い切り踏まれたようだ。

 

「この私に歯向かいッ!」

 

今度は右腕を踏みつけらた。

彼女が足へ更に力を込めると、ミシミシと骨が軋み始める。

 

「愚弄しておいてッ!」

 

ミシミシという音がメキメキという音に変わり、鈍い痛みが脳に伝達される。

 

「タダで済むと━━」

 

戦艦Aが俺の右腕を踏みつけていた片足をゆっくりと持ち上げ・・・

 

「思うなぁぁぁッ!!」

 

直後、思い切り降ろされた彼女の足は、ボキッ!という音と共にザンクードの右腕の骨をへし折った。

 

「ッ~~~~~~!!?」

 

声にならない悲鳴を上げて悶絶するザンクードの顔を蹴り上げた戦艦Aは彼を引っ掴み、ズルズルと三管史(みくだし)の元へ引きずって行く。

 

 

「さて、そいつはしばらく起きないぞ。三管史(みくだし)、あとはお前とお前の私兵だけだ」

 

横で完全にのびてしまった戦艦Bを顎でクイッと指し示す木曾は、青い顔をして震える三管史(みくだし)の元へ歩み寄る。

 

「ま、待てよっ!は、話せば分かる!な?!そ、そうだ!お前ん所の鎮守府に資金と資材を大量に贈ってやるよ!」

 

後退りしながら必死に木曾を懐柔しようと試みる三管史(みくだし)だが、彼女は全く興味が無いと言う表情で彼を見下ろしていた。

 

 

「おい、こっちで爆発音が聞こえたぞ!」

 

「急げ急げ!」

 

 

建物の陰から別の誰かの声が聞こえる。

 

・・・こいつの私兵か。

 

「あ!いたぞ!三管史(みくだし)司令だ!」

 

「お、おい、その横のあれって・・・!?」

 

「嘘だろ・・・!?この基地の主力艦娘がやられてるじゃねえか!」

 

出て来たのは、彼女の予想通り三管史(みくだし)と同じく拘束対象の私兵達だった。

 

「い、良いところに来たな!お前ら、こいつを何とかしろ!」

 

それに気付いた三管史(みくだし)は必死の形相で私兵達に命令する。

 

「そ、そんな!?」

 

「相手は艤装着けた艦娘ですよ!?」

 

「無茶苦茶だ!」

 

そんな彼の命令に私兵達は当然の反応を示した。

 

「だ、誰の金で良い飯食ってやがる!いいから早くしろッ!」

 

口々に文句を飛ばす私兵に三管史(みくだし)は怒鳴り散らす。

 

その金はテメェの親父から流してもらったもんだろうが・・・。

 

と、内心で呆れる木曾が三管史(みくだし)を取り抑えようとしたその時。

 

「?」

 

彼女の耳が、微かに金属を地面に擦りながら引っ張るような音を拾った。

音源のする方角はザンクードと戦艦Aが走って行った向きだ。

 

「ま、さか・・・!?」

 

木曾は両目を目一杯に見開いたまま凍り付く。

視線が動かせない。

開きっ放しの口を閉じる事ができず、それどころかまともに声を発する事すらも叶わない。

 

あいつが・・・ザンクードが・・・!?

 

彼女の左目には、ボロ雑巾のようにされたザンクードと、彼が引きずって来られた跡に重なるようにして伸びる血痕だけが映っていた。

 

「ふんっ、面倒を掛けさせてくれるっ」

 

そう吐き捨てるように呟く戦艦Aはザンクードを無造作に地面に棄てる。

 

「お、おおぉ!そいつをやったのか?!大手柄だな!」

 

木曾の横を大急ぎで通り過ぎ、戦艦Aの元へ駆け寄る三管史(みくだし)

 

「手を焼かされたがな」

 

「やっぱりお前に優先的に装備を回しておいて正解だったぜ」

 

先程までの怯えっぷりはどこへ行ったのか?と言いたくなる程変わり身の早い三管史(みくだし)と、ザンクードをゴミを見る目で見下ろす戦艦Aに一瞬だけ意識を持っていかれる。

だが、彼女の足がザンクードの頭を踏みにじる光景を目にした刹那、木曾の頭の中で何かが音を立てて切れた。

 

・・・せ

 

「あん?」

 

木曾の小さな声を耳で捉えた三管史(みくだし)が振り返る。

 

