先にこれの一つ前の話を読んでね
マイラブリーエンジェル姫子の誕生日だから書いたよ
姫たんイェイ~
11月某日
3連休を用いた合同合宿、その前日の金曜日。
学校が終わり次第、清澄・風越・龍門渕の面々は電車に乗り、開催地である奈良の松実館へと向かっていた。
「長野って交通の便では不利ですよね」
既に陽が沈み切った窓の外に見える、どこどこまでも続きそうな山々を眺めながら、和が溜め息を漏らす。
「西日本行きの新幹線がほぼないからなぁ。名古屋まで出ないと、のぞみとかメジャーなのは乗れないし」
「引っ越しの時は大変でしたよ……」
「俺もハンドボールで県外の学校と練習試合組む時は、試合より移動で皆疲れてたな………」
県外旅行の経験がそれなりにある京太郎と和が、過去の思い出に顔をしかめる。
「わかる。県外に電車で向かう時は毎回衣が寝ちゃうから」
「それを毎回おぶされる俺の身にもなれよ?」
二人の会話を聞きつけた智紀が同意を示し、げんなりした表情の純が息を吐く。
ちなみに当の衣はというと、咲・優希・美穂子・華菜の4人とババ抜きをして遊んでいる。
ものすごくはしゃいでおり、この後爆睡してしまうのが目に見えるようだ。
「名古屋に出るだけで2時間以上かかるからの。
お前さんたちは今のうちに寝ときんしゃい」
「「「「はーい」」」」
松実館に着くのは夜10時を過ぎる。
夕飯は駅弁を新幹線内で食べる予定だが、到着後にお風呂に入ったりすると、もうあっという間に寝る時間である。
長時間の移動で疲れもたまりやすいので、いずれ誰かをサポートする羽目になりそうな人員は今のうちに休息をとっておくようまこの指示に皆従う。
「ブランケットもいくつかご用意してありますので、寒い方はおっしゃってください」
「あ、すいません」
ハギヨシからひざ掛けをもらった京太郎は、その言葉に甘えて目を瞑る。
だが………
そわそわ そわそわ
「……………」
そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ
「…………………」
そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ
(寝られねぇえええええ!)
その中で京太郎だけは、どうにも目が冴えて眠れなかった。
前日入りするのは、ここに居る長野組だけではない。
白糸台、臨海、姫松、千里山といった、新幹線を使いやすい、もしくはそもそも県が近い高校は朝一番で向かうが、新道寺はさすがに遠いため新幹線を使って前日入りする。
詳しい時間帯は聞いていないが、こっそり博多駅から阿知賀までの時間を調べたら6時間ほどかかるため、到着する時間帯は夜10時を回る。
つまり、京太郎たちが到着するのと同じ時間帯になる。
つまりつまり、現地で姫子に会えるかもしれない。
つまりつまりつまり、あわよくば、姫子と二言三言くらい言葉を交わせるかもしれない。
つまりつまりつまりつまり、あわよくば、もしかしたら、万が一、幸運にも、姫子と同じ送迎バスに乗ったりできるかもしれない、
(いや、流石にそれはねぇだろ……いや、でももしかしたら、もしかしたらっ、いやっ、でも……!)
久々に会えた姫子が、自分のことを好きではなくとも、にくからず思う程度には好感度を持っていてくれて、結構楽しく会話がはずんだりする幸せな場面を思い浮かべては、『何調子に乗ってんだ! 身の程を知れこのばか野郎!』とそんな想像をしてしまった自分を罵る。
しかしこんな恥ずかしい思考を何度も堂々巡りしてしまうのも郁子なるかな。
恋をした思春期の男子と言うのは、若干気持ち悪くなるのである。
「すがく~ん」
そんないじり甲斐のある後輩を目にして、我らが親愛なる元部長が放っておくわけがない。
「なぁにそんなそわそわしちゃって? そんなに愛しの鶴田さんに会えるのが楽しみなの?」
口元をわざとらしく抑えて『ウフフ♪』なんて言っている久に対し、京太郎は
「は? 当ったり前じゃないですか。好きな人に会えるってのにそれが平常心保っていられますかってんです」
「お、おぅ………」
毅然とした態度で言いきられ、茶化した久の方が面食らう。
「な、なんだかずいぶん言い切るわね」
「姫子さんを好きなこの気持ちに恥じるところなんて一切ありません」
「なんでこういう時だけめっちゃイケメンなの須賀くん?」
カウンターを受けた久がたじろぎつつ自分の席に戻る。
京太郎は「こういう時だけってなんだよ……」と釈然としない様子であったが、また目を瞑ってそわそわする作業に戻った。
(須賀君めっちゃそわそわしてるね)
(そわそわ って字が背後に見えるみたいだぜ)
(ざわ……ざわ…… に変えてみる?)
