ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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根回し下準備、そして……な回です。
何とか毎日更新に間に合わせる事が出来ました。

それと、活動報告にてコクヨウに食べさせたい御飯ネタを募集するスレを作成しました。
宜しければ、ネタをお恵み下さい……御飯ネタって割と枯渇が早いのですじゃ……。

あ、質問スレも作りましたので質問ありましたらそちらもどうぞ。


14.根回し&領主との会談

 

 シナバーさんという心強い味方に改めて協力を要請し、了承をもらったボクが領主との会談までに行った事。

 幾つかあるのだけれども、まずにしたのが徴税官との話し合いだ。

 

 どんな具合に話し合いをしたかと言うと……。

 

 

 

 

「確かに我々としては、人頭税を……言ってみれば農夫の方々に負担をさせるのみの冒険者について、歯噛みした事が無いとは言いません。ですが……」

 

「直接冒険者達に徴税をするには人手が足りず、また血の気が多い人物も多いから徴税官の人達の身の危険もある。そういう事ですよね」

 

「ええ、お恥ずかしながら……」

 

 

 アクセリアさんから教えてもらった、徴税官の人が贔屓にしてるというちょっとお洒落なお食事処。

 そんなお店で、ボクはシナバーさんに隣で控えておいてもらいつつ、アクセリアさんから紹介された徴税官の人と冒険者からの収税についての現状の再確認と……収税を担当している人からの意見を確認する。

 更に、徴税官の人は声を潜めて情報を教えてくれた。

 

 

「正直に言えば町の住民の方の冒険者への印象はそれほど良くありません、無論依頼という形で誠実にこなしているモノが居るにはいるのですが。それ以上に日々を気ままに過ごしているだけの破落戸への、住民の視線は厳しいモノです」

 

「……犯罪者一歩手前、スラムに住み着く状態になった冒険者の扱いはどこの街も難儀しているからな」

 

 

 収税者という視点からの冒険者という存在への意見だから、偏ったモノの見方であるにはあるんだろうけども。

 それでも、真面目に税を納めている人たちを見ている徴税官だからこそ、厳しい物言いになるのかもしれない。

 しみじみと呟いたシナバーさんの言葉に、深く頷いて同意を示してるしね。

 

 しかし、うーん。こうやって話している感じ、それに態度から見ても。

 前世の中世における徴税官は、言ってみれば汚職横領をやろうと思えば出来るからそんな気配がするのかと思いきや、そんな様子が見て取れないんだよね。

 尻尾をゆらゆらさせながら考え込んでいるボクの気配を察したのか、シナバーさんが口を開く。

 

 

「しかし、失礼を承知で言わせてもらうが……随分と清廉潔白だな? こう言っては何だが、他の領地の徴税官は高圧的な上に常に賄賂を要求してきたもんだが」

 

「はっはっは、はっきりと仰られる御仁ですな。そんなのは簡単ですよ、不当に税を取られた市民や農夫はまず誰に相談しますかな?」

 

「この街ならば神殿……ああなるほどな、ましてやここの神官達に袖の下渡そうモノなら説教されかねないしな」

 

 

 そういう事ですよ、などと笑みを浮かべて肩をすくめる徴税官。

 この街の歴史を書庫にある本から読んだ際にも、まずは神殿が建てられてそこから拡がる形で街が作られていったってあったから、この街の生活の中心は言葉通りセントへレア神殿なんだなぁ。

 

 

「こほん、まぁともあれ。冒険者達から楽に税を徴収できるのならそれに越した事はない、というのが私……いえ。我々の総意と思って頂いて差支えありません」

 

「わかりました、貴重なお時間を割いて頂き。誠にありがとうございます」

 

「構いませんとも。おお、話し込んでいる内に料理も来たみたいですな、ここの山鳥のローストは絶品ですぞ」

 

 

 貴重な話をしてくれた徴税官さんへ笑顔でお礼を述べれば、徴税官さんはボクの手を握りながら笑みを浮かべております。

 さわさわと擦られて尻尾が総毛だってしまったけど我慢です、シナバーさんから圧力を一瞬感じたと思ったら名残惜しそうにしながら離してくれたしね。

 

