重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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眠気眼で何の気なしに久しく小説情報を見たら、1発で目が覚めました(笑)


第37話 病室にて・・・

第十一鎮守府にてザンクードが三管史(みくだし)の顔を殴り飛ばした日から2日後。第五鎮守府 病室

 

 

突然だが、皆さんは女性からの『はい、あーん』とやらを体験した事はあるだろうか?

勿論、家族内での話を除外して、だ。

俺が人の体を持つ前。艦体だった頃に数人のクルー達がひょんな事から『はい、あーん』についての語り合いを始め、最後にはその全員が両手両膝をついて血涙を流すといった出来事があった。

当時は自分には関係無い話だと思って、血涙を流すクルー達に心の中で合掌を送っていたのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほら、早く口開けろ・・・」

 

まさか、自分がその場面に直面するとは思いもしなかった。

 

 

話は数十分程前に遡る。

 

 

「ハァ、利き腕が使えないだけで、こうも不便かな・・・」

 

朝食として出された食事を摂る為、左手で先割れスプーンを掴んで食べていたザンクードは思わず溜め息を零した。

彼が消毒液の臭いが漂う病室で目を覚ましたのは、昨日の事である。

三管史(みくだし)を殴り飛ばした彼はそのあと気を失ってしまい、救難信号によって駆けつけた艦隊によって救護されたのだ。

 

バケツ(高速修復剤)のお蔭で外傷は消えたものの、左足の骨にはヒビ、右腕は完全に骨折かぁ・・・。

畜生、散々やってくれやがって。

 

ザンクードは心の中でそう愚痴りながら、煮豆料理に手をつける。

現在彼の右腕は接骨の為に包帯と石膏(せっこう)によって固められており、しばらくの間は一切使えない状態となっていた。

バケツの使用によって刺傷や裂傷などは消えたのだが、これはあくまでも外傷に作用する物なので、病気や骨折には対応できないそうだ。(それでも、かなり早いペースで治癒するらしいが・・・)

 

「クソッ、反抗的な大豆め・・・!」

 

せっかく掬った煮豆がコロリと滑り落ちた事に苛立ちを覚える彼がそんな事を呟いたその時、病室のドアがコンコンとノックされたあと、誰かが入室してきた。

 

「?」

 

食事を掬う手を止めたザンクードは先割れスプーンを皿の上に置いて、入室者の方へと顔を向ける。

 

「よぉ、ザンクード。調子はどうだ?」

 

「おはようございます、ザンクードさん」

 

入ってきたのは木曾と古鷹の2人だった。

 

「ああ、おはよう2人共。調子はすこぶる良いぞ。利き腕をカッチカチに固められたせいで飯が食い辛い事を除けばな」

 

そう言って苦笑いを浮かべながら、食事が盛られている一枚皿に流し目を送るザンクード。

その仕草に釣られるようにして木曾と古鷹がテーブルの上に視線を這わすと、確かに食事に手をつけた形跡はあるものの、大して減っている様子は無かった。

 

「ご飯も冷めかかってますね。やっぱり利き腕が使えないから・・・」

 

「・・・お前の右腕、結構ひでぇ折れ方してるんだろ?」

 

心配そうな表情を浮かべる2人。

 

「まあ、思い切り踏み潰されたからなぁ。目が覚めて早々に自分の右腕を見た時は戸惑ったもんだよ。こんな経験した事が無かったからな」

 

包帯と石膏によって2倍近くに膨れ上がっている自身の右腕を見つめるザンクードが「自分が骨折するなんて、艦体だった頃は考えた事すらなかったよ」と言って苦笑いを浮かべていると、また病室のドアがノックされる。

 

「失礼するよ」

 

「失礼致します」

 

今度は年配の男性と、長髪を頭の後ろで1つに結った女性が入室してきた。

 

「「「っ!!」」」

 

入室者の顔を見るや否や、丸椅子から勢い良く立ち上がって敬礼する木曾と古鷹。そして、同じく敬礼をしようとしたは良いものの、ちょっとしたハンマーのようになった右腕で額を打ったザンクード。

ザンクードにとって女性の方は見覚えの無い顔だが、男性の方は見知った顔であった。

 

