重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第2話 救援と邂逅

敵の艦隊を全て沈めたザンクード達は、再び進路を日本列島へと戻して航行を再開していた━━のだが・・・。

 

「一発芸いっきまーす!ライザ○プ!」

 

回転する3次元レーダーの上によじ登り、戦闘服の腹を捲って「ブゥーチッブゥーチッ♪ブゥーチッブゥーチッ♪」と歌い始める妖精と、それを見て爆笑する妖精達。

 

 

「準備運動は万全だな?兄弟!」

 

「なぜ俺を兄弟と呼ぶ?お前は何者だ!」

 

「俺は貴様だ!貴様の影だ!」

 

「何?」

 

「詳しい事は貴様が殺した親父に訊け。・・・あの世でな!!」

 

態々このメタルでギアなソリッドのあのシーンを真似する為だけにコスプレして、攻撃ヘリコプターまで発艦させた妖精達。

 

何の変化も無い道中、もはや甲板上はパーティーと化していた。

 

「「「ウェーーイ!!」」」

 

「・・・・・」

 

多少はっちゃけるのは良いけど、遊びで攻撃ヘリを飛ばすのはやり過ぎだろ・・・。

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「「「飽きたー」」」

 

「俺に言われても困る。それなら、なんか適当に歌でも歌ってろよ」

 

