ウルトラマントレギア 作:憲彦
「ここも壊れてるな……」
長期任務明けの休暇。トレギアは部屋にこもってブレスレットを修理していた。長期間メンテナンスをせずに酷使をしていた為か、やたらと破損が多い。
「トレギア~!いるか?」
「タロウ。僕は長期任務明けで更に4日間徹夜しているんだ。大声を上げないでくれるか?」
「おっと。それは悪かった……ん?4日間徹夜!?なんで!?」
「ブレスレットが壊れた。長期間メンテできてなかったからな」
「そう言えば、お前半年くらい帰ってくるの遅れてたからな。なんで?」
「戦争中の星を見つけてな。星間戦争ではなかったんだが、状況があまりにも酷かったから僕が介入した」
「それ、規則的に大丈夫なのか?」
「特に問題はない。規約に『命令がない場合の戦争へ介入してはならない』なんて文は無かったからな」
「命令がない場合の長期任務は禁止されていた筈だが?」
「たった半年だぞ。僕たちウルトラ族にとって、半年なんて大した事ないだろ?うたた寝程度だ」
普段ならここで作業の手を止めて、タロウに茶の一杯でもだのだが、今回は一切手を止めずにブレスレットの修理を続けている。
「そんなに壊れてるのか?」
「あぁ。怪獣リングを作ったからかな~?」
「え?作ったのか!?効果は!?」
「分身。らしい」
「らしい?」
「まだ使ってないからな。ギガデロスとか言うロボット怪獣のでな。ソイツは光線を受けるとそのエネルギーを利用して増えるんだよ。だから、リングの力も分身だと思う」
「あぁ。そう言うことね。なぁ、使ってみてくれよ」
「まだブレスが壊れてるのにどうやって使えって言うんだよ?」
少し不機嫌そうに返すと、メンテナンスの手を止めて座りながら背伸びをする。軽く眠気を覚まし、再び作業を開始した。
「他のリングは作らなかったのか?」
「特に作ってないな。余裕が無かったから考えもしなかった」
簡単にタロウの質問に答えると、ようやくメンテナンスが終わったのか、道具をしまってブレスを腕につけ直した。
「お?寝るのか?」
「いや。出かける」
「どこに!?いやそれよりも寝ろよ!」
「パーツが足りないから仕方ないだろ。コーヒー飲めば眠気も取れるから、買ってくる」
「直ってなかったのかよ!?あんだけメンテナンスしてたのに!?」
「パーツの欠損なんだよ。仕方ないだろ…!」
すぐさまコーヒーをカップに入れ、一気に口の中に流し込む。トレギアは普段ミルクや砂糖を結構な量入れて飲むのだが、今回は何も入れずに飲んだ。苦かったのか、一瞬顔を歪めると、そのままタロウを置いて足りない素材を買いに行った。
「アイツ、倒れないか?」
心配そうに言うタロウだったが、答える人は誰もいない。静かになった部屋に響くだけだった。
そしてその頃トレギアは、機械に使われる部品などを売っている店を回って買い物をしていた。ブレス自体は今のところ正常に稼働するが、これが完成してからトレギアの戦闘はブレスに比重を置いた物へとなっている。万が一にでも戦闘中に不具合が出れば、苦戦を強いられるのはまず間違いない。故に完璧にしなければならないのだ。
「あぁ……眠い……」
眠気を我慢しながら買い物をしているトレギアの姿は、まるで生きた屍と言われるゾンビの様だ。いつ倒れてもおかしくない。だがそんな状態にも関わらず、3時間程材料を買い漁り、部屋に戻って再び作業へ入ろうとした。
「バカなのか!?もう流石に寝ろよ!ストリウム(威力最小限)光線!」
「え?グワァ!?」
タロウのストリウム光線がトレギアに直撃。威力は小さいため、脅かす程度の物なのだが、生ける屍とも言える状況。直撃すれば倒れるし、気絶もする。
『タロウ?下からなんか爆発音したけど、何?』
「ゾフィー兄さん?大丈夫です。問題ありません。それよりも早く書類片付けておいてくださいね。かなりの量たまってたんですから」
『現状確認しただけだよね!?私!』
ゾフィーからの通信を適当に終わらせると、トレギアを担いで医務室に運んでいく。診断の結果は寝不足と過労に極度のストレス状態と出た。担当者はタロウから一連の事情を聞き、無理もないと判断。少しの間入院させることにした。
「うっ……どこだここ?」
「医務室ですよ。過労で倒れたので入院してもらいました」
「そうですか。てっきりタロウにストリウム光線撃たれて倒れたんだと思ったんですけど」
「え?あ、そう?うん。まぁそこは気にしないで。あれから1週間たってるけど、ゾフィー隊長にはこっちから連絡しておいたので、お気になさらず」