「ああ、楽にしてくれ」

 

日本国国防海軍の元帥だ。

彼の答礼と共に告げられた言葉に、敬礼を解除するザンクードと木曾と古鷹。

 

「ザンクード君、そんな腕の状態で無理に敬礼せんでも良いよ」

 

髭はきれいに剃り落とされ、若干小皺が浮かんでいる顔を苦笑の色に染める元帥は、ザンクードと木曾の前へ歩み寄る。

 

「まずは先の件、本当にありがとう。君達のお蔭で第十一鎮守府の司令官━━三管史 照信(みくだし てるのぶ)及び彼に加担する者達の拘束に成功した」

 

そう言って微笑む元帥は「ただ・・・」と続けた。

 

三管史(みくだし)の鼻の骨が完全に折れていたのだが・・・?」

 

彼はザンクードに、もしかして?と言いたげな視線を送る。

 

「はい、彼の顔を右手で殴りました」

 

「そうか・・・。まあ、鼻の骨は時間が経てばいずれは治る。奴はそれ以上の事をしてきたのだからな。捕まった際に本人は全力で容疑を否定していたらしいが、君達が掴んでくれた証拠やあそこの艦娘達の証言もある。幾ら言い逃れをしようとも無駄に体力を使うだけで終わるだろう。三管史(みくだし)が捕まった今、奴の父親が逮捕されるのも時間の問題だ。

そして第十一鎮守府だが、あそこは修復したあとに信頼できる者を着任させる。残った艦娘達に関しては1度司令部で引き取る事になった。あとは任せてくれ」

 

その言葉にザンクードと木曾は頬を緩め、安堵の表情を浮かべた。

 

「おっと、そう言えば紹介が遅れたね」

 

元帥は、自身のやや後ろで控えていた女性に視線を移す。

すると、彼女はゆっくりと前に出て来て、微笑みながら口を開いた。

 

「初めまして。大和型超弩級戦艦1番艦、大和です」

 

「大和・・・」

 

ザンクードは目の前の彼女を見上げながら、言われた名前を反復する。

今の彼の頭の中には彼女と同じ名を持つ国家━━大和皇国の情景が浮かんでいた。

 

今、あの国はどうなっているんだろうか・・・。

俺の故郷は、俺の艦長は、クルー達は今どうしているんだろうか・・・。

 

少しだけ、しんみりとした気分になってくる。

 

・・・さん

 

そもそも、俺のクルーも同僚(他の艦艇)達のクルーも、ちゃんと故郷に帰り着けたんだろうか?

 

「・・・さん」

 

最後まで見届ける事ができなかったから━━

 

「ザンクードさん!」

 

「へ?うわっ!?」

 

何者かの声に意識を無理矢理戻されたザンクードの双眸には、心配そうな表情で自身の顔を覗き込む大和が映り込んだ。

 

「大丈夫ですか?・・・まさか、後遺症か何かが・・・」

 

「ああ、いやいや、すみません。少し考え事に耽ってしまったもので」

 

冗談抜きでザンクードの心配を始める大和に、彼は慌てて弁明する。

 

「そうですか・・・。それなら良かったです」

 

「お気遣い、どうも・・・」

 

ホッと胸を撫で下ろして柔和な笑みを浮かべる大和に、思わず魅入ってしまうザンクード。

 

「さてと、そろそろ行かんとな。ザンクード君、あの爆撃機の妖精達がいるのは格納庫かね?」

 

「はい、彼らならそこにいるかと思います」

 

「そうか、分かった。改めて、この度は本当にありがとう。そして、これからもよろしく頼むよ」

 

「お任せ下さい」

 

そう言って力強く頷くザンクードに同じく頷き返す元帥だが、彼はチラリと木曾と古鷹を一瞥したあと、ニヤッと笑ってから踵を返す。

 

「いやぁ、失礼したね。行こうか、大和」

 

「はい♪」

 

大和もニコニコと笑いながら元帥のあとを付き従って行った。

 

ガラガラガラ・・・パタン

 

横スライド式のドアが閉まり、室内はザンクード、木曾、古鷹の3人だけになる。

しばらくドアを見つめていたザンクードだが、自身の横合いから何やら視線を送ってくる2人の方へ顔を動かすや否や、顔を引きつらせた。

 