そう言って適当にあしらうと、妖精達は「はーい」と言って艤装の中に入っていく。

 

~~~♪♪

 

しばらくすると、艦内や艦外のスピーカーから聞き慣れた音楽が聞こえてきた。

 

「って!これウチの軍歌じゃねえかっ!!」

 

進水した日に初めて聞いたのがこの歌だったが、実はこの歌、歌詞の内容が物騒極まり無いってレベルであり、初めは軍艦である俺もドン引きした程だ。

この軍歌を生んだ俺の国だが、特に暴虐行為を働いていた訳でも無く、過去に色々あってそんな歌詞が出来たらしい。

 

「そうですよ?」

 

「それがどうかしましたか?」

 

妖精達が、え?何言ってんのこいつ。みたいな顔をしてこちらを見上げてくる。

その横では既に大声で歌い始めている妖精も数人おり、その中にはギャリソンの姿もあった。

 

ブルータス━━じゃなかった。ギャリソンよ、お前もか。て言うかお前ら選曲のセンス壊滅的だな・・・。

 

「ハァ、まあ良いか。俺も久しぶりに歌ってみようかな・・・。ん゛ん゛!~~~♪♪」

 

久しぶりにこの軍歌を口ずさみたくなり、俺も妖精達に混じって歌い始める。

内容は少しアレだが、不思議と力をくれるこの歌は嫌いではなかった。

 

「「「~~~♪♪」」」

 

いつの間にか艦内の妖精達も加わり、ザンクードの周りは軍歌の大合唱に包まれていた。

(はた)から見ればただのヤバい集団だが、周りには誰もいないので本人達はそんな事お構い無しに歌い続ける。

しばらく歌っていると、3次元レーダーが何かの反応を捉えた。

 

「ん?ギャリソン、またレーダーに反応が出たぞ。警戒態勢!総員、配置につけ!」

 

レーダーには2つのグループが映っていた。

1つは6隻からなるグループ、もう1つは━━

 

「おいおい・・・!ざっと見ても10隻以上はいるぞ・・・!」

 

大艦隊だった。

その上、レーダー上の配置からして戦闘中である事が窺え、加えて一際大きな反応も映っている。

 

「あまり穏やかな雰囲気じゃないな・・・。ギャリソン、今からヘリオス誘導用のドローンを飛ばす。あれなら小さいから偵察には向いているだろう。そのドローンからの情報を分析させてくれ」

 

「分かりました」

 

「よし、マーカードローン射出!」

 

ヘリオスVLSの直ぐ近くにあるハッチからドローンを2機発艦させた。

因みにこのドローンは使い捨てであり、帰艦能力は求められていない為、1機あたり性能の良い軽自動車1台くらいの値段と比較的低コストである。

 

そろそろドローンが目標上空に到達する時間だな。

 

「映像出ました。さっきの黒い入れ歯共です!あれは・・・なっ!?女の子6人が襲われてますッ!!ひでぇ、いたぶってやがる・・・ッ!!」

 

解析員から恐ろしい言葉が告げられた。

どうやら先程のバケモノ共に女の子達が襲われているらしい。

 

こんな海の真ん中で?いや、そんな事今はどうでも良い!

 

「他に何か分かった事は?!」

 

「はい!この一際大きな反応ですが、巨大な海坊主のようなバケモノです!戦艦主砲を搭載し、その直ぐ横に人影を確認。恐らく海坊主とグルです!それと、女の子達は全員が艦艇のような装備を身に纏っています!」

 

バケモノの件に関してはもう驚きはしないが、女の子達が艦艇のパーツを身に着けているという事には驚きを禁じ得なかった。

 

解析員の目がバカになった訳では無いだろう。とすると、俺と同じく人の姿をした艦艇か、もしくはこの世界の兵装だという事で間違いは無い。そして、俺達がすべき事は━━

 

「彼女達を助けるぞ!戦闘用意!あのデカブツから沈める!EML用意!弾種徹甲弾!退避警報鳴らせ!」

 

「了解!戦闘用意!各員自信を持って職務を果たせ!EML用意!弾種徹甲弾!警報鳴らせ!」

 

ギャリソンの言葉と共に空襲警報を2つ重ねたような大音量の警報が鳴り始め、背部に搭載された巨大レールガン━━61cm対艦対空両用磁気火薬複合加速方式半自動砲。通称EMLが、その砲口をゆっくりと目標に向ける。

 

「目標誤差修正。仰角-0.5゜、方位右0.3゜」

 

「この姿での初射撃だ。きっちり当てろよ・・・。EML撃てっ!!」

 

「ファイアァ!!」

 

ドズンッッ!!!

 

大気を震わす轟音と共に強烈なソニックブームを起こしながら、マッハ7の速度で61cm砲弾が射出された。

 

 

「アラ、モウ逃ゲナイノカシラ?ツマラナイワネ」

 

「ハンッ!どの道逃がす気は無いんだろ?殺さない程度に(なぶ)るような真似しておいてよく言うぜ」

 