(どうやるんだよ)
寝るに寝られない京太郎を眺めて面白がっていた龍門渕の面々の内、智紀が京太郎の肩を揺らす。
「須賀君須賀君、起きてる?」
「えっ、あ、はい。どうかしましたか?」
そこで智紀が手にした携帯に目を落とし、
「新道寺から連絡。急な用事で学校全体で参加できなくなったって」
その瞬間、比喩でも何でもなく京太郎という存在が、周囲の空間空間を巻き込んで
『ぐにゃあぁ~~~~……』となった。
「あああっ…………!」
悲嘆にくれ始めた京太郎を見て、慌てて純たちがフォローに入る。
「待て待て! 須賀、落ち着け! 嘘だから! 智紀の冗談だから!?」
嘘であることが分かると、京太郎の輪郭は次第に落ち着きを取り戻し、冷や汗を大いに流しながら息を吐く。
「ごめんごめん、須賀くん。ほら、智紀も謝って」
「フヒヒ、サーセンw」
パシィン! と智紀の頭から小気味のいい音が鳴る。
純に頭を引っ叩かれた智紀は頭を押さえながら元の席に連れていかれた。
「まったく……何なんだみんなして」
予定外に疲れながら、京太郎は目を瞑るのだった。
午後10時24分
奈良県越部駅
「はぁ~~~やっと着いた…………」
案の定ダウンした優希や衣を背負うメンバーを含み、3校の生徒たちが皆駅で降りる。
「さっむ!」
山から吹き下ろす11月の風が、容赦なく全身を冷やす。
急いで駅のホームを後にし、送迎車が待っているはずの駅前に出る。
「おー、でっけ………」
『松実館』と書かれた車が、2台泊まっていた。
「中型車……あ、規格が変わったから準中型車だっけ?」
「何人乗りだし?」
「運転手入れて11人のはずだな」
「流石教習所行ってるだけはある」
中々個人では所有されないサイズの車に興味を示した面々が言葉を交わす。
そうしている間にも風は止んでくれないので、急いで分乗する。
「じゃあ10人ずつ……あれ? たりない?」
「え?」
清澄: レギュラー5名+京太郎 = 6人
龍門渕: レギュラー5名+ハギヨシ = 6人
風越: レギュラー5名+二軍上位4名 = 9人
計21名
「……………」
自然と、全員の目が京太郎とハギヨシのお手伝い要員2名に向けられる。
「ぬかったわ……11人バスに運転手が含まれるのを失念していたわ」
「阿呆」
頭を押さえる久に、まこの容赦ないツッコミが刺さる。
「衣ちゃんと優希ちゃんなら膝の上に乗っけて抱えるとか……」
「大荷物は後ろに乗っけられるけど、手荷物サイズは各自持たなきゃならないし、スペース的に難しいね」
「てか一応今は後部座席でも全員シートベルトしないと道交法違反だし、夜中の山道だしあぶねーだろ」
「須賀君……」
「ハギヨシさん……」
京太郎とハギヨシは何も言わずとも心を通じ合わせ、
「「最初はグー! じゃんけんポン!」」
京太郎:パー
ハギヨシ:チョキ
「んんんんんんんんん!!」
開かれた己が掌を睨み付けて、唇を噛み締めながら唸る。
「済みません須賀君。ブランケットを2枚置いていくので、どうかこれで耐えてくれると……」
「ああ、大丈夫です。往復で20分程度なら耐えられると思いますし……。ほら、優希起きろー。車乗るぞー」
寝ぼけ眼の優希はまこたちに任せ、申し訳なさそうにする面々を手を振って見送りながら、京太郎は外灯がぽつんと一つだけある無人駅の前にあるベンチに座った。
「お、思ったより寒い……」
さぁてそこらの自販機で暖かいコーヒーでも買うかと思ったら、残念ながらそんなものは無い。
侮るなかれ奈良県の特急電車が止まらない駅。
「し、しんどい……」
電車の中でろくに眠れなかったうえ、この気温は頭が痺れる。
息をするたびに、胸筋から喉にかけて嫌な震えが生じる。
京太郎はそのうち睡魔と戦うので手いっぱいになった。
『……わ、寒……』
『はや……行……しょ……』
『送迎……まだ……』
背後の駅から聞こえてくる声にも、頭が働かない。
ふらつく体をやじろべえの様に保つのが精一杯になっていた頃。
『あれ……須……』
『ほんとだ……賀君……』
ポンポン ポンポン
誰かに肩を叩かれて、はっとする。
「あの………須賀君……大丈夫……?」
姫子が、京太郎の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「あ…………」
瞬間、意識が覚醒する。
「須賀君、お久しぶりですね」
「旅館に着く前に会うとは思わんかったわ」
姫子の後ろから、煌と哩が顔を覗かせ、
『え? 部長の彼氏しゃん!?』
『え、部長のこと待っとったと?』
『この寒い中部長に会うために!』
初めて京太郎を見る二軍部員は色めき立っている。
「そこ! しゃあしか!
