ウルトラマントレギア   作:憲彦

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さてと、闇堕ち加速ですね。


トレギアと言うウルトラマン 後編1

 あの事件から1ヶ月の時間が過ぎた。トレギアの体の傷は順調に回復し、日常生活に支障がないレベルまでになった。しかし、病院から退院しても誰と声を交わすことは無く、退院後は自室へと籠りっぱなしだ。

 

「トレギア。食事持ってきたぞ……」

 

「…………」

 

「……ここに置いておくぞ。昨日の分は持っていくからな」

 

 そう言って、一切手のつけられていない食事を持って部屋を出ていく。トレギアは部屋の隅に座ってぼやっと外を虚ろな目で眺めているだけだった。呼吸をしているだけ。と言うのが正しいだろう。

 

「タロウ。その、トレギアは?」

 

「あれから1ヶ月間。何も口にしていません。人間ではないのでまだ健康面での問題があるわけでは無いのですが、日に日に窶れていくアイツを見るのは……」

 

「はぁ……仕方ない。すまないが、もう少しの間トレギアを頼めるか?」

 

「分かりました」

 

 トレギアの残した食事を処分し、ゾフィーと共に今後の任務の話をしようとした。一旦ゾフィーの執務室へと向かおうとしたが、ゾフィーの秘書の1人が急いだ様子で走ってきた。

 

「ゾフィー隊長!至急面会を求めている人達が!」

 

「落ち着いて落ち着いて。面会なんか珍しい事じゃないんだから。で?誰から?」

 

「それがその……」

 

「ん?どうした?」

 

「星間連盟と、エラルドの前王でして……」

 

「は!?あの連中どの面下げてここに来たんだよ!?」

 

「そ、それと……」

 

「まだ何か?」

 

「エラルドで戦闘をしていた2人も一緒にと……」

 

「ゾフィー兄さん、私たち行く必要無いですよね?と言うか喧嘩売ってますよね?これ」

 

「そう言う訳には行かないだろ。トレギアを呼んできてくれ。ただ、面会者の事は伏せておく様に……」

 

 タロウはぶちギレ寸前。ゾフィーは呆れ気味。だが相手が相手だ。あの事件の首謀者。話を聞かない訳には行かない。むしろ嫌でも聞くべき相手だ。その後タロウはトレギアを呼びに部屋へ。ゾフィーは対応をしに応接室に向かっていった。

 

「ゾフィー隊長。トレギアを連れてきました」

 

「客人が来ていると聞いたのです、が……!?貴様ら!何故ここに来た!!」

 

「待て。話を聞いてからだ」

 

 応接室にトレギアとタロウが入ると、人間サイズに体を調整して客人の前まで来ると、星間連盟と前王が目に入った瞬間トレギアが攻撃をしようとした。

 

「貴重な時間を割いて頂き、感謝します。私は先のエラルドの戦闘にて指揮を取っていた者です」

 

「宇宙警備隊隊長のゾフィーです。して、本日はどの様なご用件で?正式に我々が対応していた案件ではないとは言え、今回の事は問題視しています」

 

「それに対しては大変申し訳なく思っています。ウルトラ戦士の方々に多大な迷惑をかけたことを謝罪した―」

 

「謝罪する相手が間違ってるんじゃないか?と言っても、もうその相手は居ないがな。お前らが全員殺したんだろ?忘れたとは言わせないぞ」

 

 トレギアのもっともな返答に、星間連盟の指揮官と前王は言葉を詰まらせてしまった。しかもそれが真実。普通は返せない。

 

「そ、そこでなんだが、我々の謝罪の意味も込めて、この人間の首を差し出そうと思う」

 

「なに!?」

 

「この男の話を鵜呑みにしたばっかりに、我々は調査を初期の段階で打ち切ってしまい、攻撃に出てしまった。亡くなった方々への弔いの意味もある。煮るなり焼くなり、君たちの好きにして貰って構いまい!全ての根源と言えるこの男の命で今回は手打ちに!」

 

「ふざけているのか!?」

 

「「!?」」

 

 1ヶ月振りに聞いたトレギアの声。だが、その声は怒りと憎しみに染まりきった怒声。当然と言えば当然だが、ゾフィーもタロウもトレギアの声に驚いている。

 

「そんなゴミの命1つで!あの星の尊い命の償いになると言うのか!?」

 

「し、しかし!この男はエラルドの王族で、かつては王を勤めていた男だ!少なくとも償いにはなる筈だ!」

 