海坊主のような艤装を侍らせ、薄ら笑いを浮かべながら佇む異形の敵━━『戦艦棲姫』を相手に、セーラー服と帽子、右目に眼帯を着けた格好の女性がボロボロになりながらも、後ろの少女達を庇うように立ち塞がって対峙していた。

しかし、その周りを他の深海棲艦達が巨大な円を作るようにして取り囲んでおり、状況は絶望的だ。

 

「フーン、マア良イワ。ソロソロ追イカケッコモ飽キテキタシ」

 

言うや否や、戦艦棲姫の後ろに立っていた人型の艤装が主砲を向ける。

 

「タクサン(ナブ)ッテアゲルカラ、可愛イ悲鳴ヲ聞カセテ頂戴?」

 

「「「木曾さんっ!!」」」

 

「くっ・・・!!」

 

「フフ、マズ1匹・・・」

 

ニヤァっと目の前で戦艦棲姫が嗤い、その巨大な艤装が━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュンッ、メキョッ!ゴ シ ャ ァ ァ ッ ・ ・ ・ ! !

 

頭部を盛大に吹き飛ばされ、ピクピクと痙攣(けいれん)したあと、ザパァン!と水飛沫を上げながら海面に倒れ込んだ。

 

「ハ?」

 

「「「え?」」」

 

その場にいた全員が間抜けな声を漏らす。

それ程に一瞬で、そして、理解できない事が起きたのだ。

 

 

「命中!海坊主を仕留めました!」

 

「よぉし、よくやった!もう1発同じ砲弾を撃ち込んで本体にとどめを刺せ!それと、ヘリオスを彼女達の周りに(たか)る連中に撃ち込む!速達便をくれてやれ!」

 

「了解!砲身の冷却と次弾装填完了!第2射、ファイアァ!!」

 

「ヘリオスの全VLS開放!マーカードローン誘導開始!ヘリオス1番から8番ランチ!」

 

EMLがまたも徹甲弾を発射し、今度はそれにヘリオスミサイルも加わり飛翔して行く。

 

 

「イ、イッタイ何ガ起コッテ━━ッ!!艦娘共ォ・・・!貴様ラノ差シ金カァァッ!!」

 

逆上した戦艦棲姫が木曾に襲い掛かろうとしたが、先程破壊された艤装と同じように吹き飛ばされ、完全に息の根を止められた。

 

「戦艦棲姫様ガヤラレタッ!?」

 

「クソッ!ドコカニ仲間ノ艦娘ガイル筈ダッ!」

 

目の前でボスがたった2発で沈められた事に混乱した深海棲艦達が慌てながら周囲を警戒する中、木曾達は近付いてくる何かの音に気付く。

 

「この音は・・・?」

 

ゴオオオオオ・・・

 

「ドコダッ!?沈メテヤルッ!」

 

「艦載機ヲ発艦サセテ探知範囲ヲ拡ゲロ!」

 

オオオオオオ・・・!

 

次の瞬間、6人を避けるように海面ギリギリ上空に轟音と凄まじい爆風が発生し、8つの太陽が深海棲艦達を瞬く間に沈めてしまった。

 

「救援・・・なのか?」

 

「木曾さん!大丈夫ですか?!」

 

「あ、ああ、オレは大丈夫だ。それより、お前達の方こそ無事か?」

 

「ええ、木曾さんが守ってくれたお蔭で沈んだ娘は誰もいないわ。それにしても、あれだけいた深海棲艦の大艦隊が全滅してる。いったい何があったの・・・?」

 

「オレにも分からん。・・・だが、それをやった本人は直ぐそこまで向かって来ているようだ。電探の反応からして・・・小型の駆逐艦か、それ以下(・・・・・・・ ・・・・)のサイズだと?」

 

「駆逐艦があんな火力を・・・?!」

 

「そ、それに、こっちに向かってるって・・・」

 

「殺す気なら既にやられてる筈だ。そいつがさっきの戦艦棲姫みたいに悪趣味な奴じゃなけりゃな

 

そう誰にも聞こえない声でボソッと呟きながら、木曾は先の攻撃を行った艦がいるであろう方角を静かに見つめた。

 

 

「敵艦隊、全て撃沈!防衛目標は健在!」

 

「っしゃあ!おらぁ!」

 

「入れ歯共!あとで化けて出てくるなよぉ!」

 

「エルメリア海軍ばんざーい!!」

 

艤装内から妖精達の歓声が聞こえてくる。

レーダーに映っていた敵影は全て消え去り、そこには6つの反応だけがきれいに残っていた。

兵器の性能によるところも大きいだろうが、それでも彼らは本当に良い腕をしているとつくづく実感する。

 

「よし、このまま警戒態勢を維持しつつ、彼女逹の元に急行するぞ」

 

「「「アイアイサー!!」」」

 

テンション爆上がりの妖精達から威勢の良い声が返ってきた。

 

「ザンクードさん、かなり遠方にですが影が見えました」

 

見張りの妖精から一報が入り、レーダーを確認すると、丁度発見位置と重なっていた。

 