………えっと、須賀くんは、何で一人で?
清澄の人達は?」
姫子は姦しい後輩たちを一括すると、京太郎に向けて質問する。
「えっと、しょうもないことに………」
京太郎は計算ミスで一人分送迎車の席が足らず、じゃんけんに負けて寂しくここで次の車を待つ羽目になったことを説明した。
「鬼か!」
「こん寒空で一人待つってどげん虐めばい」
『部長。彼氏しゃん温めてあげましょうよ、人肌で』
「凍死するわ!」
「ははは……」
何と反応すればいいのかわからない京太郎は、曖昧に笑ってごまかす。
「えっと、須賀くん………」
姫子は少し逡巡した後、ペットボトルカバーで包んだボトルを京太郎の方に差し出した。
「ぬくかやつばってん、飲む?」
「え………」
『間接キス! 間接キスばい!』
『部長ってば大胆!』
「黙りんしゃい! えっと、須賀くん、寒そうやし……よかったら思うて……」
「えっと……」
京太郎は大いに悩んだ。
ここで素直に「はいいただきます」と言っていいものだろうか。
姫子の純粋な心遣いはもちろんうれしい。
だが後ろの部員さん達が言ったように、間接キスであることも事実。この状況でわずかながら下心を持ってしまう京太郎を誰が責められよう?
さながら下心を自覚してしまった京太郎は、果たしてこれを受け取っていいのだろうか。
「は、早う飲みんしゃい!」
姫子はそんな京太郎の葛藤を見透かしたかのように、ボトルを手に押し付けてくる。
こっちも恥ずかしいのだから早くしろと言わんばかりの態度に、京太郎も飲まざるを得なくなる。
「い、いただきます……」
出来るだけ、口をつける面積を小さくするようにして、京太郎は何口かお茶を飲んだ。
「ありがとうございます……」
「ん……よか……」
ビュウ!
「寒っむ!」
その時、ひときわ強い風が吹いて、その場にいた全員が悲鳴を上げた。
「あ、ブランケット2枚あるんで、よかったら誰か使いますか?」
「い、いや、須賀君ん方がずっと待っとって寒かやろ。自分で使いんしゃい」
京太郎が使っていたブランケットを2枚とも誰かに譲ろうとすると、姫子が欲しそうにしつつも断る。
「いや姫子、お言葉に甘えよう。須賀君それ片方貸して」
「は、はい」
仁美が前に出て、ブランケットを片方貰う。
「まずこれを姫子の肩に掛くる」
「え?」
そして貰ったブランケットを姫子に掛け、
「そして姫子ば須賀君ん隣に座らしぇます。須賀君、そっちに詰めて」
「は、はい」
「え?」
「はい完成。見よーだけでぬくうなるのう」
仲良くブランケットを掛けて並ぶ二人を見て、他全員がにやにやと笑みを浮かべる。
「ああ、なんか温こうなってきたっちゃんおじいさん」
「奇遇ばいな、わしもばいじゃばあさん」
「やかましか!」
プップー!