 あ、ローストは言うだけあって最高でした。ぱりぱりに焼き上げられた皮の下にはジューシィなお肉、さらに香草と一緒に焼き上げられた事でスパイシーな美味しさ抜群だったよ。

 

 

 

 こんな具合に、割と円満に話し合いする事が出来た。

 TRPGをやっていた時は冒険者の視点だったから税の徴収とかはふざけんな案件だったけども、こうやって色々と見てみるとむしろ恵まれているのだなぁ。って思う。

 そうやって考えてしまうあたりに、自分が汚れてしまった感を感じるけども。それでも迷いは一端横に置いて前に進むのだ。

 

 そんなこんなで、徴税官の人との話し合いが終わったら、次は酒造所……ではなくドグさんとの打ち合わせなのだ。

 酒造所については、むしろ領主との話し合いを成功させた段階で行くべきだと改めて判断したのだ、空手形発行してダメでした。では色々と問題あるしね。

 というわけで臨んだ、ドグさんとの打ち合わせだけども……。

 

 

 

 

「おう嬢ちゃんじゃねぇか、ギグから聞いたがまたなんぞ始めるんだって?」

 

「はい、その件で色々と顔が広いドグさんのお力を借りたくて……」

 

「構わねぇぞ、なんたってお嬢ちゃんの持ち込んだ服のおかげで職人皆大忙しで懐ホカホカだからな!」

 

 

 居眠り狐亭の奥の小部屋にて、度数のキツそうなお酒が入ったジョッキの中身をぐびぐび飲みながらドグさんは上機嫌にガハハと笑っている。

 ちなみにボクの飲み物は相変わらずジュースです、お酒にも興味が無いとは言わないけども……それほど飲みたいとは思わないのだ。

 

 

「実は、冒険者が集まる酒場の店主さん達をまとめる組合……と言わないまでも、寄合の設立を考えていまして」

 

「随分とでかい話じゃねぇか、目的は冒険者共に首輪をつけるってところか?」

 

「目的はソレに近いです、やはりそちらでも冒険者の人達の行動は問題になっていますか?」

 

 

 ジュースを一口喉へ流し込み、ポリポリとナッツを齧りながらドグさんの様子を窺う。

 ドグさんの気配には、冒険者達にいら立っていると言うよりも、顧客として扱う職人としての態度と無理をする子供への心配が入り混じっているような様子だ。

 

 

「そう言うわけじゃねぇな、むしろアイツらは俺達が作った武具や道具を購入するお得意様だ。まぁ中には支払い踏み倒そうとするふてぇ野郎もいるが……」

 

「そんな人もいるんですね……」

 

「おうよ、だけどそんなのは一握りだしそう言うのはすぐに依頼も受けれなくなってスラム行きだ」

 

 

 アレはアレで問題事の種火だし、衛兵の手が回らなくなる原因だから困ったもんだけどよ。とぼやいてジョッキの中身を飲み干し。

 既にキープしていた二杯目のジョッキに、ドグさんは手を付け始める。

 

 

「どちらかと言えば、碌に剣を振ったこともねぇガキが目ぇキラキラさせて冒険に飛び出て。そのまま帰って来ねぇことの方が堪えるなぁ」

 

 

 しんみりと、豪放磊落という言葉を絵にかいた人物のようなドグさんが遣る瀬無さそうに呟く。

 この様子だと少なくない数の若者を見送ってきたんだと推測できるけども、その事を問う勇気はボクにはなかった。

 

 

「ボクが作ろうとしている寄合の目的は、冒険者の人達の実力や情報を管理する場所の作成です」

 

「……詳しく聞こうか、嬢ちゃん。いや……巫女殿」

 

 

 ボクが放った言葉にドグさんが纏う雰囲気が変わり、世間知らずの小娘という扱いから神殿からの任を受けて動いているコクヨウを見る目に変わる。

 ソレだけで、ドグさんが本気になったという証明である事がわかるね。

 

 

「今はあちこちの酒場でしか冒険者の人の実力を把握していない状態で、店主さん達の好意で依頼の割り当てや無謀な仕事の差し止めをしてもらっています」

 

「そうだな、この酒場はまぁそこそこ駆け出しのヒヨッコが無茶やろうとしたら、あの親父が仕事受けるのを認めていないが……店によってはそのまま任せたりしているしな」

 