「ああ、恐らくあの影だな。無線で予め連絡しておこう。コンタクトを取る前に無線で連絡をしておいた方が警戒心も多少和らぐだろうからな」

 

と言いながらも、内心では砲弾が飛んで来ないかビクビクしているザンクードは、無線機のスイッチを入れる。

 

「あーあー、テステス。こちらはエルメリア連邦共和国海軍所属、ザンクード。前方の艦隊へ、応答願う」

 

《━━こちらは日本国国防海軍、第八鎮守府所属の木曾だ。支援感謝する》

 

おお・・・!お互い言葉も解るようだし、砲弾も飛んで来ない!これなら話は通じそうだ!

 

「あいつらには俺も1度襲われたからな。気にしないでくれ」

 

《そうか。なあ、悪いがお前の艦種を教えてくれないか?電探には駆逐艦の反応が出てるんだが・・・》

 

「ああ、その事か。俺の艦種は重原子力ミサイル巡洋艦だ。俺はもともとステルス性も視野に入れて設計されたからな。レーダーに上手く映らないのはそれが理由だ」

 

《成程、合点がいった。それともう1つ、エルメリア連邦共和国ってのはどこの国だ?聞いた事が無いぞ?》

 

「あー、それなんだがな・・・、話すと色々と長くなるんだ。とにかく、今確実に言える事は俺に攻撃の意思は無いという事だけだ。俺の詳細もあとで答えるから、スマンがそちらの所属する基地に連れて行ってもらえないか?俺は陸に向かっているんだが、そのあとはどうしようも無くてな。羽を休められる所が欲しいんだ」

 

《・・・少し待ってくれ。お前の事を基地に連絡して指示を請う》

 

そう言い残して木曾との通信が1度途絶えた。(少し間があったのが心配でならないが・・・)

 

「ザンクードさん、彼女達は我々を信じてくれるでしょうか・・・?」

 

ギャリソンが心配そうに訊いてくる。

 

「さあな。今の俺達には吉報が返ってくるのを願う事しかできない」

 

彼にもどうなるかは分からない。今も、もしも(・・・)の先の事を想像してしまい、心臓がバクバク鳴っていた。

 

《━━悪い、待たせた》

 

「ッ!!あ、ああ、さほど待ってはいないから大丈夫だ。それで、どうだった?」

 

突然無線から木曾の声が響き、思わずビクリと軽く飛び跳ねてしまうザンクード。

 

《提督が“その恩人をぜひウチに招待したい”とよ》

 

無線越しから、木曾の苦笑いと共に舞い上がる程嬉しい言葉が返ってきた。

 

「そうか・・・!それは良かった。直ぐにそちらに合流する。少しだけ待っててくれ」

 

《分かった、ここで待機する》

 

「了解した」

 

そう言って無線を切り、合流地点へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

「お前がザンクードだな?オレが軽巡洋艦の木曾だ。改めて、さっきは本当に助かった」

 

緑がかったミドルロングの黒髪にセーラー服と斜めに被った帽子、右目の眼帯が特徴的な少女━━木曾が、改めて自己紹介をしてくる。

だいぶひしゃげてはいるが、ざっと見たところ口径14cmの旧式艦砲と魚雷(どちらもミニチュアサイズ)を携えており、確かに軽巡洋艦のようだ。

 

「私は駆逐艦の村雨よ。よろしくね!」

 

「・・・駆逐艦、満潮よ」

 

「響だよ。よろしく」

 

「電です。その・・・よ、よろしくお願いします・・・」

 

「駆逐艦の不知火です。先程はありがとうございました」

 

どうやら、軽巡の木曾を旗艦に駆逐艦を編成した部隊のようだ。

 

「「・・・・・」」

 

村雨や響、不知火は特になんとも無い。というか、興味深そうにこちらを見ているが、満潮は俺を警戒してるみたいだし、電は一目見て分かる程に怖がっていた。

理由は分かる。得体の知れない奴があんな派手な攻撃をして大艦隊をまるごと沈めた上に、やった本人である俺は巨大な戦闘艦だったのだから。

 

ハァ、俺ってそこまで威圧的な見た目をしてるのか?っと、挨拶をされたらこちらも返答するのが礼儀だよな。

 

「改めて、俺はエルメリア連邦共和国海軍、ザンクード級重原子力ミサイル巡洋艦のザンクードだ。よろしくな」

 

と言いながら、俺はビシリと海軍式の敬礼をする。

 

「ああ、よろしくな。よし、第八鎮守府へ帰投するぞ」

 

木曾の号令に駆逐艦達が各々返事をし、俺も機関出力を上げて第八鎮守府へと進路を取った。

 

 

 





EMLはエースコンバットに登場する巨大レールガン『ストーンヘンジ』を想像して頂くと分かり易いと思います。

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