重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する! 作:Su-57 アクーラ機
ザンクード達が第五鎮守府に帰り着いてから約2週間が経った。
帰還当初は右腕の骨を踏み折られ、左足の骨にはヒビが入っていたザンクードも、今は順調に完治の方向へ向かっている。
これも艦娘━━いや、艦息である恩恵であろうか。あと少しで復帰できる事だろう。
▽
工廠 ザンクード艤装内ブリーフィングルーム
長机が全て部屋の片隅に退けられた状態のブリーフィングルームには、十数人のザンクード艤装妖精が集まっていた。
室内灯は消されており、部屋を照らしているのは正面のスクリーンからの光だけである。
では、そんな薄暗い室内で妖精達は何をしているのかと言うと・・・
《お前は最後に殺すと約束したな》
《そ、そうだ大佐っ!た、助け━━》
《 あ れ は 嘘 だ 》
《ウワァァァァァァァ・・・》
映画観賞である。
「ワーオ、あんな所から落とされた一溜りもねぇな」
「だよな~。紐無しバンジーなんざ俺はごめんだぜ」
もう1度言おう。映画鑑賞である。
このブリーフィングルームは室内が広く、プロジェクターやスピーカーもあるので、使用されない時は非番のクルー達がそれを使って映画やアニメ、ドラマなどを見たり、その他自由な事をしたりする
そして、ここを利用する者には暗黙のルールが存在する。
1.ギャリソンとコヴィックには絶対に漏らすな。
2.風紀にうるさい者は誘うな。
3.もし、この部屋が会議などで使われると分かった時は他の非番の者達と協力して、速やかに証拠を隠滅せよ。
4.映画の時は騒がない。
と、この4つである。
「いやぁ、この映画は何度見ても良いもんだぜ」
そう呟くのは、最前席に座ってかぶり付きで映画を鑑賞しているレッカーだ。
「ああ、全くだ。この主人公の揺るがない無敵感は見てて惚れ惚れするぜ」
と、アイリッシュ。
「俺は、あの迫真の顔芸も好きだなぁ」
「それにセリフもな。この映画は笑えるセリフが多い」
パック、ダンと続く。
彼らトゥームストーン隊もこの部屋をこっそり使用している者達の一員であり、暇潰しの為にここを訪れていたのだ。
《怖いか、クソッタレ。当然だぜ。元グリーンベレーの俺に━━》
プツンッ━━
「「「ッ!?」」」
突如スクリーンに照らされていた映像とスピーカーから流れていた音声が途切れた。
「おぉい、誰だよ・・・。コードに足でも引っ掛けたのかぁ?」
「良いところだってのに・・・」
そう文句を飛ばす妖精達は、電源の切れたプロジェクターの元に集まる。
「ハァ、これじゃあ暗くてコードを直せん。誰か、明かりをつけてくれ」
1人がそう言って、仲間に室内灯の電源を入れるように頼んだ瞬間、部屋中が白い光に照らされた。
誰かが室内灯の電源を入れたのだ。
「ああ、助かる。これでコードを直せるよ」
「━━それは良かった。どう致しまして、と言っておこうか?」
「ん?この声・・・」
1人が室内灯の電源スイッチの元へ首を動かしたのを皮切りに、他のクルー達もそちらに視線を移す。
「「「」」」
そして、そこに立っていた人物達を見て、全員が顔を真っ青にして凍り付いた。
なぜなら、この部屋の秘密を漏らしてはいけない者━━ギャリソンとコヴィック。それと、彼と同じ一派と思われる妖精達が立っていたのだから。
「ぎ、ギャリソン、なぜここに・・・?」
「トゥームストーン隊を探していたんだ。そしたら、規則違反の
ニコニコとした笑みを絶やさないギャリソンを見て、一様に引きつった笑みを浮かべるクルーの妖精達。
「そ、それでは、自分はこれで失礼致しま~す」
不運にもギャリソンの直ぐ目の前にいた妖精が、その場の雰囲気に耐えきれず、一刻も早く部屋を出ようと思って彼の隣を横切る。
━━がしかし
「どこへ行くんだぁ?」
ギャリソンがどこかで聞いたようなセリフをドスの効いた声で発しながら、その妖精の肩をガシッと掴んだ。
「い、今から、航空艤装の整備にぃ!」
クルーの肩を掴むギャリソンは、その力を一切緩めずに視線を案内板に移す。
そのクルーの行き先には『居住区画→』と表示されていた。
「・・・ヘリの整備を居住区画でかぁ?」
「ひ、ひぃ!?」
「おい、こいつを頼む」
「イエッサー」
ギャリソンは一緒にいたコヴィックに、逃げようとしていた妖精を引き渡す。
「さてと」
未だ青い顔をしながらガタガタと震えているクルー達に向き直った彼は、目が全く笑っていない笑みのまま口を開いた。
「諸君、何か言い残す事があれば聞いてやろう」
「に」
「に?」
「逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「う、うわぁぁぁぁ!!」」」