その時、送迎車が丁度戻ってきた。
一刻も早く室内に避難したいため、みんなが我先にと乗車した結果。
「あ、あれ?」
残されていたのは、最後尾の二人席のみ。
「須賀君と姫子は一緒に座りんしゃい」
「な、何で手前から座るっちゃん!?
普通奥からやろ!」
『ぶちょー、はようしてくださいー』
『寒いですー』
「むぐぐ……!」
姫子は唇を噛んで唸ったが、実際早くしないと運転手さんにも迷惑なので、仕方なく奥の席に座る。
「し、失礼します……」
「い、いちいち言わんでよかばい」
京太郎も出来るだけ体を小さくして、その隣に座る。
『発車しまーす』
そうしてやっと車が動き出す。
車内は暖房が利いていて、京太郎も安堵のため息を漏らす。
「あーあったけぇ……」
「あ、ブランケットありがとうね。返すわ」
「いえ、いいですよ。旅館着くまでお貸しします」
「そう?」
姫子も言葉に甘えて、ブランケットを被る。
そして数分、互いに無言の時間が過ぎる。
「う…………」
うつら、うつら と、舟をこいでは目を覚ます京太郎。
「眠い?」
「すいません、急に温かくなったら眠気が……」
「寝とってよかばい。着いたら起こすけん」
「あ、じゃあすいません……」
来る途中も眠れなかった京太郎は、そのまま眠りに落ちる。
「……………」
することもなくなった姫子は、なんとなく京太郎の寝顔をずっと見ていた。
こんなに体は大きくて、でも年下で、料理が上手で………自分のことを、本気で好きな男の子。
(まずか、本気で恥ずかしか)
そこまで考えて、つい目を逸らしてしまう。
しかし夜の山道より車内の方が明るく、窓は車内のみを反射して外はろくに見えない。結局、自分の横にいる京太郎が映って見えてしまう。
「……………」
こうして京太郎の横にいることに、何の不快感も覚えていない。
若干のむず痒さはあるが、不快ではない。むしろ、もう少しこうしてゆっくり京太郎を眺めたいと思っている自分がいる。
ガクン
「わっ?」
車が大きなカーブを曲がった拍子に、京太郎の身体が姫子の方へ傾く。
丁度二人の肩から肘が触れ合う。
京太郎はすでに深く眠ってしまっているため、傾いたまま起き上がらない。
(なんか……)
しかし意外にも、肩越しに京太郎の熱は感じない。
互いに厚着なせいか、布地の感触くらいしかわからない。
京太郎の息遣いを感じる、京太郎の匂いが伝わってくる。
でもそこには人肌の温もりがない。
(なんか……残念、って、何が!?)
もっと左肩に感じる熱があればよかったのにと思っている自分に気付き、姫子は思考を無理やり引き戻した。
でも、京太郎が気付いていない今はちょっとだけ、いや、もっと近寄ってみたくて。
ブランケットを握る力が緩んだ京太郎の手を、自分の左手でそっと握り締めた。
体が温まり始めたことで、ドクドクと血が通っているのを感じるが、まだ冷たい。
右手も使って包み込むと、ようやくぬくもりを感じる。
(この手で、握り締められて………)
4か月近く前、自分はこの両手に手を握り締められて、京太郎に熱烈な求愛をされたのだ。
そう思うと、胸に心地よい温もりが広がった。
(また、握り締めてほしか……)
この大きな手に、また触れたい。触れてもらいたい。
京太郎の方に体重をかけながら、姫子はそう願った。
「あ………」
そうしていられたのは、ほんの2,3分。
車が減速し、松実館の看板が見える。
名残惜しさを感じながら、姫子は佇まいを直した。
(次はいつやろ………)
起きている彼に面と向かって頼むのは、まだまだ恥ずかしくて出来ないけど。
また、この手に触れたいなと恋焦がれながら、姫子は京太郎を起こす。
彼が目を覚ました時、『こっちに倒れてきてびっくりしたばい』と、何でもないようにケラケラ笑って見せて、今はまだ、年上のお姉さんみたいな余裕を見せることにして。
今回はこれでおしまい。
人生最後の春休みの終わりを目前にして色々創作意欲が湧いて来たよ。
今回からこっちの話にもアカウント持っていない人でも感想書けるようにしたから、
どしどし送ってね。
それだけ次の話が早く来ます。