「寝言は寝て言え!例えその男が1000人いても、あの星の人間1人の命と同等になることはない!大体!調査を初期段階で打ち切ったと言っているが、ネーベルの話ではろくに調査はされなかったと言っていた!何度も交信を試みたが、返答もせずに攻撃を続けたと言っていたぞ!」

 

「そ、それは……命欲しさの戯れ言かと思って……」

 

「よほど殺されたい様だな……!所詮貴様らは、自分の正義に酔いしれていただけだ!それが今回の結果を生んだ!あまつさえそのゴミの命で償いだと?笑わせるな!!」

 

「トレギアよせ!!」

 

 相手の身勝手過ぎる言い分に、トレギアはついに耐えられなくなりブレスレットで剣を展開し2人の目の前のテーブルを真っ二つに斬った。ギリギリ、2人に刃が接触しない場所にある。

 

「次に僕の目の前に現れたら、容赦なく殺す!貴様らにかける慈悲は無い!くれぐれも、僕の目に映らない様に気を付ける事だな」

 

 そう言い放ち、トレギアは応接室から出ていった。ゾフィーとタロウももう話す気は無くなっている。丁重に引き払って貰い、面会は終了となった。

 

「力が……力が欲しい……!どうな相手でも一撃で消し去れる程の力が……!!」

 

 応接室から出たトレギアは、恨めしそうに力への渇望を口にしていた。まるで何かに取り憑かれたかの様にブツブツと呟いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、最近俺たち訓練生が訓練所使い終わったら正隊員の人が使ってるって本当か?」

 

「あぁ~。そう言やぁそんな話あったな。ブルー族のウルトラ戦士だっけ?使ってるの」

 

「そうそう。なんでかな~って思って」

 

「確かに。正隊員ならここ使う意味ないからな……」

 

 あの事件から十数年の時間が過ぎた。過去にトレギアが思い描いていた、ブルー族のウルトラ戦士も徐々に増えて、体の色は基本的な指針程度に考えられる程度に落ち着いた。

 

「でも誰だっけ?あのウルトラ戦士」

 

「たしか……トレギアさんだったっけ?」

 

「古参のブルー族ウルトラ戦士?」

 

「そうそう。そんな感じの名前だった。なんか長期任務明けでも俺らが使い終わった後に普通にハードな訓練してるから、気になってたんだよ」

 

 トレギアは随分と変わってしまった。かつての気さくな彼は、今は見る影もない。淡々と任務をこなし、任務が終われば自身を鍛える。そんな日々を繰り返していた。タロウとの交流もほとんど無くなり、ゾフィーの部屋に報告書を提出する時に挨拶する程度になった。

 

 トレギアの変化は周りにも大きな衝撃を与え、昔ブルー族の劣等警備隊員とバカにしていた連中も、今ではトレギアに怯える様になってしまった。

 

「はぁ……」

 

「ゾフィー兄さん。報告書です」

 

「あぁ。そこに置いといてくれ」

 

「酷く疲れてる様ですが、どうしました?」

 

「トレギアの事なんだが……」

 

「なにか?」

 

「見てもらった方が速いか」

 

 そう言うと、ゾフィーはタロウにトレギアが持ってきた報告書を手渡した。写真も添付されており、綺麗に内容をまとめられている。

 

「特に問題は見当たりませんが……?」

 

「討伐された怪獣の写真を見てくれ」

 

「ッ!?……」

 

 ゾフィーに言われた通り、写真に目を向けてみた。なんの事だと思っただろうが、写真を見た瞬間にタロウは言葉を失った。あまりにも残酷すぎる殺しかたをしていたからだ。手足が斬り落とされているのは当たり前。腕力に任せて無理矢理体の一部を引きちぎった物、0距離で光線を撃ち込み、内臓を周りに撒き散らしている物がほとんどだ。中には怪獣の原形すら分からない程の肉塊にされたものもあった。

 

「任務は遂行しているのだが……」

 

「これ、本当にトレギアなんですか?あり得ない!アイツがこんな残酷なやり方で怪獣を倒すなんて!」

 

「十数年前のあの事件以降、トレギアの性格はかなり変わってしまった。もう、以前のトレギアではない。隊務規程違反を犯した訳じゃないが、正直言って除隊させた方が良いと思っている」

 

「ですが!そうしたらトレギアは……」

 

「技術局に移って貰う予定だ。彼の能力なら問題は―」

 

「勝手に話を進めないで貰えますか?」

 