「はい、基準の制定とかは厳密な審査が必要ですけども。真面目に依頼を達成する冒険者への明確な立場の保証や、時に剥奪などを行い。依頼を集めて各酒場へ振り分ける寄合があれば……」

 

「……少なくとも無茶な仕事で死ぬガキは減るな、それに。冒険者に向かない連中の割り出しも出来る」

 

 

 現状での酒場と冒険者の関係、それについての認識をドグさんと再確認しあった上で。

 作ろうとしている寄合の目的の一つを告げれば、どこか遠くを見るような顔で帰ってこなかったであろう駆け出し冒険者を思い出す様子を見せながら、ボクの言葉に頷いて見せる。

 

 

「だがよ、そんな寄合を作るだけじゃ酒場の店主は手伝おうとしねぇぜ? ソレについての酒場への甘い汁の用意はあるのか?」

 

「……数日後、領主と今回の行動について話し合ったうえで許可をもらえれば。作る予定の寄合に参加している酒場へ、格安で食材とお酒を卸してもらいます」

 

「待て、口で言うのは簡単だが……おい、まさか」

 

「はい、寄合で一括購入する事で安く調達すれば仕入れ値をかなり下げれます。そして、その一括購入の信用を神殿で担保します」

 

 

 ボクの言葉に、ドグさんが口をパクパクと開き絶句する。

 そして、手に持ったジョッキを一気に傾けて飲み干して机へ叩きつける。

 

 

「コクヨウ、おめぇ実は獣人の皮被ったドワーフだろ? そこまで頑固一徹に目標の為にがむしゃらになるヤツなんて早々いねーぞ」

 

「ダメ、でしょうか?……寄合の責任者を張れる人を、ドグさんの伝手でお願いしたいところなのですが」

 

「ダメなものか、むしろ気に入った!とびっきりのタフなヤツを探しておいてやる!」

 

 

 お前がドワーフだったら孫息子の嫁に来てもらったんだがよぉ!などと上機嫌にゲラゲラ笑うドグさん。

 

 

「問題は大金が動く話なので、領主の許可が要る上に空約束するわけにもいけないので、酒造所とかにはまだ話していません」

 

「……まぁ、わかるけどよぉ。ともあれ任せておけ、お前が領主と話を付けられたらこっちは最大限手伝ってやる」

 

 

 

 

 こんな具合にまとめる事が出来た。

 面倒なやり取りを嫌う人だからこそ、真正面からぶち当たったんだけどどうやら大成功な様子だね。

 

 ここまでが、領主と会談するまでの前段階。

 そして……。

 

 

「領主様からの使いで参りました、セントへレア神殿巫女のコクヨウ様ですね……そちらの御方は?」

 

「はい、よろしくお願いします。こちらは護衛でありボクの補助をしてくれているシナバーさんです」

 

「なるほど、お話は聞いております。こちらへどうぞ」

 

 

 徴税官さんとドグさんとの話し合いを終えて暫く経ったある日、神殿長が出してくれた文からの返事にあった会談の日の事。

 神殿の前にある広場にて、紋章入りの立派な馬車……ならぬ兎車が待機していました。

 

 領主の使いの方の……清潔かつ清楚な印象を与える侍女服に身を包んだ、エルフの美女がボクを確認し……。

 続いて隣に立っているシナバーさんへ視線を向けて誰何の声を上げたので答えたところ、神殿長が文で伝達済みだったのか同行を拒否する事なく兎車へと案内される。

 そしてガタガタゴトゴトと、馬車の中にあった上等な椅子に座って揺られる事しばしの後、セントへレアの街の近くにある小高い丘の上にあるお屋敷へと到着する。

 

 

「き、緊張してきた……」

 

「なぁに、なるようになるさ」

 

 

 この世界において、神殿長とは別の意味での権力者との初の対面が待ち受けている事実に、今更ボクの心臓はドキドキと音を立て始め。

 耳はピコピコ、尻尾はふらふらと忙しなく揺れ始めるも、隣に控えているシナバーさんが呑気な声をかけてくれる事で、少しは落ち着きを取り戻す。

 

 

「到着しました、さぁこちらへどうぞ」

 

