いろはさんたちと会った次の日から、私は万々歳でアルバイトをしていた。注文を受けては配膳するの繰り返しで毎日へとへとだった。ある日、朝の開店準備を終えた時に自室に戻ったら鶴乃さんが話しかけた。
「ゆきちゃん。バイトはどう?」
「あ、鶴乃さん。アルバイトって疲れますね。」
「そのうち楽しさがわかるよ。もっと頑張ろう。」
「…はい。」
正直に言って働きたくない。あくまで黒羽根たちやマギウスから隠れるためにバイトをしてるだけで仕事する必要はないと思う。私は何のためにアルバイトしてんだろう。
「はぁ…ここから出たくない。いっそのことサボろう。」
私はサボるために二度寝した。
一方、鶴乃たちは…。
「そろそろ開店時間だね。鍵開けるよ!」
鶴乃の声が部屋中に響いた。
「おう、頼んだぞ。」
奥の調理室から聞こえた声は鶴乃の父親だ。今日も万々歳はいつもどうり開店する。父親の了解を得て鶴乃はドアを開けた。
「んー、今日も全力で頑張るぞー!」
青空に向かって気持ちよく叫んだ。そして、大きく背伸びした。
「鶴乃ー、ちょっと手伝ってくれ。」
「はーい。」
鶴乃の朝のルーティンを終えて父親を手伝いに調理室に向かった。
「フェリシアちゃんとゆきちゃんを起こしてきなさい。」
「ゆきちゃんはもう起きてるよ。降りてきてないの?」
「いや、みてないな。二度寝でもしてるんじゃないか?」
「とりあえず、起こしにいってくる。」
鶴乃は二人がいる二階に上がった。
「………。」
私は目を開けた。目覚まし時計を見たら午前9時を差していた。
「…よく寝た。」
二度寝したからぐっすり眠れた。起きたついでにスマホでゲームしよう、と思ったらドアが開いた。
「ゆきちゃん、そろそろ仕事だよ。今日も気合い入れよー!」
…毎日こうやって私を呼ぶ。声がでかいのですぐ起きてしまう。関わると面倒だから適当に具合が悪い、て言えば休ませてくれるかな?
「鶴乃さん。」
「どうしたの?ゆきちゃん。」
「今日は朝から頭が痛くて…。」
「え?大丈夫?」
「い…いや…うぅぅぅ…。」
「! 今日は休んでいいよ。安静にしててね。」
そう言って鶴乃さんは部屋を出ていった。案外単純だったのでかえって申し訳ないが休めるならいいか。
「さぁて、ゲームしよっと。」
私はスマホでゲームをし始めた。しかし、
「おう、ゆき、一緒にアルバイトしよーぜ!」
あ、うるさい人がもう一人いた。深月フェリシアさんだ。紫の髪で長すぎるツインテールをしている鶴乃さん並みにめんどくさい万々歳のアルバイト店員だ。
「フェリシアさん。」
「なぁなぁ、早くしよーぜ。今日働かないと賄い抜きにされちまうよ。」
「ごめんなさいフェリシアさん、今ちょっと…くっ…。」
「おい、大丈夫か。」
「…今日は休みます。鶴乃さんにはもう言ったので。」
「お、おう。」
フェリシアさんは暗い顔をして部屋を出た。
「やっと一人になれた。」
ついにスマホでゲームする時間がとれた。しばらくログインできなかったけどどうなっているんだろう。そう思いながらゲームした。
気付かないうちに、夜まで遊んでしまった。フェント・ホープにいた頃はずっと姉さんに付きっきりだったから遊ぶ時間もなかったし、いろんな新機能があって夢中になりすぎた。
「さて、そろそろ寝ようかな。」
壁掛け時計は21:00を差していた。明日も理由つけてサボろう。そう思って寝ようとした瞬間に、
「縺�m縺ッ」
不思議な音が聞こえた。部屋中を見渡しても何もなかった。
「落ち着かないなぁ。」
私は窓を開けて夜空を見て気持ちをリラックスしようとした。
「ん、なにあれ。」
ひらひらとちいさい光が漂っている。すると、その光が私のところにせまってきた。
「これは、蝶々?」