「トレギア!?」

 

「今回の報告書です。私は、あなた方の様に派手なマント着けてデスクワークしたり、もっともらしい事言えば金が貰えるわけではないんですよ。除隊なり異動なり好きにして貰って構いませんが、私はもうしばらく警備隊として活動させて貰います」

 

 報告書を突き付けると、ゾフィーの部屋から出ていき訓練所の方へと向かっていく。それと入れ替わるように、レッド族のウルトラ戦士が入ってきた。

 

「失礼します。トレギアの調査報告書です」

 

「ご苦労」

 

「調査報告書?ゾフィー兄さん。どう言う事ですか?」

 

「トレギアの様子が最近おかしかったから、少し探りを入れていた。グラン、早速報告を」

 

「はい」

 

 報告書の拡大を空中に投影しながら、順を追ってトレギアの今までの任務の内容を詳細に語りだした。

 

「まず、トレギアが復帰してからの様子です。長い間体を動かしてない事もあり、ブランクを感じさせる動きをしていましたが、自身で開発した新型のブレスレットと怪獣リングを駆使し、ブランクを徐々に埋めていきました」

 

「ふむ。この辺は特に変化はないな」

 

「はい。しかし、これ以降の任務でトレギアは怪獣リングを多用する様になります。それに比例し、トレギアの残虐性が強くなっていきました」

 

 復帰直後の映像と、最近の任務の映像を当時に流して比較して見せる。説明にもあるように、復帰直後はウルトラ戦士の教科書通りの戦い方をしていた。だが、リングを使いはじめてからは相手を煽り挑発するような動きをとり、ギリギリ急所に当たらない様に攻撃を放ちジワジワと嬲り殺す様な戦い方をしたり、逆にとてつもなく乱暴な動きで執拗に攻撃したりと言うものに変わっていく。

 

「これは一体……」

 

「タロウ。トレギアからリングについて何か聞いていないか?」

 

「いえ。これと言っては。我々ウルトラ戦士の力を込めて作られたブレスレットは、トレギア自身と一定のレベルに達した繋がりを持つ者しか作れないと言う事は聞いていましたが、怪獣リングについては特になにも。私も初めて聞いた時は怪獣リングに不安を覚えましたが、トレギアは副作用が現れたら使用を辞めればいいと。しかし副作用がこれだとは……」

 

「ですが実際、トレギアはリングを多用する様になってから性格が豹変しています。これが副作用だと言わざるを得ません」

 

「トレギア程の頭脳の持ち主だ……それが副作用だと気付かない筈はないと思うのだが……」

 

「推測ですが、中毒性があるのではないかと考えられます。現にトレギアは何度も使う必要のない場面で怪獣リングを使っていました」

 

 それからも数分間、ここ数年のトレギアの状態が説明されたが、どれもこれも、トレギアが危ない方向へと変化していると言う物だけだった。

 

「以上で報告を終わります」

 

「ご苦労。戻ってくれ」

 

 報告全てを終えると、空中投影した資料を消してゾフィーの部屋から出ていく。心なしか、脚が少し震えている様に見えた。

 

「トレギアめ……ベリアルと同じ道を辿る気か?この星に更に汚点を付けるのは許さんぞ……」

 

「おやおや。独り言はもっと小さな声でするべきだぞ?グラン」

 

「ッ!?」

 

「ここ数年、下手な尾行で色々とやってくれたな~。どさくさに紛れて私への攻撃も試みた様だが、全部失敗してた姿は滑稽だったぞ~?」

 

「お前は危険な方向に向かっている。ここでお前を倒すッ!……?!」

 

「攻撃するなら、声を出さずにやると良いぞ」

 

 グランがトレギアに攻撃しようとするが、それよりも早くブレスレットから光剣を展開しグランの胸を貫いた。

 

「何を恐れている?私は君たちが言うブルー族の劣等警備隊員だぞ?」

 

「グッ……!」

 

「調査ご苦労様。疲れている様だから休むと良い。永遠にね。次に目が覚める時は、私の人形として踊って貰おう。ハハハハハハハ……」

 

「トレ…ギ、ア……!ウッ……」

 

 グランが絶命すると、担ぎ上げて自身が作った異空間の中へと入っていった。そこにグランを安置すると、何事も無かったかの様に訓練所へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ!ハァ!」

 

 訓練所ではトレギアが仮想の敵を相手に動き回っていた。復帰以降ずっと続けている事もあって、動きのキレはタロウにも匹敵する物になっている。

 