「そいつから、その薄汚ねぇ足降ろせっつったんだよ・・・!!」

 

そう言うや否や、木曾は背中の単装砲を戦艦Aに対して旋回させた。

━━がしかし。

 

「おっと、動くなよ?」

 

戦艦Aは辛うじて1基だけ生き残っていた主砲を真下のザンクードに向けた。

 

「こいつを殺されたくなければ、貴様の艤装を解除してもらおうか。命令を守れば殺すのは考えてやる」

 

「何だと・・・!?」

 

彼女はザンクードの右腕に砲身を押しつけながら、木曾に艤装解除を迫る。

 

「早くしろ」

 

渋りを見せる木曾に戦艦Aが苛立ちを込めてザンクードの折れた右腕をグイィッと押すと、痛みに耐える呻き声が漏れた。

 

「・・・分かったッ・・・!」

 

大人しく相手の条件を飲んだ木曾は艤装を地面に降ろし、空かさず飛んで来た私兵達が無防備となった彼女を拘束する。

 

「司令、そう言えばこいつが言っていたが、色々と見られては困る物を証拠に私達を拘束するつもりだったようだ。既に増援もこちらに向かってるらしい」

 

「な、何だと!?チッ、余計な事してくれやがって!」

 

三管史(みくだし)が倒れ伏すザンクードを蹴りつけた。

 

「まあ、良いか。ここでこいつらを消せば、あとはどうとでもなるしよ。もう構わねえから殺っちまえ」

 

「喜んで」

 

「なっ!?テメェッ!!」

 

私兵に拘束されて身動きが取れない木曾に対して、ニヤァっと笑みを浮かべる戦艦Aは「私は考えてやるとしか言ってないぞ」と言ってザンクードのこめかみに砲口を押しつける。

 

「この状況で貴様らを生かしておくと思うか?」

 

爆風にまきこまれないよう、三管史(みくだし)が離れた事を確認した彼女は、次に必死にもがく木曾を見て更に笑みを深くする。

 

「貴様はあの時と何も変わりはしない!あの日、あの駆逐艦共と出撃した時とな!」

 

「━━ッ!!」

 

その言葉で、あの日、自分以外の全員が沈んだ惨劇が思い起こされた。

 

「分かったか?貴様は誰も守れはしない!自分の身さえな!今度は目の前でこいつが死ぬ様を見せてやる!」

 

「や・・・やめ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━さっきから好き勝手に言いやがって」

 

「ん?」

 

ガシッと、戦艦Aの砲身を誰かが凄まじい力で握る。声の発信源は、今まさにその砲身を突きつけられている人物からのものだった。

 

「俺が木曾と初めて会った日だ」

 

掴まれた砲身が金属の悲鳴を上げる。

 

「木曾はボロッボロの状態で戦艦棲姫と正面切って立っていた。傷だらけの仲間を庇いながら、だ」

 

砲身が掴まれた手の形状に沿って歪み始めた。

 

「その戦艦棲姫はお前みたいな性格のクソッタレだったなぁ」

 

砲身を握ったままの彼はゆっくりと片膝をつきながら立ち上がる。

 

「遅れて俺が割って入ったんだが、轟沈者はゼロだったぞ」

 

ベキンッ!と音を立てて砲身が折れ曲がった。

 

「ほ、砲身が・・・!?」

 

「しっかり仲間を守りきったんだよ・・・!」

 

砲身を掴んだ左手の力を一切緩めず、彼は━━

 

そのクソッタレからなぁぁ!!

 

「そんなっ、バカなぁぁぁ!?」

 

自身の原子炉から生み出された凄まじい馬力を以て、戦艦Aを左回転で振り回して空中へと放り投げた。

 

「EML撃てッ!!」

 

ズタズタのEMLから放たれた61cm砲弾は空中で自由落下を始める彼女の艤装を半分吹き飛ばす。

今の射撃でとうとう限界を迎えたEMLの巨大な砲身は、金属の軋む音を立てながらゆっくりと崩れ落ちるように首を下ろしていき、狙撃された戦艦Aが地面に叩き付けられたのと時を同じくして、完全に機能を停止した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

荒い息をつきながら落ちていたマシンキャノンを拾い上げたザンクードは、弾倉を通常の物から【対空弾】と表記された物へと交換しながら緩慢(かんまん)な動きで戦艦Aの元へ歩いて行き、頭を軽く抑えて振っている彼女の最後の主砲に片足を乗せて力を込め始める。

 

ググググ・・・ベキッ!!メギョッ!!

