あれからさらに一週間が経ち、今日は合同文化祭の日だ。ちなみに合同文化祭といっても2校の生徒が花咲川に集まってそれぞれが露店などを手伝ったり、時間別にステージで一緒に披露したりと多種多様である。俺と花音さん、千聖さんは日菜さんと一緒に喫茶店を担当している。
【午前10時:2ーA】
花音「宥凪くん、こっちお願い…!」
宥凪「はい!それにしてもお客さんが途切れませんね…まだ10時だっていうのに」
千聖「一体誰がこんなにお客さんを呼び込んだのかしらね?」
日菜「ねー☆一体誰なんだろうねー?」
宥凪「日菜さんです日菜さん。まったく、俺の担当する喫茶店のことは黙っててほしいって言ったんですけどね…注目されるのはごめん被りたいんですよ」
日菜「えー?海くんは羽丘でも大人気だよ?」
宥凪「…ちなみに広めたのは誰ですか?」
日菜「あたしだよ?」
宥凪「千聖さん、最近覚えたという技を日菜さんにお願いします」
千聖「手加減はしなくてもいいわよね?」
宥凪「もちろんです、やってしまって大丈夫ですよ千聖さん」
日菜「え?海くん目が笑ってないよ?ち、千聖ちゃんまで?」
日菜さんは千聖さんに連行され、教室を出ていった
花音「あはは・・・宥凪くんも大変だね…」
宥凪「まったくですよ・・・日菜さんの脳内辞書に『手加減』の文字はないでしょうかね…あ、一応確認しておきますけど今日の劇の時間は覚えていますか?」
花音「うん。確か昼の3時からだったよね。」
宥凪「はい、そうですね。初めての花音さんの晴れ舞台ですから俺の最大限にサポートするので頑張りましょう」
花音「うん!」
などと言ってると日菜さんの制服の首根っこを掴んで千聖さんが戻ってきた
千聖「ただいま、二人とも。」
宥凪「あれ、日菜さんを捕まえれたんですね」
千聖「ええ。紗夜ちゃんが日菜ちゃんを捕まえてくれたの。それで、喫茶店のことだけどあなたたち二人は上がっていいわ」
花音「え、いいの?」
千聖「ええ。店は私たち二人に任せて楽しんできていいわ。せっかくの文化祭だもの、楽しまなきゃ損でしょう?」
宥凪「それはそうですけど…それだと二人が文化祭を回れませんよね?」
千聖「いいのよ、あなたたち二人が楽しんでくれれば私は嬉しいから」
宥凪「はあ…それならお言葉に甘えますね。行きましょう花音さん」
花音「ゆ、宥凪くん、待ってー!」
俺たちは教室を後にした
【花咲川学園:休憩室】
花音「あ、そうだ宥凪くん。千聖ちゃんにクッキーを預けてたんだけど…」
宥凪「千聖さん、無駄がありませんね…よく見たらこれ、花音さんの手作りですか?それに花音さんの指、相当クッキーを焼いていたんですね」
花音「ふぇっ!?そ、そうだけど・・・どうしてわかったの?」
宥凪「花音さんの手から仄かにクッキーの生地特有のにおいがするので」
花音「う、うん…私も喫茶店の店員さんだしみんなにも喜んでほしいから…ゆ、宥凪くん」
宥凪「花音さん?」
花音「あ、あーん…」
宥凪「(え?これって…花音さんが俺に食べさせてくれるのか?いやそれは嬉しいんだけど恥ずかしいっていうか・・・)・・・花音さん、もしかして千聖さんに事前に言ってました?」
花音「う、うん…」
宥凪「・・・俺のためにありがとうございます。それじゃあいただきますね」
パクッ
花音「ど、どうかな…?」
宥凪「うん、俺好みの甘さと食べやすさですね。ありがとうございます花音さん」
花音「えへへ、ありがとう宥凪くん。頑張って練習したかいがあったよ」
宥凪「俺のために作ってくれるのは嬉しいですけどあまり無茶しないでくださいね。この前みたいに風邪をひかれたり倒れられるとどうすればいいのかわからないので・・・」
花音「うん、わかってるよ。でも私は宥凪くんに喜んでもらえるのが嬉しいから頑張っちゃうんだ」
宥凪「…本当に花音さんは俺なんかにはもったいないくらいに可愛い彼女ですよ。(花音さんもこんなに頑張ってるんだ、俺も頑張らなきゃな)」
