幻想童子祭~Two girls who behind a door~   作:文章崩壊

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十四話 いつも通りの

 冬も半ばになってきた。寒さは中々に極まり主人から貰った上着が手放せない日が続いている。ついこの前などスサマジイ寒さだなあと外に出てみたら雪が降っていたほどだった。久しいそれは見ている分には良いのだが、実際に傍にあるとなると話は別であり、暑くないのに地獄であった。(ろく)な暖房設備などあるはずもなく刺すような冷たさがダイレクトに打ち付けてくるのである。通勤道中は本当に死んでしまうかと思った。

 そんな中子ども二人はどうしているのかといえば、別に外で元気にはしゃぎまくっているわけでもなく家の中でダラダラと過ごしているのだった。雪を見た初日こそ目を輝かせて遊んでいたが、そんなものは一日だけだ。後はダメ人間の私のように家に引きこもり、彼女たちはおはじきやトランプなどで遊んでいた。

 私たち三人は今一緒の部屋にいたが、それも必然といえるだろう。なぜなら、私たちのいる部屋が最も家の中心に近いからである。寒さから逃げるようにしていればその発生源である外から遠ざかるのは半ば当然である。

 舞さんと里乃さんは本を仲良く読んでいる。いや、仲良くというよりも()()()()()()解読(かいどく)しているといった風だった。眉根を寄せるその姿はまさに勉学に励む学生の風貌であった。まだ小学一年ほどであろうに、その知識欲は感嘆するべきものがある。先ほど何を読んでいるのか尋ねたところ、こちらを全く見ずにただ祈祷(きとう)関係と言われてしまった。雰囲気から察するに現代の参考書のような物なのだろう。

 舞さん曰く、私が鈴奈庵に()いてから以前よりも本が気軽に借りられるようになったとのこと。とても喜ばしいことではあるが、二人はどうしてかむつかしそうな本ばかりを借りているのである。それも全部が先ほどの参考書のような堅苦しいものばかりだ。よろしくない兆候だと思い私が気に入った本をちょっとばかしの給料で買ってプレゼントしたところ、舞さんは読んでいる途中で苦しそうに眉根を寄せ、里乃さんはいかにも無理をしている雰囲気で目を滑らせていた。どうやら私と二人の本の好みは世代が原因か、違うようである。仕方ないことではあるのだろうが、やはり幾ばくかさみしいものだ。

 閑話休題。勉強熱心である二童子は隅っこで佇んでいる私など目に入っていないのだろう、本を各々(おのおの)指さしながら議論をしていた。祈祷だの浄化だの普段の生活では耳にしないような言葉が幼い子供の口から出ている。蛍雪(けいせつ)(こう)だろう、自身らのためか両親のためかはわからないが、努力して勉強に打ち込んでいるということは何か成し遂げたいものがあるのだろう。立派なことだ。

 私が自らの体温にうとうととしていると、急に二人は頷きあって立ち上がった。何事だろうか。そのまま部屋を出ようとしている彼女らを私は呼び止めた。

「どこかに行くのですか?」

「え? ああ、おじさんいたんですか。えっとね今からちょっと試したいことがあって」

「そうだ、おじさんも来る? だいさんしゃの意見っていうのも大事だし」

 舞さんが笑って私を誘ってくれた。この状況で行く、ということは何か不思議現象でもしに行くのか。二人のジャマはできるだけしたくなかったし、前の霊撃体験が脳裏をよぎって背筋がゾッとしたが、しかしやはり好奇心には勝てなかった。私は申し出を受けることにした。

「貴方がたが宜しければ。しかし、何をするんですか?」

「雪合戦だよ」

 三人が家の中から庭へと移動する。そこは、もう隔離された一面の銀世界が広がっていた。雪は積もり庭にある枯れ木と相まってひどく寒い印象を受ける。厚着の舞さんと里乃さんがその上へと舞い降り、少しばかり足踏みをしていた。まっさらだった白い地面に丸い跡が次々とついて、それを二人は楽しそうに作っていた。

 私はひとまず縁側の定位置に腰かけて二人の動向(どうこう)を見守った。天然の雪の上でキャイキャイとはしゃいでいる少女たちを見るのは、久方ぶりであった。このままこの光景を見ながら緑茶でも飲みたいものだが……。

 足踏みを止めると二人はお互い何れかを話し合って、すぐに行動に移した。しゃがんで雪をかき集め、それを丸めたのである。完全な円とはいかずでこぼことしたそれを、ジッと見つめてから二人は少し溜息をついた。綺麗な丸形にしたかったのだろうな。しかし、初めからそうならないと決定している物を思い通りにするというものは中々難しいものだ。

 私は声を潜めて笑った。幸いにして両方に聞こえていなかったようであり、少女らはすぐさま気を取り直すと、お後ろ向きに歩き互いの距離を数歩離した。

 さてこれから行われるのは雪合戦という行事らしい。ルールは単純明快。雪の球を作って投げ、相手にそれをぶつけるという好戦的とも平和的とも取れる遊びだ。通常ならここまでではあるが、しかし先ほど里乃さんは試したいことがあると言っていた。つまり何か違った別なことがあるのだろう。