レッカーのその言葉で、その場にいた妖精達は一斉にギャリソン達のいない方角の扉へと走り出す。
「1人たりとも逃がすなっ!追えぇぇ!!」
「鬼ごっこか?面白い・・・」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
ギャリソンの声に動きだしたコヴィックとギャリソン派の妖精達も逃亡者達を捕獲する為、一斉に駆け出した。
「まず1人目ぇ!」
「うわぁ!?」
追っ手のギャリソン派の妖精に捕まった妖精が、上にのし掛かられて身動きを封じられた。
「ブラザー!」
「お、俺に構うな!早く逃げろ!・・・幸運を祈る!」
捕獲された妖精は仲間に敬礼を送りながら、ギャリソン派の妖精達に引きずって行かれる。
「~~~!クソゥッ!」
仲間を1人失った妖精は涙を流しながら艦内廊下を駆けて行った。
「ヤベェぞレッカー!このままじゃいずれ全滅しちまう!」
自身の前を走っていたレッカーに追い付いた彼は後ろをチラリと確認しながら、「どうする!?」と問い掛ける。
「どうするも何も、銃を使う訳にも・・・いや、待てよ?」
廊下を走りながら何かを思い出しそうな素振り見せるレッカー。
「そうだ!あれがあるじゃないか!」
「何か思い付いたのか?!」
「ああ!取り敢えず第一武器庫に行くぞ!」
「オーケーだ!みんな聞こえたな?!第一武器庫だ!」
「「「了解!」」」
なんとか追っ手を撒いたレッカー達は艦内武器庫に到着し、扉を開けて中に保管してある武器の中から『訓練用』と記載された武器のみを次々に取り出していった。
「よし!全員武器は持ったな?!」
レッカーが辺りを見渡しながら口を開く。
「「「おう!」」」
威勢良く返事をする彼らの手の中ではピストル、アサルトカービン、ショットガンが黒光りしており、果てはロケットランチャーまで担いでいる者もいた。
「俺達のすべき事は何だ?!」
「「「ギャリソン派の兵士を倒し、自由を勝ち取る事!」」」
「そうだ!これより、作戦を開始する!」
「「「サーイエッサー!!!」」」
▽
一方、ギャリソン達は姿を眩ました逃亡者達を探すべく、艤装内を隅々まで探索していた。
「まったく、どこに行った?あいつらめ、捕まえたら当分の間は間宮さんの飯をお預けにしてやる・・・!」
ギャリソンは、彼らが聞けば発狂するような事を口にしながら、数ある部屋を確認する。
「にしても、あいつらの顔マジだったよな」
「そりゃあギャリソンとコヴィックに追い詰められたらあんな顔もするだろうさ」
「あのトゥームストーンでさえ『逃げる』を選択した程だもんな・・・」
などと、ギャリソン派の妖精達が駄弁りながら捜索を続けていると、突然目の前の扉が開き、アルミ缶サイズのナニカが投げ込まれた。
ポンッ、プシュゥゥゥ
「
足元に転がるスモークグレネードにコヴィックが眉を寄せた次の瞬間━━
タタタタタタタッ!
扉の奥から複数の銃声が連続で鳴り響いた。
「なっ!?や、やられた!」
「訓練用の銃だ!奴ら武装してる!」
行方を眩ませていたレッカー達逃亡者組が今度は武装して攻撃してきたのだ。
「遮蔽物に身を隠せ!格好の的だぞ!」
大急ぎで近くの物陰に隠れるギャリソン達。
「反撃だ!撃ちまくれぇ!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
開け放たれた鉄製の扉の向こうからは、逃亡者組が訓練用の銃をこれでもかと撃ってくる。
「クソッ、これじゃあ分が悪い。ギャリソン、ここは1度撤退し、我々も武装するべきです!」
訓練用のゴム弾が頭上を掠める中、コヴィックは自身の隣で身を屈めているギャリソンに、自分達も武器を取ってくるべきだと、そう進言した。
「そうだな。第二武器庫に行くぞ!ここからなら近い筈だ!」
ギャリソン達は反撃に必要な武器を調達する為、頭を低くした状態で第二武器庫へ走って行く。
「つ、着いた・・・!」
「畜生、あいつらバカスカと撃ちまくりやがって・・・!」
艦内廊下を必死に走る彼らは、やっとの事で第二武器庫に到着した。
「よし、鍵を開けるぞ」
扉に掛けられていた鍵を外して武器庫を開放すると、中に保管されていた大量の武器が姿を現す。
「しっかり目当ての物は保管されているな。これで連中とまともにやり合える」
「奴らには少し灸を据えてやらんといかんようだな」
銃の安全装置を解除しながらニヤリと口角を吊り上げるコヴィックと、ピストルのスライドレバーをカチャンッと引くギャリソン。
「行くぞ!!」
「「「イエッサー!!」」」
訓練用の銃で武装した彼らは、レッカー達の背後に回り込むようにして別のルートを歩いて行った。