重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第42話 

信濃達と共に移動を開始してからしばらく。

迎えとしてやって来た他の艦娘達と合流した俺達は、道中何事も無く第五鎮守府へ帰り着いた。

 

「さ、着いたぞ。ここが第五鎮守府だ。君達には1度ウチの司令に会ってもらいたい」

 

夕日に染まる美しい白塗りの建物を一瞥したあと、俺は信濃達へ振り返りながらそう告げる。

 

「取り敢えず工廠で艤装を外して、それから執務室へ行こう」

 

向こうの世界には無かった基地だからだろうか、物珍しそうに辺りに視線を送る彼らに、俺は「こっちだ。ついて来てくれ」と言って工廠へ誘導する。

 

「外からも見えてたけど、広いな・・・」

 

工廠の入り口をくぐり、開口一番にそう呟く信濃。

 

「俺も初めて見た時は驚いたもんさ。さて、君達の艤装を置けそうな場所は・・・っと」

 

工廠内が広いとは言え、無造作に艤装を置く訳にもいかないので、俺は周囲を見渡し、自分と同等の艤装を置けそうな箇所を探す。

 

「ザンクードさん、あそこはどうでしょうか?十分なスペースだと思いますが」

 

迎えとして来てくれた艦娘の内の1人である不知火が、艤装保管スペースの1番置くに空いた箇所を指差した。

俺の位置からでは他の艦娘の艤装や機材などの陰に隠れ気味で気付けなかったが、信濃達の艤装を纏めて保管するには十分だ。

 

「おっ、ホントだ。気付かなかったな。サンキュー不知火」

 

「いえ」

 

静かに、そして短く返す不知火。素っ気ない返事だが、単に彼女が口下手なだけである。

話が逸れるが、何をしでかしたのか顔を青くしながら猛ダッシュする青葉と、それを「徹底的に追い詰めてやるわ」と言ってドス黒いオーラを放ちながら追い掛ける不知火をつい最近見掛けたばかりだ。

因みに、青葉は程無くして不知火に捕縛され、ズルズルと演習場へ引きずって行かれていた。

 

・・・思い出したら寒気が・・・。っと、ここで油を売ってる暇は無いな。

 

以前の出来事を思い出して軽く身震いをする俺は、頭を軽く降って思考を引き戻した。

 

「さてと。それじゃ、6人とも艤装を解除してくれ」

 

艤装を解除するように告げる俺に「分かった。少し待ってくれ」と返す信濃は、自身の僚艦達にテキパキと指示を送る。

 

「あっ、ザンクードさん、帰って来てたんですね」

 

俺も艤装を降ろすとするか、と思いながら動き始めたところで、不意に横合いから声を掛けらた。

 

「ああ、ついさっき帰って来たばかりだ。今から彼らを提督の所に連れて行こうと思ってな」

 

部屋の中から出て来た人物━━明石に首だけを巡らせながら答える。

 

「話は聞いていましたが、あれが例の・・・?」

 

「ああ、別世界の艦隊だ」

 

「おぉ・・・!!」

 

途端に両目を輝かせ始める明石から艤装の保管場所へ歩いて行く信濃達へと視線を戻した俺は、次に彼女から発せられるであろう言葉を先読みして迎撃態勢(・・・・)に入った。

 

「ちょっと内部を━━」

 

「言っておくが、勝手にいじるなよ?」

 

ジロリと明石を睨みながら、彼女が言葉を言い終える前に釘を刺す。

 

「・・・分かりました」

 

渋々と言った表情を浮かべる明石。

 

「やけに(いさぎよ)いじゃないか」

 

俺と初めて会った日とは正反対に大人しく引き下がった彼女に懐疑の視線を送る。

 

「そりゃあ私だって自制する時はしますよ・・・」

 

「そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━明石、ちょっと手ぇ見せてみろ」

 

「!!?」

 

そんな俺の言葉に、ビクッ!と肩を跳ねさせた明石は、ダラダラと冷や汗を流し始めた。

 

「どうした?何か見せられない理由(・・・・・・・・)でもあるのか?」

 

いかにも態とらしい声音で質問を投げ掛ける。

 

「い、いいい、いえっ!そんなっ、まっさかぁ~!あ、アハハハ・・・」

 

分り易く動揺している明石は、恐る恐る左手を差し出した。

 

「ふむ、特に何かある訳でも無さそうだな」

 

「ホッ」

 

安堵して胸を撫で下ろす彼女だが、左手だけで終わりなどと誰が言っただろうか?