「ハァア!」

 

 光線の威力も昔とは比べ物にならないほどの物に成長した。もはや劣等警備隊と言われていた事が嘘だと疑いたくなる程だ。

 

「トレギアさん」

 

「ん?あぁ。訓練生か。すまない。僕は出るとしよう」

 

「いえ。その必要はありません。お願いがあってここに来ました」

 

「お願い?」

 

 トレギアの前に現れたのは、ブルー族の訓練生だった。しかも今期訓練生の中で1位2位の実力を持つウルトラ戦士の卵だ。

 

「手合わせをお願いします。今の私の実力が、どの程度通用するのか、それを知りたい」

 

「止めておくと良い。君と僕ではレベルに差がありすぎる」

 

「ッ!」

 

「あぁ。すまない。気を悪くしたなら謝る。差があると言うのは、君の方が僕よりも実力は上って事さ」

 

「何故です!?私はあなたほど経験はない。そして実力も。同じブルー族である貴方に、私は教えて欲しいのです!戦い方を!」

 

「タロウに聞くと良い。僕に聞くよりも的確な訓練をつけてくれるぞ」

 

 そのままトレギアは立ち去ろうとしたが、ブルー族の訓練生は引き下がろうとしなかった。

 

「でしたら力ずくにでも!ハァッ!」

 

「ッ!?フッ!」

 

「ゼヤァ!」

 

 訓練生の動きは正隊員と比べても遜色ないものだった。動きが早く鋭い。攻撃に重みこそないが、十分脅威となる攻撃をしてくる。

 

「セイッ!」

 

「グッ!そう言えば、名前を聞いていなかったな。何て言うんだ?」

 

「ソニックです!」

 

「そうか。ソニック。知っていると思うが互いの認証がない模擬戦は警備隊の隊務規程違反だ。今回の件は報告するつもりないが、次からは気を付ける事だ」

 

「はい!ゼャアッ!」

 

「ハァ!……もう良いだろ。僕の負けだ」

 

 ソニックの攻撃を避けて、正拳突きを放った。だが、そこにソニックの姿はない。自身の背後にいることを認識すると、両手を上げて負けを宣言した。

 

「もう気は済んだだろ?」

 

「ありがとうございました」

 

 トレギアは自身の訓練を再開。ソニックは訓練所をあとにして帰っていった。そんなソニックに、シルバー族の訓練生が声をかけた。

 

「どうだった?トレギアとの訓練は」

 

「ストライクか。見ての通りだよ。かなりの収穫があった。流石は正隊員だ」

 

「でもお前が勝ったろ?と言うか、終始圧倒してただろ?」

 

「お前の目にはそれしか見えなかったのか」

 

「なに?」

 

「これを見ろ」

 

 ソニックは自身の首と二の腕の裏、太腿の裏に手首をストライクに見せた。

 

「かすり傷?それがどうしたんだ?」

 

「私は自身が出せる最高速度で動き回っていたんだ。自慢では無いが、スピードだけなら正隊員にだって負けていないつもりだ」

 

「実際タロウ教官も、お前のスピードには一目を置いていたからな」

 

「だが、それにも関わらずあの人は人体の急所を的確に攻撃していたんだ。それに、攻撃もほとんど受け流されていた。全く歯が立たなかったよ。もし本気で攻撃されていたら、私はすぐに死んでいたさ」

 

 トレギアの底知れぬ強さに恐怖を感じながらも、どこか嬉しそうな顔をするソニック。ストライクは少し異常とも感じたが、自身もトレギアに挑んでみようと考えていた。

 

「あぁそうだ。お前がトレギアさんに挑むのはお勧めしないぞ?」

 

「あ?なんで?」

 

「私に勝てない君が、トレギアさんに勝てる訳がないだろ」

 

「俺とテメェの実力は五分だバカ野郎!やってみなきゃ分からねぇだろ!!」

 

「彼は戦いの中ずっと冷静だった。突然仕掛けたにも関わらず、冷静に攻撃を対処し続けていた。頭に血が上りやすい君では、勝つことは不可能だ」

 

 そう言い放つと、ストライクは自分の部屋へと戻っていった。トレギアは、昔とは次元が違う場所に行ってしまったのだろうか……




モブトラマンのグラン。名前の由来は手元にあったグランウォーカーネクサスから来てます笑

本編でトレギアの過去が明かされるまでには完成させたいですね。本編で明かされるのが楽しみです!

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