「そうか。助かりました。ではこれで」
「ちょっと待ちなさい。こちらを」
「薬?」
「重度の過労に栄養失調、長期間のストレス状態による自律神経失調症。薬を処方しない訳にはいきません」
どっさりと薬を渡された。約1ヶ月分と言うところだろうか?種類も多いため余計に多く見える。無くなったら再び診察に来て、薬の再処方を検討すると言われた。どうにかしなくてはと思った瞬間である。
「おぉトレギア~!退院したのか?」
「あぁ。寝たお陰で頭もスッキリした」
「そうかそうか~。それは良かっ―」
「ところで、最後の僕の記憶が君にストリウム光線を撃たれた事なんだが、何か心当たりはないか?この星、と言うよりも宇宙全体を探しても君しかいないはずなんだが?」
「ハッハッハッハ~!なんの事だ?さぁ~てと!任務任~務!」
突然肩を掴まれ、最後の記憶にあったことをタロウに伝えた。一応別の誰かと言う逃げ道を塞いだ上で問い詰めたのだが、任務と言ってはぐらかされてしまった。
「……」
『タロウレット!コネクトオン!』
「ストリウム光線」
「ダアァァァァア!!!ごめん!!あれは本当にごめん!あの時はそうするしか無かったんだよ!お前が意地でも寝ようとしなかったから!!」
「だからってストリウム光線撃つヤツがあるか!?」
「物凄いブーメランだぞ!今のお前見てみろ!鏡見てみろ!!」
無言でタロウレットを読み込み、エネルギー関係なくストリウム光線をバンバン撃っている。現在地は警備隊本部の中で、他の警備隊員もいるのだが的確にタロウにのみ光線を撃ち被害は最小限にしている。
「ん?ちょっと!なにしてんの!?」
「ゾ、ゾフィー兄さん助けて!」
「いや無理!だって後ろ!」
再びタロウレットを読み込み、ウルトラダイナマイトを放つ準備に入っていった。それを見て周りの警備隊員は即刻避難。一部「なに逃げてんだ?」みたいな状態のもいたが、当然爆発に巻き込まれた。
「で?先に手を出したのは?」
「俺です……寝なかったのでストリウム光線で気絶させました」
「通りで1週間も入院してたわけだ……」
爆発が収まったあと、頭が燃えたゾフィーに2人とも説教されていた。まぁ当然、施設内で爆発を起こした罰として、施設の修復活動が義務付けられた。当然任務はしばらくの間別の警備隊員に回される事となった。
「はぁ~…ようやく任務終わった。と言うか何だよあの毒の怪獣……リングは出来上がったけど、どう考えても僕一人で相手にする怪獣じゃないような……」
確実に2、3人で対応するべき強さだったと思っている。ゾフィーへの報告書と文句はウルトラサインで簡易的にまとめて終わらせた。
任務は立て続けに入っており、愚痴っていた毒怪獣の他にも宇宙怪獣の撃退だったり、ロボット怪獣の破壊だったり雷神と呼ばれている者の相手だったりと、恐ろしく辛い任務が連続して入っていた。とは言え、今はブレスと怪獣リング、そしてタロウレットがある。長い間使い続けブレスの使い方はかなり上手くなった。
タロウレットと怪獣リングの使うタイミングや技の撃ち所、剣の展開タイミング、剣術もメキメキと上達し、戦闘が得意とされるレッド族やシルバー族にも劣らない程になった。
「そう言えば、惑星エラルドはこの辺だったな。ネーベルは今ごろどうしてるかな~」
そう言えばと言ったのは、あの事件から既に40年経っているからだ。人間にとってはかなりの時間だが、ウルトラ族からしたら大したことのない時間。人間の感覚に直せば3年程度だ。
「久々に行ってみるか」
進路を変更し、トレギアは光の国ではなく惑星エラルド方面へと飛んでいった。最悪な光景を見る事になると知らずに。
「なんだ。これ……」
以前は青い綺麗な星だった。戦争が起きていた時は一部が赤く焼けていたが、それでも大部分は青かった。しかし、トレギアの目の前には星全体が赤く焼けている変わり果てた姿のエラルドがあった。
「ネーベル……ネーベル!!!!」
トレギアは急いでエラルドに降りた。
「ネーベル!ネーベル!!どこなんだ!?この星で何があったんだ!?ネーベルゥゥゥウ!!!」
戦争の時よりも星の状況は酷かった。文字通り星が焼け落ちている。建物は破壊され、辺りには人間の死体が転がっていた。爆撃を受けたかの様に、体の一部が欠損している死体も多数ある。
「トレ…ギ、ア……」
「ッ!?ネーベル?ネーベル!!」
「トレギア…!トレギア!!私は、私は、とんだ愚か者だ……!!あの時は、私が、情けをかけたばっかりに!この星が、こんなことに!」