 

「はい次、右手」

 

「ゑ?」

 

明石の顔から色が抜け落ちてゆく。

 

「右手も出してくれ。ああ、勿論左手は出したままだぞ?」

 

「お、仰っている意味が解らないです・・・」

 

「何も難しい事は無い。右手を、出してくれ。OK?」

 

態と(とぼ)けて抵抗する明石に“右手を出してくれ”の部分だけを強調して再度告げる。

 

「・・・拒否権は?」

 

「あると思うか?」

 

有無を言わさぬ俺の言葉に明石は観念したように「はぃ・・・」と言って、背中で隠していた右手を差し出した。

 

「プラスとマイナス両方のドライバーにレンチ、スパナ、etc・・・。それと甘味?」

 

その手には握れるだけ握られた数種類の工具と、なぜか甘味が。工具に関しては言わずもがな、なぜ甘味?と疑問に思ったが、ふと自身が装備する艤装の甲板上にいた妖精が口から滝のように涎を垂らしているのが目に入った。

 

「・・・・・」

 

自身の艤装妖精、向こうで艤装を降ろしている真っ最中の信濃達、そして明石の持つ甘味の順番で視線を巡らせた俺は、1つの結論に辿り着く。

 

「まさか賄賂(わいろ)のつもりか?」

 

「ギクッ!?」

 

図星である。

これは、信濃達の艤装妖精達に「これあげるから艤装見~せて触らせて♪」と言うつもりで予め明石が自腹で買って来た物なのだ。

つまるところ、ザンクードにダメ押しされようが、されまいが、実行する気満々だったのである。

 

そんなもんに引っ掛かる程チョロくないと思うんだが。こんなの俺の艤装妖精達でも食い付かないぞ・・・。

 

「はぁーい没収ー」

 

ヒョイッヒョイッと次々に明石の手中から奪われてゆく工具と甘味。

 

「あー!何で甘味まで没収なんですか!?それ自腹で買ったんですよ!?」

 

「嘘ついた罰だ。なぁにが、“私だって自制する時はしますよ”だ。こんな賄賂まで用意しやがって。しばらく反省するんだな」

 

「鬼!悪魔!重原子力ミサイル鬼畜艦(きちくかん)!」

 

ほぅ、言ってくれるじゃないか・・・。

 

「・・・艦内全域に通達する」

 

ヘッドセットのマイクを摘まんで口元に引き寄せ、艤装内に通ずる内線のスイッチを入れる。

 

「喜べ、明石がお前ら全員に甘味を奢ってくれるそうだ」

 

「・・・はい?」

 

先程まで騒ぎ立てていた明石の目が点になった。

 

「「「明石さん、ゴチになりまーす!!」」」

 

「え・・・?ちょっ、ちょちょちょ!?そんな事一言も言ってませんよ!?ザンクードさん、今の訂正して下さい!ザンクードさぁぁぁん!」

 

「さあ、執務室はこっちだ。行こう」

 

自身の艤装を解除し終えた俺は背中越しに浴びる明石の悲痛な叫びを無視して、信濃達を執務室へ連れて行こうとする。

 

「なあ、あれ放っておいて大丈夫なのか?」

 

両手両膝を床についてシクシクと泣く明石と、どこかの先住民よろしく彼女を取り囲んで「甘味♪甘味♪」と歌うクルーの妖精達を見て、愛宕が口を開いた。

 

「少し灸を据えてやるだけさ。まったく、油断も隙もありゃしない」

 

「・・・でも、絶望した表情を浮かべてるぞ?」

 

「あとでちゃんと没収品は返すよ」

 

そう愛宕に返答し、最後に「財布の中身の方は知らんがな」と付け加える。

 

「うぅ・・・こんなのあんまりです。ザンクードさん、あなたの血は何色なんですか!?」

 

「数ヶ月前に自分のを嫌って程に見たばかりだが、ちゃんと赤い色をしてたぞ」

 

明石の言葉に自虐を混ぜた軽口を返した俺は壁に掛けてある時計を確認して「おっと・・・」と呟いたあと、信濃達を連れて足早に工廠を出た。

 

 

 

「「「甘味♪甘味♪甘味♪」」」

 

「くぅ・・・ま、まあ、ザンクードさんの艤装妖精だけなら━━」

 

「おい、どうせならツポレフ達も呼ぼうぜ!」

 

「そいつは良い!いっそ、ここの妖精達全員誘おうぜ!!」

 

「明石さん、良いですか?!」

 

妖精達がまぶしい笑顔で、そう問うてくる。

そんな表情の彼ら彼女らに『ノー』と言って断る事など明石には到底できなかった。

 

「・・・・・・ど、どうぞ・・・」

 

「「「Fooooo!!!」」」

 

「あぁ・・・(財布の中身が)終わった・・・」

 

ガックリと項垂(うなだ)れる明石。

彼女が抱いた小さな好奇心への代償は、あまりに大き過ぎたのであった。

 

 

 

 

 

 