花音「それで宥凪くん、これから劇の時間まで何してよっか?」
宥凪「ただ休憩室で何もしないってのはあれですしね…適当にふらつきましょうか。」
花音「うん!」
俺たちは休憩室を後にした
【午前11時:2ーB】
彩「あ、おはよう花音ちゃん、海月くん!」
宥凪「おはようございます彩さん。お好み焼き2パックお願いします」
彩「はーい!燐子ちゃん、麻弥ちゃん!お好み焼き2パックお願い!」
燐子「わかり・・・ました・・・」
麻弥「はい!急いで作りますね!」
宥凪「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。作り終わるまで待つので」
花音「私も待つから大丈夫だよ」
彩「ごめんね、少し待ってもらうことになっちゃうけど…」
宥凪「そういえば彩さん、お好み焼きを作れたんですね。麻弥さんも燐子さんも」
麻弥「ジブンは一人暮らしなので自然と料理のレパートリーが増えていったって感じですね。」
燐子「私も・・・大和さんと同じ感じです・・・」
彩「私はバイト先の先輩から何か新しい料理を作ってないかって聞いてみたら『お好み焼きを作るのが楽しい』って言ってたから教えてもらったんだ」
宥凪「最近何か彩さんがバイト先の先輩たちに聞いてたと思ったらそんなこと聞いてたんですね。花音さんもこれを期に新しい料理に挑戦してみたらどうですか?」
花音「新しい料理かぁ…ゆ、宥凪くんは何食べたい?」
宥凪「そうですね、花音さんの手作り弁当…とかでしょうか。」
花音「ふぇっ!?」
麻弥「ゆ、宥凪さん意外と大胆ですね…ジブンたちがいるにもかかわらずそんなことを言えるなんて…」
宥凪「まあ、まだ花音さんの手作り弁当を食べたことがなかったので食べてみたいとは思ってましたね。ただ俺も無意識に言ったのでちょっと恥ずかしかったですが」
燐子「そう言えば…お二人のクラスは大丈夫なんですか・・・?確か喫茶店…でしたよね?」
花音「うん。でも千聖ちゃんと日菜ちゃんが変わってくれて、後でひまりちゃんも合流するみたい」
麻弥「こっちは3人体制で作ってますが千聖さんたちは今2人体制ですからね…上原さんが行くなら大丈夫じゃないでしょうか」
宥凪「ひまりはお菓子作りに関しては俺よりうまいですからね。中学生の時はよく作ってもらってました。」
花音「ひまりちゃん、よく差し入れにクッキーとか持ってきてくれるけどおいしいんだよね…私もいつか作りたいなぁ…」
宥凪「それだったらひまりにお菓子のレシピを教えてもらったらどうですか?ひまりなら教えてくれると思いますよ」
花音「そうだね、今度聞いてみるよ」
彩「はい!二人とも、お好み焼きができたよ!」
花音「ありがとう彩ちゃん。それじゃあお金を・・・」
彩「あ、それは大丈夫だよ!今日は私たちからの奢りってことで!」
宥凪「え、いいんですか?でもこういうのは…」
彩「いいの!せっかくの文化祭デートなんだし楽しまないと!」
宥凪「そういう事なら貰っておきますね。ありがとうございます彩さん」
彩「それじゃあ文化祭、楽しんできてねー!」
俺たちは2ーBを後にした
【午後2時30分:屋上】
宥凪「さて…そろそろ体育倉庫に移動しましょうか」
花音「もうそんな時間かぁ…うぅ、今から緊張してきたよ・・・」
宥凪「そんなに固くならなくても大丈夫ですよ。俺が花音さんのことを支えるので」
花音「う、うん!私頑張るよ!」
宥凪「さて、行きましょうか花音さん…いえ、俺のお姫様。」
花音「う、うん…私の王子様」
俺たちは手を繋いで体育倉庫に移動した
【午後2時45分:体育倉庫】
千聖「いよいよね、二人とも。」
宥凪「はい。日菜さんに言われたときは少し焦りましたけど今はこの舞台に立ててとても嬉しいです。」
花音「最初は緊張したけど…ここまで来たんだね。」
