朱月朔太郎は人狼である。
彼は誕生と共に母を亡くした。人狼であるがゆえに、彼の父は愛した妻の後を追うかのように衰弱して亡くなってしまった。
身寄りを無くした彼は、長の家に引き取られて、次代の長となる若長と兄弟の様に仲良く育った。
朔太郎は利発であったので、都や人里で学問を修めさせようという話が持ち上がった。朔太郎は断った。自分は若様の一の従者。お側を離れる訳にはいきませんと。
硬くなに名誉な話を断り続ける朔太郎だが、当の若長からの説得に折れた。
「朔太郎、君にはね私の目に耳になって、私の代わりに外を見てきてほしいんだ。たくさんいた他の部族は、次々に一族ごと滅びる事を選んでしまった。父上は人との共存をお選びになられた。そこが、私達と他の部族との違いだと思う。私達の一族の強さと生命力は、昔から変わらない。だけど、その事に胡座をかいていてはいけない。人は脆いけど強い。私達人狼の様に絆を情を大切にしている。そして、いつの時代においても圧倒的強者に挑み続けている。人間を見てきてほしい。人間の文化を知識を学んできてほしい。私はいつの日か人間と友人になりたい。朔太郎、君に世界を広げてほしい。私の世話役だけで終わるなんてもったいないだろう。なあに、たったの百年くらいは、私は朔太郎がいなくても大丈夫。だと思うからね。その後はずっと一緒なんだから楽しんでおいで。私は嫌いな納豆を克服してみせるから」
若様の納豆を克服してみせるというお言葉に、朔太郎も覚悟を決めた。
どうせなら、いろんな人間に会って観察をしようと決めた。たくさん学んで、いろんな職業を経験しなくてはと思った。全部、若様と一族の幸せと繁栄の糧になる。そう思えば、若様から離されてしまうという絶望は希望へと変わった。
旅立つ朔太郎に、都や人里に住んでいた事のある大人達は、自らの経験や困った時にどうするべきかを教えてくれた。
《朔太郎、人間の雌や雄のつける香水やコロンの匂いが嫌いでも、臭いといってしまうのはまなあ違反だ。耐えるんだよ》
《配達夫の仕事が良いよ。松子姉さんの旦那が人間の協力者でね、あたしら人狼の力強いとこと健脚を買ってくれている。高い給金で雇ってくれているから、あるばいとをするなら訪ねると良いよ》
《朔太郎君、満月の夜は力が増してしまうけど、気にしなくて大丈夫だよ。毛布を被って早く寝てしまえば大丈夫。僕たちは瞳の色が変わるけど、問い質されたら『遺伝です。僕達の村人はみんなこうです。侮辱なら訴えますよ』でたいがい黙るからね》
《朔太郎ちゃん、私達の寿命は長く血肉には不思議な力がある。私達の好意から与えれば回復薬になるけど、無理矢理奪われれば毒薬になる。気づかれない様に細心の注意をするんだよ》
《朔太郎、気を付けてな。鬼や猫又にあったら食い殺してやれ。人にもな、人狼ってばれちまったら、黙ってくれているような信頼できる方なら二百年くらいは仕えてやれ。見世物扱いだったら食い殺してこい。お前は優しいから心配だ。そうだ、猛の兄貴みたいな喋り方で話せよ。傲岸不遜な感じで生きれば嘗められなさそうだろ》
《人狼の俺達に敵う生き物は中々いない。だけどな、人間の数や武器には気を付けるんだよ。俺達は体力があり力も強い。回復力も生命力も高い。爪や牙は鋭く頑丈や剣そのものだ。人間からしたら脅威でしかないだろう。人間は何時だって俺達人外を敵視し狩る力を得る。神殺しの末裔が人間だ。人間には鬼や天狗よりも注意をしろ》
《朔太郎、犬に好かれるし会話はできるけど、人間の前でお話はしないのよ。えっ?そ、そうよ。私が村に帰ってきたのは野良だったあの子達を引き取り育てるには都ではできなくなったからよ。仕方ないじゃないっ。優しい人間に里親になってもらえても『おかあさんすてないでいやだよ』とあの子達に言われちゃったら帰郷しか道がないのよっ》
《朔太郎、辛くなったら帰ってきなさい。人間の寿命は私達からしたらあっという間だ。人間を愛するのなら覚悟が必要だ。人狼は人狼と、人狼と人外で結ばれるべきだ。あの子は、人間と人狼が結ばれる未来を夢みているが、中々に難しいものだと私は思う》
《手紙を書いたら××××郵便局局留めと書くのよ。村宛の手紙や依頼書は全部そうする決まりなの》
《人に親切にして、でしゃばらずに控えめにして、人が嫌がる仕事を率先してやりなさい。不満は口にも態度にも出さないようにな。そうすれば人にはあまり嫌われないよ》
言われた言葉を紙に書いて、朔太郎は旅立つ日まで、何度も読返した。
人里に近い山を歩いている時に、それはいた。
ぐちゃぐちゃになった人間だったもの。
泣き叫ぶ子供と庇うように立っている黒衣を着た剣士。そして、人の腕をおもちゃみたいに振り回している鬼。
嗤いながらこちらを見て言う。
「よう、同輩かよ。まだ人を喰ってないみたいだなぁ。ここは俺の狩場だ。違う場所にいけ」
「くそっ。鬼が二匹だと。早く救援よ来てくれっ」
「かみさまたすけてっ」
「なんだぁ~いかねえつうことはおれのえものをとるきかぁ~ならおまえからくってやらあ!」
若様、村の皆。鬼はやっぱり馬鹿です。高貴なる俺達人狼と薄汚い鬼の区別がわからんとです。
《ね、ねっ。お願い致します。主を助けて下さい人狼様っ。しろの宝物を差し上げますからっ。しろがおとりになりますだからおにを主様から遠ざけて下さいっ》
「ワンワン!ワンワン!」
「し、しろしいーっ」
…犬に頼まれたら仕方がないですね。ごめんなさい、愛海さん。貴女の言う通りでした。
「鬼、訂正しろ。俺はお前達薄汚い鬼とは違う。誇り高き人狼だ。人間の剣士と少年、その勇敢なる白い犬の頼みだ。あなた達に助太刀する。まったく、無惨は一族郎党の管理も出来ぬのなら群れを拡大しなければいいものを」
「貴様っ呼び捨てだと………」
一瞬で、鬼の首を切り落とした。
「人間の剣士殿、日輪刀でグリグリっと抉って刺しまくって下さい。貴方が仕留めた事にしてください。坊っちゃん、しろを大切にして下さい。…しろ、その毛布は君の宝物のままでいいです」
「あ、ああ。君は、いえ、貴方は本当に鬼ではないのですか?」
「はい。その証拠に、朝日を浴びても大丈夫ですよ。鬼の長の名前を呼んでも全然大丈夫です。基本、あいつら鬼よりも人狼の方が弱点がないですからね。食べ物も人間や犬よりですし。弔いをするのなら手伝いますよ。あと、傷の手当ても…だからしろ、君の玩具のぼーるも君の宝物で良いからね」
善意で行動した。そうしたら、剣士殿の組織に勧誘された。学ぶために里から出てきたと言って断ったら組織の長と代表に会ってくれと土下座されてしまった。…里を出て一日も経たずに長に手紙を書く事になってしまった。( ´△`)
これがだめなら、あとは鳥の骨付き肉( ´△`)