執務室の前までやって来た俺は、コンコンコンッ、と木製のドアをノックし、「提督、客人を連れて来たぞ」と室内にいる人物へ告げる。

 

「おっ、来たな?入ってくれ」

 

室内から、こちらに入室を促す声が返ってきたあと、暗色の木製ドアがゆっくり開かれた。

 

「ザンクードさん、お疲れ様なのです」

 

ドアの直ぐ側には、提督の秘書艦である電が立っていた。どうやら彼女が開けてくれたようだ。

 

「ああ、ありがとう。電も秘書艦業務お疲れさん」

 

そう言いながら俺は室内に踏み入り、更にその後ろから信濃達がついてくる。

 

「哨戒任務終了。あの海域は静かなもんだったよ。それと、彼らが件の大東亜帝国の艦隊だ」

 

「そうか。哨戒任務と客人の引率、ご苦労さん」

 

簡易報告を済ませる俺に労いの言葉を掛ける提督は、次に執務机の前で横一列に並んでいる信濃達に向き直った。

 

「そして、ようこそ第五鎮守府へ。ここの司令官を務める、山本 隆成だ」

 

「大東亜帝国海軍、鳳翔型航空母艦、信濃です。本日は当鎮守府への寄港の許可を頂き、誠にありがとうございます」

 

「ああ、ザンクードから報告は受けているよ。君が艦隊旗艦の信濃か。会えて光栄だ」

 

「こちらこそお会いできて光栄です」

 

微笑みながら右手を差し出す提督に、信濃も笑みを浮かべながら差し出された手を握り返す。

 

「さて、挨拶はここらで1度切って・・・早速で悪いが、君達の事を教えてくれないか?一応上に報告する必要があるんだ。だが、君達を悪いようにするつもりは無いから、そこは安心してくれ」

 

部屋の隅で小さなテーブルを挟んで向かい合わせるように設置してあるソファを指差しながら話を持ち出す提督。

 

「分かりました。お話し致します」

 

信濃からの了解を得た俺達は談話用のソファの元へ向かい、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「━━以上です」

 

説明を終えた信濃が口を閉じる。しかし提督や電、ザンクードは大して驚く素振りを見せなかった。

予めザンクードから軽く報告を受けていたと言う点があげられるが、何より・・・

 

「ふむ・・・ザンクードやツポレフ達と同じと言う訳か・・・」

 

前例があるからだろう。

 

「失礼ですが、『同じ』と言うのは・・・」

 

口元に手を宛てがう提督に敷島が、もしかして・・・?と言いたげな表情で俺の顔に視線を巡らす。

 

「ああ、俺とさっきの爆撃機はこの世界の生まれ(・・・・・・・・)じゃない」

 

「と言う事はつまり、アンタは・・・」

 

察しがついた大隅が静かに口を開いた。

 

「俺の元の所属はエルメリア連邦共和国海軍。あの爆撃機はデスペラード連邦空軍。どっちも聞いた事無いだろ?俺も大東亜帝国海軍・自衛隊なんて聞いた事が無い」

 

そこまで言ってから、俺は「つまり、そう言う事(・・・・・)だ」と最後に締め括る。

因みに大東亜帝国の海軍戦力は、主に攻撃を担う『海軍』と、防衛を担う『自衛隊』に分けて運用されているそうだ。

この中では信濃、愛宕、敷島、大隅が海軍に。おおすみ、みらいが自衛隊に振り分けられているらしい。

 

「まあ、こうして会えたのも何かの縁だろう」

 

そう言って、提督がソファから立ち上がった。

 

「行く宛が無く、現時点で帰る方法も分からないのなら、今はここに泊まれば良いさ」

 

「ありがとうございます。艦隊を代表して、お礼を申し上げます」

 

信濃達はソファからスッと起立し、踵を合わせ、一糸乱れぬ敬礼をする。

 

「・・・なんかむず痒いな。やっぱり堅苦しいのは止そう」

 

そんな提督の発言に一瞬呆けた表情を浮かべる大東亜帝国海軍の一同を見て、俺は込み上げる笑いを圧し殺しながら口を開いた。

 

「ウチの提督は基本的にこんな感じなんだ」

 

「そうなのかい?」

 

「ああ、俺の時も同じ風だったよ。なあ?」

 

自信の横に立つ提督に話を振るザンクード。

 

「まあな。確かにある程度の上下関係は大切かもしれんが、あんまり堅すぎるのは得意じゃないんだ」

 

肩を竦めながら答える提督は、一区切りつけてから「と言う訳で」と続ける。

 

「改めて、よろしくな」

 

「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

と言って信濃は、先程の緊張を孕んだ表情から一転、自然な笑みを浮かべる。

 

 

こうして、異世界から来た大東亜帝国海軍の艦隊一同は、この第五鎮守府に身を置く事となった。

 

 

 


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