「そんなことは良い!すぐに救助を呼ぶ!頑張れ!必ず助ける!必ずだ!!」
光の国方面に腕を伸ばし、救助要請のウルトラサインを飛ばす。それは間も無く光の国へと到着し、トレギアの助けを求める声が届いた。
「これ今回の報告書です」
「あぁご苦労。そう言えば、トレギア見たか?報告書がウルトラサインで届けられたんだが、まだこっちに顔だしてなくて」
「いえ?見てませんが」
「そうか……詳細を聞きたいことがいくつかあったんだがな~。仕方ない。別の機会にするか」
ゾフィーの執務室に、タロウが持って来ていた報告書を提出していた。帰還するタイミングはタロウと同じにしてた筈だったのか、ゾフィーはまだトレギアが到着していない事を不思議に思っていた。
「ゾフィー隊長!タロウ教官!今すぐ外に出てください!!トレギアさんからの救助を求めるウルトラサインです!」
「なに!?」
「メビウス!どう言うことだ!?」
「いいから早く!!」
メビウスに促されタロウとゾフィーはすぐに外へと出ていった。メビウスの言う通り、トレギアからの救助要請が届いていた。
『タロウ!すぐに惑星エラルドに来てくれ!!早く!!人が死にかけているんだ!!』
「惑星エラルド?」
「数十年前、トレギアが戦争から救った星です。ですが私は位置までは……」
「確か、この星から南西に60光年離れた場所にある自然豊かな星の筈だか……」
「隊長はその星に?」
「昔に一度だけ。私がゲートを開こう。タロウは準備を頼む」
「分かりました!」
「メビウス!」
「はい!」
「君はギャラクシーレスキューフォースに連絡を頼む。この星から救助隊を編成して送るよりも、レスキューを専門にしている彼らの方が到着が速い筈だ」
「了解!」
メビウスは急いで連絡に向かい、ゾフィーとタロウは上空に飛び上がり、ゲートを作っていた。
「片道にしかできない。帰りは自力で帰ってきてくれ。ギャラクシーレスキューフォースもすぐに到着する筈だ。それまで耐えてくれ」
タロウはゲートを潜り惑星エラルドに急行した。
「トレギア!!」
「タロウ!頼む!彼を助けてくれ!!」
「待て!なんでこんなことになってるんだ!?俺はこの状況に混乱している!」
「それは……良いから早く!回復を!!」
「私の口から直接話す……」
タロウはネーベルを回復させながら、この星が何故こんなことになっているのかを聞いた。だがそれはあまりにも酷すぎて、タロウですら絶句してしまうレベルの物だった。
トレギアと共に前王を星から追い出したら後、トレギアがくる数週間前までは平和そのものだった。しかし、前王が大人しくしている訳がなかった。あの後、しばらくしてから星間連盟に前王はある事を吹き込んだのだ。
前王は、城の地下にある怪獣を隠していた。どこから買ったからは不明だが、凶悪獣ヘルベロスと言う怪獣が保管されていたのだ。だが当然その事は誰も知らない。前王は、民衆がそれを使い脅し反乱をしたと星間連盟に虚偽の報告をした。
普通なら調べた上で攻撃を開始するのだが、星間連盟はろくに調べもせず問答無用で攻撃を開始。コンタクトを取ろうと何度も連絡したが応答はない。必要以上の攻撃を続け、結果星はボロボロ。城の地下に保管されていたヘルベロスも、自身の拘束具が無くなった為好き放題に暴れるしまつ。星間連盟はヘルベロスを見るとそれが証拠だと言わんばかりに更に執拗な攻撃にでた。
トレギアがくるまでの数週間の内に星は全滅。ネーベルは星と自身が愛した物全てを破壊される様を見せ、最後に殺すのが連中の目的の様で、ついさっき致命傷を負わされたのだ。
「グォォォオ!!!」
「「ッ!?」」
「あれが……ヘルベロス、だ」
「あれが……クッ!タロウ!ネーベルを頼んだ!!」
「トレギア!?」
トレギアはヘルベロスに向かって一直線に向かっていく。ヘルベロスは宇宙に名を轟かせる凶悪な怪獣。トレギアでは勝てそうもない。
「タロウ……頼みがある。トレギアを連れて、今すぐ逃げてくれ。この、星は……もう破壊される」
「なに!?」
「上を見てくれ……星間連盟は私たちを殺すだけでは飽きたらず、星を破壊するための爆弾を落とした。あと数時間もすれば、この星は、宇宙から消えてなくなる!だから早く……!!」
タロウは上空と戦っているトレギア、そしてネーベルを順番に見ながらどうするかを考えていた。上空の爆弾を破壊するか、トレギアの援護に行くか、託されたネーベルを助けるか迷っていた。
「ハァァァア!お前が!お前が!!ウオォォオ!!」