 

主砲の上面装甲がみるみるへこんでいき、やがて重みに耐えられなくなったそれはザンクードの足の形に踏み抜かれ、大きく空いた穴から爆炎が噴き上げた。

目の前で踏み潰され、スクラップとなった主砲。

それを唖然と見つめていた戦艦Aは破壊した張本人であるザンクードを怒りの籠った目で見上げた。

 

「屑鉄風情がぁ・・・!」

 

歯を剥き出しにする彼女に、ザンクードはなんとかして右手に握らせたマシンキャノンの砲口を突きつける。

 

「この私を見下ろすなぁぁぁ!!」

 

1発の砲声。

直後、カシュッカランッカラランッと音を立てて、排出された空薬莢が地面を跳ねる。

 

「・・・そいつは死なないように弾を弱いやつに換装しておいた。だが、お前らを土塊(つちくれ)混じりのミンチ肉にするには十分だぞ」

 

次に、木曾を拘束したまま硬直している私兵達の方へ振り向き、マシンキャノンをこれ見よがしに見せつけるザンクード。

 

「 今 直 ぐ 腹 這 い に な れ 」

 

戦闘時による興奮作用で瞳孔が開いた状態の双瞳から、ギラリとした視線を送った。

 

「は、はぃぃぃ」

 

「」

 

「あ、あぁぁ・・・」

 

彼の底冷えする声と一睨みを受けた私兵達は真っ青になりながら頷いたり、既に腹這いになっていたり、失禁したりと多様な反応を見せる。

 

「う、嘘だろ・・・!あいつの練度は並みじゃないんだぞ・・・!?」

 

私兵達が木曾の拘束を解いて腹這いなったのを見届けたザンクードは、続いて直ぐそこで携帯電話のように震えている三管史(みくだし)の胸倉を掴んで持ち上げた。

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「・・・覚悟はいいな?」

 

「や、止めろ!悪かった!俺が悪かったから、頼む!許してくれ!」

 

「・・・・・」

 

マシンキャノンを投棄。

 

「は、話が早くて助か━━」

 

「そう言うのはなぁ」

 

手ぶらになった右手を握り締める。

不思議な事に、今だけは鈍痛が治まっていた。

 

「へ?」

 

「お前が散々侮辱してきた奴らに・・・!」

 

左足を肩幅に広げ、少し前に出す。

 

「お、おい、待てよ・・・」

 

「クソ下らん理由で沈められた奴らに・・・!」

 

右腕を後ろに引く。

 

「心身両方、一生消えん傷をつけられた木曾に・・・!」

 

「や、止めろ!離せ!クソッ・・・!!」

 

暴れる三管史(みくだし)を掴んだ左腕に力を込めて、しっかりと固定する。

 

言うもんだろうがぁぁぁぁ!!

 

「ぶごぉぉっ!?」

 

ザンクードから放たれた右ストレートは三管史(みくだし)の顔に直撃。吹っ飛ばされた彼は地面を数回バウンドしたあと、ガックリと気を失った。

 

「へっ、ザマァ見やがれ。きれいに整ったお顔が台無しだぜ・・・」

 

「ザンクードッ!!」

 

前のめりに倒れ始める彼に、艤装を装着し直した木曾が駆け寄り、抱き留める。ズシッとした重量感が腕の中に収まった。

 

「木曾」

 

彼女の腕の中に収まっているザンクードが不意に口を開き、若干朦朧とはしているが、彼の意識がある事に安堵した木曾は「どうした?」と言って視線を自身の胸元に移す。

 

「前にも言ったがな。あの日、駆逐艦の娘達が沈んだと言う事実はどうやっても消せない。だが、お前が守り抜いた奴らがいるのもまた、1つの事実なんだ。お前は・・・無力なんかじゃないんだ・・・」

 

ここでとうとう意識の限界を迎えた彼は、ゆっくりと脱力していった。

 

「あぁ・・・ありがとう・・・」

 

腕の中で静かに眠るザンクードに向けられた言葉は、埠頭から聞こえた警笛によって掻き消された。

 

 

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