 両者が向かい合い、ほとんど同じタイミングで振りかぶる。お互いをマッスグ見据(みす)え、そして投げた。

「そら!」

「えい!」

 投げた後に二人は掛け声をした。順序が逆ではないか。私がそう思ったのも束の間。

 少女らの投げた雪玉が破裂した。それも凄まじい勢いで。

 それは互いに違う動きをしていた。舞さんの投擲したそれは破裂したのち、その欠片はまるで雷のごとくジグザグにうねりながら放散し、霧散した。里乃さんのは破裂したあと、欠片はカーブを描きながらもおおむねまっすぐ飛翔して、やはり霧散してしまった。私に何やら小さな衝撃が襲い掛かる。その部分を見ると、ちょっとした水滴が服についていた。

 台風のようだった二つの雪かけらは途中で水に融解して私の元へと、いや、全方位にバラまかれたようだ。あっけに取られていた私の元に、寒さに頬を紅くさせながら二人が寄ってきた。

「どんな形でしたか?」

「え……? 何がでしょうか?」

「見てたじゃん。さっきの弾幕だよ」

 弾幕……。さっきのだろうか。それ以外になかったのだが、私は頭が回っていないばかりに、変な応答をしてしまった。

「弾幕、ですか。さっきの台風のことでしょうか?」

「台風? 変な表現だなあ。まあいいや。それでどんな形だった?」

 キラキラとした眼差しを向ける二人に、私は先ほどの外形の説明をそのままにした。舞さんのはマッスグ飛ばない垂直の軌道を繰り返す動きをしており、里乃さんのは少しへにょったまっすぐの弾だったということを。

 私の言葉を聞くと、二人の少女は意外そうにお互いを見た。

「へー、舞のは意外ねえ。もっとまっすぐ行くものかと思ってたけど」

「こっちもさ。里乃の性格だと向日葵(ひまわり)の首ぐらい曲がったものだと思ってたよ」

「……それってどういう意味」

 ひとしきりにらみ合って、後笑った二人に、私は先ほどの行動がどういったものなのかを尋ねた。彼女たちはちょっと考えた後、話してくれた。

 先のは、私なりにかみ砕いて説明すると、どうやら自らの本質を見るための行動であったらしい。曰く、無意識の内に込めた霊力には本人の真面目(しんめんぼく)が映るらしい。それを目に見える形で浮き彫りにさせる、そして周りに危害が加わらないようにしたことが今回の術であったとのこと。

 私なりの解釈ではあるが、まあ少女らが好む一種の自己分析の占いだったのだろう。これを見、体験して私が何を得たのかはわからないが、しかし目の前の少女たちは真剣に向き合って、結果に対して推考(すいこう)していた。それだけでも今回のことは無駄にはならなかったと言えるに違いない。

 どれ、私も試してみようかと二人にバレないように雪玉を作って、静かに投げてみた。それは特に何かのアクションを起こすことなく、でこぼことした一面の雪の表層に当たって同化し、消えてしまった。それがあった場所などもはや窺い知ることはできない。もしかするとそれが私の本質なのかもしれないな。

「あー! また何か浮かしてた」

 大声にぎくりとしてそちらを向くと、そこには私を糾弾するように指をさしている舞さんの姿があった。里乃さんも特におおげさな反応はしていないが、私の目と思われる部分を見ていた。油断していたか。舞さんはズケズケと私に近づくと、上目遣いに私をにらんできた。

「何の力も感じなかったのに。魔力も妖力も霊力も……」

 不審な目で両者が見てくる。私としてはただ単に冷たい雪の塊を手で握り作って、そのまま投げただけなのだが、なるほど確かに傍から見ればこれほど奇妙なことはない。何の力も働かせずに何かを浮かすなど、私の常識でも彼らの常識でもありえないことだ。

 さて、どうして切り抜けたものか。これで正体を明かすのもやはり抵抗がある。であるならば、でっちあげれば良いのである。

「それはそうでしょう。私には()()()があるのです」

「ちょうのうりょく? 何それ?」

「……は? 僕には何も感じられないぞ!」

「それは、私にとっては貴方がたの霊力と同じようなものだからでしょう。私が霊力を感知できないのと同等に、貴方がたには超能力の源を感じ取ることができないのです」

 そう仮定した場合、筋は通っているはずだ。呪いとは過去の産物であり、超常とは未来の物事である。恒常的に触れていない限り、どちらも感知できないとすれば私と彼らの今の状況はありえると言える。最も、私の中に超能力などという力は欠片も存在していないが。おそらく。

 そのあと彼女らは私に、だったら再びその力を使えと何度も強要してきたが、私は任意に発動不可能であると言い続けることでなんとか難を逃れた。そんなことを尋ねるくらいだったらお(すす)めの本でも質問したほうが何倍も有意義であると私も主張したところ、私の紹介する本は内容が難しすぎると逆切れされてしまった。その事実を聞いたとき、私は超能力など言わなければこんなことも暴露されなかったのではと少し後悔した。

 そんな風にいつも通りの、毒にも薬にもならぬ、日常が過ぎていった。

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