幻想童子祭~Two girls who behind a door~   作:文章崩壊

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六話 団欒の邪魔者

 光が服の間から侵入してくる。けたたましい鳥の声とともに、私は起床した。ゆっくりと身を起こし、周囲の様子を確かめる。……なるほど、前の夜に見た部屋を明るくしたら確かにこのような部屋だろう質素な内装が私の目に映った。後方からはガラスを透過した太陽光が湾曲(わんきょく)しながら室内を間接的に照らしている。夢ではなかったようだ。

 私はこれまでの経緯を思い起こしながら布団から這い出て、ジックリと伸びをした。少しばかり呆けると布団をたたんで隅におき、より広くなった部屋の中心で立ち尽くした。ここから何をしようか……。思いつくことがないため、とりあえず私は部屋の外に出てみた。おや?

 ふと視線を感じ横を向くと、一瞬だけ何者かの深緑色の残影(ざんえい)が見えた。なんだろうか。私がその方角に行きかどに着くと、その先にまたしても小さな残像があった。

 座敷わらしだろうか。それにしても何だか良い匂いがするな……。私が好奇心のままに歩いていると誰かの話し声がして、それは歩を進めるごとに大きくなっていった。横手からは障子越しに光が降っており、下のガラスからは土が、上には青空が見えた。

 さて、私は唐突に匂いの正体に気づいた。子どもの頃の記憶が掘り起こされる。それは懐かしい……米が蒸気によって炊かれている匂いだ。歩くごとに強くなっていく。

 そして角を曲がったところで、私の目には一般的な田舎の家庭の食事風景が飛び込んできた。木のテーブルを取り囲む四人。二人は年老いたの男女であり、もう二人は小さい、六歳ほどの少女だった。深緑がかった髪色をした少女は、茶髪の少女と楽しげに話している。夫婦だろう老人二人はそんな彼女らの様子を見ながらほほえみ静かに料理を口に運んでいた。

「でねでね、里乃。僕がさっき――」

「舞。喋らずきちんと飯を、おや、話していた御仁(ごじん)の登場のようだぞ」

 苦笑した男は、舞と呼ばれた深緑の髪色の少女をたしなめ、次に私に気づいた。彼は笑って手招きをしており、隣の女性は私に笑って会釈をした。その人物は昨夜会った門の男と部屋に連れていってくれた女、(まさ)にその人たちだった。

 里乃と呼ばれていた茶髪の少女が私を見て先まで浮かべていた無垢な笑顔を硬直させ、すぐにあわあわとお辞儀をした。

「お、おはようございます」

「あー! 昨日の、さっきの怪しいやつ! どうやってここに着いた!」

 舞という童子が茶碗を持ったまま勢いよくこちらを見て、大声をあげた。小さな食器がカタカタと揺れ、続いて前方から男の怒声が飛んだ。

「こら! 食べ物を振り回すんじゃない、舞! それに客人になんという口のきき方だ」

 竹を割るかのようなその声に少女は肩をビクリと震わすと、すぐに口を尖らせた。むーんと聞こえてきそうな表情でみそ汁をすする彼女を、里乃という童子が、こちらをチラチラとうかがいながら慰めていた。

 なんという騒々しい朝食だろうか。私が呆然とバカのように立っていると、見かねた男が頭を下げた。

「娘がすまない。さあ客人よ、とりあえず飯を食べようではないか」

 私は曖昧に頷くと、とりあえずその場にいる全員に挨拶をした。夫婦両方は普通に対応してくたが、舞さんは明らかに敵がい心を、里乃さんは完全に私の容姿に恐怖心を持っているようだった。男の、ほぼ間違いなくこの家の主人だろう男性と里乃さんの間に挟まれるような形で座る。

 前の台には、一人分のいかにも美味しそうな品々。私は手を合わせると布越しに箸を持った。

「いただきます……。ああ、主人よ。非常に不作法(ぶさほう)極まりないのですが、なるべく肌を出さないように食べても宜しいでしょうか」

「ダメだね!」

 私が主人に尋ねると、代わりに対面していた舞さんが満面の笑みで拒絶の意を示した。子どもらしい元気溌剌(げんきはつらつ)な声を聞いて、私は困ってしまった。家の者がダメと言うのならダメなのだろう。しかし、(おおやけ)に手を出すわけにも、ウーム。

「お前はここの主人じゃないだろう。……何か訳がおありなのでしょうな。その程度なら、私も家内も気にしますまい」

「ええー」

 良いようだった。舞さんが不服の声を出す。

「さあ舞ちゃん片づかないからさっさと食べてしまいなさい」

「僕がやったら文句言うだろうに、ぶー」

「舞はいつもどおりねー」

 本当になんと騒がしく、活力溢れる朝食だろうか。私はなんとも口の中にいくらか砂を含んだ心持ちになり、それを流すためにみそ汁を口に運んだ。中々に素朴でおいしい。

 その後も時は過ぎ、私の腹は満たされ、少女の声が響く。童女二人は早々に食事を終えると食器を持って台所だろうに行ってしまった。婦人もそれに続き、後にはいまだ食べ終えていない私と腕を組んだ主人が残された。家の中から、そして外からもポツポツと話し声が聞こえる。