「「・・・・・」」

 

木曾と古鷹が、ジトーッとした目つきでザンクードを見つめていたのだ。

 

「お、おいおい、2人共どうしたんだよ」

 

「・・・大和さん」

 

ザンクードの問いに、ムスッとした表情の古鷹が口を開く。

 

「?」

 

「きれいな方でしたね」

 

「・・・へ?」

 

彼女の言葉の真義を理解できなかったザンクードは間抜けな声を上げた。

 

「お前は・・・」

 

「木曾?」

 

「お前は、ああ言った感じのが好みなのか?」

 

普段とは違い、妙にしおらしい態度の木曾。

彼女と古鷹の発言に何か繋がりあるのでは?と考えたザンクードは、2人の言葉を頭の中でリピートさせる。

 

“大和さん、きれいな方でしたね”と“お前はああ言った感じのが好みなのか?”か・・・。え?もしかして俺、そう言う意味(・・・・・・)だと思われてる?!

 

「いやいや、確かに一瞬見惚れてしまったが、別に彼女をそう言う目(・・・・・)で見ていた訳じゃ━━」

 

彼女達の誤解を解く為にザンクードが慌てて否定の言葉を述べていると、彼の胃袋が「早く飯を寄越せ」と抗議するように、グゥ~と大きな音を立ててそれを遮った。

 

「おっと・・・」

 

2人の目の前で突然腹の虫が鳴った事に、ザンクードは気恥ずかしさを覚える。

 

「・・・悪いな。俺の胃袋は『待て』ができないみたいだ」

 

「いや、タイミングが悪かったしな。オレ達の事は構わねぇから食っちまえよ」

 

尋問室のようであった空気はすっかり消え去り、木曾は笑いながら彼に食事を優先するよう勧める。

 

「そうか?なら、そうさせてもらうよ」

 

そう言って、ザンクードが先割れスプーンを左手で掴もうとしたその時。

 

「ま、待って下さい!」

 

突然古鷹が身を乗り出す程の勢いでザンクードの行動を制止した。

 

「ふ、古鷹?」

 

「どうしたんだ?」

 

ザンクードと木曾は、頬を若干朱色に染めている古鷹を驚いた様子で見つめる。

すると、古鷹は木曾の耳元に口を寄せ、何やら吹き込み始めた。

 

「なっ!?~~~!」

 

途端に顔を、カーッと羞恥の色に染め上げながらプルプルと震えだす木曾。

 

「ど、どうした?」

 

「な、何でも無い!おい、古鷹!本気で言ってんのか?!

 

だって今のザンクードさん、片腕で凄く食べ辛そうですし・・・

 

木曾と古鷹は、ザンクードに聞こえないように声量を絞って会話する。

 

そう、だよな・・・。片腕じゃあ食器も固定できねぇだろうし・・・・・・よ、よし!

 

何かを決心した顔つきの木曾は古鷹と共にザンクードに向き直るや否や、彼の前に置かれていた皿と先割れスプーンを引っ掴んだ。

 

「あ。おい、それ俺の飯━━」

 

「く、食い辛いだろうから、オレと古鷹が手伝ってやるよっ」

 

料理を先割れスプーンで掬い、ザンクードの口元へ近付ける木曾と、その横でソワソワしながら待機している古鷹。

 

「・・・はい?」

 

半開きのザンクードの口から、半オクターブ高めの声が漏れた。

 

「ほ、ほら、早く口開けろ・・・」

 

 

そして今に至る。

 

 

「いやいや、別に飯ぐらい1人でも食えるから、そんな事までしてくれなくても良いぞ。て言うか、そんなの俺が恥ずかしくてしょうがない・・・

 

「でもザンクードさん、左手だけじゃご飯が食べ辛そうです。まだそんなに残ってるのに・・・」

 

と、眉を八の字にする古鷹。

 

「大丈夫大丈夫。別に飯は逃げたりしないんだから━━」

 

「ザンクード」

 

彼の言葉は木曾によって遮られる。

 

「前に言ってくれたよな?“キツい時はみんなや俺を頼ってくれ”って。その言葉をそっくりそのまま返してやる。怪我人なんだから、こう言う時ぐらい甘えろよ」

 

