人狼の少年が鬼退治を手伝う話。   作:黄色いうちわ

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  弟妹に鬼殺隊を辞めてほしいです。by兄S。





 満月の日の出来事。

 

   私は鬼に家族を殺された。住んでいた集落を鬼に滅ぼされた。だから、私の命を助けてくれた鬼殺隊に入るという事は当たり前の事だった。

 

   だって、私の幸せを全て奪われたのだから、私の、家族や村の人の恨みをはらさなければ私自身が鬼になってしまう。

 

   修行は苦しかった。だけど、柱には女性が三人もいた。正式な隊士にも女性はいた。それは私にとって希望だった。柱になれた女性がいる。鬼殺隊に入る事を諦めさせようとする兄の反対する理由《お前は女性なのだから》を退けられる重大な一因だ。

 

   兄さん、お前は女性なのだからと言いますが、顔を、半身を焼かれ腹を潰されかけた女は女として扱われません。兄さんだけですよ、生き残った私を抱き締めて泣いてくれたのは。婚約者はさっさと私を捨てましたからね。ああ、憎い。笑いながら私を壊した鬼が憎い。あの鬼を産み出した鬼舞辻無惨が憎い。家族を村人を殺した鬼が憎い。私を捨てた婚約者が憎い。醜い私が憎い。火傷が憎いっ。逃げた鬼達が憎い。うちのがした恩人が憎いっ。私を殺してくれなかった全てが憎いっ生き延びてしまった私が憎い。

 

   憎しみが憎悪が私を生かしてくれる。生かしてくれていた。

 

   生かしてくれていたのは、力を与えてくれていたのは、憎悪と怒りだった。

 

   容姿を馬鹿にした奴等には、驚くほどに残酷な報復ができてしまった。そして、鬼殺隊には自分と同じ境遇の女性はたくさんいた。

 

   馴れ合う気はなかったけど、鬼殺隊を止めて幸せになってほしいと思った。 

 

   自分はついていたのだ。定期検診で蝶屋敷にいた時に、伝令が来たのだ。

 

   「蟲柱っ。胡蝶っ。朗報だ!満月だから朔太郎殿が傷を治してくれるぞ!…す、すまないっきゅう…」

 

   上半身裸になっていた私を隠した胡蝶様は針で義勇様をちくっと刺して昏倒させた。素晴らしい速さでございます。

 

   「…、ごめんなさい。もっと躾ておきますから。あ、責任をとらせましょうか?慰謝料をむしりとりましょうか?」

 

   「胡蝶様、大丈夫ですよ。こんな欠陥品に価値はありませんし、見られて減るものはありません」

 

   「そのような事はありませんよ。加瀬隊士、【人狼】様が鬼殺隊の協力者になって下さったという報せは聞いていますか?」

 

   「はい。ですが、鬼に対しての虚勢とかですよね?だって【人狼様】を信仰している人は山間部に住む人だけでしょう?私みたいに祖父がマタギをしていたのなら伝承を知り信仰をしているかもしれませんが…ほ、本当ですか?本当に人狼様がこの場所に?」

 

   「いらっしゃいます。寝ている、女性や患者さんへの配慮のないお馬鹿さんも言っていた通りです。貴女の傷は治ります。だから、泣かないで」

 

   涙は止めどなく流れた。満月の祝福を私は受けられる。女を諦めたくせに、諦めきれてなかったみたいだ。浅ましくも喜んでいる自分がいる。

 

 

   美しい夜だった。暗い夜が満月の光で明るいのだ。

 

   人狼様は美しい。大人になられたお姿が見れないのが残念なくらいに美しい御子様だった。

 

   その小さなお体が、大きな黒狼へと姿を変えられた瞬間は畏敬の念から頭を下げていた。

 

   隣に立っていた兄もそうだった。兄は長野で医者をしていたのに、家族の訃報を聞くと帰ってきて私の側にいてくれているし鬼殺隊の藤の家で働いていてくれた。

 

   大杯に注がれた人狼様の血を、集まる事のできた鬼殺隊と鬼殺隊に協力している全ての人が飲んだ。

 

   飲んだ直後に、奇跡がおきたのだとわかった。隣に立っていた兄が泣きながら私を抱きすくめたからだ。渡された手鏡の中には、壊される前の私がいて、泣きはじめた。

 

   あちらこちらから喜びの声が上がり嬉し泣きの嗚咽が聞こえた。お館様達も泣いていた。私は兄に抱きついて泣いた。

 

   人狼様、ありがとうございます。私を治してくれてありがとうございます。泣きながら何度も何度も繰り返しお礼を言った。

 

   「ほらっ。玄弥、お前も飲もう?な、皆の傷が癒えて綺麗になっただろう?兄ちゃんだって、ほら、見てみろ。傷なんてどこにもないだろう。あ、強くなったまんまだし、人狼様の血を飲んだからといって弱くなんかならないからな。安心して飲もう。行冥さんの目も見えるようになっただろ?まだ怖いか?なら、兄ちゃんが一緒に飲んでやるから…逃げないで玄弥っ」

 

   「皆だまされているっ。兄貴っ正気に戻ってくれよっ。嫌だっ。そんな血、俺は絶対に飲まないからな!」

 

 

   玄弥少年は、兄の実弥少年の手を振り払い逃走した。

 

   「玄弥、頼むから朔太郎様の血を飲んでくれよっ」

 

   …なんか、幻聴が聞こえて幻覚が見えているみたい。

 

   風柱様の弟嫌いは有名だったのに、弟思いの風柱様の姿が見えて嘆いている声が聞こえている。

 

   ……、オッケー理解した。

 

   これは副作用よ。人狼様の神仏が宿る尊い血を飲んだ副作用よ。副作用なのに、お兄ちゃんの弟を心配する尊い場面が見れるなんて素敵すぎるっ。さすがは人狼様です。

 

   満月の夜には、人狼様の治癒の力が強まるので、定期的に治癒の恩恵を得られる様になった。人狼様、ほんとうにありがとうございます。

 

 

 

 

 





  兄が自分の幸せをそっちのけで俺・私の事ばっかりを心配してくれているのがツラい。by弟妹。
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