宥凪「はい、途中花音さんが休んじゃったりしてしまった時は戸惑いましたけどここまでこれたんです。これもみんなが頑張ってくれたおかげですよ。」
花音「あの時はごめんね…でも私は風邪を治して今ここに立っている。この劇、絶対に成功させようね!」
千聖「ええ。みんなが私たちの劇を待ってくれているわ。みんなでお客さんたちを楽しませるわよ」
宥凪「はい。それじゃあ行きましょうか。」
俺たちの劇が始まる。花音さんの初めての晴れ舞台。そして最初で最後かもしれない俺と花音さんが一緒に立てる劇。花音さんの笑顔を守りたいと願って俺はこの役を演じることを決めた。俺がこっちにいるのは今年度いっぱいとまでは行かないだろうな…そう考えているうちに俺たちの劇は終わり、お客さんからは拍手喝采だった。
【午後5時:花咲川学園屋上】
宥凪「…もうすぐ終わっちゃうな、学園祭」
花音「そうだね…宥凪くんとの劇も楽しかったしもう少しこの時間が止まればいいなって思っちゃうよ」
宥凪「…そうですね。ほら見てください花音さん、綺麗な夕焼け空ですよ」
花音「わぁ…綺麗…こんなにきれいな夕焼け空見たことなかったなぁ…」
宥凪「…花音さん」
花音「宥凪くん?」
宥凪「…いえ、なんでもないです。すみません」
花音「・・・宥凪くん、やっぱり私に隠し事してない?だって私と一緒にいるときは何だか悲しそうな顔してるから・・・」
宥凪「俺だって心配なことは一つ二つはあるんです。」
花音「本当に?」
宥凪「・・・花音さんって本当に心配性ですね。その心配性な花音さんには…」
そう言って俺は花音さんを抱きしめながらキスをした
花音「んっ…」
宥凪「(本当にすみません花音さん…)」
花音「ふふっ・・・宥凪くんからこんなことをされちゃったら確かに心配なんてどこかに行っちゃうかもね」
宥凪「心配しすぎると俺も心配になるので…俺も花音さんのことが心配なんですよ。また無茶して体調を崩さないかって思うと…」
花音「…あの時は本当にごめんね。」
宥凪「もう過ぎたことですから大丈夫です。これからのことを考えましょう。」
花音「これからのことかぁ…ゆ、宥凪くんは将来何になりたいとかあるの?」
宥凪「そうですね…困ってる人を助けたりしたいですね。でも俺は音楽の先生になって世界中の子供も大人も笑顔にしたいって夢がありますね。そういう花音さんはどうなんですか?」
花音「私は…ゆ、宥凪くんのお嫁さんになりたい…かな」
宥凪「ぶっ!?お、俺のお嫁さん…ですか?俺にそこまでついてくるのは嬉しいんですけど、俺の夢は音楽の先生なんですよ?大変な人生になるかもしれませんよ?」
花音「うん、わかってるよ。でも私は宥凪くんとこれからの人生を歩みたいから・・・ダメ、かな?」
宥凪「ダメってことはないですけど…花音さん。これ、受け取ってくれませんか?」
そう言って俺は小さな箱を渡した
花音「開けてもいいかな?」
宥凪「もちろんですよ。どうぞ」
花音「そ、それじゃあ・・・(パカッ)ゆ、宥凪くんこれって…」
宥凪「これは本物じゃないですけど…花音さんってこういうのは持ってないと思ってこの間買っておいたんです。」
俺が花音さんに渡したのはクラゲの形をしたペンダントだった
宥凪「まだそれには写真は入っていませんが、これから花音さんとの一番の思い出をこのペンダントに入れましょう。」
花音「うん!」
宥凪「それじゃあ後夜祭に行きましょうか。そろそろ始まりますし」
そう言って俺たちは文化祭の後夜祭がある花咲川のグラウンドへ足を進めた。後夜祭ではフォークダンスを踊ったりした。あの時花音さんが『宥凪くんのお嫁さんになりたい』と言われた時から俺の頭からその言葉が離れることはなかった…
いかがだったでしょうか。
文化祭といったら後夜祭、後夜祭といったらフォークダンスでしょう?(適当)
主がダンスを踊れる?ハハッ、そんなことできませんよ(諦
それではここまで読んでいただきありがとうございました