そう言ってスプーンを差し出す彼女は、不敵な笑みでも、快活な笑みでもなく、目を細めて優しげな笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・・分かった、降参だよ」

 

ザンクードは自身の胸の鼓動が早くなるのを感じながら、観念したように両手を上に挙げる仕草をする。

 

「ふふっ。ほれ、口開けろ」

 

食事を乗せたスプーンが口に入って来る。

 

 

冷えてしまっていたからか、はたまた別の理由なのか。正直、料理の味は分からなかった。

 

 

工廠

 

 

「あぁあ、こいつはひでぇ状態だな・・・」

 

現在修理の真っ最中であるザンクード艤装の後部甲板では、彼の艤装妖精達が大破した61cm対艦対空両用磁気火薬複合加速方式半自動砲。通称EMLを見上げていた。

 

「見ろよ。こっからちょこっとだけ見えるけど、スーパーキャパシタがバーベキューみたいになってやがる」

 

「あれだけ痛め付けられた状態で無理矢理発砲したからなぁ」

 

油圧装置が破壊され、冷却装置が吹き飛び、スーパーキャパシタが黒焦げになった今のEMLは、大きいだけのオブジェと言われても仕方無い状態である。

 

「ま、俺は文句ねぇぞ?何たって、あのクソッタレの艤装を吹っ飛ばしてやったんだからな!はっはっはっ!」

 

と言って豪快に笑っているのは、このEMLの射手を務める妖精━━バレットだ。

 

「俺だって文句は1つも無いさ。だが、こいつの修理にゃ少し時間が掛かりそうだぜ」

 

「直るんなら良いだろ?それに・・・」

 

バレットは自身の後ろを流し目で見る。

そこには、目をキラキラさせた工廠妖精達とピンク髪の工作艦が、自分達の出番を今か今かと待っていた。

 

「明石さん達に頼んだら、直ぐに終わる話だぜ?」

 

「それもそうだ」

 

 

「はい、ザンクードさん。あーん」

 

「あ、あーー、んぐ」

 

恥ずかしさを必死に圧し殺しながら、ザンクードは差し出されたスプーンを咥える。

対する古鷹も頬を朱色に染めているものの、どこか楽しそうな表情で次を掬っていた。

因みに木曾と古鷹で半分ずつの分担である。

 

「次行きますね?あーん」

 

「あ、あーー━━」

 

ザンクードがエサを待つ雛鳥のように口を開けた次の瞬間。

 

「ザンクードさん!EMLの件で少しお話が・・・あれ?」

 

妖精用の出入口から、艤装妖精のバレットが病室に入って来た。

 

「「「」」」

 

「え、えぇっと・・・」

 

絶句する3人と、困惑する1人。

 

「お、お邪魔しました!どうぞごゆっくり!」

 

何かを察したバレットは、ビシリと海軍式の敬礼をしたあと、そそくさと退室しようとする。

 

「ちょっ!バレット!?」

 

「急ぎの用件ではありませんので、また後程(のちほど)お訪ねします!」

 

「おい、待てバレット!ストップ!ウェイト!」

 

「グッドラック!」

 

そう言って親指を立てた彼は、静かに、そして迅速にドアを閉じて出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッドラックって何の事だよぉぉぉぉ!!?」

 

まだ昼前の病室に、巨大水上戦闘艦の叫び声が轟いた。

 

 




━━おまけ━━


元ザンクードクルーA「ハッ!?」

B「どうした?そんな顔して・・・」

C「見たかった番組の録画ミスでもしたか?」

A「・・・いや、違う」

B&C「?」

A「今どこかで、俺の仲間もしくは知り合いがめっちゃ可愛い娘から『はい、あーん』をされている気配を感じた・・・!」

B「な、何ぃ!?」

C「マジかよ!」



A&B&C「ちっくしょぉぉぉ!誰かは分からねぇが羨ましいなぁ、おい!」ダンッ! ●| ̄|_ 

海兵(何やってんだ、あいつら・・・)



因みに余談ですが、ザンクードのクルーは多数の重軽傷者を出したものの、全員生きて故郷の土を踏んでいます。


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