感情に任せた猛烈な攻撃がヘルベロスを襲う。当然ヘルベロスはトレギアに攻撃をするのだが、そんなのお構いなしに攻撃を続ける。
「お前なんかが存在しなければ!お前なんかがあんなヤツに買われなければ!さっさと死んでしまえば!こんなことには!!ウワアアアアアア!!!」
『ギャラクトロンリング。エンゲージ』
「モンスビームレイ!」
魔方陣から光線が放たれ、ヘルベロスを貫いた。だがそれだけでは終わらず、立て続けにリングを読み込む。
『セグメゲルリング。エンゲージ』
「セゲルフレイム!!」
毒怪獣のリングだ。毒の炎をさっき貫いた傷口目掛けて放つ。毒は強力で、ヘルベロスは徐々に衰弱していく。
『ギガデロスリング。エンゲージ』
「楽に死なせるつもりは無いぞ!ヘルベロス!!」
4人に分身すると、剣を展開して光速で斬撃を何度も放つ。ヘルベロスが倒れる頃には、トレギアはヘルベロスの鮮血で体が赤く染まっていた。だが炎の熱で鮮血はすぐに乾燥し、しまいには黒く染まり上がっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ッ!」
『タロウレット!コネクトオン!』
「ストリウム光線!!!!」
分身した4体同時発射のストリウム光線は、弱ったヘルベロスを簡単に葬ってしまった。リングは完成したが、気分は晴れる所か更にどす黒い何かが中に溢れてきた。
「ッ!?」
ヘルベロスを倒して佇んでいると、上空から巨大な何かが落ちている事に気が付いた。
「あの構造……まさか爆弾!?どれだけこの星を…!」
地面を蹴飛ばして飛び上がると、落ちてくる爆弾を押し返そうとした。だが大きさはウルトラ戦士の軽く10倍以上ある。押し返そうにもパワー不足で、星と衝突する時間を遅らせる程度にしかならない。
『トレギア!聞こえるか!?』
「タロウ?!」
『すぐに逃げろ!それは星を吹っ飛ばす威力のある爆弾だ!』
「ふざけてるのか!?そんなの聞いて逃げられる訳ないだろ!!力不足なら増やせば良いだけだ!!」
『ギガデロスリング。エンゲージ』
今度は6人に分身。全力で押し返す。カラータイマーが鳴り響くが、そんなのお構いなしに大気圏外まで持っていく。
「ハァッ!」
分身をといて光弾当てて爆発。エラルドへの被害は抑えられたのだが、改めて星全体の様子を見ると、果して爆弾をここで破壊する意味があったのかと考えたくなる。それほどまでに、エラルドは痛ましい姿に変わってしまったのだ。前王と星間連盟のせいで。
「こんな連中が存在するから……」
『ヘルベロスリング。エンゲージ』
「お前らなんかがいるから……この星を滅ぼした罪、その命を持って贖え!!ヘルスラッシュ!」
「よせトレギア!ストリウム光線!!」
「ッ……イッテーな」
タロウがヘルスラッシュを放つ直前のトレギアにストリウム光線を直撃させ、星間連盟の宇宙船破壊を止めた。
「何故ここに居る?ネーベルはどうした?」
「ネーベルは……」
「どうした?」
「助けられなかった」
「なに!?」
目の前に敵がいるが、それを無視してネーベルが居た場所まで飛んでいく。そこには、タロウが言った通り息を引き取ったネーベルが横たわっていた。傷は綺麗に治っているが、それでも助けられなかったと言うことは、既に手遅れだった。と言うことだろう。
「ネーベル……」
「彼からの伝言だ。君と出会って、一緒に過ごした時間は忘れない。私と君は、確かな絆で繋がっている。それはこの先も変わらない。自分を恨まないでくれ。君との絆は永遠だ。と」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァァァア!!!!なにが……なにが絆だよ……!死んだら!死んだらそれまでじゃないか!!何故僕は…こんなにも…無力なんだ!グッ!あぁぁあぁああぁあぁあぁあ!!!」
その後、ギャラクシーレスキューフォースの到着と共に、タロウはネーベルの墓を作り、トレギアと共にエラルドを飛び立ち光の国へと向かっていった。光の国に到着するまで、トレギアは一言も言葉を発することは無かった。
「ご苦労だった。それでトレギアは?」
「医務室にいます。体の傷もそうなんですが、それ以上に精神的な傷が……」
「まぁ、それもそうか……しばらくの間休暇を出す。タロウもトレギアの側に居てやってくれ」
「分かりました」
さぁ、今日はここまで。さぁてと、どうやって堕として行こうかな~?笑
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