 私はやっと重圧に解放されたことに少しだけ安堵していた。もくもくと食べていると、ジッと主人が私を見ていることに気づいた。

「まずは、そうだな。ようこそ我が家へ。あの通り落ち着かない娘らがいるが、大丈夫かね」

「とても明るい家族ですね。泊めてくださり、ありがとうございます。それにしても元気なお子さんですな」

 私がそう言うと、彼は昨晩見せた笑みをもう一度うかべた。そのサッパリした笑顔は、まるで水に浸した白菜のようだった。

「そうだろう。元気だけが取り柄だが、子どもはあれぐらいがちょうど良い。もう一人も同様だな」

「ええ。……それにしても、どうしてこのような身も知れぬ者と同じ空間に置いてくれたのですか」

「それは私が、君はそんなに悪くないやつだと知っているからさ」

 それはまたどうしてと言いそうになったが、主人の表情には有無を言わさぬものがあったため私は口をつぐむより他はなかった。

「君はしばらく私の家に客人として滞在してもいい。どうせ他に行く所もないのだろう? その格好を見れば一目瞭然だ」

 私は曖昧に笑った。確かにこのような身なりの者が何も持たずに歩いているなどと、世捨人と思われてもしかるべきだろう。もっとも、実際は違うのだが。

「そこで泊める代わりにいくつか条件がある。なあに、たった二つだ」

「何でしょうか」

「一つは外で一定の働きをしてもらうことだ。いくら私が良いとはいえ、タダ飯を食い続けるのはそちらも気が滅入るだろう?」

「そうですね。いずれは探そうと思っていましたので、そちらは期待に沿えられるでしょう。して、もう一つは」

「うむ。そして二つ目でありこちらが主要な役割なのだが……。あの二人の遊び相手になってほしいのだ」

 私は止まっていた箸と茶碗を台の上に置いた。重々しく告げられた内容は、案外拍子抜けするものだった。一つ目の方が重要なのではないか。私が彼に顔を向けると、笑いながらも目付きは凄まじい男がいた。

「君にとっては軽いかもしれないが、私、そして家内にとってこれは重要な案件なのだ。さっきも言ったが舞――あの元気な方はどうにも平常は無鉄砲(むてっぽう)()()()があってな。いざという時は意外と大丈夫なのだが。逆に里乃の方は洞察力があり冷静なのだが、いざという時には失敗ばかりしてしまう(たち)でね」

「はあ」

「そして私が思うに彼女らには経験が足りぬのだ。親として、まあ、心配でね」

「なるほど、つまり私は彼らの成長の手助けをすればいいのですね」

「その通りだ。私たち夫婦はこのところ多忙でね。二人で一つではダメなんだ。一人で一人前にならなければ……」

 彼は眉根を寄せると天井を見上げた。彼の目には何が映っているのか、私にはわからない。また、どうにも彼の意見には賛同しかねるというのも事実だった。

 私が彼女らの、おそらく相談相手になるのは全く問題ない。性格が(なん)であれば、更正させるというものが筋というものだろう。しかし、それは年をある程度経た場合であり、あのようにまだ未来ある幼子ならば、周りが積極的に影響を与えずともゆっくりと正しい方向に成長していくものだ。

「お言葉ですが、彼らはまだ六歳ほどでしょう。であるならば積極的に変えようとせずとも十分な時間があるため、()く必要はないのでは?」

「時間はある……。いや、ないのだ。そうだ、もう少しなのだ。それまでに何とか……。とにかく頼んだよ。私はこれから仕事だ。君も早く職と二人の信頼を勝ち取ってくれたまえ」

 彼はポツリポツリと吐き捨てるように言うと、サッと腰を上げて出ていってしまった。障子が閉まり、私は一人になった。何かを秘としているようだ。しかし秘匿とは元々存在し、えてして破られるものである。ならばそれまで気長に待つことにしよう。

 私は食事を再開し、残り白米ひと口となったところであるものに気づいた。視線である。

 私がそちらを横目に見ると、そこには襖とそれに掴まっている少女がいた。彼女――確か里乃さんだったか――は顔半分を出して、ジッとまばたきせずにこちらを凝視していた。私が箸を口に運ぶと、彼女はピュッと体を引っ込めていなくなり、少しして再び顔を覗かせた。私が食器を持ち立ち上がるとまたもいなくなってしまった。

 彼女が同じくおそるおそる一人の男が鎮座しているだろう部屋を覗くと、その前には私がいた。目と鼻の先ほどではないが、だいぶ近い。里乃さんは身を硬直させると、私とそのすぐそばに置かれている器を意味もなく交互に見ていた。

「良い朝ですね」

「あ……そ、そうですね」

 彼女はギクシャクとした笑いを浮かべた。目には、得たいの知れない布で全身をくるみこんだ男がしゃがんでいる姿が映っていた。と、それが揺らぎだした。

 マズいだろうか。そう思った瞬間、私の眉間におはじきが飛んできて、ポスンと命中して、また落下した。里乃さんの向こうには全力でこちらへと走っている舞さんがいた。彼女はブンブンと腕を振りながら威嚇(いかく)をしており、私はその様子に少々圧倒され身を引いてしまった。

「こらー! 里乃をいじめるな、不審者! ……こっち!」

「あ、え、でも」

 彼女は呆気にとられている里乃さんの手を掴むと、どこへともなく引っ張っていってしまった。私の目に困惑した少女の姿が映り、それは徐々に遠ざかって、やがて角の辺りで消えた。少しすると家の中を走るなとの女性の怒りの旨が聞こえた。

 私は落ちていたおはじきを拾い、置いていた食器を持つと立ち上がった。大丈夫だろうか。私は自分自身に不安だった。

 

 

 

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