 

 兎車の御者もやっていたエルフの侍女さんが兎車の扉を開け、ボク達に降車を促してくる。

 まずはシナバーさんが先に降り、ボクへ手を差し伸べて降りるのを手助けしてくれた。 ボク体格が小柄だから乗り降りするのも難儀するんだよね。

 

 エルフの侍女さんはボク達が降りたのを確認すると、洗練された歩き方でボク達を屋敷へ案内し始める。

 ちなみに兎車の方は、また別の侍女の人……侍女服を着込んだメリハリのある体型をした人馬族の人が、厩舎まで引っ張っていってた。本当にいるんだ……。

 

 

「こちらの部屋で、今しばらくお待ち下さい」

 

 

 時折すれ違う色んな種族の侍女の人に驚きつつ、広い応接間のような部屋にシナバーさんと一緒に案内され……ふかふかのソファに座って領主がやってくるのを待つ。

 

 そう言えば……案内される途中、広く作られた屋敷の構造に簡単しつつも、貴族のお屋敷のイメージと比べると思った以上に調度品は多くない屋敷内を観察してたんだけどさ。

 改めて考えてみると、ふと目につく場所には見事な調度品や絵画が飾ってあって、通路である廊下とかは動線を妨げない配置がされていたんだよね。

 コレ多分だけど、色んな種族がいる事から考えられた配置だよね……ある意味凄いな、領主。

 

 

「コクヨウ、今の内に伝えておく」

 

「? なぁに、シナバーさん」

 

 

 いつもの糸目の表情のまま、シナバーさんがボクへ話し掛けてきた。

 

 

「あの領主……アルベルト卿との話し合いのコツだが、卑猥な冗談や口説き文句だけに決して耳を取られるな」

 

「???」

 

 

 言うべきか言わないべきか、しかし言っておいた方がまだマシと判断したかのような奥歯にものが挟まったかのようなシナバーさんの物言いに。

 ボクは片耳をペタンを倒し、首をかしげるのみであった。

 

 そんな事を話していると、先ほどのエルフの侍女さんがノックをするとともに扉を開き……。

 

 

「やぁやぁやぁ、良くぞ来てくれたね麗しき少女よ!野暮な話は抜きにして愛を語らい合いところであるが……ああ怯えなくてもよい。私は無理な求愛はしない主義だからね!」

 

 

 侍女さんを何人も引き連れた、小太り気味の仕立ての良い衣服に身を包んだ男性が賑やかな歓迎の言葉と共に部屋へと入って来た。

 言葉だけ聞くと確かに良心的に感じるし、いきなりの発言に面食らったボクの様子を察して態度は変えずに言葉と雰囲気を柔和なモノへ変えた、どこかぶっ飛んだ人物にしか見えない。

 

 だけれども、ボクの直感とも言える何かがピリピリとひりつくような警告をボク自身へ送っている。

 そしてボクはその直感を素直に信じる事にした、何故ならば。

 

 

 

 テーブルをはさんで対面のソファに座った領主の目は、好色な色の中に……ボクを見定め観察しようとする、鋭く冷徹な光を微かに感じ取れる切っ掛けになったのだから。

 

 

 




シナバー「……あの人の一番怖い所はな」
シナバー「自分の悪評を巻き餌にして明確な弱点のように偽装しつつ、ソレを全力で楽しんでるところなんだよ」


『TIPS.ギグ』
セントへレア神殿に所属している、大地母神派の神官。
諍いがあった頃も宗派に関わらず双方と交流していた為、揉め事には関与しない方針でいたがその方針もあって双方からの信頼はそこそこ厚かった。
なお今はコクヨウが立ち上げた部署のNo.2的な役割をなし崩し的に任命されており、主にコクヨウからの指示で現場仕事で奮闘している。
戦闘スタイルは奇跡による肉体強化や、重装甲に身を包んだ上で周囲への治療の奇跡を飛ばしまくる装甲系ヒーラー。
愛用武器は重量級の戦槌と、大盾を構えた鈍足重装甲系である。

最近の悩みは、祖父であるドグが事あるごとにドワーフ美女との見合いを勧めてくるところ。
当人自身は、まだまだ独身貴族を満喫したいようである。

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