重原子力ミサイル巡洋艦 ザンクード、抜錨する!   作:Su-57 アクーラ機

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第3話 ザンクード着任

敵の大艦隊を全て沈め、木曾達の誘導に従って第八鎮守府へ向かい始めて数時間。

敵と遭遇する事も無く無事に鎮守府正面までやって来れた。

周囲にちらほらと小島が見え始め、正面には規模は小さいが港と思われる施設と白塗りの建物が建っているのが見える。

木曾が言うには、日本列島の辺境にある鎮守府らしい。

 

別に小さいからと馬鹿にしている訳じゃないが、こんな辺境の小さな鎮守府だなんて、まるでそこの司令官は左遷されたみたいだな・・・。

 

などと考えていると、いつの間にか基地の港に到着しており、そのまま港に隣接する広い工廠(こうしょう)へ連れて行かれた。

 

「おし、鎮守府に帰ってこれたな。それじゃあザンクード、わりぃが艤装は解除してくれ」

 

そう言って、俺に艤装を外すように促してくる木曾。

しかし━━

 

「えっと・・・。スマン、木曾。どうやって解除すれば良いんだ?」

 

ギャリソンに訊けば良いだろ。と思ってたのだが、彼曰く、「解除方法までは解りかねます」だそうだ。

 

「そ、そこからか・・・」

 

木曾から艤装解除のレクチャーを受けて、ようやく解除に成功したあと、彼女は「入渠(にゅうきょ)施設でバケツを使ってくるから、先に行って待っててくれ」と言い残して去って行き、俺は満潮に待合室へと案内された。

 

「直ぐに木曾さんが戻ってくるから、ここで少し待っていなさい」

 

そう言って、満潮は部屋を出て行く。

 

・・・それにしても、入渠は理解できるんだが、バケツ?バケツってあのバケツだよな?何かのコードネームなのか?

 

そう考えながら、しばらく室内でうんうん唸っていると、部屋のドアがノックされてから木曾が入ってきた。先程のボロボロな格好とは違い、まるで何事も無かったかのように小さな傷が全て治っている。

 

もしかして、これがバケツとやらの力なのか?!す、スゲェ・・・!!

 

「待たせたな。さ、行くぞ。提督のいる場所に案内する」

 

「ああ、頼む」

 

部屋を出て木曾の後ろをついて歩いて行くと、1つの木製ドアの前で止まった。ドアの横には漢字で『執務室』と表記された札が掛けてある。

コンコンと木曾がドアをノックしてから、「提督、木曾だ。来客を連れて来たぜ」と中にいる人物に声を掛けた。

 

「お?来たか。入ってくれ」

 

中から随分と若々しい声が返ってくる。

ドアを開けて入って行く木曾に続いて俺も入室すると、目の前には白い軍服を着た若い男性と木曾を除いた先程の5人が立っていた。

 

「失礼いたします。ザンクード級重原子力ミサイル巡洋艦のネームシップ、ザンクードです。本日は当鎮守府への寄港許可を頂き、ありがとうございます」

 

そう言って、踵をカツンッと鳴らして敬礼する。

 

「自己紹介ありがとう。日本国国防海軍、第八鎮守府の提督を務める山本 隆成(やまもと りゅうせい)だ。大佐の階級を拝命させてもらっている。ザンクード、会えて光栄だ。それと、ウチの艦娘達を救ってくれてありがとう」

 

そう言って答礼を返したあと、手を差し出して握手を求めてきた。

本人や木曾達の反応を見るに、どうやらこの基地の司令は人柄の良い人物のようだ。

俺はその手を握り返す。

 

「いえ、私はあの場でできる最大限の事をしたまでです。こちらこそ、お会い出来て光栄です。大佐殿」

 

「さて、早速ですまないが、君の事を教えてくれないか?この地球上にエルメリア連邦共和国と言う国家は存在しない。その上、男の艦娘なんてのも、これまでに確認された事例は無いんだ」

 

一通り挨拶が済んだところで、山本提督が話を切り出してきた。

 

成程、確かに山本提督と俺を除いて男が1人もいないな。さて、どこから説明したものか・・・。

 

「分かりました。まず私が生まれたのは━━」

 

これまでの経緯、俺の生まれた故郷、何をしてどう沈んだのか。そして、あのバケモノ共を瞬時に葬った兵器については要所を掻い摘まんで説明した。

 

「━━以上です」

 

「つまり、君のいた世界で起きた戦争で同盟国を助ける為に派遣され、その戦いで沈んだと・・・。そして目が覚めたら・・・」

 

「はい、どういう訳かこの世界に流れ着いており、陸地を目指している最中、あの黒い連中に彼女らが襲われているのを発見したので、介入させて頂きました」

 

「まさか、別世界が存在する上に戦艦棲姫をたった2発で沈め、周りにいた大艦隊まで沈めるなんて・・・にわかには信じられないような話ばかりだな・・・」

 

「ああ、確かに理解できないような話だ。だが、オレ達はこの目で奴の艤装の頭が1発で吹き飛ばされたのを見たぜ。あんなもん、この世界の代物じゃねえよ」

 

「そのあとに深海棲艦の艦隊を1隻残らず沈めた、あの兵器もね」

 

木曾と響が全て本当にあった事だと言わんばかりに、当時の事を提督に告げる。

響が言うあの兵器とは、ヘリオスの事で間違い無いだろう。あれは本来、接近する航空機群に対する広範囲防空兵器として考案されたのだが、その高い威力に目を付けた上層部によって艦艇や地上目標にも大打撃を与えられるように改良された空間制圧兵器だ。

 

「そうか・・・。じゃあ最後に1つだけ。現在、人類は君が倒したあの黒い怪物━━『深海棲艦』によって制海権を奪われ、奴らと戦争をしている真っ最中だ。勝手だが、我々にその力を貸してはくれないだろうか?」

 

「無理を承知で頼む」と、真剣な表情でこちらの目を見てそう言ってくる彼を、俺は静かに見据えてから口を開いた。

 

「先程申したように、私にはもう帰る国も港もありません。この基地に置いて頂けるのでしたら、微力ながらお力添えさせて頂きましょう」

 

「っ!!勿論だ!ようこそ、ザンクード。第八鎮守府は君を歓迎する!」

 

「はっ!重原子力ミサイル巡洋艦ザンクード、現時刻をもって第八鎮守府に着任いたします!」

 

艦長、安らかには眠るのはもう少しあとになりそうだよ。

 

こうして、俺はこの第八鎮守府の一員として共に戦う事となった。

 

「ああ、それとザンクード。別に無理に敬語を使わなくて良いぞ?こっちもその方が接しやすい」

 

緊張の糸がほぐれたのか、一気に態度が軟化した提督が俺に態度をもっと崩しても良いと告げてきた。

 

「・・・分かった。改めてよろしくな、提督」

 

「おう、よろしく」

 

随分とフランクな上官がいたもんだ。前世でもここでも、着任場所と上官に恵まれた俺は幸せ者だな。

 

 


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