光の正体は蝶だった。でも、なぜ蝶が光ってるのだろう?そもそもここには蝶はいないはずなのに。
私は手を伸ばした。すると、突然蝶は逃げていった。
「待って!」
あまりに珍しかったので寝間着のまま追いかけた。
商店街や家の間を通って追ってきたらやっと蝶が大人しくなった。
「や…やっとだ。」
「繝昴ャ繧ュ繝シ」
「ん?」
またこの音だ。と思った矢先、蝶が襲いかかってきた。
「!」
とっさに魔法少女に変身した。私は蝶に向かって音波を放った。そしたらすぐに消えた。
「ふん、なんともありません。」
強がったが暗闇からまだ来る。1匹、2匹、数えられないくらい多くの蝶が群がって私に突進してくる。
「群がっても無駄!もっと強いの行きます。」
「縺翫▲縺ア縺�」
今度は両手で音波を放った。たちまち蝶は落ちていった。
「ふふん、まだまだ行けますよ。」
第二波が来た。光る蝶がさっきよりもより多くやって来た。
「もう一発、喰らいなさい!」
気合いを入れてもっと強力な一撃を放った。
「はぁぁ!」
蝶は一部を残して空高く翔び、急降下して私の体に張り付いた。
「この!近づかないで!」
私は蝶を手で振り払ったが、その間に蝶が身体中にとまった。そして、ホタルのような強い光を出した。
「うぅ、熱い…。」
ヒーターの中にいるような熱さだ。耐えられそうにない。力もどんどん入らなくなって地に足をつけてしまった。その時、
「まさかこんなところにいるとはな。これは昇格待ったなしだな。」
「うそ、なんで。」
暗闇からやって来たのは黒羽根だった。でも、私からすると不思議だった。黒羽根たちはホテルフェント・ホープの防衛のために街にはでないようにしているって姉さんは言ってたのになぜここにいるのか。そして、なぜ私の居場所がわかったのだろう。
「さて、フェント・ホープに戻れ。さもなくば仲間をやるぞ。」
仲間がいることもわかっている?
「あなた、なんでそんなに知っているの?」
「この蝶が教えてくれたのさ。」
「蝶?」
「この蝶はお前だけを追うだけに存在する“ウワサ”なんだ。」
「“ウワサ”?何ですかそれ?」
「そんなもの知る必要あるか?私はマギウスのお三方からこの“ウワサ”をつかっていいからお前を連れてこい、報酬は昇格だ、と仰せたので快く受けただけだ。」
マギウスは本気で私を捕まえる、ということか。
「私を連れてったってなんの利益はないです。むしろ、あなたは姉さんに消されますよ。」
「ほう、私が殺される、と?」
「そうです。」
「言い逃れするんだったらもっとマシな嘘をつけよ。まあ、逃がしはしないがな。」
私は知っている。姉さんがいままで黒羽根に何をしたのかを。姉さんのアトリエにきた黒羽根たちは容赦なくソウルジェムを砕かれる。こんな恐ろしい光景を何度も見たからわかる。
「信じてください!あなたは姉さんに騙されている。」
「あのさ、姉さん、って誰のことだよ。」
「アリナ・グレイです。」
「アリナ様?冗談言うなよ。妹なんていないぞ。」
「え?」
「そもそも、この依頼はねむ様から行き受けたのだ。アリナ様は関係ないだろう。というかあんた誰?」
冗談であってほしかった。仮にもマギウスの一人だったのに数週間で忘れ去られているなんて。でも、逆にそうあってくれて良かったと思った。
「どういうことですか?」
複雑な気持ちになりながら訊いた。
「どういうことって…。」
質問に答えようとした時に、暗闇から足音が聞こえた。
「てりゃーーーー!」
気合いの入った声で上空から大きな剣が現れ、一思いに黒羽根の背中を叩き切った。
「ぐはぁ…。」
黒羽根は膝をついて倒れた。
「大丈夫か。」
露出の激しい黄色の髪の魔法少女が悪い意味であまりにも絶妙なタイミングで助けてくれた。
「あなたは?」
「❬十咎ももこ❭。神浜の魔法少女だよ。」