3人の雰囲気が突然変わった。
アークとゼンはツカサを警戒するように、ツカサは何かを企むかのように笑う。
「おいおい、そんなに警戒するなよ」
「別に警戒なんて……」
「ゼンくん」
何かを言いかけたゼンをアークが制止する。
「それより、そっちこそなにしてん。あんたみたいな人がここに居る方がおかしいってもんやろ」
しかし張り詰める空気は変わらなかった。
ツカサはここに縁こそはあるものの自ら進んで足を運ばない。それはここにいる誰もがそう思っている。
「はっ。そんなの聞いたところで何になる? 別にお前らには関係な──」
「ツカサ!」
そこに、一際大きな声が響く。
他人から見ても緊張の走っていた空気を打ち破ったのは、第三者の人物──遅れてやって来たナナセ・コウイチだった。
全力で走ってきたのだろう、コウイチは息を切らしながらガンダムベースに駆け込んできた。
「はぁ、はぁっ……! ツカサ──ってあれ?」
そこでコウイチはその場の妙な雰囲気に気付く。
気付くというか、ツカサがアークとゼンを睨むように見ていたのを、コウイチがおかしいと思ったのだ。
そう思ったコウイチの行動は早かった。
「ばか……お前っ。す、すいませんお客様! こいつが何かしたなら謝りますので、どうか──」
グイ、とツカサの頭を鷲掴み下げたのだ。
「……俺は何もしてねぇ!」
頭を捕まれ無理矢理下げられたツカサはイライラしながらその腕を振り払う。
それもそのはず。ツカサは実際コウイチが思ったようなことはしてないのだ。
「はぁ!? だって変な空気だっただろ! お前、絶対なにかやっただろ!」
「挨拶しただけだっつーの! 変に捉えたのはお前だ!」
コウイチとツカサの言い合いがヒートアップしていく。アークとゼン、そしてサラはその様子を見ることしか出来ずに眺めていた。
当然、言い合いをしているから声は大きい。ガンダムベースに来ている何人かの客はチラチラと2人の方を見ていたりもする。
その声はその場に居るもう1人の店員の耳にも届いていたようで……。
「ちょっと! 騒がしいと思って来てみたらなんで2人で喧嘩してるの!!」
声に気付いたナナミが見るからに不機嫌な様子でやって来た。
「いやこれは──」
「お兄ちゃんもツカサさんも、ちゃんと仕事して!!」
有無を言わさない程の剣幕で2人を怒鳴るナナミ。
そんなナナミ達をアーク達はやはり、ただ眺めることしか出来なかった。
『……疲れた、帰る……』
ナナミの説教後にツカサはそう言って店を出ていった。
慣れないことをした反動の疲れと説教による謎の疲れが重なったことによるものだろう。
その足取りはとてもフラフラとしていて、どれだけの疲れかが目に見えて分かった。
そんな自分の親友の状態に対しコウイチは「明日には治る」と言いすぎたと反省するナナミに言っていた。
「な、なんや……あのシバでもあんな顔するんやな……」
「う、うん。意外……というか凄かったね」
「こ、こほん!」
驚く2人にコウイチが一つ咳払いをし話しかける。
「ご、ごめんな君達……というか
アークがツカサのことを「シバ」と呼んだのを聞き逃さなかったコウイチはそのことを確かめるべく質問をしたのだ。
それを聞かれたアークとゼンは少し答えに悩むように考え込む。
「知り合いっちゃあ知り合いやけど……」
「まぁ、ただ知り合いってだけかな」
「そっか……」
苦笑い気味に言われる。
きっと向こうにも言いづらい事情があるのだろうと察したコウイチはそれ以上聞くのをやめた。
そこで思い出したように自分は店員、相手はお客様ということを認識する。
「あっ……と、取り敢えずごめん! あいつのせいで変な時間使わせちゃって! えーと、本日はどんな要件で?」
「要件っちゅーか……」
その言葉にアークはコウイチの後ろ──机の上に立つサラと目を合わせながらこう言った。
「サラと会ってみたくて、な」
「ふふっ」
そのアークの言葉にサラはどこか嬉しそうに微笑む。
「?」
そんな2人にコウイチは首を傾げていたのだった。
コウイチは2人がいつ知り合ったのか、どういった経緯なのかをアークから掻い摘んで聞いていた。
「──成程。あの時にアークくんとサラちゃんは出会ったんだね」
2人が出会ったのはサラがELダイバーとして身を追われていたあの頃。リクやコウイチ達のフォース“ビルドダイバーズ”のフォースネストから去り、運営の手から逃げていたあの時だ。
サラはそんなある日に寝ているところをたまたまアークに見つけられたらしい。
「うん。今でも『ちゃうねん』は覚えてる」
「いや、だからそれはちゃうね──違うんだって」
楽しそうに笑うサラと頭を抱えるアークは何だかんだ見てて楽しそうに思える。
「それに──」
「ん?」
サラはアークから視線をずらし、今度はゼンを見る。
「ゼンのことも、私は覚えてるよ」
「え? 俺?」
サラとは真逆に身に覚えがないような声をゼンは上げる。
「あの時は悲しそうにしてたから……あまりゼンは覚えてないだけかもしれない……」
「あの時……あっ」
その言葉でゼンもいつサラと会ったのかを思い出したようだ。
「でも今は違う。とっても、いい表情してる……2人とも」
何かを問いかけるように言う。
そのサラの言葉にアークが少し笑い、反応をした。
「ははっ! それはサラもやろ」
「私も……?」
アークは一呼吸置いて話す。
「あの時の俺らはお互いに大切なんが欠けてた。だけど、俺もサラもその後に繋がれたんやろ? 大切な人達と」
アークは今でもあの時サラに言われた言葉を覚えている。
それは一生忘れることのない言葉だろう。
「『本当に会いたい気持ちを込めれば必ず繋がってくれる』サラが言った通りホンマにあの後ゼンくんと俺は会えた。それはサラもやった」
第二次有志連合戦のきっかけとなったあのリクのメッセージはサラの思いが届いた結果でもあるだろう。
「今は1人じゃない。それが俺達もサラも、いい表情をしてる理由なんやないか?」
そのアークの言葉にサラは少し驚いたように口を開けている。
「そう、だね。私もリク達と繋がれてとても嬉しかった、だから自然と……ふふっ」
「はははっ!」
2人は同時に笑い出す。
それはきっと、2人にしか分からない感情なのかもしれない。
しかし、その瞬間の2人はサラの言ったように、アークの言ったように、とてもいい表情をしていた。